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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十一章 魔術学校で勉強します! (三年生編)
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20.ランナル・ノルドヴァル、一世一代の告白

「立ち上がって、顔を見せろ。名前と年齢を言え」


 硬く冷たい声で告げたのは国王陛下だった。

 がくがくと膝が震えているのが遠くの席の私からでも分かるくらいランナルくんは怯えていた。必死に立って国王陛下の方に顔を向ける。


「ランナル・ノルドヴァル、16歳です」

「まだ結婚できる年ではないではないか」

「陛下、それはイデオン・ルンダール様もですよ」

「イデオン殿は何度も私たちを助けてくれている。私はイデオン殿ならば姉上を任せられると思っていた」


 震えるランナルくんの声に国王陛下の苛立った声が応じ、セシーリア殿下が説明を入れる。問題はその後の発言だ。

 ひょえー!?

 国王陛下はそんなことを思っていたなんて。

 私もセシーリア殿下も偽りの婚約で結婚するつもりなど全くなかったけれど、幾度となくセシーリア殿下を助け、呼び出されては前国王を説得し、お妃様を説得して王城に戻れるようにし、お妃様の叔父上の罪を暴いた私は国王陛下の信頼が厚くなっていたようだった。

 足ががくがくしながら私は立ち上がる。


「も、申し訳ありません、私は……」

「わたくしが悪かったのです! イデオン様はわたくしたち姉妹が離れることなく王城で生きられる方法を考えてくださった。それに甘えたのです」

「姉上……では、イデオン殿がお好きだったのではないのですか?」


 国王陛下の問いかけにセシーリア殿下が俯く。

 複雑そうな表情のセシーリア殿下が苦悩しているように見えて、私は気が気ではなかった。ここでセシーリア殿下が私のことを「好き」と言ってしまえば婚約は続行どころか結婚できる年になれば結婚させられてしまうかもしれない。


「国の法律は変わりました。想い合うもの同士が結婚できる国になったのです」


 主張するお兄ちゃんに、震えながらランナルくんが口を開いた。


「私の両親は罪人です。イデオン様がセシーリア殿下の婚約者に選ばれたことを不服とし、イデオン様を暗殺しようとしました。それが発覚したとき、ノルドヴァル領から私も追放されました」


 両親の罪を知らずに信じていたまだ11歳だったランナルくん。11歳というのは14歳の私からしてみても子どもの域を出ていない印象がある。今のヨアキムくんと同じ年なのだ。ヨアキムくんはしっかりしているけれど、普通の11歳はそんなにしっかりしていない。

 泣いて両親のところに行きたがったランナルくんをセシーリア殿下が引き取った。


「セシーリア殿下は私を従者にしてくださいました。決して優しい方法ではなかったけれど、私は貴族社会というものを学び、ここまで育つことが出来ました。セシーリア殿下とすぐに結婚することはできません。イデオン様のように賢い頭も、行動力もありません。ですが、私はセシーリア殿下を誰よりも想っています」


 私はお兄ちゃんのことを想っている。

 その時点でランナルくんの方がセシーリア殿下に相応しいに決まっているのだ。

 ここで主張しないとずるずると婚約が続いてしまう。


「セシーリア殿下は私を好きで婚約者にしていたのではないのです。ランナルくんが育つのを待っていた、そうでしょう?」


 最終的に決めるのはセシーリア殿下である。

 国王陛下を説得できるのは唯一セシーリア殿下の言葉だけと私は理解していた。


「陛下、わたくしは揺れておりました。イデオン様の可愛さ、賢さ、愛らしさにこの方が育ったらどのような男性になるのかと想像していたこともあります」


 嘘ー!?

 セシーリア殿下は私とランナルくんの間で揺れていたってことなの!?

 私は完全にセシーリア殿下は偽りの婚約を結んだだけだと思っていた。けれどセシーリア殿下は私が育ってセシーリア殿下を助けるうちに、思うことがあったようだ。


「イデオン様はわたくしがいなくても生きていける。ランナルはわたくしがいないと生きていけない。わたくしは、ランナルの一生に責任を持ちたいと思います。わたくしが拾ってきたのですから」


 ペットのようなことを言われているけれど、それが精いっぱいのセシーリア殿下の告白の答えだった。腰が抜けてへなへなとランナルくんが床に座り込んでいる。


「ランナル・ノルドヴァル。姉上を不幸にしたら許さぬぞ!」


 一喝されてランナルくんは床の上に座り込んだまま「ひゃい」としか答えられていなかった。

 ハプニングはあったけれど、酔っぱらった王族は披露宴会場から連れ出されて、式は粛々と進んだ。

 休憩を挟んで晩餐会のテーブルにはルンダール領のアバランチェが飾られていた。食器は全てノルドヴァル領製。果物類は全部スヴァルド領産。

 腰に儀礼用の細い短剣を下げてワインレッドのジャケットに白い軍服姿で現れた国王陛下とマルクスさんにもう一度乾杯をして、晩餐会が開かれる。休憩時間に少しお昼寝をしていたので私はすっかり元気になっていた。

 何よりもセシーリア殿下の婚約者ではなくなったことが嬉しい。


「ルンダール領のイデオン様はセシーリア殿下を奪われたのですね……」

「自分を殺そうとした相手の息子に奪われるなど、お可哀想に」


 あれ?

 漏れ聞こえてくる話では私がセシーリア殿下を奪われたことになっている。

 訂正して回るのもおかしかったので何も言わなかったが、お兄ちゃんの顔を見上げると苦笑していた。

 国内から集められた最高の食材で晩餐会が開かれる。

 品数が多くてとても食べきれなかったけれど、晩餐会の食事は素晴らしく美味しかった。食後のデザートにはノルドヴァル領の茶器でルンダール領の花茶が振舞われて、デザートのジェラートの果物はスヴァルド領のものだった。


「気付いてますか、このテーブルクロスも、絨毯もオースルンド領のものですよ」

「そうなのですか!?」


 お兄ちゃんのお祖母様に囁かれて私は初めてテーブルクロスと絨毯をまじまじと見た。テーブルクロスは純白、絨毯は毛足の短いものが使われている。


「どの領地も疎かにはしないという国王陛下のお心の現れです」

「ルンダール領もたくさん売り込めました」

「既にマンドラゴラの注文が殺到しているのではないですか?」


 お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に言われて、そうだったら良いと私は思っていた。夜遅くまで続く晩餐会も私はまだ14歳でアルコールも飲めないので、早めに切り上げさせてもらった。

 ダンスパーティーなどがあるようだが、そこまでは参加せずに部屋に帰る。

 部屋に帰ってから昨日の夜のことを思い出した。


「よ、ヨアキムくん、一緒にお風呂に入ってくれない?」

「いいですよ。イデオン兄様と入るのは初めてですね」


 窓辺に立っていた白い影を思い出すだけで倒れそうになるけれど、一日中式典に参加していたのでお風呂に入らないわけにはいかない。お兄ちゃんはまだ深夜まで続く式典に参加しているので他に助けを求められずに、私はヨアキムくんの手を握った。

 ふと並んでみるとヨアキムくんと視線が近いことに気付く。


「ヨアキムくんも今年で幼年学校卒業だもんね。大きくなったよね」

「イデオン兄様にはまだ届きませんね。僕は母が大きくなかったようなので、あまり背は伸びないかもしれません」

「小さくても可愛いってファンヌは言うと思うよ」


 確実にファンヌの方が小柄ではあるし、ヨアキムくんの身長がそれほど伸びなくてもファンヌは気にしない気がする。デシレア叔母上を見ても分かるが、私とファンヌの家系はあまり大きくならないようだ。

 お風呂で髪を洗って湯船につかるとヨアキムくんも入って来る。


「昨日の真夜中の影の件ですけど」

「ぎゃー!? それ、ここで話しちゃう!?」

「ごめんなさい、イデオン兄様は苦手でしたね」


 しょんぼりと眉を下げるヨアキムくんに私はぐっと奥歯に力を入れた。ヨアキムくんは聞いて欲しがっているのだ。一緒にお風呂に入ってくれているのだからお礼に話くらい聞かなければいけない。


「い、いいよ。話して」

「立体映像の母の姿にそっくりだったんです……母は僕に伝えたいことがあるんじゃないかと思って」


 ビルギットさんはヨアキムくんが2歳のときに亡くなっている。

 そのビルギットさんが今になってヨアキムくんに伝えたいこととはなんだろう。

 私はその内容に心当たりがあるような気がしていた。


「国王陛下の結婚式が終わったよね」

「はい、オリヴェル兄様はまだ続いてますが」

「恩赦が出る」

「あ! そうか! アシェル家の両親が牢獄から出てくるかもしれないってことですね」


 私の言葉にヨアキムくんはすぐに気付いたようだった。

 納得して頷いている。


「アシェル家の両親のことで僕に伝えたいことがあるのかもしれない……それだったら、今になって出て来た意味が分かります」


 結婚の式典から何日後に恩赦が出るのだろう。

 細かく詳しいことは調べなければ分からない。


「ルンダール領に帰ったらお墓参りに行こう!」

「はい、母が言いたいことが分かるかもしれません」


 結婚の式典は終わったが、私たちはまだまだ忙しいようだった。


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