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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
一章 お兄ちゃんのために両親を引きずりおろします!
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27.栄養剤の作り方

 死人草の結果が出るまでの二週間も、私には毎日やることがあった。

 薬草畑の世話は日課になっているが、それだけではない、カミラ先生は私とファンヌに、特別授業をしてくれていた。


「火が使える場所に行きますよ。イデオンくんとファンヌちゃんは、気を付けてくださいね」

「ちゅうぼうですか? なんどもいったことがあります」

「くっちーの、かたぬき、ちたの」

「二人はお料理もできるのですか。良いことです。続けて行きましょうね」


 褒められてくるくるとファンヌが廊下を歩きながら、踊りだす。最初は警戒していたが、私もファンヌも、お兄ちゃんを安全な場所に避難させてくれて、アンネリ様の不審な死の全容を調べようとしてくれるカミラ先生に、すっかりと懐いていた。それだけではなくて、カミラ先生は毎朝の薬草畑の世話も厭わずに手伝ってくれるし、毎晩お兄ちゃんと通信で会話させてくれる。私たちが小さくても否定することなく、たくさん褒めてくれて、クレヨンや美しい色鉛筆を惜しみもなくくれる。

 両親よりもずっと愛情にあふれたカミラ先生は、目や髪の色彩から、どうしてもお兄ちゃんを思い出させた。お兄ちゃんと同じ優しさを感じさせた。


「初めまして、イデオンくんとファンヌちゃんの家庭教師になりました、カミラです」

「は、初めまして。お噂はセバスティアンさんから聞いております。厨房担当のスヴェンです」


 頭を下げるスヴェンさんに、カミラ先生も優雅にお辞儀をして、厨房を借りることを告げる。何でも出て来るカミラ先生の鞄は、いわゆる魔術のかかったもので、中身の容量が外側に反して非常に拡張されているようだ。

 大きな鍋を取り出して、コンロの上に置き、調理台の上には乳鉢や笊やすり鉢を並べていく。最後に取りだしたのは、薬草市で買った薬草と、収穫して干しておいた薬草だった。


「これから、栄養剤の調合を行います」

「えいようざい……マンドラゴラの、ですか?」

「まんどあごあの、ごはん!」


 きらりとファンヌの目が輝いた。初日にカミラ先生に貰った人参マンドラゴラをファンヌは大事に育てていて、水も飲ませているが、毎日抱いて寝るためか、最近人参マンドラゴラが元気がなくて萎れて来た気がした。

 鞄の中から、カミラ先生は小さな瓶を取り出した。中には澄んだ緑色の液体が入っている。


「これがマンドラゴラの栄養剤です。土に植えてあるものにかけると、成長が促進されます。土から抜いたものには、これを飲ませないと枯れてしまいます」

「にぃたま、とくちんってなぁに?」

「はやくなる、ってことだよ」

「まんどあごあ、ごはんないと、かれるの?」


 疑問を次々と口にするファンヌに、カミラ先生が膝を曲げて視線を合わせる。


「持っている栄養剤を上げても良かったのですが、どうせならば、作り方が知りたいと思いませんか?」

「お、おもいまつ!」

「わたしも、しりたいです」


 スヴェンさんに台を持ってきてもらって、私とファンヌは調理台の上を覗き込んだ。手袋を付けたカミラ先生は乾燥した薬草を、手で小さく握り潰しながら乳鉢に入れる。


「基本的に、薬草は素手では扱いません。薬草の液でかぶれることがあるからです。乾いたものでも、薬草の効能は人体にとって安全なものだけとは限りません」

「おててで、さわっちゃ、めーの?」

「手袋を付ければ大丈夫ですよ。お手手を出してください」


 私とファンヌに手を出させて、カミラ先生が取り出したのは、小さなスプレーだった。それを吹きかけると、ちょうどよく私とファンヌの手にぴったりの手袋のような膜が出来上がる。


「手袋のサイズが合わないときには、魔術スプレーも便利ですよ」

「てぶくお、わたくちも、できたの」

「わたしもてつだっていいですか?」

「そのつもりで、手袋を付けたのです」


 ファンヌが乳鉢を押さえて、私が乳棒でごりごりと乾燥した薬草をすり潰していく。途中で気付いたのか、カミラ先生がハンカチで私とファンヌにマスクをしてくれた。


「大人はそんなに顔を近づけないので忘れていました。吸い込んでもいけませんよ」

「あい!」

「きをつけます」


 乾燥した薬草がすり潰されると、容器に移して、次は新鮮な薬草をガーゼで包んで、上から棒で叩く。教えてもらって、勇ましく棒を構えたファンヌは、力を入れ過ぎて、下に敷いていたまな板を叩き割ってしまった。


「まぁ、ファンヌちゃん、怪我はありませんか?」

「ありまてん……ごめしゃい」


 カミラ先生の持ってきたまな板を割ってしまったことを謝るファンヌに、カミラ先生は怒ってはいなかった。難しい表情はしていたが。


「もしかして、ファンヌちゃんは、肉体強化の魔術を無意識で使っているかもしれませんね」

「わたくち、まじゅちゅ、ちゅかってう?」

「まな板を修理しますので、もう一度、叩いてみてください」

「おもいっきり?」

「えぇ、思い切り」


 魔術でまな板を修繕したカミラ先生に、ファンヌが思い切りまな板を殴ると、今度はまな板は真っ二つになってしまった。振り下ろされる棒の動きをしっかりと見ていたカミラ先生は、自然と笑顔になっていた。


「凄いですよ、ファンヌちゃん。その年で肉体強化の魔術を会得しているなんて」

「わたくち、しゅごい?」

「制御はできていないようなので、これをつけましょうね。畑の世話などで力がいるときには、外して構いません」


 制御されていない魔術は危険なので、カミラ先生は鞄から魔術具を取り出して、長さを調整して、ファンヌの首にネックレスのようにしてかけた。丸いガラス玉のついているそれは、お洒落なアクセサリーのようで、ファンヌによく似合う。

 無意識に使っていた肉体強化の魔術の問題が解決したので、ファンヌと交代して、私がガーゼに包まれた新鮮な薬草を叩いた。しっかり叩いてから水に浸すと、薬草の液が染み出てくる。ガーゼを絞って、しっかりと液を出した水は、真っ青になっていた。

 もう一種類薬草市で買った干して乾かした薬草は、ぐつぐつと沸騰したお湯の中で成分を煮だす。蒸気が危ないので、その作業はカミラ先生がした。

 最後に、乳鉢ですり潰した薬草と、叩いて薬草を浸した水と、成分を煮だしたお湯をお鍋に入れて、カミラ先生は弱火でくつくつと煮始めた。


「このまま、一晩煮詰めたらできあがりです」

「ひとばん……ねないでみはるんですか?」

「わたくち、ねんね、ちない」

「ダメですよ、イデオンくんとファンヌちゃんは、寝てください。煮詰める間は私が見ておきます」


 初めてで指示通りにしただけで、魔術薬の作り方は分かったようで分からなかった。一度で分かるものではないと理解しているカミラ先生は、これから何度も一緒に作ってくれるという。

 作業の終わりは、ハンカチのマスクを外して、特別な石鹸で手を洗って魔術スプレーの手袋を洗い流すことだった。


「ごはん、できたら、あげゆからね」


 部屋に帰ったファンヌは疲れてしまったのか、ベッドに倒れ込んで人参マンドラゴラに話しかけている。少し葉っぱが萎びて来た人参マンドラゴラも、踊りながら喜んでいた。

 マンドラゴラの栄養剤は、マンドラゴラの種を植えて、育てているから必要なのは分かるが、今でなくてはいけなかったのだろうか。

 おやつを貰いに行くついでに、厨房で鍋を見ているカミラ先生に声をかけると、スヴェンさんが助けに入ってくれた。


「カミラ先生、休憩して来てください。その間、鍋は見ていますよ。焦がさなければ良いのでしょう?」

「すみません、ありがとうございます。イデオンくん、おやつを一緒に食べましょうか」


 おやつとお茶の乗ったトレイをカミラ先生が持ってくれて、私はカミラ先生と並んで歩く。


「マンドラゴラのせいちょうをそくしんさせるのは、いまでなければいけなかったのでしょうか?」


 お兄ちゃんをお屋敷に戻して、お兄ちゃんが一緒に学べるようになってからでも良かったのではないか。そんな疑問を口にすると、カミラ先生は悪戯に微笑んだ。


「マンドラゴラがどれほど役に立つのか、イデオンくんも分かると思います」

「やくにたつ?」


 どうやら、カミラ先生はマンドラゴラを薬用ではなく、別の用途で育てるつもりらしかった。

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