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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十二章 魔術学校で勉強します! (四年生編)
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5.呪いと神聖魔術

 フーゴさんとアーベルさんはエレンさんの診療所でこき使われているようだった。それでも楽しそうにしているのは、荒野での二人暮らしがそれだけつまらなかったのだろう。


「好きな服も靴も買いに行けるし、誂えもできるって素敵」

「師匠はお洒落だから」

「化粧品も買えちゃうし。あ、アタシ、アンデッドで顔色が悪いから色々工作をしなきゃいけないのよ」


 既に死んでいるフーゴさんはアーベルさんに使役されることで腐敗を進めずに自我も保っていたが、それでも顔色の悪さはどうにもならないようだ。そうでなくても楽しそうに口紅で唇を塗ったりしている辺り、趣味なような気もするけれど、そこは突っ込まないでおく。

 ヨアキムくんの授業のために訪れたフーゴさんにエディトちゃんはフライパンを構え、コンラードくんはエディトちゃんの後ろに隠れている。異様な雰囲気は二人にも伝わってきているようだ。

 アンデッドといえば魔物なのだから異様な雰囲気がしても仕方がない。


「ヨアキム兄様、わたくしが守ります」

「ヨアキムくんはわたくしがいるわ!」


 エディトちゃんとファンヌに守られるヨアキムくんにさすがのフーゴさんでも手を出そうとは考えないだろう。


「伝説の武器が二つ、それにオースルンド領の『魔女』カミラの息子なんて、アタシだったら怖くて手を出せないのに、わざわざアナタのご両親は死にに来るの?」

「あのひとたちのことは分かりません。僕が母上に愛されて大事にされていて、エディトちゃんとファンヌちゃんに守られていることを、あのひとたちは理解していないんじゃないでしょうか」


 結婚にも愛情がなくて他の相手と子どもを作ることに合意した夫婦である。ビルギットさんとの間に生まれたヨアキムくんですら呪いを蓄積させて捨て駒にして暗殺用に育てようとした。

 愛情というものが世界に存在していることを信じていなくて、理解していないひとたち。

 自分たちが愛情をかけられていないからそう育ったのかもしれないし、貴族社会の中でそうなったのかもしれないし、そういう性質のひとだったのかもしれない。

 私とファンヌだってお兄ちゃんとリーサさんが懸命に育ててくれなければそうなっていた可能性はあるのだ。望まない結婚の結果を見せつけられるような気持ちだが、私たちの両親は望んで結婚して子どもも作ったはずなのに、どうして私たちを放置したのだろう。子どもに愛情をかけられるような人格ではなかったと分かっているけれど、不思議には思う。


「ファンヌちゃんって言ったかしら、あなた、呪いがかかりにくい体質ね」

「わたくし、ビョルンさんにもそう言われたことがあるような気がするわ」


 ファンヌが小さい頃なので記憶が朧気なのだろうが、ファンヌはヨアキムくんと一緒に過ごしていたおかげで呪いに対する抵抗があるのだとビョルンさんは言っていた。


「わたくしの人参さんもよ」

「本当だわ、人参マンドラゴラなのに呪いに対する抵抗力がある」


 ファンヌの人参マンドラゴラにも手を翳してフーゴさんは驚いていた。


「呪いへの抵抗があると呪いにかかりにくい。呪いにかからなければ、呪い返しもできない」

「呪いを、かけないでいればいいってことですか?」

「そういうことになる。相手に呪いをかけなければ、呪いを返されることもない」


 素っ気ないがアーベルさんがファンヌとヨアキムくんに説明してくれている。呪い返しとはそもそも呪いをかけなければ発動しない魔術だった。


「あの二人を見たら、母のことでかっとなってかけてしまうかもしれません」

「それで返されたら、鱗草も青花もあるでしょう? 石鹸も売れ行き好評みたいだし」

「返されない方法がないんですか?」


 ビルギットさんはアシェル家の夫婦のせいで亡くなっている。直接的に手を下したわけではないが、呪いの副作用でゴーストになって長い間彷徨っていたのだ。そんなことを知っていればヨアキムくんでもアシェル家の夫婦に呪いをかけたくもなるだろう。


「呪いの逆は祝い。呪いに対抗できる魔術を知っているか?」

「し、知りません。教えてください」

「それは、お前の兄が得意とするものだ」

「兄……イデオン兄様?」


 え!?

 私に話が飛んできた。

 私が得意とする魔術ということは、神聖魔術しかない。


「アンデッドを祓えるのも、アンデッドが呪いの魔術で構成されているからだ」

「オースルンド領の『魔女』がいて、伝説の武器が二つに、神聖魔術使いが一人。アナタの周囲は完璧よ。それに、アナタ、呪いの才能があるってことは、神聖魔術の才能もあるかもしれない。二つは両極のようで非常に近いから。神聖魔術を習ってみなさい」


 アーベルさんとフーゴさんのアドバイスはそれで終わった。

 ヨアキムくんの呪いを打ち消すのが私の神聖魔術だったなんて、フーゴさんとアーベルさんに聞くまで知らなかった。そもそも呪いの魔術自体が禁止されているから、授業でも取り上げられることがないのだ。ヨアキムくんに神聖魔術の才能があって神聖魔術を習うというのならば、私と一緒の講義になるかもしれない。


「イデオン兄様が、僕が呪いを返されたときに祓ってくださる……」

「アンデッドを祓うときと同じなら、できると思う」


 祓い清めるのが神聖魔術の力だ。

 私がヨアキムくんの力になれるのならばそれ以上に嬉しいことはない。


「近々大きな催し物があるでしょう? それには王都からも大量の客が流れ込んでくるはず。便乗して妙な輩が紛れ込まないとも限らないわ」


 釈放されたアシェル家の夫婦が直接来ることを警戒していたが、これだけ守りが強固ならば暗殺者を雇って来るかもしれない。その可能性を示唆して去っていくフーゴさんに、私は感謝してお屋敷の外まで見送った。

 部屋に戻るとお兄ちゃんが緊張した面持ちでカミラ先生に通信をしていた。


「歌劇団が王都からやってきます。歌劇団のチケットはなかなかとれないから国中からファンが押し寄せることになると思います」

『そのときに暗殺者を紛れ込ませるかもしれないのですね。あり得ますね。警備兵に守りを強固にしてもらわないと』

「せっかくの歌劇団の公演を楽しめないのはイデオンやコンラードが可哀そうです」

『ブレンダを連れて行って、結界を強化しましょう』


 楽しみにしている歌劇団の公演が暗殺騒動で台無しになってしまうのは私もコンラードくんも一番望んでいないことだった。お兄ちゃんもカミラ先生もそのために尽力してくれている。


「かげきだん……わたしもはいれるかな?」


 呪いの話は終わったと安心してお兄ちゃんのスラックスの裾を引っ張ったコンラードくんにお兄ちゃんは困った顔になった。


「歌劇の専門学校は王都にしかないんだよね……」

「こーちゃんが王都に行ってしまうの!? そんなの嫌だわ! こーちゃんはわたくしのそばにいるのよ!」

「わたし、おうとにいかないといけないの!?」


 ひしっとコンラードくんを抱き締めるエディトちゃんに、コンラードくんも驚いて目を丸くしている。

 歌劇の専門学校があるなんて私は聞いたこともなかった。興味のないことは調べないので、私の興味はずっと薬草や農作物や栄養剤のことばかりにあったのだ。


「歌劇の専門学校があるの?」

「全寮制で、魔術や一般教養の他に歌と踊りをみっちりと教えてくれるみたいだよ」

「歌と踊りか」


 将来声楽家になりたい夢はあるが私は歌って踊りたいわけではない。その辺はコンラードくんと違うのだが、コンラードくんは専門学校行きを望むかもしれない。


「オリヴェル兄様、王都は遠すぎるわ! ルンダール領に歌劇の専門学校を作れない?」


 エディトちゃんの言葉にお兄ちゃんは戸惑っている。

 コンラードくんはオースルンド領の子どもなのだからオースルンド領に作った方が良いのだろうが、そこにはエディトちゃんは気付いていないようだった。

 ルンダール領に歌劇の専門学校を作る。

 考えたこともない可能性だった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ヨアキムくんが神聖魔術も使えるようになったらルンダール家は呪いに関して最強ですね! 呪えるし祓えるし、伝説の武器にドラゴンもいます。(なおイデオンファンヌのドラゴンにはポンコツ疑惑がありま…
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