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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
九章 魔術学校で勉強します! (一年生編)
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4.ボールク家の領地で花選び

 ボールク家の領地では生花が栽培されており、市を通して魔術で輸送されてルンダール中の花を売る店に卸されている。

 生花の話に一番に食い付いたのはヨアキムくんだった。


「僕、もう一度ボールク領に行ってみたいです」


 そわそわとしているのは新しい花に出会えるかもしれないからだろう。

 お兄ちゃんも帰って来ていたのでデシレア叔母上のことを説明しているとヨアキムくんが目を輝かせていた。

 デシレア叔母上がヘルバリ家のお茶会に呼ばれていて、手土産をどうしようと考えたときにデシレア叔母上から出て来た言葉が生花の栽培だったので、ボールク家の領地を代表するものとして花束を作って持っていけばいいのではないかというアイデアは私の中にあった。

 花束にする花を選ぶ意見は多い方がいいはずだ。


「お兄ちゃんも、ヨアキムくんも来てくれる?」

「僕、喜んで行きます!」

「ヨアキムくんはわたくしと一緒だものね」

「うん、ファンヌちゃんと一緒」

「僕も役に立てるなら」


 私とヨアキムくんとファンヌとお兄ちゃんで話が纏まりかけていたところで、私はじっと私たちを見ている緑色の目に気付いた。ふんすっと鼻息荒く歩み寄って来たコンラードくんが私のスラックスを掴む。


「こー、いっくぅ!」

「わたくしもいきたいわ」


 コンラードくんが行きたがればエディトちゃんも行きたがる。

 行ってはいけないわけではないし、デシレア叔母上も二人を可愛がってくれているので問題はないだろうと私は判断した。


「お屋敷でカミラ先生とビョルンさんに聞いてみようね。きっと良いって言ってくれるから、そしたら一緒に行こう」

「まぁま、ぱっぱ?」

「うん、カミラ先生とビョルンさんに」

「いっくぅー!」

「まず聞いてみようね」

「いくうううう!」


 足踏みをして行くことを主張するコンラードくんに私は少し驚いてしまった。ファンヌも自己主張の激しい方だったけれど、コンラードくんはそれ以上のようだ。控えめだったヨアキムくんや何でも許されて来たので余裕のあるエディトちゃんとはちょっと性格が違うようだ。

 言い聞かせても仕方がない年齢だと分かっているので、手っ取り早く私は首から下げた魔術具でカミラ先生に通信をしていた。

 立体映像で映し出された執務室の様子に、コンラードくんが飛び付いて主張する。


「こー、いっくぅ!」

『コンラード、どうしたのですか? そちらの家で困ったことがありましたか?』

「カミラ先生、デシレア叔母上がヘルバリ家のお茶会に誘われたのに私とファンヌも付いて行くことになったのです。それで、ボールク家の生花を見せてもらうことになったのですが、それにコンラードくんとエディトちゃんも行きたいみたいで」

『そちらの家に行くときも暴れてひっくり返って泣きましたからね。良いですよ。コンラード、エディト、イデオンくんとオリヴェルの言うことをよく聞くのですよ』


 許可が出てへの字口だったコンラードくんがにっこりと笑顔になる。ほっとしているとエディトちゃんがふぅっと大人びたため息を吐いた。


「こーちゃん、ほいくしょでもイヤイヤがひどくて、せんせいがこまってるの」

「そうなの、コンラードくん」

「こー、いーこ!」

「わたくしのきょうしつまでなきごえがきこえることがあるわ」


 保育所でもコンラードくんは自己主張を発揮しているようだった。

 叶えられることならば叶えてあげたいが、できないことはできない。保育所の先生はそれを教えなければいけないから大変だろう。

 ボールク家の領地に行けると分かったコンラードくんはご機嫌だった。

 早い方が良いので今日のお兄ちゃんの領地の急ぎの仕事以外はヨアキムくんのお祖父様とお祖母様に任せて、お兄ちゃんと私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとコンラードくんでボールク家の領地に行く。クリスティーネさんもコンラードくんの着替えやオムツを準備して、お世話についてきてくれたので安心だ。

 馬車を出迎えるデシレア叔母上は馬車二台での来訪に驚いていた。


「皆様で来てくださったんですね」

「でちれあおばーえ!」

「コンラード様まで」


 両腕を広げて抱っこを求めるコンラードくんを自然にデシレア叔母上は抱き上げる。エディトちゃんで慣れているし、お兄ちゃんの領地の家に来るたびにコンラードくんにも抱っこを求められていたのですっかりと馴染んでしまっていた。


「重くありませんか?」

「平気ですわ。私、肉体強化の魔術も得意なんです」


 意外なことにデシレア叔母上の得意な魔術は肉体強化だった。カミラ先生といいファンヌといいエディトちゃんといい、女性は肉体強化の魔術が得意なのだろうか。ビョルンさんやお兄ちゃんがそっち方向の才能が全くないので性差を感じてしまう。

 疑問を口に出せばデシレア叔母上は真っすぐに答えてくれた。


「女性の方が男性より筋肉量や骨量で体力はどうしても劣ります。鍛えても限界があります。その分、肉体強化の魔術を覚えたがる傾向にあるのかもしれません」


 本能として身を守るために肉体強化の魔術を女性が覚えやすいようになっている。そう説明されれば納得できるような気がする。

 魔術の才能はドロテーアに劣っていたかもしれないが、デシレア叔母上は聡明な方だと再確認した。

 領地を歩きながらコンラードくんを抱っこしたままデシレア叔母上が花畑を案内してくれる。


「こちらの丘に一面に咲いているのがネモフィラです。今は春の花の季節です」


 低く丘を覆うように咲いている鮮やかな青色の花。収穫するのは咲く前の蕾だというが咲いている姿も見せてくれるように一部を今日は咲かせたままにしてくれていたようだった。


「ネモフィラというと青い花を想像するかもしれませんが、白と黒の色合いの品種もあるのです」

「こっちもシックで素敵ですね」

「小さなお花ですから、ブーケなどに向いています」


 白と黒のネモフィラも見せてもらって、次の花畑に行く。

 次は私もよく知っているチューリップだった。チューリップは幼年学校の校庭にも植えてあったし、魔術学校の花壇にも植えてある。


「チューリップは色の種類がとても多いんですよ。咲き方も百合のように咲いたり、フリンジのように咲いたり、八重に咲いたり、色んな咲き方をします」

「幼年学校で見たことがあります」

「ほいくしょにもあるわ」

「とても有名なお花ですね。切り花にもしますが、球根ごと一株ずつ小さな鉢植えにして売られるのが主ですね」


 赤、白、黄色、ピンク、紫、それらの色が混ざったものなどたくさんの種類のチューリップを見せてもらう。ヨアキムくんは目を輝かせて言葉もないようだった。

 続いて連れて行かれたのはふんわりとした花弁が柔らかく広がる大小のお花の畑だった。


「こちらはアネモネですね。色は様々で、大きさも大輪のものから小輪のものまで豊富です。茎が長いのが特徴で切り花に向いています」

「花びらがたくさん重なっているものと、少し少ないものがありますね」

「一重と八重と半八重と咲き方も多くあるんですよ」


 一つ一つ確かめるように見ていくヨアキムくんの目は真剣だ。コンラードくんもデシレア叔母上の腕から降りてじっくりと見ていた。

 赤、白、ピンク、紫、青など色とりどりの花に圧倒されそうになる。

 他にも繊細な花弁が薄紙のように重なるラナンキュラスや、背の高いルピナスなどを見せてもらった。

 美しい花を見せてもらってボールク家のお屋敷に戻る頃にはおやつの時間も過ぎていてコンラードくんもエディトちゃんもお腹がぺこぺこで若干機嫌が悪くなっていた。


「いつも食べているかもしれませんが、これが定番なので」


 出されたカレー煎餅と花茶のミルクティーは空いたお腹に染み渡る。コンラードくんもエディトちゃんも口と手を真っ黄色にして一生懸命口に詰め込んでいた。


「お手手を洗いに行きましょうね」

「まだ! たべう!」

「おかわりします!」

「えぇ、たくさん食べてください」


 エディトちゃんとコンラードくんがおやつに夢中になっている間にデシレア叔母上と持って行くお花の相談をした。


「どの花も綺麗で捨てがたかったのですが、私はチューリップが良いかなと思いました」

「チューリップですか?」

「鉢植えで長く持ちそうだったので」

「ですが、チューリップは日が経つと花びらが開き過ぎてだらしなく見えますし、次の年も咲かせるなら球根の管理もしなければいけません」


 自分では悪くない選択だと考えていたがデシレア叔母上に言われて考え直す。ずっと言葉少なかったヨアキムくんが凛と顔を上げて言った。


「アネモネはいかがでしょう? ご家族一人一人に違う色の花束をお渡しするんです」

「アネモネは切り花に向いていますし、良いかもしれませんね」

「僕、アネモネというお花の名前を初めて知りました。あんなに綺麗だとは思いませんでした。きっとヘルバリ家の方々もアネモネの美しさに驚くと思います」


 熱を持って発言するヨアキムくんに私は自然と頷いていた。デシレア叔母上もアネモネを花束にすることには反対はないようだ。


「わたくしもアネモネ気に入りましたわ。クラース先生にはピンク、ご両親には紫、弟さんには赤を贈るのはどうかしら?」

「その色はどうやって決めたのですか?」

「直感です!」


 堂々と言い張ったファンヌにお兄ちゃんと私は吹き出してしまう。けれどデシレア叔母上は笑わずにファンヌの話を真剣に聞いてくれた。


「どの色も美しいから、どうせなら明るくて綺麗な色を贈った方が良いと思って」

「ファンヌ様の言う通りですわね。ヨアキム様、アネモネを選んでくださってありがとうございます。アネモネの花束を用意することにしますわ、ピンクと紫と赤を」


 ヨアキムくんとファンヌの発案も馬鹿にせずに真剣にデシレア叔母上は聞いてくれる。こういう人柄こそヘルバリ家のご家族に伝えたかった。

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