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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
九章 魔術学校で勉強します! (一年生編)
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26.一人きりの休日の過ごし方

 一人きりの私の部屋。

 お兄ちゃんもファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんもコンラードくんも、お兄ちゃんの領地のお屋敷に行っていて私は時間を持て余していた。朝の茶畑の世話もしなかったので、早起きだけはしてお兄ちゃんたちを見送ったのだが、その後カミラ先生とビョルンさんとブレンダさんと朝食を食べるのもどこか味気なかった。

 部屋に戻っても魔術学校の課題くらいしかすることがなくて、それも終わらせてしまうと自由な時間を持て余してしまう。

 私くらいの年代の他の子はこういうときに何をしているのだろう。平民の子は親の仕事を手伝ったり、アルバイトをしたりしているのだろうけれど、貴族の子どもは何をするのか。分からないままに書庫に行って本を眺めたり、久しぶりに裏庭の薬草畑を見に行ったりしてみた。

 ウッドデッキから見る薬草畑は収穫の時期を終えて、来年に向けて種を取る株以外は減らされていた。私たちがいなくても使用人さんたちが世話をしてくれて薬草畑は問題なく管理されている。

 実験用に空けてある畑には去年も今年も何も植えていなかった。

 しばらくウッドデッキで薬草畑を眺めていたが、それも飽きてしまって部屋に戻る。お兄ちゃんの机の椅子に座ってみると、高さが違うので足が床につかなかった。

 足をぶらぶらさせながら机に頬杖をついてみる。

 無理を言ってもお兄ちゃんの領地に付いて行けばよかったと思わずにはいられない。


「イデオンくんにはお休みが必要なのかもしれません。12歳なのに働かせすぎてしまいました」


 そんな風にカミラ先生は言ってくれたけれど、毎週お休みを取らされたら私は退屈でどうにかなってしまいそうだ。足元に来ていた蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと南瓜頭犬が心配そうに私を見上げている。


「びぎゃ?」

「びょえ?」

「びゃわん」

「お兄ちゃんがいないと寂しいよぉ」


 誰も聞いていないと思って呟くと、部屋に私の声だけが反響してますます寂しくなってしまう。

 こういうときは気分を変えるのが一番だ。

 音楽室に入ってしっかりと扉を閉めると、私はピアノの椅子の高さを合わせてピアノに向かい合った。楽譜を譜面台に置き、一つ一つ新曲の音を取っていく。

 音を確かめて通して歌えるようになると、ピアノの伴奏をコードだけ押さえて弾きながら私は歌い始めた。

 私の歌に合わせてぐるぐると音楽室の中を南瓜頭犬と蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラが踊り出す。笑ってしまって音が外れても、ピアノの伴奏の指が間違っても誰も聞いていない。

 心置きなく弾いて歌っていると音楽室の扉が開けられた。

 ノックをしたようなのだが私は歌っているしピアノも弾いていたので気付かなかった。


「今日は茶畑のある領地に行かなかったようですね」

「デシレア叔母上、いらっしゃいませ」

「歌、とても上手ですわ。最後まで続けてください」


 扉を閉めたデシレア叔母上に中断していた歌を続けて最後まで歌う。ちょっと音を外してピアノも間違ったが、デシレア叔母上は手を叩いて私を褒め称えてくれた。


「神聖魔術の歌はこんなに美しいのですね」

「まだまだ練習中ですが」

「謙遜なさって」


 くすくすと笑うデシレア叔母上の様子に心が明るくなる。寂しかったのが少し紛れる気がした。


「カミラ様にご相談があって来たのですが、先にイデオン様聞いてくださいますか?」

「私で良いなら聞きますよ」


 音楽室の隅の椅子を持ってきて座ったデシレア叔母上の膝の上に蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラが上がろうとしている。


「ダメだよ。こっちにおいで」


 私の膝の上に抱き上げると、足の上にどすんと南瓜頭犬が乗って来た。デシレア叔母上の膝にはエディトちゃんやコンラードくんだけでなく大根マンドラゴラや蕪マンドラゴラまでをも引き付ける何かがあるのだろうか。

 考えているとデシレア叔母上は目を伏せて俯いた。金色の睫毛がデシレア叔母上の白い頬に影を落とす。


「アンネリ様とレイフ様のお墓参りに同行させていただけないものかと思いまして」

「デシレア叔母上がですか?」

「実はエディト様とコンラード様から誘われたのです」


 エディトちゃんとコンラードくんはまだ親戚関係についてよく分かっていない。ブレンダさんとカスパルさんはレイフ様と血の繋がりがあって、エディトちゃんとコンラードくんとも血の繋がりがあるけれど、デシレア叔母上は血の繋がりがないなんてことを理解できていないのだ。

 ブレンダさんやカスパルさんと同じように考えているとすれば、デシレア叔母上がアンネリ様とレイフ様のお墓参りに来ない方が二人にとっては疑問だろう。


「私がルンダール家とは血の繋がりがなく、オースルンド家とも繋がりがないのは分かっています。ですが、姉のことを一言謝罪したい……自己満足なのでしょうが、許しを請いたいのです」


 そんな考えを持っていたデシレア叔母上にとってはエディトちゃんとコンラードくんのお誘いは渡りに船だったに違いない。

 私はデシレア叔母上の緑色の目を覗き込む。


「デシレア叔母上が責任を感じることではない気がするのですが」

「それでも、一度だけでも姉の罪を……」

「それよりも、私の叔母上としてアンネリ様とレイフ様に紹介させてください」

「え?」


 私もファンヌもルンダール家とは血の繋がりが一切ない。養子に入ったからルンダール家の子どもになってはいるが、私たちは本当はケント・ベルマンとドロテーア・ボールクの子どもだ。

 アンネリ様を毒殺したのはドロテーア・ボールクで、それを指示したのはケント・ベルマンという事実は変えられないけれど、私たちはお兄ちゃんを助けて両親を断罪し、ルンダール家の養子になった。


「私とファンヌの叔母上です、これからお兄ちゃんを支えてルンダール領を豊かにしていきますと、アンネリ様とレイフ様に紹介させてください」


 私の言葉にデシレア叔母上の緑色の瞳が潤む。

 罪の意識は常に持っておかねばいけないが、それで終わってはいけない。私たちはドロテーアと決別して未来に進まなければいけないのだ。

 デシレア叔母上の手を引いて私はカミラ先生の執務室に向かう。扉をノックすると入って良いと言われて仕事中のカミラ先生の前に出た。


「デシレア叔母上も今年は一緒にお墓参りに行ってはいけませんか?」

「デシレアさんもですか」

「私の叔母上として、アンネリ様とレイフ様に紹介したいのです」

「実は、エディト様とコンラード様からお誘いを受けました」

「エディトとコンラードが……。二人にとっても、イデオンくんとファンヌちゃんにとっても大事な叔母上ですからね。分かりました。ご一緒しましょう」


 了承されてデシレア叔母上は戸惑っているようだった。


「ドロテーアの妹が行っても失礼にあたらないでしょうか」

「あなたはご両親を隠居させて自分の領地も立派に治めていらっしゃる。何より、イデオンくんとファンヌちゃんの大事な叔母上です。エディトとコンラードも懐いていますし、大事な家族として紹介しましょう」


 立ち上がってデシレア叔母上の手を取ったカミラ先生に、デシレア叔母上は涙ぐんでいた。

 ついでにビョルンさんに私は許可を取る。


「お兄ちゃんにこのことを伝えたいので、デシレア叔母上とお兄ちゃんの領地に行ってもいいですか?」

「イデオンくん……無理をさせたくないのですが」

「無理はしてません。無理どころかとても暇で仕方がないです」


 それに寂しい。

 私の主張にビョルンさんは渋々許可をくれて私はデシレア叔母上と馬車に乗ってお兄ちゃんの領地に行った。お屋敷の扉を開けるとエディトちゃんとコンラードくんが走って来る。


「でちれあおばーえ!」

「デシレアおばうえ! いらっしゃいませ」

「お墓参りの件、カミラ様にお話ししました。一緒に行って良いそうですよ」

「オリヴェルにいさまのおとうさまとおかあさまに、デシレアおばうえのこと、おはなしするの」

「こーも、おはなちつる!」


 二人を抱き留めたデシレア叔母上を微笑ましく思いながら、ルームシューズに履き替えて私は真っすぐお兄ちゃんのところに行った。空いているお兄ちゃんの隣りの席に座るとほっと息を吐く。


「イデオン、今日は休みじゃなかったの?」

「休みなんてこりごり。やることないんだもん。お兄ちゃんと一緒がいいよ」


 並んで椅子に座っていると、ファンヌとヨアキムくんもやってくる。今年のアンネリ様とレイフ様のお墓参りにはデシレア叔母上も一緒に行くことになったことを私はみんなに報告した。


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