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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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9.新しい生活

 ファンヌとヨアキムくんが魔術学校に入学して、私は二人を連れて移転の魔術で魔術学校に通学するようになった。

 朝の薬草畑の世話を終えるとシャワーを浴びて朝ご飯を食べる。お兄ちゃんは私が魔術学校に行ってから仕事を始めるようにしたようだ。しっかりとハグをして「行ってきます」と「行ってらっしゃい」をする。

 幼年学校の頃にはしていたけれどそのうちに恥ずかしくなってしなくなったハグを、お兄ちゃんと恋人同士になったらまたできる。私がお兄ちゃんとハグしていてもファンヌもヨアキムくんも何も言わずに待っていてくれた。

 ファンヌとヨアキムくんと手を繋いで移転の魔術で魔術学校に行く。校門で別れると私は四年生の授業のある教室に行った。ダンくんとフレヤちゃんはもう来ていて私を待っていてくれた。


「イデオンくん、オリヴェル様と付き合うことになったのね! 本当に良かったわ」

「お付き合いって何をすればいいか分からないんだけど、お兄ちゃんは私を好きで、私がお兄ちゃんを好きだってことは分かったんだ」

「最初はそれで十分だと思うわよ。大事なことはオリヴェル様が全部教えてくれるだろうし」


 お兄ちゃんの方が年上で、小さな頃からお兄ちゃんは私が知りたいことは分かっていることは教えてくれて、分からないことは一緒に調べてくれた。これからもお兄ちゃんと一緒ならばなんの心配もない。

 フレヤちゃんの言う通りだと私は安心していた。

 魔術学校はルンダール家に関する噂が飛び交っていた。


「一年生に物凄く可愛い子が入学したんだって?」

「薄茶色の髪の子? それとも黒髪の子?」


 そのどちらも私の妹と弟のような存在ということに私は気付いていた。どれだけ魔術学校の生徒が色めきだっても、ファンヌにはヨアキムくんが、ヨアキムくんにはファンヌがいるので問題にならない。魔術学校の制服は男女問わずスラックスもスカートも選べるので、スラックス姿のヨアキムくんが若干性別を間違えられているような気がするのは私だけだろうか。

 噂になっているのはそのことだけではなかった。


「ルンダール領の我らが賢者、イデオン様は、セシーリア殿下に手酷く婚約破棄されたけど、おかげでご当主のオリヴェル様と婚約されて、ルンダール領から離れなくなったらしいな」

「イデオン様がこれまでされてきたことを考えれば、オリヴェル様が幸せにしてくださるといいんだけどね」


 ルンダール領の賢者!?

 セシーリア殿下に手酷く婚約破棄された!?

 私がこれまでにしたことと言えば両親を糾弾してお兄ちゃんの地位を取り戻したことと、向日葵駝鳥と青花の石鹸とシャンプーの事業、感知試験紙の開発、ルンダール領のお茶とお煎餅を国中に流行らせたこと、貴族の結婚に関する法律を改正したこと、国王陛下の結婚の式典で歌ったときに偶然マンドラゴラとスイカ猫と南瓜頭犬が踊ってしまって取り引きが盛んになったことくらいだが、それらも私だけの力でできたわけではない。

 お兄ちゃんと一緒に調べて、実験して、協力して、それをカミラ先生が認めてくれて、ようやくできたことばかりなのに、周囲は私を賢者と思っているなんて物凄く誤解されている気がする。

 訂正しようと噂をしている生徒の方を向いた私を、フレヤちゃんが肩に手を置いて止める。


「真実なんだからいいじゃない」

「イデオンは本当に色んなことをしてくれたよ。俺を貴族にもしてくれたし」


 フレヤちゃんとダンくんまでそんなことを言っている。

 誤解を解きたかったがフレヤちゃんとダンくんまでそう思っているのならば、この誤解は根深いもので解くのは難しいと認めざるを得なかった。

 お弁当の時間になるとダンくんとフレヤちゃんは二人で食べるようで、私はまた一人で食べるのかと気候も良いのでお兄ちゃんと一緒にお弁当を食べていた研究課程の校舎と繋がる階段近くのベンチに行くと、ファンヌとヨアキムくんがやって来ていた。


「イデオン兄様探しましたよ」

「一緒にお弁当食べましょう」


 ヨアキムくんとファンヌは仲が良いのでそこに私が入ると邪魔をしてしまうようで気が引ける。


「今日だけだよ?」


 言い聞かせると、ヨアキムくんとファンヌが同じベンチに座って膝の上にお弁当を広げる。お弁当の中身は同じお屋敷で作られているので同じもので、お弁当箱も水筒も色違いのお揃いだ。三人並んで食べていると、周囲からさざめくような声が聞こえる。


「あの三人可愛い」

「ルンダール家の子どもたちでしょう?」

「育ちが良いと見目も整うのかしら」


 ファンヌとヨアキムくんが可愛いのは認めるけれど、私まで可愛いの中に入ってしまっているのは少し不本意だった。もう15歳なのだからかっこいいと言われていいはずだ。

 しかし私の顔はファンヌとよく似ていて、どちらかと言えば可愛いに分類されることも分かっている。


「ヨアキムくん、かっこいいって何だろうね」

「イデオン兄様はかっこいいですよ?」

「本当に?」


 みんなが私のことを可愛いと思っているわけではない。ヨアキムくんは私のことをかっこいいと思ってくれている。


「歌劇団に暗殺者が送り込まれるかもしれないというときに、イデオン兄様は自ら攻撃に打って出ました。あんな勇気のある行動はなかなかできませんよ」

「バックリーン家のバカ息子が警備兵と繋がっていたってときにも、兄様は捕まえに行ったわ。わたくしに包丁を使わないように言い聞かせて」


 可愛い妹のファンヌの手を血で汚すのは嫌だっただけなのだが、ファンヌはその気持ちをしっかりと受け取ってくれていたようだった。包丁を使って物事を解決するのは容易いが、ひとを切った経験をファンヌにはさせたくない。それが分かる分別ある年齢になったのだと感動してしまう。


「わたくし、みねうちを覚えるわ」

「みねうち?」

「刃物ではない方で殴るの!」


 元気に答えられてしまったが、伝説の武器でファンヌの身長より大きくなるような菜切り包丁でみねうちしたところで打撃で骨が砕けそうな気しかしない。それでもファンヌは成長したと思って良いのだろうか。

 悩んでいるうちに昼食の時間は終わって、午後の授業になった。午後の授業はエリアス先生の講義にヨアキムくんも加わっての初授業だった。


「神聖魔術の受講生が増えましたね。ヨアキム・オースルンドくんは、イデオン・ルンダールくんと一緒に暮らしているのですよね」

「はい。イデオン兄様が神聖魔術を使うところも見たことがあります」

「それでは三人で仲良く授業ができそうですね」


 白髪交じりの眉を下げてエリアス先生はにこにこと授業を始めた。神聖魔術の基礎となる始祖のドラゴンの話などは、私も復習になるので聞いておく。

 歌を使っての神聖魔術の授業に、まず発声からエリアス先生のピアノに合わせて声を出した。発声が終わると、私が歌うのをヨアキムくんはしばらく聞いている。

 練習した曲を歌ってエリアス先生にチェックしてもらって、私が自主練をしている間にヨアキムくんが楽譜をもらって音を取って個人レッスンを受ける。去年の春から秋までみっちりと練習した甲斐があってヨアキムくんは歌のコツを掴むのが早かった。


「二人とも素晴らしい生徒ですね」

「エリアス先生はアントン先生が創設する歌劇の専門学校には関わらないんですか?」


 休憩時間になってお茶を飲みながらエリアス先生に聞いてみると、アントン先生から話は来ているようだった。


「歌劇の専門学校の生徒が、魔術学校にレッスンに来れるように取り計らうつもりですよ」

「エリアス先生も教えるんですね」


 歌劇団を引退した役者さんとアントン先生だけでは足りないところをエリアス先生が埋めてくれる。

 ルンダール領の歌劇の専門学校の未来も明るい。

 移転の魔術でお屋敷に帰るとお兄ちゃんが出迎えてくれた。

 しっかりと抱き締められて「ただいま」と「お帰りなさい」を言う。

 かつてしていたことだけれど、恋人になってからするのとは全く意味が違う。

 新しい関係と生活に私は幸福に満ち溢れていた。


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