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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十一章 魔術学校で勉強します! (三年生編)
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7.子ウサギたちの行き先は

 クラース叔父上と話してから、お兄ちゃんを見るときに胸の鼓動が早くなってお兄ちゃんの唇や胸や首筋が気になるけれど、これがいけないことではないと分かったら狼狽えることはなくなった。

 デスクの端まで離していた椅子も元の位置に戻して、お兄ちゃんにお茶を渡すときもデスクの上をお盆を滑らせるようにしないで、手渡すことができる。指先が触れると暖かくて、もっとお兄ちゃんに触れたくなったけれど、それは同意なくしてはいけないことだというのも理解していた。

 おやつのときも隣りの席に戻って来た私に、お兄ちゃんはカミラ先生とビョルンさんとひそひそと「反抗期が落ち着いたんでしょうか」とか話していた。短かったけれど、あれはある意味私が通らなくてはいけない大事な時期だったのかもしれない。

 夏が近づいてきてミカンちゃんと一緒に子ウサギたちもベルマン家の庭に出てくるようになったとダンくんから聞いた。


「もう触ってもミカンちゃんは怒らないし、子ウサギも果物や野菜を食べ始めたからフレヤちゃんやコンラードくんに譲る時期かなと思ってるんだ」


 マンドラゴラを食べたミカンちゃんのお乳を飲んだ子ウサギたちの成長は早い。一生懸命果物や野菜を食べ始めているという。


「今日の帰りに貰いに行ってもいい?」

「いいよ、イデオンのところのコンラードくんはどうする?」

「帰ったら聞いてみるよ」


 魔術学校からダンくんの馬車で戻ると子ども部屋のコンラードくんとエディトちゃんを呼んで、執務室のカミラ先生とビョルンさんのところに行った。仕事を抜けて二人はコンラードくんとエディトちゃんの話を聞いてくれる。


「イデオンにぃにが、ウサギちゃんをもらいにいこうって」

「もらってきていいでしょう、ちちうえ、ははうえ」


 強請るコンラードくんとエディトちゃんにカミラ先生とビョルンさんは膝をついて目線を合わせていた。


「私たちも行きましょうね」

「籠があった方が安全ですが、結界の魔術でも大丈夫かもしれません」

「ちちうえとははうえもきてくれるの?」

「わたくし、ウサギちゃんをだっこするの」


 了承を得たコンラードくんとエディトちゃんは出かける準備をして、カミラ先生とビョルンさんもお兄ちゃんに声をかけている。


「エディトとコンラードとベルマン家に行ってきます」

「ウサギをもらうご挨拶をしてきますね」

「行ってらっしゃいませ、叔母上、ビョルンさん」

「分からない書類があったら置いておいてくださいね」


 ルンダール領のお兄ちゃんの補佐をしてくれながらも、カミラ先生とビョルンさんはしっかりとコンラードくんとエディトちゃんの親としての務めも果たしている。これが普通の親なのだろうが、私の両親は私たちをリーサさんとお兄ちゃんに押し付けて社交界で顔を売ることばかり考えていた。そのおかげでお兄ちゃんと仲良くなれたのだし、両親とは親密な仲になりたいとも思わなかったので、それはそれでいい。

 コンラードくんとエディトちゃんが幸福であれば良いとしか思わなかった。恩赦が出てアシェル家の両親が牢獄から出てきたらヨアキムくんが悩むことのないように、困らせられないように守らなければいけない。国王陛下の結婚式を前に私が考えていることはそれくらいだった。

 ベルマン家に着くと庭でリンゴちゃんとミカンちゃんが仲良く雑草を食べている。子ウサギはミカンちゃんに似たオレンジ色の毛並みの子が一匹、リンゴちゃんに似た灰色の毛並みの子が二匹だった。


「ははうえ、おんなのこがいいなー」

「雄雌が分かるのですかね?」

「この時期の子ウサギは雄雌を見分けるのが難しいと聞きますね」


 カミラ先生のスカートを引っ張るコンラードくんに、カミラ先生とビョルンさんが顔を見合わせている。


「ミカンちゃんに似てたら、女の子かもしれないわ」


 近寄ったエディトちゃんが既に中型犬くらいあるオレンジ色の毛並みの子ウサギを抱き上げた。


「私は雄雌、どっちでもいいから、コンラードくんとエディトちゃんが先に選んで良いわよ」


 フレヤちゃんに譲ってもらって、コンラードくんとエディトちゃんはオレンジ色の毛並みの子ウサギに決めたようだった。中型犬用の首輪を買ってきていたフレヤちゃんは灰色の毛並みの一匹に首輪をつける。


「名前は決めてあるの?」

「スモモちゃんにしようかと思ってるわ」

「スイカちゃん! スイカみたいにおおきくなるように!」


 スモモちゃんと名前を決めているフレヤちゃんに、大きな声で手を挙げてコンラードくんが主張する。大きな子ウサギを肉体強化の魔術を使って抱っこしていたエディトちゃんが半眼になった。


「こーちゃんは、スイカ猫が好きだから、スイカちゃんにしたいんでしょう?」

「ちがうも! スイカみたいにおおきくなるようにだもん!」

「こーちゃんったら」


 違うと言っているが、コンラードくんがスイカ猫のスーちゃんに乳児のときから可愛がられて育ったのは私たちみんなが知っていた。スイカちゃんという名前の由来も、スイカのように大きくなるようにではなく、スイカ猫ではないのかと懐疑的になるのも仕方がない。


「ミカンちゃんと暮らす子はリンゴちゃんの子どもだから、ヒメリンゴちゃんにしようかと思ってるんだ」

「ヒメリンゴちゃん! 可愛いね」


 性別は分かっていないが、リンゴちゃんも雄だけれどリンゴちゃんなのだし、果物に雄も雌もないのでスモモちゃんでもヒメリンゴちゃんでもスイカちゃんでも構わないだろう。

 名前を付けた本人たちが気に入っていれば問題はない。

 こうして春の終わりに生まれた子ウサギたちは初夏に貰われて行った。

 リンゴちゃんのところに貰う子がいなかったのは残念だったけれど、ヨアキムくんはリンゴちゃんを説得してルンダール家に連れ帰ることにした。


「雄と雌を一緒にしておくと、何回も繁殖して物凄く増えちゃうんだって」

「出産は母ウサギにとっては負担でもあるから、リンゴちゃんとミカンちゃんは普段は別々にしておこう」


 ちゃんとウサギの生態を調べたヨアキムくんとミカルくんが話し合って決めたことだと聞くと私は胸が熱くなる。ヨアキムくんもミカルくんも命の大事さをちゃんと分かっていて、その上でウサギを飼っている立派な少年になったのだと感動してしまいそうだった。

 生後三か月くらいでウサギは性別が分かるようになるらしい。雄の睾丸が降りて来て目立つようになるのだとか。それはリンゴちゃんを引き取ったときにビョルンさんが雄雌を見分けるコツとして教えてくれたことだった。

 まだ性別の分からないフレヤちゃんのスモモちゃんと、コンラードくんのスイカちゃんと、ミカンちゃんと一緒に育つヒメリンゴちゃん。


「ヒメリンゴちゃんが雄だったら、ミカンちゃんと間違って繁殖しちゃったらいけないから、大人になったらルンダール家に引き取ってくれるか」

「僕がリンゴちゃんと一緒に責任もってお世話するよ」


 ミカルくんとヨアキムくんの会話に二人も立派になったものだと思う。

 ルンダール家のお屋敷に帰るときには、結界の魔術で作った柵の中にスイカちゃんを入れて馬車に乗せて、リンゴちゃんは馬車に並走してルンダール家に帰っていた。

 これからはルンダール家のお屋敷の庭は自由に歩いて良いけれど、ベルマン家まで行かないようにリンゴちゃんが出られない結界を張らないといけない。

 お屋敷に帰ると私はすぐにお兄ちゃんにそのことを相談しに行った。リンゴちゃんの飼い主であるヨアキムくんも一緒だ。


「子ウサギは無事に貰われて行ったんだね。結界は僕が張り直すから大丈夫だよ。ヨアキムくん、リンゴちゃんとミカンちゃんのことをちゃんと考えられる飼い主で偉いね」


 お兄ちゃんに褒められてヨアキムくんはほっぺたを真っ赤にして照れていた。

 結界が張り直されて自由にリンゴちゃんは出入りができなくなったけれど、ヨアキムくんがベルマン家に行くときにはミカンちゃんに会えるようにすることで納得したようだった。

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