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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
九章 魔術学校で勉強します! (一年生編)
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2.魔術学校の授業選択

 魔術学校の授業は幼年学校とは全く違った。

 最初に授業の説明があって、必須科目と選択科目があって、選択科目の中から自分に合うものを選ぶ方式になっていた。授業の選択に当たって私は特別に教授に呼び出されることになって、神聖魔術を教える教授の部屋を訪ねていた。


「イデオン・ルンダールくんは、神聖魔術が使えると聞きました」

「はい、歌を通じて神聖魔術を使うので、個人的にお屋敷にアントン・オーバリ先生に来ていただいて指導してもらっています」

「選択科目では、ぜひ神聖魔術を履修してください」


 そうなのだ。

 アントン先生もレッスンのときに言っていたが、声楽が中心で神聖魔術が専門ではない。アントン先生ではもう教えられない時期に私は来ていると言われた。それでも声楽の基礎は大事なのでレッスンは続けるつもりだったが、魔術学校に入ったら神聖魔術を選択するようにアントン先生にも勧められていた。


「声楽のアントン先生も神聖魔術を選択するように仰ってました。そのつもりでいます」

「神聖魔術は使い手が少ないので、専門の私と一対一の授業となるかもしれませんが、その分才能を伸ばせると思います」

「よろしくお願いします」


 エリアス・リングダール先生。

 初老の穏やかそうな白髪交じりの焦げ茶色の髪を撫で付けたお髭の生えたこの先生と私は六年間の付き合いになることが決定した瞬間だった。

 呼び出しから戻ってくると空き教室でダンくんとフレヤちゃんが選択科目を書きながら待っていてくれた。


「イデオン、話は終わったのか?」

「うん、神聖魔術を履修するようにって話だった」

「イデオンくんは神聖魔術が使える希少な存在だものね」


 私もダンくんとフレヤちゃんの近くに座って選択科目を用紙に記入する。


「薬草学と、神聖魔術と、後は何が良いのかなぁ」

「私は薬草学と、体術と、歴史学にしたわよ」

「俺も薬草学は絶対だな。後は体術も取りたいし、歴史学も取りたいし、政治学も取りたいし……」

「あぁ、政治学は私も取りたいなぁ」


 学べる時期にたくさん学んでおきたかったが、哲学や生物学や音楽までは手が回らない。悩みに悩んで私は薬草学と神聖魔術と政治学、フレヤちゃんは薬草学と体術と歴史学、ダンくんは薬草学と体術と政治学を選択した。

 一般教養は必須科目なので三年生までは絶対に受けなければいけない。そこには古代語や国語、この国の地理や歴史や法律なども含まれていた。


「お姉ちゃんが言ってた科目とすごく似てるわ。一般科目は魔術実技以外は高等学校と同じなのかもしれない」


 フレヤちゃんのお姉ちゃんも今は高等学校に通っている。高等学校のカリキュラムがどうなっているのかを私はカミラ先生に確認してみようと考えていた。

 選択科目を決めて用紙を出すと初日の授業は終わりになる。

 お弁当箱を持って私は研究課程の階段下にある庭に行った。ベンチに座っていると階段を降りて来る研究課程の生徒たちが見える。

 経費削減のためか、研究課程まで進む生徒が少ないせいか、研究課程には食堂がなくて魔術学校の食堂を使っていることも魔術学校に入ってから知った。降りて来る人影の中に一際立派な背の高い人物を見つけて私は立ち上がって手を振った。


「お兄ちゃん!」

「イデオン。今日の授業は終わったんじゃないの? 先に帰らなかったの?」

「お兄ちゃんとお弁当を食べて帰ろうと思って。お兄ちゃんも私がいるかもしれないからこっちに来たんでしょう?」

「イデオンにはお見通しか」


 笑いながらお兄ちゃんが私の隣りに座る。肩が触れるくらいの距離で膝の上にお弁当を広げるお兄ちゃんに、なぜか胸がどきどきとした。体温を感じるほどに密着するのは抱っこされなくなったので久しぶりだったからだろう。そう結論付けて私もお弁当箱の蓋を開ける。

 綺麗に並んだサンドイッチを食べているとお兄ちゃんが水筒のお茶を蓋のカップに注いで渡してくれた。


「ありがと」

「急いで食べちゃうと、二人きりの時間がすぐになくなっちゃうよ?」

「ほへ?」

「ふふ……デザートにカレー煎餅とマドレーヌ持って来たけど、どっち食べる?」


 水筒から蓋に注がれた花茶からジャスミンの良い香りが漂っている。サンドイッチを飲み込んで花茶を飲んで私は即答した。


「カレー煎餅!」

「新しい制服、汚さないようにしないとね」

「あ、そうだった」


 真っ白な開襟シャツにカレー粉が落ちたら大惨事になる。


「やっぱり、マドレーヌ」

「制服が大事なんだ。可愛いね、イデオンは」


 くすくすと笑いながらお兄ちゃんはマドレーヌの入った包みを渡してくれた。水筒の蓋をお兄ちゃんに渡すとお兄ちゃんが花茶を注いで飲む。同じカップから飲むなんて今まで何度もあったことなのにお兄ちゃんの唇をじっと見てなぜかそわそわしてしまった。

 バターの香りのする甘いマドレーヌを食べて、花茶で口の中をすっきりさせて私はお弁当箱を片付けてご馳走様をした。お兄ちゃんとの二人きりの時間が終わってしまうけれど、今日からこれが毎日あるのだと思うと寂しくはない。

 お兄ちゃんのことばかり見ていたその当時の私は、周囲がカップルばかりだということには全く気付いていなかった。


「それじゃあ、午後の授業頑張ってね」

「気を付けてね、イデオン」

「先にお兄ちゃんの領地に行って待ってるよ」


 名残惜しかったけれど先に馬車で私はお兄ちゃんの領地の家に戻った。お屋敷建設は急速に進められていて、夏休みにはヨアキムくんのお祖父様とお祖母様が住めるようになりそうだった。


「いーにぃに!」

「ただいま、コンラードくん、エディトちゃん」

「わたくし、こーちゃんにはたけしごとのごくいをおしえていたのよ」

「それは私も知りたいな」


 5歳になったエディトちゃんは喋りも確りしてコンラードくんがこの家に来るようになってからますます立派なお姉ちゃんになっていた。


「むしさんやはっぱでかぶれるから、あつくてもながそでながズボンなのよ」

「あい。ながしょで、ながじゅぼん」

「サンダルはいけないの。きちんとおくつをはくの」

「あい、おくちゅ」

「むしさんをみつけたら、じぶんでとってはいけないの。にいさまやねえさまにおしえるの」

「あい! おちえる!」


 完璧である。

 思わず私はエディトちゃんに拍手をしていた。


「エディトちゃんは畑仕事の極意が分かってる。それを言葉にしてコンラードくんに伝えられてるのがすごいよ!」

「こーちゃんがかゆいかゆいにも、いたいいたいにもならないようにしないと」

「優しいね」

「えーねぇね、こー、かゆいかゆい、いちゃいいちゃい、かなちい」

「そうよ。ちちうえとははうえもかなしいのよ」


 きっとこれも私やファンヌやヨアキムくんが教えたことなのだろうが、それをきちんと覚えてコンラードくんに教えているところがエディトちゃんは立派だ。


「ただいま、イデオン兄様、エディトちゃん、コンラードくん」

「ただいま帰りました」


 魔術学校が始まったばかりで時間が短いので幼年学校のファンヌとヨアキムくんの方が後から帰って来た。飛び込んで来た二人は額に汗をかいて前髪が濡れていた。


「上着を脱いで涼しくした方がいいよ」

「今日は風が涼しいから厚めの上着を着て行ったんです」

「薄いので良かったわね」


 この国の中でもルンダール領は冬に雪が降ることがあるが滅多に積もらないくらい暖かい地域になる。春でも日差しがあって風が少なければ汗ばむほどの温度になった。


「こっちにもお着換えが置いてあればいいのに」

「お屋敷が出来上がったら、着替えも置けるようになるよ」

「イデオン兄様、宿題を見てくれますか?」


 上着を脱いでクローゼットにかけたファンヌとヨアキムくんがテーブルに着く。宿題をする様子をエディトちゃんもコンラードくんも子ども用の椅子に座って興味深そうに見ていたが、真似したくなったのか二人ともお絵描きの紙を出してもらってクレヨンで絵を描いて勉強している気になっていた。

 算数の計算間違いがないか、国語の答えの間違いがないかなどを確認しているとクリスティーネさんが帰って来た。


「イデオン様、授業が本格的に始まったら、わたくしが移転の魔術で帰りはこちらまでお送りしましょうか」


 クリスティーネさんも魔術学校の五年生。移転の魔術を一人で使って良い学年になっている。


「時間が合うときはお願いします」

「喜んで」


 上級生にはクリスティーネさんもいるのだと安心して魔術学校の始まりも順調だった。

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