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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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24.歌劇部の発表会

 新しくヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんの弟になったダニエルくんは、まだ髪の毛もほとんど生えていなくて、小さくて、乳母さんがつきっきりでお世話をしていないといけない状態だった。医者のビョルンさんがすぐに駆け付けられるように、しばらくの間はビョルンさんはルンダール家に来ないことになった。

 病魔に全身を侵されて、治療するためには赤ん坊を諦めなければいけないと言われて、ダニエルくんの産みの母親は赤ん坊を生かすことを選んだ。亡くなってしまった直後の身体を切るなんて酷い行動だったかもしれないが、それも赤ん坊を生かすための母親の願いだったという。

 未熟児で生まれて来たということ以外は、ダニエルくんはミルクを飲む力が弱いくらいで、身体に問題はなさそうだった。

 ビョルンさんが来られなくなった分仕事は増えていたが、お兄ちゃんも慣れて来ていたのでなんとか執務はこなせていた。エディトちゃんもコンラードくんもダニエルくんのことでビョルンさんがルンダール家に来ないので連れて来られないかと思っていたら、ブレンダさんが毎日送り迎えを買って出てくれていた。


「ダニエルくんはしんぱいだけど、わたしたちがいても、じゃまになっちゃうから」

「何かあったらブレンダ叔母上がお迎えに来てくださるの」


 相変わらず立体映像を観て踊っている二人に、アデラちゃんも最近は混じるようになっていた。エディトちゃんのお相手はコンラードくんだが、アデラちゃんのお相手は蕪マンドラゴラで、楽しそうに歌って踊っている。私の歌を毎晩寝るときに聞いているせいか、アデラちゃんは歌を覚えるのが早かった。

 ルンダール家の生活にアデラちゃんが馴染んで来た秋の日に、魔術学校の歌劇部の発表会が開催された。

 音楽堂を借り切ってリハーサルもして準備万端の私たち。お兄ちゃんも特別出演で最後のデュエットダンスを踊ることになっている。

 客席には王都の国立歌劇団のひとたちや、魔術学校の生徒、幼年学校の生徒、エディトちゃんにコンラードくんにラウラさんに抱っこされたアデラちゃんもいた。

 今回はカミラ先生とビョルンさんは来られないが、立体映像を送ることになっている。

 開演のアナウンスが流れて、ブザーが鳴る間、舞台袖で私とファンヌはぎゅっと手を握り合っていた。


「兄様、平気よ。きっと上手にできるわ」

「ファンヌも頑張ろうね」

「わたくし、練習より上手にできる気がするの!」


 自信満々のファンヌを見ていると私も気持ちが落ち着いてくる。

 緞帳が上がって私たちはスポットライトの照らす舞台に出た。

 体の弱い兄と、その兄の代わりに騎士団に入った妹。騎士団で活躍する妹が、武装を解いているときに皇帝と出会ってしまう。皇帝は妹に一目惚れをして、妹を探して辿り着いたのが兄のところ。

 妹と間違われて婚約を強引に決められてしまった兄は、妹と入れ替わるために騎士となる特訓をする。

 最後は妹と兄は無事に入れ替われて、兄は騎士となり、妹は皇帝の妃となってハッピーエンドだ。

 最後まで演じ切ると汗だくになっているのに気付く。滴る汗を舞台袖で拭いて、衣装を着替えてお兄ちゃんに手を引かれて舞台に出た。

 私もお兄ちゃんもタキシードのような姿で手を取り合って歌って踊る。何度も練習したリフトも上手に決まって、拍手喝さいが起きた。

 踊り終えると歌劇部の生徒が全員出てきて、みんなでお辞儀をしてお礼を言った。


「本日は私たち歌劇部の公演を見に来てくださってありがとうございました」

「ルンダール領には来年度には歌劇の専門の学校ができます。ルンダール領が音楽に溢れた領地となるよう、ルンダール家は力を入れていきたいと思います」


 私の挨拶の後にお兄ちゃんも挨拶をして、全員でもう一度お辞儀をした。

 疲れ切っていたが私はやり遂げた気持ちでいっぱいだった。

 片付けを終えてルンダール家に帰る間も、エディトちゃんとコンラードくんとアデラちゃんは興奮していた。


「イデオン兄様もファンヌ姉様もすごかったわ!」

「わたしも、はやくぶたいにたちたい!」

「こーちゃんは、もうすぐ保育所の歌劇発表会でしょう?」

「あーのぱぁぱ、しゅてきらった」


 蕪マンドラゴラのかっちゃんを抱き締めてうっとりと告げるアデラちゃんに私とお兄ちゃんは顔を見合わせて照れ臭く笑う。

 お屋敷に帰るとコンラードくんから私はお願いをされた。


「イデオンにいさま、ダニエルくんのために、スイカねことマンドラゴラをください」


 小さい頃からコンラードくんはスイカ猫のスーちゃんと人参マンドラゴラのニンちゃんに面倒をみてもらっていた。ダニエルくんにも面倒を見てくれるスイカ猫とマンドラゴラが必要だと考えるのは当然だった。

 コンラードくんを連れて薬草畑に行って、マンドラゴラの畝の前に立つ。アデラちゃんもラウラさんに靴を履かせてもらって一緒に来ていた。


「ダニエルくんと一緒に過ごしたいマンドラゴラは出てきて!」


 声をかけるとぞろぞろとマンドラゴラたちが畝から出てくる。並んでいるマンドラゴラをコンラードくんに示した。


「どの子がいいか、コンラードくんが選んで」

「えーっと、このこ!」


 コンラードくんが指を差して選んだのは大きなサツマイモマンドラゴラだった。それともう一匹はスイカ猫が欲しかったようだが、スイカ猫は今年は栽培していなかった。代わりに南瓜頭犬を差し出すと納得してくれた。

 南瓜頭犬もサツマイモマンドラゴラも綺麗に水で洗う。コンラードくんも袖を捲って洗うのを手伝ってくれた。


「ダニエルくんは、ちいさいから、まもってあげてね」

「ダニエルくんのサツマイモマンドラゴラと南瓜頭犬のお名前、考えてあげてね」

「あー、かっちゃんがいるも」

「アデラちゃんにはかっちゃんがいるよね」


 自分にはかっちゃんがいるから新しいマンドラゴラはいらないと主張するアデラちゃんにも返事をする。会話に入って来たいのだろう。


「イモちゃんと、カボちゃん!」

「イモちゃんとカボちゃんか。ダニエルくん気に入るといいね」


 自信満々で名前を付けたコンラードくんはその日、サツマイモマンドラゴラのイモちゃんと南瓜頭犬のカボちゃんを連れてオースルンド領に帰って行った。

 晩御飯を食べてアデラちゃんをお風呂に入れると舞台で疲れていたので眠くなってくる。


「イデオン、今日はお疲れ様」

「お兄ちゃんもお疲れ様。踊りも歌も上手だったよ」

「恥ずかしかったけど、イデオンと踊れてよかった」


 お休みのキスをお兄ちゃんが額にしてくれる。

 それを見てアデラちゃんが一生懸命背伸びをして前髪を持ち上げて自分の額をアピールしていた。

 アデラちゃんの額に私がキスをすると、へにょっとアデラちゃんが笑う。

 それを見てお兄ちゃんも屈んで額を見せて来た。


「イデオンからキスされたことないんだけどなぁ」

「アデラちゃんが見てるから!」

「イデオンは、ほっぺたにもキスしてくれないし」


 お兄ちゃんにこんな子どもっぽいところがあるなんて思わなかった。額を示されて、私は背伸びをしておずおずと唇を寄せる。お兄ちゃんの手がアデラちゃんの目を塞いだ。

 軽く触れるだけのキスをすると、お兄ちゃんが頬を染めて微笑んだ。


「僕が眠れないときに母が額にキスしてくれたんだ」

「そう言ってたね」

「これからはイデオンがキスしてくれる」


 毎日額にキスをしていたら恥ずかしさで頭が煮えそうだけれど、お兄ちゃんがこんなにも嬉しそうならばしないわけにもいかない。


「あー、ぱぁぱとねたい」

「うん、私と寝よう?」

「ぱぁぱじゃなくて、ぱぁぱ」

「んん?」


 アデラちゃんの中では違いがあるようなのだが、私もお兄ちゃんもその違いがいまいちよく分からない。


「ぱぁぱ、ねんねちよ?」

「僕でいいのかな?」


 お願いするアデラちゃんにお兄ちゃんが答える。

 あのときの夢の光景だ。それをこんなに心穏やかに見られる日が来るとは思わなかった。

 それはそれとして、呼び方は分かりにくいので、私とお兄ちゃんを区別する呼び方を考えることにした。


「アデラちゃん、私のことは『イデオンパパ』、お兄ちゃんのことは『オリヴェルパパ』って呼び分けようか」

「いでおぱぁぱ。おりぱぁぱ」

「うん、それで、どっちのパパと寝たいの?」

「おりぱぁぱ」


 指名されてお兄ちゃんはアデラちゃんを抱き上げた。


「今日だけ特別だよ?」

「とくべちゅ?」

「僕の部屋のベッドは広いから、部屋に連れて行ってあげる」

「きょうらけ?」

「そう、今日だけ」


 初めて入るお兄ちゃんの部屋にアデラちゃんは嬉しそうに抱き上げられて連れて行かれた。

 私の身体は小柄なので子ども部屋のアデラちゃんのベッドで添い寝しても構わないが、お兄ちゃんは身体が大きいのでアデラちゃんのベッドでは狭すぎる。そういう理由でお兄ちゃんの部屋のベッドに連れて行かれたのだろうが、特別感が出て嬉しそうだったのでよしとする。

 久しぶりに私は自分の部屋のベッドで一人で眠ったのだが、疲れていたのになんとなく落ち着かなくて、夜中に何度も目が覚めた。アデラちゃんと寝るのはもう私にとっては習慣づいていたようだった。

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