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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十一章 魔術学校で勉強します! (三年生編)
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15.デシレア叔母上の赤ちゃんのお披露目

 発表会の後でルンダール家に場所を移してお茶会が行われた。子ども部屋のお兄ちゃんから私からファンヌからエディトちゃんからコンラードくんへと引き継がれたベビーベッドを持ってきて、デシレア叔母上とクラース叔父上の赤ちゃんを寝かせる。まだ生まれてひと月も経っていない赤ちゃんは小さくてふにゃふにゃで顔も赤い。それでもベビーベッドを覗き込んでコンラードくんとアイノちゃんはお目目を輝かせていた。


「あかちゃん、かわいいね」

「とってもかわいいわ」


 うっとりと見ている二人が可愛いと口を突いて出そうだったけれど、二人が良い感じだったのでぐっと我慢した。


「名前はエメリにしましたの」

「イデオンくん、ファンヌちゃん、いとことして可愛がってやってくださいね」


 私たちの従妹を紹介してくれるデシレア叔母上とクラース叔父上は笑み崩れていた。デシレア叔母上は顔が赤らんでいるので出産の後で疲れているのかもしれない。


「椅子を使ってくださいね。デシレア叔母上、顔が赤いですが、平気ですか?」


 熱や熱中症を心配していると、冷たいお茶を飲みながらデシレア叔母上は椅子に腰かけて息をついていた。


「赤ん坊を生むときにいきむから、それで頬の毛細血管が切れてしまうんですって。顔が赤くて恥ずかしいわ」

「それだけ頑張って産んだ証拠ですわ」

「ファンヌ様ったら」


 デシレア叔母上を気にしてファンヌも飲み物を持って来たり、おやつを運んだりお手伝いをしている。


「こーちゃんも母上のお腹からうまれてきたのよ」

「わたし、ははうえのおなかからうまれてきたの?」

「出てきたのは足のあいだだったわ」


 コンラードくんの出産を見ているエディトちゃんはお姉ちゃんぶってコンラードくんに説明している。


「ははうえ、ちちうえ、あかちゃんはあしのあいだから、うまれるの?」

「そうなのですよ。女性の脚の間には赤ちゃんの生まれる通路があります。だから、女性のお腹や脚の間を絶対に乱暴に扱ってはいけませんよ」

「あかちゃんはあしのあいだからうまれてくる。わたし、おんなのこにらんぼうしない!」


 真剣な問いかけにビョルンさんも真面目な答えを返して、コンラードくんは納得して女性に対する態度を考えたようだった。

 実際に出産に立ち会ったときは驚いてしまって色々見えていないところがあったけれど、女性には脚の間に赤ちゃんの生まれる通路があると私も初めて知った。そういえばビョルンさんがカミラ先生の脚の間に手を入れて「開いている」とか言っていたけれど、それが通路のことだったのだろうか。

 コンラードくんの誕生日が来れば五年も前のことになってしまうのに、私には鮮烈で色んなことを考えさせられる経験だった。

 出産には立ち会っていないが、エメリちゃんのお世話をすることはコンラードくんやアイノちゃんの良い経験になるのではないだろうか。


「こーちゃんが生まれたときのこと、ほんとうはあんまりおぼえてないの」


 しみじみとエディトちゃんが言う。あのときにはエディトちゃんはまだ2歳だったから、覚えていなくても仕方がない。


「ただ、こーちゃんはとってもかわいい、大好きっておもったの」

「えーねぇね、わたしが、かわいくてだいすき?」

「そうよ。こーちゃんはわたくしの大事な大好きなおとうとなの」


 エメリちゃんのおかげでコンラードくんをどれだけエディトちゃんが大事に思っているかを聞く場面にも出会えた。コンラードくんの方も自分が大事に思われていることを実感しているのだろう。

 小さな可愛い私の従妹は、生まれてくれただけで私たちを幸せにしてくれた。


「エディト様とコンラード様を見ていると、エメリに弟妹を作ってあげたいと思いますわ」

「デシレア様、気が早いですよ」

「イデオン様とファンヌ様を見てても思うのですが、兄弟ってこんなに素敵なものだったなんて。私、イデオン様とファンヌ様、エディト様とコンラード様に出会わなければ結婚しようと思わなかったし、子どもが欲しいとも思いませんでしたわ」


 デシレア叔母上の両親は姉のドロテーアばかりを可愛がって、デシレア叔母上を虐げていた。デシレア叔母上はそういう意味でも自己評価の低い青春を送って来たのだろう。

 それが私たちに出会って変わったのだったらそれ以上に嬉しいことはない。

 まだドロテーアのことで気に病んでいることはあるようだが、クラース叔父上が一緒にいてくれれば大丈夫だとも思える。


「デシレア叔母上、こんなに可愛い従妹を生んでくださってありがとうございます」

「育ってきたらおてんばさんかもしれませんよ?」

「ファンヌで慣れてます」

「ファンヌちゃんは良い子ではないですか」


 デシレア叔母上にはファンヌは良い子に見えているようだ。確かにコンラードくんの号泣や我が儘の激しさを見て、私は驚いたものだ。ファンヌやヨアキムくんは大人しかったのだと思ってしまう激しさがコンラードくんにはあった。


「カミラは大変だったのですよ。それほどにはならないでしょう」

「それにカスパルとブレンダも」


 話に入って来たオースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様がベビーベッドの中を覗き込んで目を細めている。周囲のひとたちもみんなベビーベッドの中を見るときには視線が優しい。


「お祖父様とお祖母様が言われると、実感がこもってますね」

「オリヴェル、あまり聞かないでください」

「叔母上にも聞かれたくない武勇伝があるのですね」


 恥ずかしそうなカミラ先生にお兄ちゃんがくすくすと笑っている。カミラ先生よりもずっと大きくなっているけれど、こうやって並んで笑っているとお兄ちゃんはいつまでもカミラ先生の甥なのだと分かる。


「姉上に比べたら私たちなんて」

「ブレンダ様は活発だったのではないですか?」

「ブレンダは僕と張り合って大変だったよ」

「張り合ってきたのはカスパルでしょう?」


 双子で一緒に生まれて来たのでどちらが姉か兄か決着のついていないブレンダさんとカスパルさんは、結婚してもやっぱり張り合っているようだった。ディックくんと手を繋いだリーサさんがそれを見て笑っている。


「イデオン様、ファンヌ様、ヨアキム様、今日はとても素晴らしかったです」

「リーサさん、ディックくんも聞いていてくれましたか?」

「ディックも一生懸命拍手をしていましたよ」

「いでおにぃに、ふぁーねぇね、よーにぃに、えーねぇね、こーたん、じょーじゅ」


 ディックくんに褒められて私たちは嬉しくてにこにこしてしまう。

 オースルンド領に嫁いでもリーサさんは変わらず優しく、幸せそうだった。


「実は、わたくし、二人目ができましたの」


 密やかに告げられたリーサさんの朗報に私たちは飛び上がる。


「ディックくんお兄ちゃんになるの?」

「おめでとう、ディックくん」

「おめでとうございます、リーサさん」


 おめでとうを言われてまだ2歳のディックくんはよく分からなくてお目目をくりくりさせている。


「産まれるのは新年明けてからでしょうけれど、生まれたら仲良くしてあげてくださいませ」

「もちろんです」

「わたくし、可愛がるわ!」

「僕も」


 リーサさんのお腹にも赤ちゃんがいて、ディックくんの弟か妹が新年明けたら生まれてくる。

 最初は私とファンヌとお兄ちゃんの三人の子どもとリーサさん、スヴェンさん、セバスティアンさんなど助けてくれる大人たちから始まったルンダール家。

 カミラ先生が来て、ヨアキムくんが引き取られ、カミラ先生とビョルンさんと結婚して、ブレンダさんとカスパルさんが来て、エディトちゃんが生まれて、コンラードくんが生まれて、カスパルさんとリーサさんが結婚してディックくんが生まれて、一時期は物凄い人数になっていた。

 それが今はまたお兄ちゃんと私とファンヌとヨアキムくんだけになった。

 けれどルンダール家からオースルンド家に移ったリーサさんにも二人目の赤ちゃんができて、ボールク家の領地ではデシレア叔母上のところにエメリちゃんが生まれて、家族は増え続けている。

 このままどこの家も栄えるように。

 私は祈らずにはいられなかった。

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