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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
番外編 脱走攻防戦とイデオンの同級生
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少女の失恋、それは必然

リクエストいただいたものを書かせていただいた作品。

同級生から見たイデオンということでしたが、何故かこんな感じになりました。

 魔術学校の入学式。

 ルンダール領各地の幼年学校から魔術学校まで進む生徒は数が少なく、魔術学校に集まる生徒たちは顔も知らない同士がほとんどだった。

 その中の一人の少女、ドリスは恋をした。

 薄茶色の髪に薄茶色の目、可愛らしい顔立ち、華奢な体付き。背が高くてかっこいいというわけではなかったけれど、愛らしいその姿に一目惚れをしてしまったのだ。


「イデオン・ルンダールくん、か。ルンダール……ルンダール領の領主様のお家の子なのね。素敵!」


 入学式で見たその少年に心躍らせてドリスは魔術学校に通うようになった。

 しかし、ドリスの周囲は彼女に同情的だった。


「ドリスちゃんって、イデオンくんのことが、好きなのかな?」


 イデオンと幼年学校からの幼馴染であるフレヤとダンがドリスを訪ねて来たときに、ドリスは警戒した。二人はイデオンと自分の仲を裂こうとしているのではないか。

 そもそもイデオンと話したことがないので仲も何もないのだが、その年頃特有の妄想でドリスはイデオンと仲が良い気分になっていた。


「それが何か? 身分違いとでも言いたいの?」


 言い放った瞬間、クラス中の生徒がドリスに視線を向けた。

 その視線が同情的であることにドリスは気付いていない。


「あの向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーを作ったイデオンくんを?」

「感知試験紙もだろう?」

「セシーリア殿下と婚約してるって」

「ていうか、何も見えてないのか?」


 何を話されているのかドリスには分からない。

 フレヤとダンはドリスを食堂近くの隣接する研究課程の校舎に繋がる階段のある中庭に連れて行った。そこではイデオンがそわそわしながらベンチで立ったり座ったりしている。

 誰かを探している様子のイデオンに近付こうとするとダンに止められた。


「いいから、見てろ」

「何よ、偉そうに」


 イデオンくんが探しているのは私かもしれないのに。

 ドリスの甘い妄想は打ち破られた。

 研究課程からの階段を黒髪で長身のしっかりとした体付きの大人の男性が降りてくる様子に、イデオンの表情がぱっと明るくなったのだ。


「お兄ちゃん!」

「イデオン、待たせちゃったかな」

「ううん、今は気候も良いし、待つのも苦じゃないよ」

「夏は考えないといけないね」


 イデオンが「お兄ちゃん」と呼んでいるのはルンダール家の次期当主オリヴェルに違いないだろう。ドリスもそれくらいは知っていた。オリヴェルはイデオンが座る前にベンチを軽く手で払い、イデオンと体がくっ付くほど近くに座っている。

 何も気付いていないのかイデオンは満面の笑みでオリヴェルを見上げて、ベンチに座ってお弁当箱を出している。


「仲の良い兄弟じゃない」

「あぁ……分からないのか」

「ダメだわ、ダンくん、この子、気付いてない」


 何を気付いていないというのだろうか。

 ドリスが目を凝らしてオリヴェルとイデオンを見ていると、オリヴェルが自分の水筒からお茶を注いでイデオンに渡す。ふわりとイデオンの白い頬が紅潮して、微笑みながらイデオンはオリヴェルから水筒の蓋のコップを受け取っていた。

 何かがおかしい。

 さすがのドリスも気付き始めていたが、核心に触れてしまうと自分の恋を諦めなければいけなくなる。

 走って教室に戻ってお弁当を食べ始めると、クラスの同級生たちが寄って来た。


「イデオンくんはルンダール領の賢者なんだよ」

「ルンダール領に残ってもらうためにも、オリヴェル様に頑張って欲しいけど……」

「イデオンくんとオリヴェル様はそんな関係なの? 兄弟じゃないの?」


 何も知らないドリスに同級生は語る。

 かつてケントとドロテーアという夫婦がルンダール領の正統な後継者であるオリヴェルを亡き者にしようとしたとき、幼い兄妹が立ち上がった。それがイデオンと妹のファンヌだった。5歳と3歳にして実の両親の罪を暴いたイデオンとファンヌはルンダール家から追い出されてしまうかと思ったが、ルンダール領の当主代理となったカミラの手によってルンダール家の養子となり正式なオリヴェルの弟と妹になった。


「そ、そんなすごいひとなの!?」

「それだけじゃないよ。イデオンくんはルンダール領の繁栄にも貢献している」


 向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーの事業を立ち上げ、感知試験紙を作り上げ、カミラとオリヴェルを助けて幼いときから統治に関わって来たイデオン。


「雲の上のひとだったのね……」


 ルンダール家の子どもだから身分違いは分かっていたがそんなすごい相手とは知らず、ドリスはこの恋を諦める決意をした。


「さようなら、イデオンくん。私の初恋」


 薄茶色の髪に薄茶色の目の色素の薄いイデオンが、兄であるオリヴェルの姿を見た瞬間の花が咲き零れるような表情を見たときにドリスは分かっていたのかもしれない。

 こうして、一人の少女の恋が告げられることもなく終わったのだった。

これで番外編は終わりです。

引き続き十章をよろしくお願いします。。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リクエストにお応えくださりありがとうございます! クラスメイトまでオリヴェルを応援していたとは。 確かに領地の将来を考えたらイデオンにはルンダールにとどまって欲しいですものね。 [気になる…
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