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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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11.二人の時間と家族の時間

 デートから帰ってお屋敷で私とお兄ちゃんはお兄ちゃんの部屋で二人きりでおやつを食べていた。ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんとミカルくんとアイノちゃんとビョルンさんの一行は、まだ移動遊園地に夢中のようで帰って来ていなかった。

 お昼がお菓子のような食事だったからおにぎりと緑茶のおやつを食べていると、ふとお兄ちゃんに聞いてみたくなる。


「今日の服デシレア叔母上が選んでくれたんだけど、どうだった?」

「イデオンはいつも可愛いから気にしてなかった」

「えー! 一生懸命選んだのにー!」

「僕にとってはイデオンであることが大事なんだよ」


 お兄ちゃんの返事に嬉しいような、ちょっとがっかりしたような複雑な気持ちになる。お洒落をしてもしなくてもお兄ちゃんは私のことを可愛いと思っている。


「お兄ちゃんは、いつ頃から私のことが好きだったの?」


 おにぎりの海苔を噛み千切ってもぐもぐと咀嚼していると、温かいお茶を飲んだお兄ちゃんがしみじみと答える。


「僕のために泣いて怒ってくれたときからかなぁ」

「あんな昔から?」

「ずっと大好きで、イデオンしか僕の味方はいないって思い詰めてたけど、それが特別な感情に変わったのはあのとき。でも、恋なのか、弟として可愛いだけなのか、僕も悩んでいたんだよ」


 そんなに小さな私に恋心を抱いて良いものかお兄ちゃんは悩んでいた。私は私でお兄ちゃんの隣りに誰か違う相手が来ることをずっと恐れていた気がする。


「セシーリア殿下に口付けされて、婚約を言われたときには僕の心は阿鼻叫喚だったよ」


 あのときには既にお兄ちゃんは私を意識してくれていて、私が口付けをされて婚約を申し渡されたときには阿鼻叫喚だったという。確かにお兄ちゃんの態度はセシーリア殿下に対して不敬ともいうべきものだったけれど、そういう理由があったのならば仕方がない。

 私は全く気付いていなかったがお兄ちゃんはかなり前から私のことを好きでいてくれたようだ。


「お兄ちゃんは、もしかして、小さい私が好きなの?」


 育ってしまったら好みから外れるのではないだろうか。そんな見当違いな心配をしてしまうくらい私はお兄ちゃんに夢中だった。夢中であることを隠さなくて良くなっていた。


「小さいイデオンが好きなんじゃないよ。イデオンが小さくても好きだし、僕より大きくても好きだよ」

「私が私だったら好きってこと?」

「そう。あまり小さい時期から好きだからびっくりさせたかもしれないけど、僕はイデオンに対する気持ちが恋だとちゃんと分かるまで、イデオンが大きくなるまで待とうと思ってた」


 それが15歳だった。

 レイフ様がアンネリ様と婚約した年。

 その年になれば私もお兄ちゃんと婚約して良いとお兄ちゃんは思ったのだ。


「結婚してからも、イデオンは研究課程に行きたければ応援するからね。補佐と両立しながらだと大変だから、休んでもいいし」

「ううん、補佐の仕事はできるだけしたいんだ」


 お兄ちゃんがルンダール領の当主になったら私は補佐になる。それが小さい頃からの私の夢だった。少し早く補佐になってしまったけれど、魔術学校と補佐の仕事が両立できないわけではない。

 ビョルンさんも残り何年補佐としていてくれるか分からない。カミラ先生がオースルンド領の領主を継いだのだから、伴侶のビョルンさんもオースルンド領の領主となるはずだった。それを遅らせてまでビョルンさんはお兄ちゃんの補佐として残ってくれている。

 ビョルンさんが来なくなればエディトちゃんとコンラードくんも頻繁には来られなくなるかもしれない。来年はコンラードくんも幼年学校に入学する。それを機にビョルンさんはルンダール領を訪れる回数を減らそうと考えているのかもしれない。


「ルンダール領の当主の補佐は必要でしょう? ずっと執務室で書類も見て来たし、茶畑のある領地ではお兄ちゃんと一緒に治めて来たし、私も少しは役に立つと思うんだ」

「イデオンはずっと役に立ってたし、これからも役に立つよ」

「ビョルンさんがオースルンド領の領主として集中できるように応援しなきゃ」


 カミラ先生とビョルンさんのおかげでルンダール領とオースルンド領の結びつきは強くなっている。困ったことがあれば私たちはいつでもカミラ先生とビョルンさんに相談できたし、助けが欲しければカスパルさんとブレンダさんを呼ぶこともできた。


「僕も独り立ちする時期にきてるのか。もう24歳だもんね」

「一人じゃないよ。私がいるよ」


 それにファンヌもヨアキムくんもいる。二人ともまだ勉強途中で補佐にはなれないが、ルンダール領にどんな私兵を置くよりもファンヌとヨアキムくんがいてくれることが助けになっている。


「ファンヌもヨアキムくんも、実技の成績がいいみたい」


 私が練習してそよ風しか吹かせられない攻撃魔術と、ハンカチくらいの小さくぺらぺらな盾しか作り出せない防御魔法を、魔術学校に入る前からファンヌもヨアキムくんも習得していた。それを発揮して実技の授業では大活躍しているという。


「さすがあの二人は魔術の才能があるね」

「ヨアキムくんは歌も上手だし、ファンヌは絵も上手だし、四年生の教室まで一年生に可愛い子が入って来たって噂が流れて来るんだよ」


 私の妹が可愛いことは誇らしい。ヨアキムくんが可愛いことも誇らしい。そこに妙な下心が入っているとなると、兄として割って入らなければいけない気分になるのだが、ヨアキムくんにはファンヌがいるし、ファンヌにはヨアキムくんがいるので心配することはなかった。


「ファンヌはイデオンとそっくりで可愛いからね。ヨアキムくんはビルギットさんとそっくり」

「私、ファンヌみたいに髪がくるくるじゃないよ?」

「ふわふわのイデオンの髪も可愛いよ」


 お兄ちゃんにかかると私たちはみんな可愛いようだった。

 玄関の方が騒がしくなってきて私とお兄ちゃんはおやつを食べ終えたお皿と茶器を片付けて一階に降りておく。コンラードくんがビョルンさんに抱っこされて眠っていて、エディトちゃんとファンヌとヨアキムくんが足音を忍ばせてお屋敷に入って来ていた。


「おやつ食べたーい!」

「エディトちゃん、しー!」

「あ、ごめんなさい」


 お腹を空かせたエディトちゃんは手を洗って子ども部屋でおやつを食べて、ファンヌとヨアキムくんも着替えて合流する。コンラードくんは子ども部屋のベッドに寝かされていた。お昼寝をせずに遊んで疲れ切って眠ってしまったのだろう。


「イデオン兄様とオリヴェル兄様はおやつは食べましたか?」

「先にいただいたよ」

「お茶だけでも一緒にしませんか?」


 ヨアキムくんに誘われて私たちも子ども部屋の椅子に座った。


「人形劇を最後まで見たくて、長居しちゃったのよ」

「人参魔術師が大活躍でしたわ」

「こーちゃんも大興奮だったの」


 回転木馬に乗ったりした後で、最後にファンヌとエディトちゃんとヨアキムくんとコンラードくんは人形劇の小屋で人形劇を見て帰ってきたようだ。私はお兄ちゃんと話していたので話の流れはあまりよく分からないが、ジャガイモや大根や人参が活躍していた。


「コンラードくんが起きたらお兄ちゃんが正式に教えてくれると思うんだけど」

「なんですの?」


 内容を匂わせる私の呟きにおにぎりにかぶりついていたエディトちゃんが目を輝かせる。ファンヌも咀嚼して飲み込んで、私の方を見た。


「歌劇団の長期公演を夏休みに招いてくれるって」

「歌劇団!」

「兄様、わたくし、考えましたの!」


 ビシッと手を挙げて発表するファンヌの言葉を私は待つ。


「魔術学校に歌劇部を作りませんか?」


 魔術学校に歌劇部を作る。

 授業とは別に顧問の先生を探して、部活動として歌劇を広める。

 スポーツなどの部活動が放課後に開かれているのを私は知らないわけではなかったけれど、お兄ちゃんの元に早く帰りたかったので特に参加していなかった。

 歌劇を練習して発表する部活を作る。


「イデオン兄様、ファンヌちゃんと歌って踊りたいのです」


 ヨアキムくんに言われて私は考え込んでしまった。

 歌には自信があるが、私は踊りに自信がないのだ。魔術学校の実技も得意ではないし、実は運動神経が良い方ではないのかもしれないと思っている。それが歌って踊れるだろうか。

 部活動をするとお兄ちゃんの元に帰るのが遅くなってしまう。


「学生時代しかできないことだよ。イデオン、やってみれば?」


 それでもお兄ちゃんに応援されると私はやる気にならざるを得なかった。

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