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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
十章 魔術学校で勉強します! (二年生編)
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14.審議の前の襲撃

 審議が開かれている間、使用人さんたちがいるとはいえファンヌとヨアキムくんを二人だけでルンダール家に残しておくのは心配だった。審議は数日間は続くだろうし、その間お兄ちゃんと私は王城に泊らなければいけない日もある。

 将来ヨアキムくんのものとなる領地のヨアキムくんのお祖父様とお祖母様に来ていただこうか悩んでいたときに申し出てくれたのは、オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様だった。


『夏休みにはこちらに来る予定だったのでしょう? 早めに来ておけば良いではないですか』

『エディトもコンラードもディックもいるし、ヨアキムくんとファンヌちゃんなら大歓迎ですよ』


 二人の言葉に甘えて私たちは早めにオースルンド領に向かうことにした。王城に出向くときもオースルンド領からだとお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も一緒で心強い。

 荷物を用意しているとヨアキムくんとファンヌが肩掛けのバッグとポシェットを持ってやってきた。


「イデオン兄様、オリヴェル兄様、荷物がこれでいいか確認してくれますか?」

「わたくし、クリスティーネさんにしてもらったけど、ヨアキムくんは恥ずかしいんですって」


 ヨアキムくんも幼年学校の五年生になっている。女性のクリスティーネさんに下着の数を確認されたりするのは恥ずかしい年齢になったようだ。

 お兄ちゃんと二人でヨアキムくんの荷物を確認して、服も下着も靴下もちゃんと揃っているか数える。オースルンド領でも洗濯はしてもらえるが、夏場なのでこまめに着替えられるように着替えは多めに私も準備していた。


「大丈夫だと思うよ」

「リンゴちゃんはどうするの?」


 庭の厩舎で寝起きしているリンゴちゃんのことを気に掛けるお兄ちゃんに、ヨアキムくんはちゃんと考えていたようだった。


「ミカルくんにお手紙を書いたら、ミカンちゃんと一緒にお世話しておいてくれるというので、お願いしました」


 大きな体になったリンゴちゃんはオースルンド領に連れていくよりもベルマン家でミカンちゃんと面倒をみられている方が良いのかもしれない。リンゴちゃんの件も解決したので私たちはオースルンド領に飛んだ。

 門から玄関まで歩いて行くと、蝉の声がして汗が滲む。玄関を入るとエディトちゃんとコンラードくんとディックくんが待っていてくれた。


「こー、おうち、ここよ」

「こーちゃん、おじいさまとおばあさまがやさしくしてくれるから、やっとここがおうちってみとめたのよ」

「にぃに、ねぇね!」


 可愛い三人に迎えられて私たちは客用の部屋に案内される。


「コンラードくんのこと、お祖父様とお祖母様は可愛がってくれてるんだね」

「わたくしのことも、すごくかわいいって、いってくださるの。ごはんもおいしいのをいっぱいたべさせてくださるし、くだものもジャムもいっぱいたべさせてもらえるし……」

「えーねぇね、くいちんぼう」


 オースルンド家のお屋敷をコンラードくんが自分の家だと思えるようになったのも、エディトちゃんが美味しいものをいっぱい食べさせてもらって艶々と健康そうなのも本当に良かったと心から思う。カミラ先生とビョルンさんとエディトちゃんとコンラードくんとカスパルさんとリーサさんとディックくんとブレンダさんのいなくなったルンダール家は寂しいけれど、オースルンド領に来ればまた前のように賑やかに暮らせる。

 久しぶりに会ったリーサさんはファンヌとヨアキムくんを順番に抱き締めていた。


「また背が伸びられましたね」

「わたくし、生まれは一番早いのに、身体はそれほど大きくないの」

「僕よりはファンヌちゃんの方が大きいんですけどね」


 生まれが遅いから私は小柄なだけではなかったようだ。ファンヌは生まれが早いがクラスで一番大きいわけではない。遺伝的に考えるとファンヌが大きくないのならば私も大きくなくて当然だった。

 若干ショックを受けていると、オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に呼ばれた。


「審議は長引くかもしれませんが、オースルンド領では寛いでくださいね」

「私たちも一緒だから、そんなに緊張しなくて大丈夫ですからね」


 ルンダール家の当主となったお兄ちゃんの初の大仕事をお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は支えてくれる気満々だった。心強い言葉に私もホッとしたし、お兄ちゃんも安堵したことだろう。

 審議は明日から始まるので、その日は早めに夕食を食べてお兄ちゃんと私とヨアキムくんが同室で、ファンヌはエディトちゃんと同じ部屋で眠った。

 朝早く目が覚めてしまうのは早寝をしたからと、毎日早朝に薬草畑の世話に行っているからだ。ルンダール家の薬草畑は使用人さんたちに頼んで来たので、することもなく、私とお兄ちゃんとヨアキムくんとファンヌはオースルンド家の庭を散歩していた。

 歩く足が門の近くに差し掛かったところで悲鳴が聞こえて来た。


「魔物だー!」

「魔物がいるぞ!」


 門の外を見れば結界を破って入って来ようとする三つ首に尻尾が蛇の漆黒の巨大な犬のような魔物、ケルベロスの姿があった。オースルンド領自体が結界に守られていて魔物が入らないようになっているはずなのに、こんな街中に魔物が現れること自体が不自然すぎる。


「もしかして、ドラゴンさん!?」

「わたくしの包丁で一刀両断ですわ!」


 ポシェットから菜切り包丁を取り出したファンヌが飛びかかっていく。子ども用の鞘のついた小さな菜切り包丁はファンヌの身長を超える巨大なものになっていた。ケルベロスの吐く業火にファンヌが焼かれないように、私はボディバッグからまな板を取り出して投げ付けた。

 ファンヌの前でまな板は巨大になり、盾のように業火から身を守る。炎が散った後にはファンヌがばっさりとケルベロスの三つ首を落とす。


「ファンヌ、危ない!」


 ケルベロスの首は三つ。それを落とせば倒せるとファンヌは思っていたようだが尻尾の蛇がまだ生きていて、倒れたケルベロスの身体から鎌首をもたげてファンヌに襲い掛かろうとしている。


「不幸になれー!」


 ヨアキムくんの叫びと共にケルベロスの尻尾の蛇が体が絡まってファンヌに届かずに口を閉じてしまい、舌を噛んだ。その隙にファンヌは包丁を振り下ろして尻尾の蛇も切り落としてしまった。

 騒ぎを聞きつけてカミラ先生とビョルンさんとお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様が駆け付ける。


「なぜこのようなところに魔物が!? ドラゴンですか!?」

「ドラゴンが持って来るにしては、食べて美味しいタイプの魔物ではない気がしますが」


 私と同じくドラゴンさんの犯行を疑うカミラ先生に、ビョルンさんが冷静にツッコミを入れる。


「誰かがオースルンド家を狙って持ち込んだのでしょう。結界は破れなかったようですがね」

「こちらにオリヴェルがいると知られているのかもしれません」


 法案の反対派が動いたかもしれない。

 お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に言われて私はカリータさんに連絡をとっていた。


「オースルンド家の前にケルベロスの死体があります。これを調べてくれませんか?」

『どのように調べればいいでしょう?』

「ひとの手によって飼育されたものか、野生のものか。飼育されたものならば、魔術の痕跡がないかを調べてください」

『分かりました。結果が出次第そちらに連絡を致します』


 素早くカリータさんは移転の魔術を使ってケルベロスの死体を引き取りに来てくれた。魔物研究の第一人者が協力してくれるとなると心強い。


「私が編んだ結界がそんなに簡単に破れると思ったのか。舐められたものだわ。街のひとたちが無事で良かったけれど」


 ブレンダさんは結界を破れずに入って来れなかったケルベロスが街の住人を襲っていたらとご立腹のようだった。

 私たちは狙われている。


「お兄ちゃん、私の傍を離れないで」

「イデオンも僕の傍を離れちゃだめだよ」


 お兄ちゃんと寄り添う私に、お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様が力強く頷いてくれる。


「あなたたちは私たちが守ります」

「大事なオリヴェル、イデオンくん、絶対に私たちから離れないように」


 オースルンド領領主夫妻はカミラ先生を育て上げたひとたちだ。

 二人に守られて私たちは王城に向かった。

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