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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十章 魔術学校で勉強します! (二年生編)
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17.お妃様の叔父上の最後の抵抗

 夕食会は粛々と始まるはずだった。

 ルンダール家のお屋敷では子どもが多く順番に料理を出しても待っていられないので、一度に全種類の料理が出されていたが、王城ではそうはいかない。オードブルから始まって、食前酒、スープが出てきて、お口直しに少しだけ甘いものが出て、メインのお魚がまず出て、次にメインのお肉が出て、最後にお茶とデザートが出る。

 形式に慣れていない私はそわそわと椅子の上で落ち着かずに足を揺らしていた。


「イデオン様には食前酒の代わりにノルドヴァル領のワインにする品種の葡萄ジュースを用意させていただきました」


 オードブルと一緒に食前酒代わりの葡萄ジュースを飲んで、スープを待っているとランナルくんが駆け込んできた。


「お妃様の叔父上が魔物を使役して屋敷に籠城の構えです」

「屋敷ごと壊すわけにはいかないし……」


 奥方様の持ち物であるお屋敷を傷付けるわけにはいかないが、お妃様の叔父上は奥方様や子どもを人質に取って屋敷に閉じこもっているという。屋敷の敷地内には呼び出された魔物がうろうろしていて警備兵も入れないような状態なのだという。


「この時間だと、ファンヌとヨアキムくんは寝てるかな?」

「お風呂に入ってる時間かもしれないけれど、呼んでみる?」


 魔物退治で頼りになる相手と言えばファンヌとヨアキムくんだった。伝説の武器の菜切り包丁を持ったファンヌと、呪いを使いこなすヨアキムくん。二人がいれば警備兵の力になれそうな気がする。

 椅子を倒さないように立ち上がって私は名乗り出た。


「私と妹と弟がお手伝いさせていただいてよろしいでしょうか?」

「危険かもしれない」

「私も参ります」


 心配する国王陛下はランナルくんも同行するということで納得したようだった。

 お兄ちゃんの移転の魔術でお妃様の叔父上のお屋敷の前に着くと、カミラ先生とファンヌとヨアキムくんが来ていたのは良いのだが、コンラードくんも確りカミラ先生に抱っこされて、エディトちゃんもフライパンを持って立っていた。


「エディトちゃんとコンラードくんも来ちゃったの?」

「わたくし、たたかえます!」

「こー、おうえんする!」


 言っても聞かないコンラードくんを説得するよりも連れて来てしまった方が早いとカミラ先生も判断したのだろう。沈痛な面持ちで頷くカミラ先生に私も頷いた。

 屋敷の敷地はもう暗くなっていてそこをがさがさと茂みを掻き分けて魔物が闊歩しているのが分かる。


「お屋敷は壊したらいけないって仰ったけど、庭は荒らしてはいけないとは言われてないよね」


 国王陛下の言葉を解釈して私は歌い始めた。上空を大きな影が過り、ドラゴンさんが大量のマンドラゴラを背中に乗せて降りて来る。


「びぎゃー!」

「ぎょえー!」


 南瓜頭犬に跨った私の大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラを筆頭にマンドラゴラたちが屋敷に突撃していく中、ドラゴンさんは心得たとばかりに魔物を捕まえてはファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんの前に持って来る。


「行きますわ!」

「不幸になれー!」

「フライッ! パーーーーーン!」


 動きを封じられた魔物に攻撃できないようにヨアキムくんが呪いをかけて、ファンヌとエディトちゃんが菜切り包丁とフライパンで止めを刺していく。魔物の姿がなくなると私たちも敷地に入ることができて、マンドラゴラが破ったと思しき扉から屋敷の中に入った。

 屋敷の中では半分以上白髪のセピア色の髪を振り乱したお妃様の叔父上が、同じくらいの年頃の女性の首にナイフを突き付けていた。


「近寄ると、こいつを殺す!」

「父上、おやめください!」

「煩い! 法案が成立したら私を追い出そうと画策しているくせに!」


 妻も子も信じられない状態のお妃様の叔父上の目は血走っていた。

 菜切り包丁を構えるファンヌを止めることができたが、足元をすり抜けて走り出るエディトちゃんは止められなかった。


「びぎゃー!」


 エディトちゃんに並走するマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんが叫んで、様子を伺っていたマンドラゴラたちが一斉にお妃様の叔父上に飛びかかる。マンドラゴラ尽くしになったお妃様の叔父上のほっぺたを、飛び上がったエディトちゃんのフライパンが思い切り打ち据えた。


「フライッ! パアアアアアアン!」

「ぶぎゃ!」


 奇妙な声を上げて吹っ飛んでいくお妃様の叔父上の手からカミラ先生が奥方様を助ける。


「政略結婚で子どもが生まれてから、あのひとは自分の子どもを国王陛下とセシーリア殿下と結婚させることしか考えていなかったのです。血が近いもの同士の結婚は危険だと言われているのに」


 王族同士での結婚は当然のように行われているが、そのせいで歪みが出て来てもおかしくはない。そのことを奥方は理解していた。理性的に止める奥方の言葉など、権力に目がくらんだお妃様の叔父上は聞き入れず無理やりに婚約を進めようとしていたのだという。

 そんな夫に愛想が尽きて離婚しようとしても子どもがいる貴族は離婚できないという法律がそれを阻んでいた。

 しかし、法案はもう可決される。


「もう言い逃れはできない! このサインに浮かび上がる姿はお前のものだろう!」


 ランナルくんがノルドヴァル領の宝石の注文書を手に詰め寄ると、お妃様の叔父上は顔を背けて奥方様に懇願した。


「頼む、ここから追い出さないでくれ」

「あなたには愛想が尽きました。こんな子どもを暗殺しようとするなど。警備兵、連れて行ってください」


 警備兵に命じる奥方様に、お妃様の叔父上は連れていかれた。


「わたくし、ねむいわ」

「こーも、ねむたい」

「母上、エディトちゃんとコンラードくんがお眠です。帰りましょう」


 欠伸をするエディトちゃんとコンラードくんの姿を見てヨアキムくんが促して、カミラ先生はエディトちゃんとコンラードくんとヨアキムくんとファンヌを連れてオースルンド領に帰って行った。

 ドラゴンさんも飛び去った後の庭は血生臭かったが、これは警備兵が片付けてくれるだろう。

 眠くなってきたけれど中断した夕食会に私とお兄ちゃんは戻らなければいけない。まだスープも私は飲んでいないのだ。

 眠さと空腹に耐えかねる私をお兄ちゃんは抱き上げてくれた。


「イデオン、ふらふらだよ。少しだけ我慢してね」

「もう眠い……お兄ちゃん、お腹もすいたよ」

「国王陛下に許可をいただこうね」


 夕食会の席に戻ったお兄ちゃんは国王陛下とセシーリア殿下にお妃様の叔父上が無事掴まったことを報告していた。

 その後で眠たくてお腹が空いてぐだぐだの私を抱えたままで一礼する。


「イデオンはもう限界なので、本日は失礼いたします」

「私たちも失礼します」


 オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も夕食会の席から立って、一緒に退出してくれた。後はランナルくんが説明してくれるだろう。

 部屋に戻った私にお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様がミルクティーを淹れてくれる。お兄ちゃんのお祖父様は食事用のナプキンに出されたパンを包んでいた。


「お腹が空いているでしょう、食べなさい」

「ありがとうございます。お腹がぺこぺこで……」


 お兄ちゃんと私の分がちゃんとあって、冷めてしまっているけれどパンはミルクティーと一緒に食べると空腹がスパイスになってとても美味しかった。パンを食べてミルクティーを飲んで歯磨きをすると、私はベッドに倒れ込んでしまう。


「ごめんなさい……もう、げんかい……」

「お休みなさい、イデオンくん」

「ゆっくりお休み」


 お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も着替えもせずに倒れ込んだ私を咎めたりしなかった。そのままぐっすりと眠ってしまったがお兄ちゃんとお祖父様とお祖母様はもう少し起きていたようだった。

 翌朝すっきりと目を覚ますと、私は上着とスラックスを脱がされていた。


「皺になるから脱がせちゃったよ。クローゼットにかけてあるから、着てね」

「何から何までありがとう、お兄ちゃん」


 審議で緊張したし、お風呂でリラックスしていたら毒蛇が襲って来るし、夜は夕食会を抜け出してお妃様の叔父上を捕まえに行ったし、大変な一日だった。

 いそいそと上着とスラックスを身に着けると、身支度をしたお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様と一緒に朝ご飯を食べる。知っているひとだけなので緊張もせずに落ち着いて朝ご飯が食べられた。

 王城では部屋で朝ご飯を食べるのだと前に来たときも気付いていたが、ルンダール領との暮らしの違いに驚いてしまう。

 食べ終わると審議の円卓の間に招かれた。

 昨日のように発言することはなく、可決された法案を宰相閣下が読み上げて、四公爵と国王陛下とセシーリア殿下が纏まった文書に署名をする。ペンを持ったお兄ちゃんも凛々しく署名をするのを私は見惚れるようにしていた。

 こうして、法案は可決され、同時にお妃様の名誉は回復して王城に戻ることが決まった。

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