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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
七章 幼年学校で勉強します! (五年生編)
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14.同性同士の恋愛と、兄弟ということ

 アンデッドに協力するという恐ろしい二日間が終わって、お兄ちゃんは休んでいた研究課程に、私も幼年学校に普段通りに通えることになった。アンデッドが危険だったので近寄らせてもらえなかったファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんは興味津々だった。


「どうやってやっつけたんですか?」

「やっつけたわけじゃなくて、お弟子さんが連れて帰ったというか……」

「やっつけられてないの? 悪いじゅじゅつしじゃなかったの?」

「悪い呪術師であったことは確かなんだけど、もう悪さはしないって誓ってもらったんだ」


 朝の薬草畑の世話をしながら私は質問攻めにあっていた。


「ちかっても悪いひとは悪いことをするかもしれません」

「始祖のドラゴンに誓ってもらったんだよ」

「しそのドラゴン?」

「ちとのどやごん?」


 誓いについて詳しく説明を求めて来るファンヌとエディトちゃんに私は言葉に詰まってしまった。誓いの意味をどう説明して良いものかお兄ちゃんを見上げる。


「『神に誓って』とか言ったりすることがあるよね? あれの正式な形態が『始祖のドラゴンに誓う』なんだ」

「しそのドラゴンにちかうとどうなるの?」

「この世界は陸地も海も生物も全て始祖のドラゴンの亡骸からできたとされているんだよね。始祖のドラゴンは自らの生命をこの世界に託して魂は神になったと言われてる。土地や海を含めて全てのものが始祖のドラゴンを通じて根源が繋がっているから、『始祖のドラゴンに誓う』ってことは世界に誓約することになるんだ」

「世界にせいやくってどういうことなの?」

「破ればこの世界の理から外れてもいい……つまり、肉体が滅び魂が消えても構わないってことだよ」


 朧気に私も理解していたつもりだが、お兄ちゃんから詳しい説明を聞くと納得ができる。「二度と呪術を使うことはない」とそれだけの強い誓いを立てたからこそ、カミラ先生もビョルンさんもアーベルさんとフーゴさんが逃走するのを許したのだろう。


「そういうことだったんだ」

「イデオンも分かってなかったの?」

「なんとなくは分かってたけど、はっきり説明されるのは初めて」


 始祖のドラゴンについての説明もカミラ先生にされたが神話のようなものであまりピンと来ていなかった。

 話を聞いてやっと畑仕事に集中し始めたファンヌとエディトちゃんとヨアキムくんに、さすがお兄ちゃんは小さい子にも説明するのが上手だと感心してしまう。私もお兄ちゃんのようになりたいけれどまだまだ知識不足で難しいようだ。


「多分イデオンは神聖魔術の方向に進むから、創世神話についても魔術学校で詳しく習うと思うよ」

「神聖魔術には創世神話が必要なんだ」

「うん、祈る対象が始祖のドラゴンになるからね」


 王都でランナルくんのスイカ猫にゴーストが憑りついていたときも、私は何に祈っているか分からないままに必死に泣きながら歌ってゴーストを祓った。祈りを聞き届けてくれていたのは神となった始祖のドラゴンの魂だったのだとそのときに初めて知らされた。


「マンドラゴラに祈るときも始祖のドラゴンに語り掛けるの?」

「そうだと思うよ。魂の根底では全てのものが繋がっているんだから」


 全てのものを産み出した始祖のドラゴンと魂の根底で全てのものが繋がっている。大地も海も魔物を含めた全ての生き物も。

 壮大過ぎて想像がつかなかったがそういうものなのかと私は自分を納得させた。

 幼年学校に行くと休んでいたのでダンくんとフレヤちゃんが心配してすぐに傍に来てくれた。


「ルンダール家で何かあったの?」

「イデオンはお家の事情で休むって先生が言ってて驚いたぜ」


 以前にもスイカ猫のことで王都に呼び出されて休んでいたので、そういう関係かとフレヤちゃんとダンくんはすぐに気付いたようだった。声を潜めて「闇の魔術師」について語る。


「『闇の魔術師』って王都で呼ばれてアンデッドを作って貴族を襲わせてた呪術師が、アンデッドになったんだ」

「え!? そんなに強い呪術師がアンデッドになったなら大変だったんじゃないの?」

「殺されても自我を保てる呪術をかけていたみたいで、凶暴なアンデッドではなかったんだけど、自分を殺した相手を探せって言われて」

「探したのか?」


 大変な二日間であったことは否定できなかった。

 アシェル家のお茶会から帰る途中でアンデッドに馬車にへばり付かれて、話を聞けば殺された「闇の魔術師」のフーゴさんで、殺されたときの記憶がなかったとか言われた。胸に刺さっていた「屍者のナイフ」からアシェル家を疑ったが、アシェル家の方も「闇の魔術師」に脅されていることが分かった。

 そういう状態で見つかったのが自殺して死に損ねた「闇の魔術師」の弟子のアーベルさん。


「アーベルさんは愛してたけどフーゴさんが自分を愛してくれなかったから殺して自分も死のうとしたんだって」

「あ、それ知ってる! 心中って言うんだわ」

「そう、それ。結局アーベルさんがフーゴさんを使い魔にして、始祖のドラゴンに二度と呪術を使わないと誓って国外に逃げたんだけど……男のひとと男のひとが愛し合うとか、初めて見ちゃった……」


 フーゴさんは喋り方は女性的だったがどこからどう見ても男性だったし、アーベルさんも若い男性だった。勢い余ってフーゴさんを殺して自分も死のうとしたアーベルさんにフーゴさんは自分が祓われるからアーベルさんは生きろと言った。アーベルさんはフーゴさんのいない人生など意味がないと殺してくれと言った。


「あんな強い愛が男のひと同士でもあるだなんて、知らなかった……」


 ぽつりと零した私にフレヤちゃんが眉根を寄せていた。


「男のひと同士じゃなくても強い愛はあるし、女のひと同士でも男のひと同士でも、男のひとと女のひとでも、愛し合うのは普通にあることよ」

「うん、知識としては理解できてたんだけど、私の周りは男のひとと女のひとが結婚しているのばかり見て来たからね」

「貴族だからでしょうね。男のひとと女のひとじゃないと子どもができないから、貴族は異性同士の結婚が推奨されてて、同性の結婚は好まれないみたいだけど、私はそんなの関係ないと思う」

「関係ないのかな」


 力強いフレヤちゃんの言葉に浮かんだのはお兄ちゃんの顔だった。お兄ちゃんは好きではないひととは結婚しないと言っているけれど、いつかは好きなひとができるのかもしれない。その相手が男性でも女性でも私は笑顔で受け入れられないような気がするのだ。


「お兄ちゃんが結婚したら嫌だ……」


 子どもが駄々を捏ねるように呟いた私はそのとき10歳。間違いなく子どもだった。恋や愛などはまだまだ早い。けれどお兄ちゃんに誰かが近付くのは許せない。子どもっぽい独占欲の塊。

 考えていると涙が出てきそうになって、私はぐっと奥歯を噛み締めた。


「イデオンはお兄ちゃんが大好きだもんなぁ。俺もミカルやアイノが結婚したら寂しいよ」

「ダンくんも? 私、我がままで嫌な子じゃない?」

「誰でも仲の良い兄弟が結婚して他の相手が一番になったら嫌だろ」


 ダンくんの言葉に救われる気がする。


「イデオンくんのはそういうのじゃないかもしれないけどね」


 フレヤちゃんの言葉の意味は私にはよく分からなかったけれど。

 幼年学校が終わって帰って来ると、子ども部屋の前の廊下を通りかかったときにエディトちゃんが泣き顔で私に飛び付いてきた。

 子ども部屋の中にはカミラ先生とビョルンさんがいて、コンラードくんの授乳の時間のようだった。


「いでおにぃに! わたくち、かなちい」

「どうしたの、エディトちゃん?」

「わたくち、こーたんとけこんちるっていったら、ママとパパが、こーたんはおととらから、らめって!」


 おや、エディトちゃんは結婚に興味を持ち始めたようだった。

 コンラードくんと将来結婚したいと言われたらカミラ先生もビョルンさんも説明して止めなければいけないだろう。

 青いお目目からぽろぽろと涙を流すエディトちゃんが切なくて抱き上げる。


「エディトちゃんはコンラードくんが大好きだもんね」

「わたくち、こーたん、すち! こーたん、わたくちと、けこん、らめ!」

「結婚はできないけれど、姉弟だからずっと一緒にいることはできるよ?」

「じゅっと、いっと?」


 ポケットから取り出したハンカチでエディトちゃんの涙と洟を拭いてあげて抱っこから降ろすと、私は目線が合うようにしゃがみ込んだ。


「カミラ先生はオースルンドの領主になる方だけど、エディトちゃんもその次の領主になるかもしれない。そのときにカスパルさんとブレンダさんみたいに一緒に統治することはできるよ」

「とーち、なぁに?」

「領地を良くするために政治をすることだよ」

「せーじ、なぁに?」

「領地の中の決まり事を定めることかな」


 納得したのかしてないのか、エディトちゃんはすんっと洟を啜ってハンカチを返してきた。


「いでおにぃに、あいがちょ」

「いいえ、どういたしまして」


 ぽてぽてと子ども部屋に戻って行くエディトちゃんを見送って私も部屋に帰る。

 ルンダール家の養子に入っているから私とお兄ちゃんも兄弟で、一緒に領地を統治することはできる。セシーリア殿下は私が結婚できる年までにきっと婚約を解消するだろうし、私がルンダール領を離れることはない。

 そう分かっていても落ち着かないのはなぜなのだろう。

 お兄ちゃんに早く会いたい。会えば安心するような気がして、私はお兄ちゃんの帰りを待っていた。

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