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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十一章 魔術学校で勉強します! (三年生編)
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14.音楽堂での発表会

 音楽堂の補修工事が終わった。

 アントン先生を引率にして、私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんは、音楽堂の舞台にリハーサルに向かっていた。これから三日間リハーサルを重ねて、たくさんの知り合いをお招きする発表会に挑む。

 音楽堂のピアノも調律し直されていて、アントン先生の伴奏で私が指揮をしながら高音域を歌って、ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんが主旋律を歌って、リハーサルをする。


「間違えても構いません。そのまま最後まで歌ってください」

「はい!」

「間違えたら『間違えた!』という顔をしないで良いですからね。誰も楽譜を持って隅々までチェックしていませんから」


 間違えても堂々と歌っていれば見ているひとには分からない。

 アントン先生の教え通りに私たちは堂々と歌った。特にコンラードくんは大きな声で音を外しても全く動じないようになっていた。


「コンラード様、間違えない方が良いですが、間違えても動揺せずに最後まで歌えているのがとても素晴らしいですよ」

「はい! わたし、『まちがえた!』っていうかお、しません!」

「エディト様、とても音程が正確に歌えています。もっと思い切って声量を出して良いですよ」

「はい! もっと大きな声で歌います!」

「ファンヌ様、ヨアキム様とよく聞き合って歌えています。二人のハーモニーがとても綺麗です」


 褒められて私たちは伸びていく。


「イデオン様、指揮も堂々としてきました。指揮をしながら歌うのは難しいですが、全体を見ながら声を合わせてください」

「はい!」


 私だけパートが違うので声量を調節しなければいけない。そのためには全体の音をよく聞いておかなければいけなかった。

 アントン先生に言われて全員の声を聴きながら、指揮をしながら、必死に歌う。頭はフル回転で、歌も歌っているので身体も使って、汗だくになっていた。


「客席の灯りが落とされて、舞台の灯りだけになるので、明日は実際に客席の灯りを消してやってみましょうね」


 みっちりと練習をしてお屋敷まで帰る馬車の中では、コンラードくんとエディトちゃんは眠りかけていて、ヨアキムくんとファンヌも頭がぐらぐらしていた。

 みんなが熱中症にならないようにこまめに水分補給をして、おやつやお弁当も食べて一日がかりでリハーサルをした帰りの馬車。夕方の日差しが赤くファンヌたちの頬を照らしていた。

 お屋敷に帰るとシャワーを浴びて晩御飯を食べる。

 お兄ちゃんの傍をこんなに長時間離れるのは心配もあったが、残り少しだけと自分に言い聞かせて頑張ることに決めていた。

 夜に部屋でベッドでうとうとしていると、お兄ちゃんがシャワーを浴びて部屋に入って来たのが分かる。


「イデオン、来年からは当主の部屋に移らないかって叔母上とビョルンさんに言われてるんだよね」

「お兄ちゃん、私と同じ部屋じゃなくなるの?」

「イデオンも思春期で難しい年頃になるからね」


 当の本人に思春期で難しい年頃になると言ってしまうあたりがお兄ちゃんだ。私とお兄ちゃんの間には秘密はないのだと再確認する。

 私には言えない気持ちがあるけれど、お兄ちゃんは私を弟として信頼してくれている。

 このまま同じ部屋だったらお兄ちゃんとの関係がおかしくなってしまうこともありえなくない。湯上りのお兄ちゃんがバスタオルで髪を拭いているのに、眠りかけていたのが目が覚めて胸がドキドキするくらいには私はお兄ちゃんを意識していた。


「私も15歳になるからね」


 15歳。

 お兄ちゃんが気になる相手を教えてくれると約束した年齢。

 それをお兄ちゃんは覚えているだろうか。お兄ちゃんの気になる相手は数年前から変わっていないのだろうか。

 聞くことはできないが、私も大人にならないといけない時期だとは自覚があった。


「寂しいけど、仕方がないのかもしれないね」


 私が言うとお兄ちゃんは困ったように微笑んでいた。

 発表会の当日はカミラ先生とビョルンさんが受付をしてくれた。

 ベルマン家の一家、フレヤちゃん、ボールク家の一家、サンドバリ家の一家、シベリウス家のカリータさん、エリアス先生とデニースさんの夫婦と娘さん、オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様、ブレンダさんとイーリスさん、カスパルさんとリーサさんとディックくん……たくさんのひとたちが客席を埋めていく。

 ヨアキムくんとファンヌはデシレア叔母上に選んでもらったスーツとドレスを着て、私もデシレア叔母上に選んでもらったスーツを着て、エディトちゃんは可愛いドレス、コンラードくんはスーツで楽屋で待っていた。アントン先生が私たちを呼びに来る。


「出番ですよ。一曲だけですが、最高のコンサートにしましょう!」


 心の準備はできていた。

 お兄ちゃんがアナウンスをしてくれる。


「国王陛下の御前で歌う歌を一足お先に皆様にお届けします。この歌を歌うために、私の弟のイデオンが指揮をして、妹のファンヌと従兄弟のヨアキムくん、エディトちゃん、コンラードくんがアントン先生の指導のもと、練習に練習を重ねてきました。どうか、暖かく見守ってください」


 客席から拍手が聞こえてくる。客席の灯りは落とされて舞台だけが明るく光っているのが舞台裏からでも分かった。アントン先生を見れば頷いてくれて、私を先頭にファンヌ、ヨアキムくん、エディトちゃん、コンラードくんと歩いて舞台の上に出ていく。

 舞台に設置された台の上にファンヌ、ヨアキムくんが後ろに立って、エディトちゃんとコンラードくんが前に立つ。私は指揮台の上に立って客席の方を見て一礼した。それに合わせてファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんも頭を下げているはずだ。

 アントン先生が出てきてピアノの前で頭を下げてピアノの椅子に座る。

 さぁ、本番だ。

 アントン先生を見て、ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんを見て、お互いに頷き合って準備ができていることを確認して、私は指揮台の上で手を上げた。

 ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんとアントン先生だけではなく、客席の全員の意識が私に集まっているのを感じる。心臓がばくばくと鳴って緊張するが、練習と同じようにゆっくりと手を振ってアントン先生に伴奏を弾いてもらう。

 歌い出しは右手を動かして合図する。

 指揮に集中しすぎてしまったせいか、私は歌い出しで入り損ねた。しまったと思ったけれど、ファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんもコンラードくんも動揺せずに歌い続けている。二小節目から何事もなかったかのように合流して、私は歌いながら指揮をした。

 途中の間奏では右手を止めて歌を止める。

 間奏が終わると今度こそ合図と一緒に歌いだせた。

 全員が集中していて最後の長く伸ばすフィナーレまで完璧に歌い上げる。

 伴奏が終わって私が手を下ろすと、割れるような拍手が客席から上がった。

 飛び上がって喜びたかったし、この達成感を叫びたかったけれど、コンサートは最後までやり遂げなければいけない。

 私が客席の方を見て礼をすると、アントン先生が声を上げた。


「頑張った素晴らしい歌い手たちにもう一度暖かな拍手をお願いいたします」


 客席から再び割れるような拍手が起きて、鳴りやまない拍手に送られて私たちは舞台裏に戻った。

 発表会の後はロビーに出て来てくださった方々にお礼を言いに行った。


「イデオンくん、素晴らしかったわ!」

「国王陛下の御前でも立派に歌えると思います」


 フレヤちゃんとカリータさんに褒められて、私は「ありがとうございます」と頭を下げる。コンラードくんは真っすぐにアイノちゃんのところに行っていた。


「あーちゃん、きいてくれた?」

「ものすごくじょうずだった! こーちゃん、さいこうよ! わたくし、びっくりしちゃった」

「よかった。あーちゃんには、ぶたいでうたうのをみてほしかったの」


 可愛いやり取りを私は微笑ましく見守る。

 お兄ちゃんを探していると、ロビーでたくさんのひとたちに声をかけられた。みんな「素晴らしかった」とか「上手だった」と言ってくれて、私は自分が最初入り損ねたことも忘れて浮かれてしまった。

 お兄ちゃんを見つけると思わず駆け寄ってしまう。

 お兄ちゃんはしっかりと私を抱き締めてくれた。


「立派だったよ、イデオン」


 どんな誉め言葉よりもお兄ちゃんの言葉が嬉しいのは、私がお兄ちゃんを大好きだから仕方のないことだった。

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