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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
九章 魔術学校で勉強します! (一年生編)
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30.お兄ちゃんの22歳の誕生日

 冬休みの間にお兄ちゃんの誕生日はある。ヨアキムくんとアイノちゃんの誕生日もその数日後にある。私の両親が投獄されてから毎年、お兄ちゃんの誕生日はルンダール家のお屋敷でパーティーが開かれて、数日後のヨアキムくんのお誕生日にお兄ちゃんも祝うことにしていた。

 日中はファンヌやヨアキムくんやエディトちゃんやコンラードくんがいるので、お兄ちゃんの誕生日の前日に私は日付が変わるまで起きていることにした。もう12歳なのだ。パーティーがあるので、冬場なので茶畑の世話もヨアキムくんのお祖父様とお祖母様と農家の若夫婦にお兄ちゃんの誕生日は任せるから、起きていても大丈夫だと思ったのだ。

 晩御飯を食べてお風呂に入った時間までは順調だった。お兄ちゃんがお風呂から出てくるのを待って、お兄ちゃんにも宣言しておく。


「お兄ちゃんの22歳を日付が変わったらお祝いするからね」

「イデオン、起きておけるの?」

「頑張る!」


 部屋の柱時計で確認しながら日付が変わるのを待っていたのだが夜の更けて来ると目がしぱしぱしてくる。目を閉じるとそのままうとうとと眠ってしまいそうで、必死に紅茶を飲んだり、体操をしたりして起きておこうとする。気を紛らわすために椅子に座って本を読んでいたら、いつの間にか眠ってしまっていたようだった。

 逞しい腕が私を抱き上げる気配にはっと目を覚ました。


「お兄ちゃん、私、寝てた!?」

「寝ててよかったのに」

「時間……」


 時計を見ると日付が変わる直前だった。お兄ちゃんの腕から降ろしてもらって、お兄ちゃんの手を引いて音楽室までの廊下を急いで歩いて行く。音楽室に入るとしっかりと扉を閉めて、私はピアノの椅子の高さを合わせてピアノの前に立った。


「お兄ちゃん、お誕生日おめでとうございます」

「ありがとう、イデオン」

「聞いてください」


 ピアノの椅子に座って何度も練習した曲を弾き始めた。弾きながら歌うのはやはり難しかったが懸命に間違えないように歌っていく。最後のフレーズまで歌い終えて、伴奏も最後まで弾き終えて私は大きく息をついた。

 上手に歌えていたかは一生懸命になりすぎて分からなかったけれど、間違えはしなかった。椅子から立ち上がってピアノの前に立って頭を下げるとお兄ちゃんが拍手をしてくれる。


「本当に上手になったね」

「お兄ちゃんのためにいっぱい練習したんだ」

「イデオンは素晴らしい歌い手だね。小さいときに僕の誕生日に歌ってくれたのを思い出したよ。小さくてとても可愛かった」


 あの子がこんなに大きくなって今僕に歌ってくれている。

 そのことに感動したのだとお兄ちゃんは話してくれた。

 やっとお兄ちゃんへの誕生日お祝いをやり遂げたと思うと力が抜けて欠伸が出て来る。早寝早起きの私には夜更かしはつらかった。

 部屋に戻ってベッドに腰かけると、お兄ちゃんが私の前髪を上げて額にキスをしてくれる。


「お休み、イデオン」

「お休みなさい」


 押さえた額が熱い気がして、胸がドキドキした。これは何だろう。夜更かししたせいでまた熱っぽくなってしまったのだろうか。

 ドキドキしていたが身体は限界だったようで布団に入るとすぐに眠ってしまった。

 翌日は寝坊して朝ご飯ぎりぎりに目を覚まして大急ぎで着替えてリビングに行った。みんな揃っていて朝ご飯を食べる。茶畑の世話があったので朝ご飯はいずれヨアキムくんのものになるはずのお兄ちゃんの領地のお屋敷で食べていた私とお兄ちゃんとファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくん。久しぶりにカミラ先生とビョルンさんとブレンダさんとリーサさんとカスパルさんとディックくんの揃った朝食はとても賑やかだった。


「ディック、テーブルの上に上がらないで」

「まっまー、こぼちたった!」

「ママじゃなくて、ははうえよ」

「ははうえー!」


 久しぶりにカミラ先生とビョルンさんと朝食を食べるコンラードくんはカミラ先生に甘えて、お口を大きく開けて食べさせてもらっている。エディトちゃんはビョルンさんからパンのお代わりをもらっていた。


「お昼のパーティーでは忙しくて食べる暇がないだろうから、エディト、コンラード、しっかり食べておきなさい」

「あい、ぱっぱ!」

「パパじゃなくて、ちちうえよ」

「あい、ちちうえ!」


 綺麗に着飾ったパーティーはエディトちゃんやコンラードくんなど小さい子もいるのでルンダール家では昼に立食形式で行う風習になっていたが、その場では主催の私たちは食べるよりも招いた貴族たちの対応に追われてほとんど口にできないことが多い。

 その分朝食をしっかり食べておくようにというビョルンさんの言い付けも正しかった。

 しっかりとお腹をいっぱいにしてパーティー用の服に着替える。お兄ちゃんはこの日のために仕立てた焦げ茶色のスーツに淡い水色のシャツを着ていた。私は紺色の制服に似たスーツを着る。ヨアキムくんはスラックスがハーフ丈のスーツを着て、ファンヌも可愛いワンピースを着ていた。


「こーちゃん、かわいいわ!」

「こー、かーいー!」

「ディックくんもかわいい!」

「うお?」


 ヨアキムくんのお譲りのスーツを着せられたコンラードくんを、ファンヌのお譲りのワンピースを着たエディトちゃんが手を叩いて褒めている。ディックくんも可愛いロンパースを着せられてエディトちゃんに褒められてご機嫌でお尻を振っていた。

 お兄ちゃんのお誕生日のパーティーではカミラ先生がお兄ちゃんと並んで立つ。


「来年の春からオリヴェルがルンダール家の正式な当主となります」

「至らない点もあるかと思いますが、共にルンダール領の発展のために力を貸してください」


 挨拶をしたカミラ先生とお兄ちゃんの周囲に貴族たちが集まってきて、挨拶をしていく。

 サンドバリ家の人々、ベルマン家のお祖父様とダンくん一家、ニリアン家のデニースさんと娘さんとエリアス先生、ボールク家のデシレア叔母上とクラース叔父上、ヘルバリ家の人々、シベリウス家のカリータさん、アシェル家の人々、ハーポヤ家のイェオリくんとご両親……知っている顔ぶれに囲まれてお兄ちゃんとカミラ先生とルンダール領を治めて来た七年間が頭を過る。

 最初は味方になる貴族は少なかったが今やルンダール領のほとんどの貴族が私たちルンダール家の味方だった。結婚の法案の署名だってほとんどの貴族が協力してくれた。

 取り潰しになったアッペルマン家やバックリーン家の領地も他の貴族やお兄ちゃんが治めている。

 たくさんの貴族に祝福されてお兄ちゃんの誕生日パーティーは終わった。

 数日後のヨアキムくんの誕生日パーティーはお兄ちゃんの領地のお屋敷で開くことになった。


「アイノちゃんとミカルくんにお手紙を書きます」

「兄様はダンくんに書いて。わたくしがお祖父様に書くわ」


 アイノちゃんとヨアキムくんはお誕生日が同じ日なのでアイノちゃんが生まれてから合同で祝うようになっていた。招待のお手紙を書いて送ると、返事はすぐに来た。

 お兄ちゃんの領地のお屋敷にご馳走を持ち込んでお兄ちゃんとヨアキムくんとアイノちゃんの合同のお誕生日を祝う。


「わたくし、よっつになりました」

「こー、みっちゅ」

「エディトねえさま、わたくしにこーちゃんをください」


 誕生日プレゼントを強請るのかと思っていたら嬉しそうにアイノちゃんの隣りに座っているコンラードくんをアイノちゃんは欲しいとエディトちゃんに言う。


「こーちゃんはわたくしのおとうとだから、あげられないの」

「わたくしのぶんのケーキ、あげるから!」

「うーん……どうしよう」

「エディト!? そこは悩むところなんですか!?」


 食いしん坊のエディトちゃんがケーキにつられてアイノちゃんにコンラードくんを上げるか悩み始めたところで、カミラ先生から突っ込みが入る。


「コンラードは将来オースルンド領の領主となるエディトの補佐になる予定です。あげられません」

「ミカルにいさまはエディトねえさまにもらわれるのに?」

「そもそも、ひとを欲しいとか上げるとか、そういう風に言ってはいけませんよ。大きくなって結婚したいのであれば、プロポーズをしにくれば良いのです」

「ぽろぽーずしたら、くれるの?」

「プロポーズ、ですね。お互いの了承があれば結婚できるようにその頃には変わっていると思いますよ」


 最初からカミラ先生は好きな相手としか結婚しないという主義を貫いていた。将来エディトちゃんがミカルくんと結婚すると言っても、コンラードくんがアイノちゃんと結婚すると言っても、お互いが好きならば認めるのだろう。

 オースルンド家とベルマン家は将来強い結びつきが出来そうな予感がしていた。

 誕生日を迎えてアイノちゃんは4歳、ヨアキムくんは10歳になった。

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