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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
二章 呪われた子を助けながらお兄ちゃんと楽しく暮らします!
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8.薬草と算数の関係性

 夏場は薬草がよく茂るので、収穫できる葉も多い。裏庭の薬草畑はカミラ先生が来てから少しずつ広げられて、前の二倍ほどの広さになっていた。

 新芽は摘まずに、下に茂っている葉から収穫していく。


「ひとかぶに、3まいずつつんで、ファンヌ」

「あい」

「9かぶあるから、ぜんぶで、27まいになるね」

「なるの?」


 収穫を任されている畝で葉っぱを摘んでいると、お兄ちゃんが私のところに近付いてきた。ものすごく驚いた顔をしているけれど、何かあったのだろうか。

 もしかすると、私が収穫の数を間違えたのかもしれない。


「ファンヌは、『つみすぎないように』がわからないから、3まいずつにしたけど、いけなかった」

「イデオン、掛け算ができるの?」

「かけざん? かけざんってなぁに?」


 問いかけられて、何のことか分からずに目を丸くする私に、お兄ちゃんは違うことを聞いてきた。


「葉っぱを4枚ずつ、8株分摘んだら、何枚になる?」

「32まい?」

「それに、ファンヌが摘む27枚を足したら?」

「たすって、なぁに?」

「一緒にするの」

「べつべつのやくそうなのに、いっしょにしていいの?」

「数だけ分かるなら教えて?」

「59まい」


 何を聞かれているのか分からないままに答えると、お兄ちゃんはファンヌに向き直った。小さな肩を掴まれて、ファンヌがふんすっと鼻で息をする。


「今摘んだ株はいくつ?」

「みっちゅ」

「葉っぱは何枚?」

「ここのちゅ」


 答えを聞いて、お兄ちゃんは大急ぎでカミラ先生を呼んできた。何事か分からないままで、収穫作業を続けていた私とファンヌに、カミラ先生も聞く。


「イデオンくん、葉っぱを5枚ずつ4株摘んだら、何枚になりますか?」

「20まいです」

「それに、さっきの59枚を足すと?」

「79まいです」


 なんでこんなに葉っぱを収穫しなければいけないのか分からないけれど、カミラ先生は79枚も葉っぱが必要なのだろうか。マンドラゴラの栄養剤を安価で作って市場に出回るようにしたいと言っていたので、たくさん収穫したいのかもしれない。

 考えている間に、カミラ先生はファンヌにも聞いていた。


「今日、摘んだ株は幾つですか?」

「いちゅちゅ」

「葉っぱは何枚ですか?」

「えーっと、じゅう、じゅういち、じゅうに、じゅうさん、じゅうし、じゅうご……じゅうごまい!」


 収穫用の籠の中に入れた葉っぱを数えてファンヌが答えるのに、カミラ先生とお兄ちゃんは顔を見合わせて話し始めた。

 どうやら、私とファンヌの話のようだ。


「オリヴェル、イデオンくんとファンヌちゃんに、算数を教えましたか?」

「いいえ。叔母上こそ、掛け算や足し算を教えましたか?」

「いいえ、文字は教えましたが、算数はまだ早いと思っていました」


 全く分からないが、私は足し算や掛け算が葉っぱを数えることで無意識に身に付いていて、ファンヌは数を数えることができるようになっていたようだ。

 収穫を終えて、朝ご飯を食べてから、お兄ちゃんが算数について教えてくれる。


「算数は、数を足したり、引いたり、かけたり、割ったりする学問なんだ」

「たすって、いっしょにすること? ひく、は?」

「引くは、減らすこと。かけるが、ひとつのものの数が幾つ分あるか数えること、割るは、足すと引くとかけるを全部使ってする計算なんだけど……引き算はできるかな?」

「ひきざんって、どんなの?」


 初めて聞く単語も、お兄ちゃんは丁寧に説明してくれる。

 引き算の例には、葉っぱを使ったらどれだけ残るかを聞かれたが、それにも私は問題なく答えられた。


「さすがに割り算はできないだろうけど……イデオン、君はすごいよ」


 褒められても、なにがすごいのかよく分からない。薬草栽培に必要だったから身に着けただけで、それが足し算とか掛け算とか引き算とか名前が付いていることすら、私は知らなかった。


「ファンヌは、幾つまで数字が数えられる?」

「わたくち、ひゃくまでかぞえられまつ。おふろで、リーサさんとれんしゅうちてまつ」

「すごいね。百までお風呂に浸かってたら逆上せない?」

「ちょっと、ずるちて、ごじゅうからはじめることもあるの」


 それにしても、3歳で百まで数えられるのはすごいとお兄ちゃんはファンヌを褒めた。

 その日から、私たちの勉強に、文字だけでなく算数も加わったけれど、それは大して難しい問題ではなかった。


「さんすうは、だいじなの?」

「栄養剤を叔母上と作ったんだよね? そのときに、叔母上は葉っぱの数を計算していなかった?」

「わかんない……」


 注意してみていなかったので分からないが、そういえばカミラ先生は決まった量の薬草を調合していた気がする。


「栄養剤、作ってみようか?」

「わたくちも、ちゅくりたい!」

「マンドラゴラに、じぶんでつくったえいようざい、あげたい!」


 そろそろ前に作った栄養剤が無くなりかけていたし、畑のマンドラゴラにも、飼っているマンドラゴラにも栄養剤は必要不可欠だ。お兄ちゃんがカミラ先生からレシピを借りてきて、スヴェンさんに厨房を借りて、栄養剤を作っても良いということになった。


「一晩煮込むのは、私が見ておきますからね。それ以外の工程をお願いします」

「がんばりまつ」

「ファンヌちゃんは、頑張りすぎないようにね」


 前回の栄養剤作りで、まな板を割ってしまった話をすると、お兄ちゃんは驚いていた。ファンヌはお兄ちゃんに首からかけている魔術具のネックレスを見せて、「こえで、せいぎょ、してうの」と説明していた。


「やくとうは、おててでさわっちゃ、だめなの」

「てぶくろと、ハンカチでマスクをして、ぜんかいはつくったよ」


 お兄ちゃんに教えると、カミラ先生から借りていてくれたスプレーで私たちの手をコーティングする。お兄ちゃんの手もコーティングして、乾燥した薬草を数えることから始まった。


「その薬草を17枚。ファンヌ、数えてみて」

「あい」


 言われた通りに「ひとちゅ、ふたちゅ」とかぞえて、17まで来たところで、ファンヌが数えた薬草をお兄ちゃんに渡す。それを握り潰して細かくしながら、お兄ちゃんが乳鉢に入れる。乳鉢をお兄ちゃんに支えてもらって、私がそれをすり潰した。


「新鮮な薬草は、乾燥した薬草の二倍。二倍って分かる?」

「わからない」

「17枚がふたつってことなんだけど」

「それなら、34まいだね」


 次は34枚だったので、ファンヌは一、二度数えるのを間違って最初からになってしまったけれど、最終的にはちゃんと34枚の薬草を準備できた。新鮮な薬草はガーゼで包んで上から棒で叩く。

 力を入れ過ぎないように、無意識に強化の魔術が出ないように、ファンヌはネックレスの魔術具を外さないままで「ふんぬー!」と棒を振り下ろしていた。魔術なしの3歳の腕力では足りなかったみたいなので、お兄ちゃんが仕上げに叩いて、水に浸してガーゼを絞る。

 最後の乾いた薬草の計算は、少し難しかった。


「最初の乾いた薬草の半分の量なんだけど、分かるかな?」

「17まいのはんぶん……8まいと……はんぶん?」

「そう、よく分かったね」


 それが分かった理由は、17枚の薬草を実際に出して、それを一枚ずつ二か所に分けて置いて行くと、8枚ずつになった後で、1枚残ったからだった。


「これが割り算。割り切れなくて、半分になることもあるんだよ」

「わりざん……むずかしい」

「でも、できてたよ」


 実物がないとイメージだけでは難しそうだと呟く私に、お兄ちゃんは優しく言ってくれた。煮立ったお湯に乾燥した薬草を入れて煮出す作業はお兄ちゃんがして、最後の鍋に入れるまでの工程を、私とファンヌは二回目、お兄ちゃんは初めて終えた。

 後はカミラ先生に任せるのだが、14歳のお兄ちゃんと5歳の私と3歳のファンヌでもできる栄養剤の作り方。材料さえあれば、大抵の家ではできるのではないだろうか。

 問題は材料だが、農地を取り戻した領民は、まず、栄養剤の材料の薬草から作っていると聞く。


「このレシピを領民に公開するつもりなのかな、叔母上は」

「きっと、そうだよ」


 できるだけ簡単な魔術を使わないでできる栄養剤のレシピは、どこの領地でも欲しがっている。これを領民に公開するとなると、他の領地にも盗まれそうだが、それでも背に腹は変えられない。

 領地再建のための計画が、着々と進んでいた。

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