23.デシレア叔母上とデニースさんの秋の日の結婚式
落ち葉散る秋の日、デシレア叔母上はクラース先生と結婚した。
結婚式に招かれた私たちはボールク家の領地で花に囲まれたお屋敷の庭で誓いの言葉を言うデシレア叔母上とクラース先生に感動していた。
「クラース様と共に幸せな家庭を作り、領地経営に今まで以上に努力していこうと思います」
「高等学校の教師としても、デシレア様の夫としても、自分のなすべきことを成し遂げ、共に生きていきたいと思います」
こうしてクラース先生はクラース叔父上になった。
ドレスとヴェールはオースルンド領から注文したもので、結婚指輪はノルドヴァル領から取り寄せたもので、どちらも美しかった。結婚指輪を新郎新婦の元に運ぶ役割を仰せつかったコンラードくんはデシレア叔母上に失恋したことをまだ気にしているのか足がぷるぷると震えていたが、エディトちゃんに手を引かれて無事に結婚指輪を渡すことができた。
白い手袋を外してデシレア叔母上の華奢な手にクラース叔父上が指輪をはめる。小さなダイヤモンドが埋め込まれたリングはきらきらと細い指に煌めいていた。デシレア叔母上もクラース叔父上の指に指輪をはめた。
「おめでとうございます、デシレア叔母上」
「でちれあおばーえ……ひっく……おめとごじゃまつ」
「とてもおきれいでした」
ぐすぐすと泣いているコンラードくんの手を引いてエディトちゃんが私と一緒にお祝いを言いに行く。
「でちれあおばーえのおひじゃ」
「こーちゃん、きょうはだめよ」
「でちれあおばーえ」
お膝に抱っこされたいコンラードくんはエディトちゃんに引っ張られてカミラ先生の元に連れて行かれた。カミラ先生に抱っこしてもらって涙と洟を拭いてもらっている。
「デシレア叔母上、指輪を見せてください」
「どうぞ、ヨアキム様、ファンヌ様」
「とても綺麗。どうしてクラース叔父上の指輪にはダイヤモンドがはまっていないの?」
「男性の指輪はシンプルにするみたいですよ」
それで特に問題がなかったのでダイヤモンドをはめこまないままに注文してしまったとクラース叔父上は言っていたが、ファンヌとヨアキムくんにとってはそれは大事な問題のようだった。
「わたくしたちが結婚するときには、同じ指輪にしましょう」
「ファンヌちゃんとお揃いですね」
「男性だけが宝石がないなんて嫌だわ」
ヨアキムくんと結婚するときにファンヌはヨアキムくんがドレスを着られないなら自分がズボンを履くと宣言したことがある。女性はドレスで男性はタキシードなどというのも古い習慣なのかもしれない。
「法案が通ったらイーリスさんと結婚するのですか?」
「そのつもりだよ。彼女とのことははっきりさせておきたい」
カミラ先生の問いかけにブレンダさんは表情を引き締めていた。
デシレア叔母上とクラース叔父上の結婚式は大々的にボールク家の領地で行われたが、デニースさんの結婚式は少人数で行われるということだった。
参加者にはデシレア叔母上も私たちも選ばれていた。
「一緒にウエディングドレスを選んだから、立体映像を撮るだけの式だけれど来て欲しいと言われています」
「私たちも離婚のときにお手伝いしたので誘われています」
デシレア叔母上の結婚式の数日後に私たちはニリアン家のお屋敷を訪ねた。デシレア叔母上は光沢のある絹のウエディングドレスを選んで裾もたっぷりと引きずるようにしていたが、デニースさんは光沢のない織りのウエディングドレスに刺繍を施して、スカート丈も地面ぎりぎりくらいだった。短めのヴェールを被ってタキシードを着た旦那様と並んで立っているデニースさん。
デニースさんの隣りに立っている人物に私は見覚えがあった。
「エリアス先生!?」
「イデオンくん!? デニース様が招待したのですか?」
「お知り合いでしたか?」
デニースさんが結婚したい魔術学校の教授とは私の神聖魔術の担当のエリアス・リングダール先生だったのだ。
「イデオン、知り合い?」
「神聖魔術のエリアス先生。アンネリ様にあの歌を教えた先生だよ」
「そうなんですか? 母がお世話になりました」
頭を下げるお兄ちゃんにエリアス先生は目を細める。
「アンネリ様は良い生徒でした。ルンダール家のお子さんをまた教えられると思っていなかったので嬉しい限りです」
「イデオン様の担当だったのですね」
「神聖魔術を教えさせていただいております」
デニースさんと寄り添うエリアス先生は幸せそうだった。デニースさんも微笑んで表情が煌めいている。
「おめでとうございます。好きな方と結婚できること、心より祝福いたします」
「デシレア様が一緒に選んでくださったおかげで、わたくしはウエディングドレスを着ることが出来ました。二度目ですが、本当に着たかったわたくしのためのドレスを着ています。それも、イデオン様が『好きなドレスを着られてください』と言ってくださったおかげです」
涙ぐんでデシレア叔母上の手を握るデニースさんに、デシレア叔母上はハンカチを渡している。
「お化粧が崩れてしまいますわ。とても素敵ですのに」
「崩れても良いのです。幸せですから」
私の手も取ってデニースさんは何度も「ありがとうございました」とお礼を言っていた。
兄の決めた相手と嫌々して、結婚式の衣装を選ぶ権利も与えられなかったというデニースさん。今回の結婚がデニースさんにとっては自分の意志を貫いた初めての結婚となる。
「遠縁から養子をもらうことにしました。この年ですから、赤ん坊からの子育ては難しいので、幼年学校に行っている子を後継者とします」
「両親を流行り病で亡くした子で、もう一緒に暮らしているのですよ」
奥から呼ばれて来た女の子はファンヌと同じくらいの年齢だった。もじもじと恥ずかしがってデニースさんのドレスの後ろに隠れてしまう。
「一緒に立体映像を撮りましょうね」
「私たちはもう家族ですよ」
デニースさんとエリアス先生は女の子を挟んで立体映像を何枚も撮っていた。最後に私たちも交えて全員の集合立体映像を撮る。
ビョルンさんに抱っこされたエディトちゃん、カミラ先生に抱っこされたコンラードくん、ファンヌにヨアキムくんに私にお兄ちゃん、デシレア叔母上とクラース叔父上、デニースさんとエリアス先生と娘さん。
みんなで賑やかに撮った立体映像をお土産に私たちはお屋敷に帰った。
デシレア叔母上とクラース叔父上もルンダール家のお屋敷に呼んでおやつを食べることになった。当然のようにデシレア叔母上のお膝に上がるコンラードくんをカミラ先生が止めようとする。
「コンラード、デシレアさんではなく私の膝においでなさい」
「でちれあおばーえがいーの!」
「わたくしも……」
「エディトも何気なくデシレアさんとクラースさんの間に入るのはやめなさい! お二人は新婚なのですよ!」
何気なく二人の間に挟まっているエディトちゃんにカミラ先生が言うが、デシレア叔母上もクラース叔父上も微笑んでいる。
「構いませんよ、カミラ様。デシレア様はこんなにも子どもたちに好かれて、優しさがあふれ出ているのですね」
「クラース様ったら、恥ずかしいです。私もコンラード様もエディト様も大好きなので、来てくださって嬉しいですわ」
受け入れられて鼻の穴を広げているコンラードくんと、嬉しそうなエディトちゃん。この顔を見てしまうと無粋なことは言えなかった。
「私も早く赤ちゃんが欲しいですわ。産まれなかったら、デニース様のところのように養子をもらいましょうね」
「デシレア様、気が早いですよ」
「だって、コンラード様とエディト様が可愛いのですもの」
少々の邪魔が入っても新婚の二人は甘い雰囲気を醸し出している。デシレア叔母上のお膝の上でコンラードくんはおやつのカップケーキをもしゅもしゅと食べて、隣りに座っているエディトちゃんは花茶にミルクを入れたものを飲んでいた。
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