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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十一章 魔術学校で勉強します! (三年生編)
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9.ルンダール合唱団

 私を中心にファンヌ、ヨアキムくん、エディトちゃん、コンラードくんで合唱団を作って歌うという案に、カミラ先生もビョルンさんも賛成してくれた。


「エディトとコンラードとヨアキムくんが国王陛下の御前で歌うなんて」

「ファンヌちゃんもですよ。絶対可愛いに決まっています」


 カミラ先生とビョルンさんの夫婦は相変わらず子煩悩で想像するだけでニコニコしている。


「みんな一緒なら、イデオンも嫌じゃない?」

「お兄ちゃん、私が気乗りしてないのに気付いてたの?」

「イデオン、浮かない表情だったから」


 目立ちたくないと口から出ていたし、お兄ちゃんはあまりやりたくない私の気持ちを汲んでくれていた。断る方法がないので受け入れていたが、お兄ちゃんは私の気持ちを考えてくれていたのだ。


「みんな一緒なら嫌じゃないよ。ヨアキムくんとファンヌの幼年学校最後の年の思い出になるでしょう?」


 夏休み中かけて練習するのもきっといい思い出になる。

 それを言えばお兄ちゃんも微笑んでくれた。

 指導はエリアス先生を呼ぶことも考えたが、私が小さい頃からお世話になっていて子どもの扱いに慣れているアントン先生にお願いすることにした。呼ばれてやってきたアントン先生は、楽譜を見て考えていたが私に申し出てくれた。


「これ、私が伴奏をしましょうかね」

「良いんですか!?」

「練習で慣れた相手が伴奏をする方がみんな歌いやすいでしょう」


 指導もしてくれる上に伴奏までしてくれる。アントン先生ならば安心だと私たちもホッとしていた。

 発声練習をしているとアントン先生がコンラードくんの前に立つ。


「とても大きな声が出ますね。元気ですごくいいですよ」

「わたし、すごくいい!?」

「コンラード様の声は大きくて自信があってとても良いです。エディト様は音を間違えないように上手に歌ってます」

「わたくしも、上手!?」


 褒められてコンラードくんはますます張り切って声を張り上げて、エディトちゃんは音を正確に歌っていく。


「ファンヌ様とヨアキム様の声はよく合いますね。二人で同じパートを歌うととても綺麗に響きます」

「わたくしとヨアキムくんは相性ぴったりなのね」

「ファンヌちゃんと同じパート、嬉しいです」


 難しいパート分けはせずに、エディトちゃんとコンラードくんとファンヌとヨアキムくんが主旋律、私が高音を歌うことに決まった。並んで歌っているとアントン先生が私を前に立たせる。


「指揮をしてみたことはありますか?」

「ありません」

「初めに手を挙げて、伴奏と全員が準備ができているか見て、リズムに合わせて伴奏と歌い手が合うように導くのです」


 歌いながらも私は指揮をやることになった。アントン先生のピアノの方に目を向けてアントン先生と頷き合って、ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんを見てこくりと頷く。上げた手をリズムに合わせて振ると、アントン先生の伴奏が始まって、コンラードくんが歌いだす。


「コンラードくん、歌はまだだよ」

「コンラード様、イデオン様の右手をよく見ていてください。右手でイデオン様が合図をしたら歌いだすのです」


 指揮を教えながらもアントン先生は伴奏もして、歌も教えてくれる。神聖魔術の才能は高くないが声楽家としてアントン先生がどれだけ優秀かを思い知った日だった。

 アントン先生がいない日も宿題が終わると音楽室に集まってみんなで歌う。コンラードくんやエディトちゃんは飽きてしまうかと思っていたが、意外と真剣に毎日練習に来ていた。

 夏休みの終わりに5歳になる小さなコンラードくんやまだ幼年学校の二年生のエディトちゃんのモチベーションを保てたのは、休憩のたびに応援に来てくれるカミラ先生とビョルンさんとお兄ちゃんのおかげだったかもしれない。


「とても上手だよ、みんな」

「エディトもコンラードも立派に歌って……」

「コンラードは赤ん坊のときから声が大きいと思っていたら、歌の才能があったのですね」


 嫌なことがあるとひっくり返って大声で泣きわめいていたコンラードくん。保育所のエディトちゃんの教室まで聞こえたというのだから、その声の大きさは並ではない。

 泣き喚いて鍛えた喉が歌で活躍している。


「わたし、こえがおおきくてとてもいいんだって」

「わたくしも、とても上手って言われたの」


 アントン先生の誉め言葉も二人を上機嫌にさせていた。褒められて認められた記憶というのは小さい子を支えていくものである。

 両親は小さい頃から私とファンヌを放置していたが、お兄ちゃんは私たちを手放しに褒めて育ててくれた。カミラ先生が一緒に暮らすようになって、ビョルンさんと結婚して当主代理補佐になってくれて、ルンダール家のお屋敷にいてくれたが、二人とも私やファンヌやヨアキムくんの幼い言葉を決して聞き逃さず、馬鹿にせず、真剣に聞いてくれた。

 向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーの事業、保育所建設、感知試験紙開発、高等学校建設、魔術学校の制服の無料化など、私の言葉を真剣に聞いてくれたカミラ先生とビョルンさんの力があってこそ成し遂げられたものだった。私の功績のようになっているけれども、本当は私の話を聞いてくれたカミラ先生とビョルンさん、一緒に調べてくれたお兄ちゃんの功績なのだ。

 ルンダール領の賢者なんて言われているけれど、私は自分のことをそんな風には思っていなかった。本当に凄いのはお兄ちゃんとカミラ先生とビョルンさんだと分かっていたから。

 エディトちゃんやコンラードくんにもお兄ちゃんとカミラ先生とビョルンさんは真剣に向き合っている。肯定的な目で見ていてくれる。それを受け継いでファンヌとヨアキムくんもエディトちゃんとコンラードくんを否定しない方針でいた。

 伸び伸びと育てられた二人の声は、それを表すように伸びやかで心地よい。


「エディトちゃんとコンラードくん、物凄く上手だよ。声が伸びやかで良く響く。ファンヌとヨアキムくんは声がとってもきれいで、音を間違えない」


 私も手放しでエディトちゃんとコンラードくんとファンヌとヨアキムくんを褒めると、ますますみんなの歌が上手になっていく。

 これは王都の国王陛下の結婚式でいい結果が出せるのではないかと私は期待していた。

 たくさん褒められたせいか、コンラードくんとエディトちゃんは相当歌に自信を持ったようだった。

 夏休み前の練習のときにコンラードくんがアントン先生と私の前にもじもじと出て来た。


「わたし、おうた、デシレアおばうえと、あーちゃんにきいてもらいたいの」

「わたくしも、デシレアおばうえと、ミカルくんに聞いてもらいたいわ」


 コンラードくんの後ろからエディトちゃんも自己主張している。

 アントン先生の顔を見ると二人の言葉に思案しているようだった。


「本番前に舞台に立って練習をした方が良いとは思っていたのですよね。イデオン様は、ルンダール領に音楽堂があるのをご存じですか?」

「音楽堂!?」


 声楽はしていたけれど、私は音楽のことにそれほど詳しくなかった。

 音楽堂とはコンサートをするためのホールのようなものらしい。かつてはそこで華やかに声楽の発表会やオペラや演劇や楽器演奏などが上演されていたのだが、私の両親の圧政のせいですっかりと寂れてしまったのだという。


「貴族でも音楽は道楽だと考えるひとたちが多くて、すっかりと寂れてしまったのですが、私も声楽家としてコンサートを開きたいし、王都や他の領地から劇団や楽団を招いて文化交流も盛んになればいいと思っていたのですよ」

「今は音楽堂は使われていないのですか?」

「管理するものもいなくて、雨漏りがしているという噂です」


 音楽堂なんていうものが存在することすら私は知らなかった。

 演劇とは何だろう。

 楽団の演奏会とは何だろう。

 今まで一度も触れたことのない文化の話をされて期待に胸が膨らむ。


「音楽堂を修理して使えるようにすれば、演劇を観たり、楽団の演奏を聞いたりできますか?」

「劇団も楽団もルンダール領にはないのですが、募って作ってもいいかもしれません」

「劇団と楽団ができる!」


 初めは国王陛下に招かれて結婚式で歌うためにルンダール家で合唱団を作るだけのつもりだった。それがルンダール領の文化の復興に役立つなんて。

 未知の可能性に14歳の私は胸を高鳴らせていた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 子ども合唱団、絶対 か わ い い !!! [気になる点] 国王陛下の結婚式だから、たとえ貴族でも招待されなければ出席できないと思うのですが、子どもたち+アントン先生は大丈夫なのかな? 招…
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