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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
七章 幼年学校で勉強します! (五年生編)
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32.続・男らしさを求めて

 ヨアキムくんのお誕生日の朝にプレゼントを渡しに行ったお兄ちゃんと私は、豚の毛のブラシと柘植の櫛の使い方を教えていた。


「最初に豚の毛のブラシで髪の毛の絡まりを解くんだよ」

「その後で、柘植の櫛に椿油を馴染ませて、髪を梳いていくんだ」

「分かりました。やってみます。ファンヌちゃん、いい?」


 ファンヌを呼んで絡まっているくりんくりんの薄茶色の巻き毛に豚の毛のブラシで絡まりを解いて、椿油を柘植の櫛に馴染ませてファンヌの髪を梳いていくヨアキムくん。ヨアキムくんがファンヌの髪を整え終わると、次はファンヌがヨアキムくんの髪に同じことをしていた。


「毎朝、二人でお互いにやってるの?」

「わたくしのかみ、からまって、一人じゃできないの」

「ぼくがしてあげたら、ファンヌちゃんはお礼にしてくれるんです」


 本当に仲の良い二人の様子が見られただけでも私は幸せな気分でいっぱいだった。それはお兄ちゃんも同じようでにこにこと笑み崩れている。

 艶々の髪になった二人は髪を結んでベルマン家に出かける準備をしていた。

 私とお兄ちゃんも部屋に戻ってセシーリア殿下に頂いた髪飾りを付けて髪を結んでいると、お兄ちゃんがブラシを私の手から取る。丁寧に髪を梳かれて、くすぐったいような嬉しいような気分になる。

 ファンヌほどの巻き毛ではないが私の髪も若干巻いているし、ふわふわの柔らかい猫っ毛なので絡まりやすい。自分でやるとつい適当にぶちぶちと髪がちぎれても気にしないのだが、お兄ちゃんは丁寧に私の髪を解いてくれた。


「この髪飾りで行かなくてもいいんじゃない?」

「守りの魔術がかかってるから、一応ね」

「そしたら、前髪はこれで留めてね」


 横で結んだ髪はセシーリア殿下からもらった髪飾りだが、前髪はお兄ちゃんからもらったヘアクリップで留めてもらった。アイノちゃんへの誕生日プレゼントは何が良いか分からなかったので、チーズケーキを焼いて準備していた。ヨアキムくんは仲良しの庭師さんからブーケを作ってもらっているようだった。

 冬の寒さに馬車の中も凍えるようで、マフラーと手袋が手放せない。ルンダール領は暖かい方だがこれだけ寒いのだから、雪の降り積もるオースルンド領やもっと北のノルドヴァル領、スヴァルト領の冬の厳しさは想像もつかなかった。

 馬車に並走してリンゴちゃんが走って来るのは、ベルマン家のミカンちゃんに会いたいからだろう。

 ルンダールのお屋敷のマンドラゴラの葉っぱを定期的に貰いに来ているミカンちゃんは、かなり身体が大きくなっていた。もう大型犬くらいあるが、それでも子馬くらいはあるリンゴちゃんよりは小さい。

 ウサギとしては規格外の大きさだし、ミカルくんはできるだけミカンちゃんをベルマン家の外には出さないようにしているようだった。

 ベルマン家の庭で再会したリンゴちゃんとミカンちゃんは仲良く寄り添っている。


「ミカンちゃんが大きくなったら、リンゴちゃんのおよめさんになるのかな」

「ミカルくん、ミカンちゃんをリンゴちゃんのおよめさんにしてくれる?」

「ミカンちゃんがいいなら、しかたないよな」


 同じウサギを飼う同士、ミカルくんとヨアキムくんが話しているのを私は和やかに聞いていた。

 お誕生日の歌を歌うとアイノちゃんは楽しそうにお尻を振って踊っていた。踊る途中にコンラードくんの手を取って誘うのだからとても可愛い二人の踊りを私たちは見ることができた。

 誕生日パーティーは楽しく終わって、私たちはお屋敷に帰った。

 新年のパーティーにはカリータさんがカミラ先生に正式にフレヤちゃんのことを申し出ていた。


「わたくしは子どもが産めません。フレヤという女の子が魔術学校を卒業して成人した暁には、シベリウス家の後継者として魔物研究の全てを伝えたいと思っております」

「そのときに私はルンダール領にいないかもしれませんが、甥のオリヴェルがきっと手続きを手伝うと思います」

「どうかよろしくお願いいたします」


 まだ養子に入ったわけではないのでフレヤちゃんは新年のパーティーには来られなかったが、いつかフレヤちゃんもシベリウス家の養子となって私やお兄ちゃんの味方となってくれる。それを考えるととてもありがたい申し出だった。

 フレヤちゃんが貴族の前に顔を出していないことがこの後で役に立つようになるなんて、そのときの私は考えもしていなかった。


「アッペルマン家の使用人だったものを乳母に迎えられたというお話を聞きました」

「アッペルマン家?」

「えぇ、ご存じでしょう?」


 フレヤちゃんの件の報告ついでにカリータさんが出した家名を私もカミラ先生も知っていたけれど、それはいい噂でではなかった。アッペルマン家といえばルンダール領を私の両親が治めていた時代に媚を売って税金を免除してもらい、カミラ先生がルンダール領のためを思って行う政策にいちいち文句を付けて来る家という印象しかない。

 特に雇用形態の法律を作ったときにコーレ・ニリアン側について署名をして、カミラ先生を当主代理から引きずりおろそうとした件については忘れもしない。


「アッペルマン家は酷い状況なのですか?」

「古い凝り固まった家ですからね。わたくしもアッペルマン家の男性と見合いをさせられましたが、第一声が『子どもが産めないなら妾を持たせて欲しい』でした」


 子どもが産めないということは女性にとってとてもデリケートな問題で、カリータさん自身が口に出しているとはいえ、軽々しく他人が口にしていいことではない。それを見合いの席で言及した挙句、妾を持つ宣言をする男性など最低である。


「女性を子どもを産む機械としか思ってないんでしょうかね」

「イデオン様、怒ってくださってありがとうございます」

「いいえ……そうなのですね、クリスティーネさんはアッペルマン家から来たのですね」


 パーティーが終わってから調べてみると、アッペルマン家はルンダール領で定められた使用人を週一回休ませる法律にも従っておらず、雇用状態が劣悪なので使用人の辞める数が新しく入って来る数に追い付いていないような状態だった。

 その中でも古参の使用人は新しい使用人を当然のように苛めるし、大人が新人の使用人を苛めているのを見ているのでアッペルマン家の子どもたちも当然のように新人の使用人を苛める状況が続いていると聞いて私もお兄ちゃんもカミラ先生も頭を抱えてしまった。


「どうにかしなければいけませんね」

「具体的にどうすればいいのか」


 貴族のお屋敷の中はある意味密室である。情報が漏れて来たとしても決定的な証拠を捕まえるのは難しい。

 どうすればいいのか分からないままに、冬休みは終わって新学期が始まっていた。

 幼年学校に行くとダンくんの様子がおかしい。


「最近、喉が痛んで、声が出しにくいんだ」


 ダンくんの症状に私は心当たりがあった。


「変声期じゃない?」

「変声期?」

「男のひとは大人になるとみんな声が低いでしょう。子どものときは声が高いけど、徐々に低くなっていくんだって」

「へぇ……俺の声、変わるのか」

「うん、多分ね。私も声が変わっちゃうのかなぁ」


 声が低くなればもう「お姫様」なんて言われなくなるのだろうけれど、高い声で歌が歌えなくなるのは少し勿体ない気がする。


「低い声だと男らしいかな?」

「イデオン、鏡見たことあるか?」

「何気にダンくん、酷くない?」


 鏡を見たことくらい私だってある。

 ふわふわの薄茶色の髪の丸い頬のファンヌによく似た男の子が映っていることは毎朝確かめている。ファンヌのことは物凄く可愛いと思うのだけれど、自分が似ていることに気付くとちょっと落ち込んでしまう。


「可愛いじゃなくて、かっこよくなりたいんだけどなぁ」


 背が高くて逞しくて撫で付けた黒髪に穏やかな青い目のお兄ちゃん。

 お兄ちゃんのように男らしくなりたいと思う私は次の誕生日で11歳、幼年学校の最高学年になる。

これで七章はお終いです。

イデオンたちの成長はいかがでしたでしょうか。

引き続き八章もよろしくお願いいたします。


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