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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
八章 幼年学校で勉強します! (六年生編)
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7.王都での一大計画

 紅茶や緑茶は同じ茶葉から作られる。

 この国で広く飲まれているのは紅茶だが、お茶は暖かい気候でないと育たないので、スヴァルド領やノルドヴァル領では育たない。オースルンド領は農業が盛んな土地ではなく、織物や染色の産業が盛んだった。

 ノルドヴァル領は鉱山資源が豊かで、スヴァルド領は果物栽培が盛んでリンゴのお酒のシードルや葡萄のお酒のワインの生産量が高い。

 問題の紅茶については、国内ではルンダール領しか収穫ができず、それ以外は国外からの輸入に頼っているという。


「ルンダール領は紅茶も特産品だったんですね」

「基本的に北でしか育たない果実以外は、野菜類はルンダール領が育てているものが国に出回っています。ルンダール領は国の食糧庫とも言われています」


 幼年学校でも習ったがルンダール領の当主代理のカミラ先生が言うと重みがある。


「バックリーン家は数少ないお茶を栽培している地域を治めている貴族で、領地での収入が非常に高いのです」


 バックリーン家の子息の醜聞を家が握り潰せた理由がそこにあった。国で唯一お茶の生産をしている領地を持っているのならば、ルンダール領の中でも財力のある貴族ということになる。財力は権力と結びつくから、貴族の女性であろうともバックリーン家の子息に乱暴をされて訴えられなかったのは、家に大量の慰謝料が支払われて和解が成立したからだとカミラ先生は考えていた。

 事実訴えの数日後に取り下げた貴族の女性もいたという。


「自分の子息がしていることに気付いていながら、金で解決しようなど言語道断ですね」

「子息が落ち着くように結婚の話を持って来たのでしょうけれど……妻になる貴族も災難です」


 何人も女性を襲ったケダモノのような男と結婚させられる貴族の女性。その女性のことが私は気になっていた。


「誰なのですか、それは?」

「スヴァルド領の領主の血縁のようです」


 はるばる最北のスヴァルド領から嫁いでくる花嫁。夫が犯した罪を彼女は知っているのだろうか。

 そんな相手を夫にすることをスヴァルド領の領主一家は許すのだろうか。


「きっと、相手には何も伝わっていないと思われます。これから伝えて結婚を壊しても良いのですが……」


 訴えは取り下げられたものや、公にしないで欲しいと言われたものばかりで、確実な証拠のない話を持ち出していいものかカミラ先生は悩んでいるようだった。

 もし何も知らないままに式を挙げてしまえば、花嫁となるスヴァルド領から嫁いできた女性は後悔するのではないだろうか。


「スヴァルド領の一家をお呼びすることができますか?」

「今ある証言だけでも伝えてみますか?」

「叔母上、悲しい思いをする女性を増やしてはいけません」


 こういう場合どうすればいいのか、私は策を巡らせていた。

 思い出したのはセシーリア殿下のショールのことだった。柔らかくて薄くて暖かいあのショールは国王陛下から頂いたものだとセシーリア殿下は言っていた。


「セシーリア殿下にこの話、一枚かんでもらいましょう」

「どうやって?」

「セシーリア殿下のショール、とても素晴らしいものでした。あれはもしかして、オースルンド領のものではないですか?」


 ずっと気になっていたのだがあんなに見事な織物を作る技術があるのはオースルンド領しかないと私は判断した。


「そういえば、数年前に国王陛下から注文が入ったと私の両親から聞きましたね」

「きっと、それですよ。王都でオースルンド領の織物の展示販売をやっていただいたらどうでしょう?」


 オースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も呼ぶことができて協力してもらえるし、カミラ先生はオースルンド領の次期領主なのだから出席していてもおかしくはない。後は、ノルドヴァル領の領主一家、スヴァルド領の領主一家、私たちルンダール領の一家も客として行けばいい。


「それだけではもったいないですね。各領地が特産品を持ち寄ったら良いのではないですか?」


 ルンダール領はマンドラゴラや向日葵駝鳥の石鹸や感知試験紙を、ノルドヴァル領は宝石類を、スヴァルド領は果物の加工品をそれぞれに持ち寄って国王陛下とセシーリア殿下に披露すると共に展示即売会を開けば国の一大イベントになるだろう。

 イベントに隠れて私たちはスヴァルド領の一家と話をすればいい。


「セシーリア殿下に協力していただくのもなぁ」

「お兄ちゃん、使えるものは使わなくちゃ!」


 ランナルくんのスイカ猫の件でセシーリア殿下は私に借りがあるはずだった。それを今こそ返してもらわなくてはいけない。

 魔術の通信で話をするとセシーリア殿下は憤慨していた。


『バックリーン家の子息がそのようなことをしていたなんて。王都で紅茶の不買運動を行いましょうかしら』

「それはルンダール領の収入に関わってきますので、お許しください」


 その代わりにお願いした展示即売会は王都に四つの領地の領主を集められるということでセシーリア殿下も賛成してくれた。


『陛下がお若いのでノルドヴァル領やスヴァルド領、かつてのルンダール領も反発ばかりしていたのです。一度は陛下のお力をお見せしないと』


 国王陛下側についた方が経済的に領地が潤うと分かれば領主は反発する気持ちがあっても従うようになる。ルンダール領に関しては愚かな私の両親がいた頃の話なので今は全く違うのだが。


『正直、オースルンド領とルンダール領が手を取って反乱を起こせば独立も不可能ではありません。そうしない証を自ら見せてくれるのならばこちらも助かることには変わり有りません』

「ルンダール領には当主代理様にカミラ先生がなられていますからね」

『正当な次期当主もオースルンドの血を引いています。二つの領地が非常に親しいことに王家としては危機感を持たずにはいられません』


 ルンダール領にもオースルンド領にも反乱の意志はないものと見せつけなければいけない。それが展示即売会でできるのだったら、更に意味があるものになる。


「話が大きくなってきちゃったね」


 通信を終えた私に側で聞いていたお兄ちゃんが溜息を吐く。私もこんなに話が大きくなるとは思っていなかった。


「スヴァルド領の領主の一家からお嫁さんをもらうってことは、それだけバックリーン家の権力を更に大きくすることじゃない?」

「元々バックリーン家はルンダール領でも大きな貴族だから警戒はしてたけど、バックリーン家こそルンダール家に反乱の意志ありとも考えられなくないね」


 王家がルンダール領とオースルンド領の癒着を気にかけているように、お兄ちゃんはルンダール領においてバックリーン家がスヴァルド領の領主の一族のお嫁さんをもらって更に力を付けることを恐れているようだった。


「ルンダール領をひっくり返すだけの力はないとしても、政治に口出ししてくるかもしれないってこと?」

「もうしているのかもしれない。警備兵のもみ消しの件に関しても、おかしいと思わない?」


 国の管轄である警備兵がバックリーン家の子息の起こした事件をもみ消しているとなると、どこからそんな権力を持ち出したのかが気になるところだ。ルンダール領の私兵だった悪友を通じて金が警備兵に行っているとしても、警備兵がそんなに簡単に買収されるものなのか。


「警備兵は国の管轄でしょう?」

「イデオン、警備兵も人間だから悪いひとがいるんだよ」

「宣誓も役に立たなかったんだった……」


 11歳の無邪気さで国民のために働くと宣誓した警備兵に汚職などないと信じていた私は、お兄ちゃんの言葉に現実を突き付けられることとなる。

 金に目が眩んで汚職に手を染めた警備兵をルンダール領では取り締まることができない。それは警備兵が国の管轄だからだ。

 だから、カミラ先生は警備兵の上層部に汚職を調べてもらっているのだった。

 頭で理解しても、何度も警備兵には助けられているために心が付いてこない。


「全部の警備兵が悪いわけじゃないんだよ。一部の腐った連中だけなんだ」


 お兄ちゃんに説明されても私は両親の件でも、ニリアン一族の件でも、他にも様々な件で警備兵に助けられた記憶が強くて、すぐには汚職と警備兵を結び付けられなかった。


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