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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
八章 幼年学校で勉強します! (六年生編)
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17.花を持った来訪者

 お屋敷から持って来たお弁当でお昼ご飯をみんなで食べて、アイノちゃんが眠くなるので解散ということになった。ダンくんとミカルくんとアイノちゃんとフレヤちゃんを送り出すエディトちゃんも眠くなっていて、頭がぐらぐらと揺れている。

 お布団に入るとエディトちゃんは一人で大人しく寝てしまった。喋りは拙いところがあるが一人で眠れるしエディトちゃんは立派な一人前の4歳児だ。遅れてやってきたクリスティーネさんがこの家に置いているエディトちゃんの着替えを畳んでいた。


「イデオン、今日は大変だったね。折角お友達が来てくれたのに」

「カッとなって立体映像を見せちゃったけど、酷すぎたかな」


 ヨアキムくんとファンヌが二人で宿題をやっているのを見ながら、私はデスクで仕事をするお兄ちゃんの隣りに座って話をしていた。ヨアキムくんとファンヌの今年の自由研究はお茶に関することにしているようだった。

 分からないことがあったらすぐに聞きに来られるように子ども部屋のテーブルで勉強している。

 ブレンダさんは最近はスヴァルド領と繋ぎを取ってくれることに熱心だった。ブレンダさんに惚れているスヴァルド領のイーリスさんと親密にしているようだ。


「酷すぎたってどういうこと? ファンヌもイデオンも、すごく迷惑してたよね」

「そうだけど……あのひとは心を病んでるんだから、手加減しなきゃいけなかったかな」


 最終的には再起不能になるまで追い込んで隠居に持ち込んでしまった。その点に関して反省はしているが、デシレア叔母上のためにもあの老夫婦はもう表に出ない方が良いと考えていたから後悔はしていない。

 それでも、ちくりと胸が痛むのは老婦人がもしかするとドロテーアのことを本当に信じていて、溺愛していたのを全て粉々に砕いてしまったかもしれないという気持ちがあったからだった。


「うーん……イデオンは優しいから気にしてるみたいだけど、自業自得じゃないのかなって僕は思ってる」

「自業自得?」

「うん。自分の娘を甘やかすだけでちゃんと教育しなかった結果なんじゃないかって。ドロテーアはイデオンとファンヌのことを放っておいたよね。子育てよりも自分が社交界でどれだけ注目されるかしか興味のなかったようなひとを育てたのは、やっぱりあの夫婦なんだよ」


 デシレア叔母上は放置されていたと聞いている。放置されていた妹が育っているのを見てドロテーアも私たちを放置してもいいと思ったのかもしれない。

 産むだけ産んで興味のなかったドロテーアに私たちも興味はない。


「ドロテーアが悪事に手を染めたのも、両親の教育のせいかもしれないってこと?」

「甘やかされて我が儘になって、自分の手に入れられないものはないって思ったんじゃないかな。イデオンのお母さんなのに酷く言ってごめんね。でも、どうしても僕は許せなくて」

「ううん、気にしないで。私も同じ気持ちだから」


 ドロテーアのせいでお兄ちゃんのお母さんであるアンネリ様は死んでしまった。それを恨むなという方が無理な話というものだ。


「オリヴェル、応接室を借りて良い? イーリス嬢がこっちに来てお茶畑の視察をしたいって言ってるんだ」

「構いませんよ。視察もブレンダ叔母上にお任せしてよろしいですか?」

「う、うん。任せといて」


 応接室で新作のフレーバーティーの報告を聞いて、イーリスさんが茶畑の視察をするのにブレンダさんが案内する。二人の仲は進展しているようで微笑ましくなる。

 おやつの時間が近付いていたのでお兄ちゃんは仕事を片付けて子ども部屋に移って、クリスティーネさんがエディトちゃんを起こしてお手洗いに連れて行っていた。


「オリヴェル兄上、イデオン兄上、見てください。お茶の種類を書きました」

「お茶の水色(すいしょく)も塗ったの。見て見て」


 自由研究の課題をヨアキムくんとファンヌが見せて来る。発酵度合いによって水色や味や抽出方法の変わるお茶を、図解を交えてよく説明している。お茶の色を塗った色鉛筆の絵もとても上手にできていた。


「すごいね、ファンヌ、ヨアキムくん」

「今年も自由研究で賞を取っちゃうかもしれないよ」


 去年のファンヌとヨアキムくんの自由研究が賞を取ったときの誇らしい思いを私は忘れていない。お兄ちゃんと一緒に褒めれば二人は自由研究のページを捲る。


「緑茶と紅茶以外の良さをもっと伝えたいのですが、どうやればいいのか分からないんです」

「飲んだ感想は書いたのよ。でも、『渋みが薄くてすっきりして飲みやすい』とかだけじゃ分かりにくいでしょう?」

「他になにかいい方法がないですかね」


 話していると家に訪問者が告げられた。

 デシレア叔母上だと分かって管理人さんに通してもらう。


「先ほどは大変失礼いたしました。お詫びをと思いまして、僅かですがお菓子など持ってきました」

「おかち!」


 一番に反応したのはお手洗いから戻って来たエディトちゃんだった。青いお目目をきらきらと輝かせてデシレア叔母上の傍に駆け寄って両手を広げる。その手に渡すには大きなバスケットをどうしようと悩んでいるデシレア叔母上に、私は近寄ってバスケットを受け取る。


「抱っこして欲しいんですよ」

「え!? 私が抱き上げて良いんですか?」

「だっこ、らめ?」

「い、いえ。小さい子を抱っこしたことがなくて」


 戸惑っているデシレア叔母上にお兄ちゃんが先にエディトちゃんを抱っこした。


「脇の下に手を入れて持ち上げたら、エディトは抱っこされるのが上手だから脚を腰に絡めてきます。その状態で背中を支えてあげたら抱っこできますよ」

「そ、それじゃあ、失礼します」


 ぎこちなくエディトちゃんを受け取って抱き上げるデシレア叔母上の表情が、にこにこと抱き上げられて嬉しそうなエディトちゃんを見て柔らかくなる。


「可愛い……こんなに可愛いものなんですね」

「でちれあおばうえ!」

「私はエディト様の叔母ではないのですが」

「私の叔母上だから同じようなものでしょう」


 抱っこされたままでいるエディトちゃんはすっかりデシレア叔母上が気に入ってしまって、椅子に座ってもお膝の上に座っていた。

 バスケットを開けるとふわりと花の香りが部屋中に広がった。籠の中にはお菓子に添えて白い花が飾られている。


「いい香り……」

「お菓子の香りの邪魔になるかもしれないと思ったのですが、あまりに見事に咲いていたので添えてきました」


 デシレア叔母上の言葉に花を手に取って私は匂いを嗅いでみる。ファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんもお兄ちゃんも興味津々でくんくんと嗅いでいた。


「とても良い香りですが、この花はなんですか?」

「ジャスミンですよ。家の領地はどの家の空いた場所にもジャスミンを植える風習があって、お屋敷でも大量に咲いています」


 ジャスミンと言われて私はすぐにお茶との繋がりが浮かんだ。


「お兄ちゃん、花茶だ!」

「花茶! イデオン兄上、花茶が作れますか?」

「この国であまり飲まれてない烏龍茶を花茶にして売り出したらいい香りできっと人気になるよ」


 私の思い付きにヨアキムくんが声を上げて、お兄ちゃんが頷く。


「いいかもしれないね。そちらの領地のジャスミンの花を買い取らせていただくことができますか?」


 デシレア叔母上は少しずつだがケントが勝手に支払ったボールク家の借金をルンダール家に返しているという。この領地でボールク家の領地のジャスミンの花を買い取ればかなりの収入になるのではないだろうか。


「花を収穫してこちらに納めればいいですか?」

「値段は……」


 交渉に入るお兄ちゃんとデシレア叔母上を他所にヨアキムくんとファンヌは管理人さんに花茶のことを聞いていた。


「花茶はどのようにして作るんですか?」

「どんな味がするの?」

「烏龍茶のすっきりした味わいにぴったりですね。大陸では一部地域で飲まれているようですが、この国ではほとんど生産していません」

「生産方法が難しいのですか?」

「花とお茶を交互に重ねるようにして香りを移していくんです」


 大変な作業になりそうだったが、烏龍茶がそれでこの国でも流行るようになれば更にルンダール領の財源が増える。


「新しい物好きの貴族が飛び付きそうですね」

「花茶って、名前からして可愛いですよね」


 ほんのり頬を染めて喜んでいるヨアキムくんのためにも、この事業をしっかりと成功させなければいけない。

 この国に新しいお茶のスタイルが流行するまではまだもう少し時間がかかる。

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