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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
八章 幼年学校で勉強します! (六年生編)
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24.カレー煎餅開発のために

 スパイスをお兄ちゃんの領地で輸入する許可が国から降りて、最初の商品が運び込まれてきたのは秋も深まる頃だった。早速お兄ちゃんとブレンダさんはヘルバリ家に連絡を取って領地に行く日にちを決めていた。

 幼年学校と保育所と研究課程がお休みの日に私たちは馬車でヘルバリ家の領地に向かった。お土産には花茶と果物の香りのついた緑茶を用意している。

 ヘルバリ家に着くと私たちはバスケットに入れておいた保温容器からカレーとご飯を取り出して、クラース先生とご両親と弟さんに味わってもらった。部屋中に香ばしいスパイスの香りが広がってエディトちゃんの口から涎が垂れる。

 今はエディトちゃんに食べさせている場合ではないから、涎はそっと拭いておいた。


「これは初めての味わいですね」

「ピリッと辛くて、後引く美味しさだ」

「これを売りだすおつもりなんですか?」


 カレーとお米が一緒になったカレーライスは確かに食事としては人気が出て広まるだろう。けれど、私たちが求めているのは花茶に合うお茶請けだった。

 花茶の淹れ方を教えて淹れてもらって、ヘルバリ家のひとたちに飲んでもらう。


「爽やかな香りと渋みですね」

「口の中がすっきりします」

「これとカレーは合うでしょうね」


 感想を聞いてお兄ちゃんが身を乗り出した。


「カレーを食べるときに飲んでも良いと思うのですが、カレー味のお煎餅が作れないかと相談しに来たのです」

「お煎餅ですか?」

「手軽に食べられて、お茶請けに最適ではないですか」


 私たちはカレーの美味しさに夢中だった。だからこそカレーの味のするお煎餅を食べてみたい。それはきっと花茶によく合うだろう。


「カレー味のお煎餅……カレー煎餅ができませんか?」


 私がお願いするとヘルバリ一家は話し合っていたようだがクラース先生が案内を申し出てくれた。


「お煎餅を作っている工場のものと話をしてみましょう」

「よろしくお願いします」


 馬車に乗って工場までの道を行く。途中田んぼが広がっていて、金色の稲穂が重く頭を垂れているのが見えた。お米は今が収穫の時期だ。

 もう収穫を終えて稲わらが干してある田んぼもある。


「お煎餅を作るお米は普通に炊いて食べるものと種類が違うのですよ」

「そうなのですか!?」

「粘り気の強いうるち米やもち米を使うのです」


 もち米は私も知っていた。


「もち米はお餅の原料ですよね」

「おかきやあられはもち米から作られますね」

「カレーおかき……カレーあられ……」


 おやおや。

 エディトちゃんだけでなくファンヌもこくりと喉を鳴らしている。カレーの可能性に目覚めてしまったのだろう。

 工場に行くとお米を揚げたり焼いたりする美味しそうな香りが漂っていた。

 工場の開発者がクラース先生に呼ばれて出て来る。

 まず開発者のひとにもカレーを食べてもらった。


「これは新しい味ですね。レシピはどのようになっていますか?」

「具材を複数のスパイスで味付けして煮たものです。ここにスパイスは用意してあります」


 カレーを作ったときのスパイスの配合率などを教えて行くと開発者のひとはすぐに試作に入ってくれた。

 最初に作ったのは、出来上がった煎餅に乾煎りしたスパイスの粉と砂糖と塩を混ぜたものを振りかけるものだった。試食してみたエディトちゃんの眉根が寄る。


「かりゃい!」

「外側は辛いですが、中はただの素のお煎餅ですね」

「うーん、これは煎餅を作る段階から混ぜ込んだ方が良さそうですね」


 次に出来上がったのはうるち米で作った煎餅の生地にスパイスを混ぜ込んで焼いたものだった。さくりと焼き上がったそれを食べてみると、美味しいことは美味しい。砂糖と塩も練り込んであるのか、甘みもあってなかなか美味しくはあったのだが。


「ちょっと物足りない」

「香りが飛んでしまった気がしますよね」


 素直な感想を言ったファンヌにお兄ちゃんも言葉を添える。


「さっきのスパイスの粉をこれにかけたらどうかな?」

「良いかもしれない。やってみてくれますか?」


 私の発案にお兄ちゃんが賛成してお願いすると、すぐに開発担当のひとは焼き上がったスパイスを練り込んだお煎餅にスパイスの粉をかけてくれた。


「おいち! もっと!」

「これは美味しいですね」

「あられやおかきも食べたいわ」


 香りが引き立つ美味しさにエディトちゃんがお代わりを要求し、ファンヌとヨアキムくんも目を輝かせて食べている。落ちた粉をエディトちゃんが指に付けて一生懸命舐めているのを私は慌てて止める。


「エディトちゃん、お行儀が悪いから」

「おいちいのに」


 あられやおかきの開発は後日ということにして、とりあえずカレー煎餅の方向性は決まった。

 試作品を多めに作ってもらってラッピングしてもらう。


「スヴァルド領のイーリスさんと、王都のセシーリア殿下と、オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に送りましょう」

「こーたんは?」

「コンラードくんにもお土産に持って帰るけど、ちょっと辛いかもしれないよ」

「おいちいよ?」


 口の周りが黄色くなっているエディトちゃんは見ればお手手もスパイスの粉で真っ黄色で、お手洗いで手と口の周りを洗わせてもらった。


「今日はありがとうございました」

「いえ、こちらこそ。良いものができるように努力します」


 開発担当のひとにお礼を言って私たちは一度ヘルバリ家に戻った。お屋敷で包んでもらったカレー煎餅を一袋開けて、花茶と一緒にみんなで食べる。途中で緑茶のフレーバーティーを飲んだりしつつ、試食会を行った。


「これは流行りそうですね」

「王都や他の領地に売れるようになれば、この領地も潤います」

「今後ともよろしくお願いいたします」


 お兄ちゃんとヘルバリ家の一家は握手をして友好を図っていた。

 お兄ちゃんの領地の家に戻るには時間が遅くなっていたので、私たちはそのまま馬車でルンダールのお屋敷に戻った。お屋敷でカミラ先生に報告する。


「カレー煎餅の試作品ができました」

「こーたんに、たべさせちゃいの」

「明日のおやつにしましょうね。今日はもうすぐ夕飯ですから」


 小さな両手で包みを差し出すエディトちゃんに、カミラ先生が受け取って明日用に棚に片付ける。


「ブレンダさん、イーリスさんにお手紙を書いてくれますか? 花茶とカレー煎餅付きで」

「了解」

「お兄ちゃんはお祖父様とお祖母様に」

「分かったよ」


 夕食までの時間にブレンダさんがイーリスさんにお手紙を書いて、お兄ちゃんはオースルンド領のお祖父様とお祖母様に書いて、私は王都のセシーリア殿下にお手紙を書いた。

 どれにも花茶とカレー煎餅が添えられている。

 これから貴族のお屋敷でカレー煎餅と花茶の組み合わせが大流行することになるのを私はまだ知らない。


「緑茶は徐々に浸透して来たね」

「花茶も生産が間に合ってないだけで、注文は多いんだよ」

「本当に?」


 茶畑のあるお兄ちゃんの領地はますます豊かになりそうだった。

 あの領地はお兄ちゃんが治める一年間が終わってしまったらどうなるのだろう。


「叔母上、お話したいことがあります」


 その日の夕食のときにお兄ちゃんがフォークを置いてカミラ先生に向き直った。試作品の煎餅を食べ過ぎたエディトちゃんとファンヌとヨアキムくんは、その日は食事の量を少なくしてもらっていたので食べ終わってごちそうさまをして、リビングで遊んでいた。

 お兄ちゃんはファンヌとヨアキムくんを呼ぶ。


「茶畑のある領地はルンダール領にとって非常に重要な土地となると思われます。なので、来年も僕に治めさせてもらえないでしょうか」

「オリヴェルのやる気があるのは良いことだと思います。やってみたら学ぶことがたくさんあると思いますよ」

「ありがとうございます。それで、僕が当主になった後のあの領地のことなのですが、隣接しているボールク家とヘルバリ家に後見人になってもらって、ヨアキムくんが成人した暁にはヨアキムくんが治めるようにしたらどうでしょう?」


 大事な領地だからこそルンダール家に近い人物が治めるべきである。

 その考えでお兄ちゃんはヨアキムくんの名前を出した。それにボールク家は花茶の材料であるジャスミンをあの領地に治めているし、ヘルバリ家はカレー煎餅を共同開発している。

 ヨアキムくんが成人するまでは二つの領地の領主が治めて、ヨアキムくんが成人した暁にはあの領地を譲る。それが一番良いような気が私もしてきた。


「この国で唯一お茶の取れる希少な領地ですからね。オースルンド家の名を持つヨアキムくんが領主に相応しいかもしれません」

「僕が、あの土地を治めるのですか?」

「魔術学校を卒業して、成人してからですよ。やってみたいですか?」

「はい、オリヴェル兄様のようになりたいです」


 ほっぺたを赤く染めて未来の領主が微笑む。

 また一歩、ルンダール領の明るい未来が近くなった気がした。

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