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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
八章 幼年学校で勉強します! (六年生編)
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27.ヨアキムくんのお祖父様とお祖母様

 アシェル家の治める領地の出身で実家も書かれていたので、冬休みに入ってからそちらに向かうことにした。

 ビルギットさんの実家に向かう日はヨアキムくんは正式な場でも着られるようなハーフ丈のスーツを着て準備していた。カミラ先生も華美ではないがすっきりとしたワンピースを着て、ビョルンさんもよれよれの白衣を脱いで清潔なアイロンのかかったシャツにスラックスという姿で格好良く決めている。

 エディトちゃんはファンヌのお譲りの可愛いワンピースを着せてもらって、コンラードくんはヨアキムくんのお譲りのサロペットパンツを着ていた。

 私とお兄ちゃんとファンヌもそれなりにまともな服装で行く。私はシャツとハーフ丈のスラックスとジャケット、お兄ちゃんは簡単なスーツ、ファンヌはワンピースだ。

 馬車で訪れた私たちに深く皺の刻まれたビルギットさんのご両親は驚いていた。


「汚いところで申し訳ありません」

「ルンダール家の方々をお招きするような場所ではないのですが」


 大人数で押しかけてしまったのでビルギットさんのご両親の家には全員入れそうになかった。庭先で敷物を敷いて持ち込んだ水筒の花茶でお茶にする。


「ビルギットさんの息子さんのヨアキムくんを私たちの養子に迎えました」

「初めまして、お祖父様、お祖母様。お会いできて嬉しいです」


 挨拶をした瞬間ビルギットさんのご両親が泣き崩れる。


「アシェル家の夫婦は政略結婚で、夫婦仲は冷めきっていたのです」

「子どもを作る気がなくて、それでビルギットが目を付けられて。魔術学校には行けなかったけれどあの子は魔術の才能があったんです」

「良からぬことを考えているとは思っていたのですが、赤ん坊を取り上げられてもどうしても傍にいたいと乳母になりました」


 ビルギットさんは子どもを望まない夫婦のために代わりに子どもを産ませられたと聞いた通りだった。そこに愛があったはずはない。産まれたヨアキムくんも呪いに汚染されて暗殺に利用されようとしていた。


「良からぬ噂は聞いていました。母親が自分が愛人との間に産む子どもを跡継ぎにさせるために夫の子どもはどうにか利用して処分しようとしているとか」

「産んだ後、全てを忘れて実家に帰ってくるように言ったのに、あの子は頑として聞きませんでした」


 ビルギットさんはヨアキムくんの危機を聞いて居ても立ってもいられなくなったのだろう。乳母として呪いを解くことはできなかったけれどヨアキムくんの傍で命が尽きるまで幼いヨアキムくんの世話をした。


「お母さんは命を懸けて僕を育ててくれました。僕、エディトちゃんやコンラードくんを見て、赤ちゃんを育てるのってすごく大変だと知ってます。育ててもらわなければ、僕が生きていなかっただろうことも分かってます。お母さんに愛されていて、僕は幸せです」

「こんなにいい子に育って」

「私たちにまで会いに来てくれて、とても嬉しい」


 代わる代わるヨアキムくんの手を取って握り締めるビルギットさんのご両親は涙でぐしゃぐしゃの顔のままだった。涙ぐんでいるカミラ先生とビョルンさんにハンカチを差し出されて、押し頂くようにして借りる。


「ヨアキムくんは将来領地をもらうことが決まっています。そちらの領地にお屋敷を建てることになりそうなので、移られませんか?」

「私共が行ってもよろしいんですか?」

「あなたたちはヨアキムくんのお祖父様とお祖母様なのですから」


 カミラ先生の申し出にビルギットさんのご両親は驚いているようだった。お兄ちゃんも驚いている。


「あの領地にお屋敷を建てるんですか?」

「しばらくは家の方で暮らしていただきますが、いずれは領地を治めるお屋敷が必要です」


 バックリーン家のお屋敷はマンドラゴラによって壊されてしまったし、跡地にお屋敷を建てる、その間はビルギットさんのご両親は領地のお兄ちゃんが使っている家で暮らすことが決まりそうだった。


「ビルギットさんの遺品があればヨアキムくんに譲ってくださいませんか?」

「僕、お母さんのお顔も覚えていないんです」


 ビョルンさんとヨアキムくんのお願いにビルギットさんのご両親はアルバムを持ってきてくれた。


「貴族の子息として産まれたので、一枚だけ立体映像を撮ってもらったことがありまして」


 二つ折りのアルバムを開くと産まれたばかりの赤ん坊を抱いている黒髪で小柄な女性の映像が浮かび上がる。


「お母さん……」


 浮かび上がった立体映像の女性はヨアキムくんとよく顔立ちが似ていた。


「ヨアキムくんはお母さん似だったのですね」

「ビルギットにそっくりです……抱き締めてもいいですか?」

「抱き締めてください、お祖父様、お祖母様」


 躊躇いながらくしゃくしゃの泣き顔でヨアキムくんのお祖父様とお祖母様がヨアキムくんを順番に抱き締める。ヨアキムくんの黒い目からも涙が零れた。

 立体映像はデータをもらってヨアキムくんの写真立てに入れられることになった。

 茶畑のあるお兄ちゃんの領地の家にはヨアキムくんのお祖父様とお祖母様が暮らすことになる。

 引っ越し作業は手早く済んでしまった。ヨアキムくんのお祖父様とお祖母様が持っている家具はほとんどなく、生活用品も愛着のあるもの以外はこちらで用意した方が良いようなものばかりだった。


「茶畑の一部を僕たちで手伝わせてもらっています。そこの管理とこの家の管理をお願いします」

「ヨアキムくんが成人するまではボールク家とヘルバリ家のひとたちが交代で領地を治めに来てくれるので、誰か住んでいて対応をしてくれた方が助かるんですよ」


 お兄ちゃんと私が説明するとヨアキムくんのお祖父様とお祖母様は納得して受け入れてくれた。


「私たちでできることでしたら何でもやります」

「文字も読めますし、計算もできるんですよ」


 話を聞いてお兄ちゃんがヨアキムくんのお祖父様とお祖母様に領地の資料などを見てもらえば、ある程度は理解できているようだった。


「ちゃんとした教育を受けられていたようですね」

「実は私は幼年学校の教師をしていたのです」

「私は用務員をしていて、そこで出会って結婚しました」


 魔術学校は卒業していないが、ヨアキムくんのお祖父様は幼年学校の教師を昔していて、用務員だったお祖母様と出会って結婚したのだという。


「教師になりたくて、貴族の家庭教師をしている近所のひとに働きながら勉強を教えてもらって、教師の試験を受けて教師になりました。あの頃はよかった……」

「アンネリ様の死後に教師の給料の削減が行われて、ビルギットには働きながら勉強を教えるつもりでしたが、暮らしが厳しくなって幼年学校を辞めて両親の農地で働きだしたんです」


 その頃にはヨアキムくんのひいお祖父様とひいお祖母様も生きていて、農地で一緒に働き始めたが二人が亡くなってから農地の経営も上手くいかなくなったところで、働きに出たアシェル家でビルギットさんが妊娠したことをヨアキムくんのお祖父様とお祖母様は聞かされたのだという。


「貴族社会は恐ろしいところだから逃げても逃げられないと思っておりましたが、ビルギットは逃げずにヨアキム様を育てたのですね」

「命が失われても最期まで傍にいられてビルギットは幸せだったでしょう」


 涙ぐむヨアキムくんのお祖父様とお祖母様に、ヨアキムくんも洟を啜って涙を堪えていた。

 ヨアキムくんのお祖父様とお祖母様が教養のある方だと分かったのでお兄ちゃんは領地の経営を手伝ってもらう方向にしたようだった。書類や資料を一緒に見ていく。


「花茶は生産が間に合っていないくらい人気で、開発しているカレー煎餅も売れそうな気配を見せています」

「烏龍茶に発酵させる工場に魔術師を配置して、促進してはいけないのですか?」

「ボールク家かヘルバリ家の方で手助けをしてくれる方がいないか当たってみましょう」


 話ができる大人が増えてお兄ちゃんも領地経営が楽になったようだった。ブレンダさんが手伝ってくれているとはいえ、ブレンダさんはルンダール家の方の仕事もあって、行ったり来たりしているし、お兄ちゃんも研究課程の勉強が忙しくなっている。

 お兄ちゃんがいない間も私たちとずっと一緒にいてくれるヨアキムくんのお祖父様とお祖母様にヨアキムくんもファンヌもエディトちゃんもすっかりと懐いてしまった。


「お祖父様、お祖母様、おやつを食べましょう」

「僕とファンヌちゃんの隣りに座ってください」

「おいちいよ?」


 仲良くお茶にヨアキムくんのお祖父様とお祖母様を呼ぶファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんに私もお兄ちゃんも頬が緩んでしまう。


「休憩にしましょうか」

「私もご一緒してよろしいのですか?」

「ヨアキムくんのお祖父様とお祖母様ですから、僕たちの家族のようなものですよ」


 お兄ちゃんに受け入れられてヨアキムくんのお祖父様とお祖母様は嬉しそうにヨアキムくんとファンヌを挟んでソファに座った。

 こうしてお兄ちゃんの領地は治められていくのだが、次の難関として2歳になったコンラードくんがエディトちゃんを追い求めて、この家に来たがっていることを私たちはまだ知らないでいる。

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