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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
一章 お兄ちゃんのために両親を引きずりおろします!
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25.結界に阻まれて

 早朝に薬草畑に行って世話や収穫をして、朝ご飯を食べて、収穫した薬草の処理をカミラ先生に教えてもらって、その後に文字を書く練習をする。それが終わると、休憩を挟んで、カミラ先生に薬草学の本を読んでもらったり、お茶をしながら、お昼ご飯まで過ごす。

 お昼ご飯の後はファンヌはお昼寝をして、私も疲れているときはお昼寝をするけど、自由時間になるので、夜にお兄ちゃんに伝えることのメモを作ることが多い。

 おやつの頃にファンヌが起きて来て、カミラ先生と一緒におやつを食べて、課外授業があるときには、薬草市に行ったり、お兄ちゃんに会いに移転の魔術で行ったりする。

 晩ご飯を食べてお風呂と歯磨きを終えたら、お兄ちゃんに魔術で通信して、今日の出来事を伝える。

 このサイクルが確立してきて、私も字がかなり綺麗に書けるようになった一週間目の終わりに、カミラ先生は薬草畑で、私とファンヌに小さな袋を渡した。中に入っているのは、マンドラゴラの種だった。

 前にマンドラゴラが植えられていた畝は、雑草は抜いてあるが、今は空っぽだ。指で穴を空けて、一つずつ種を植えて、埋めて、水をかけると、カミラ先生が課題を出してきた。


「どこに何を植えたか分かるように、ネームプレートを用意しました」


 土に挿すネームプレートは、大きめに作られているが、いつも私が使っている紙の十分の一くらいしかない。ファンヌを見ていると、オレンジ色で人参の絵を描いて、黒い枠に白で大根の絵を描いて、私に差し出す。


「もじはわたしがかくんだね」

「にぃたま、おねがい」

「わかった、がんばってみる」


 よれよれの字で「だいこんまんどらごら」と入らずに、「だいこん」や「にんじん」や「かぶ」とだけ書いたネームプレートでも、ファンヌとの共同作品として、カミラ先生は大いに褒めてくれた。


「とてもよくできました。水や日光で劣化しないように魔術をかけておきましょうね」


 基本的に、カミラ先生は、私がすることも、ファンヌがすることも、否定することはない。その分、伸び伸びと私たちは勉強ができて、これが苦しいことやつらいことだという気持ちは全くなかった。

 今日は何をさせてくれるのだろうと、毎日が楽しみなくらいだ。

 植えた畝にネームプレートを挿すと、カミラ先生がその様子をネックレスについている魔術のかかった小さな金色の装飾プレートで、記録してくれていた。


「りったいえいじょうになるの?」

「そうですよ。これをオリヴェルに見てもらわないといけないでしょう?」

「おにいちゃんがみてくれるの?」


 カミラ先生が親し気にしてくれるので、二人きりのとき以外は「あにうえ」と呼ばなければいけないことを、私はすぐに忘れてしまう。言い間違えても、カミラ先生はそれを咎めたりしなかった。

 立体映像は寝る前にお兄ちゃんに通信するときに送ってくれるという。それが楽しみでならないが、私にはずっと気にかかっていたことがあった。


「カミラせんせいは、かぎをあけるまじゅつはつかえますか?」

「鍵開けですか……壊す方が得意ですが、難しい結界が張られていないものならば、できないこともありません」


 答えを聞いて、私は思い切ってアンネリ様の遺品を収納してある倉庫のことを口にした。


「アンネリさまのいひんが、おやしきのはなれのそうこにあつめられてます。アンネリさまのめいにちに、おにいちゃんになにかわたしたくてさがしたんですが、かぎがかかっていてはいれなかったのです」


 あのときは結局セバスティアンさんに助けてもらって、アンネリ様の遺品も貰ったが、倉庫の中身については、ずっと心に引っかかっていた。


「毒殺の証拠があるかもしれないと思うのですね」

「はい」

「わたくちも、いってみたい」


 ファンヌをカミラ先生が抱っこして、私と手を繋いで、目くらましの魔術をかけて、目立たないようにお屋敷の中を歩いていく。離れの倉庫に辿り着いて、カミラ先生は明らかに眉を顰めていた。


「粗悪ですが、面倒な結界が張ってありますね」

「やぶれませんか?」

「簡単に破れます」

「それなら、そうこのなかみを」

「破れますが、破ったら、結界の魔術をかけた本人に察知されてしまいます」


 倉庫の中にアンネリ様殺害の証拠があれば、それを駆け付けた両親に突き付ければいいだけなのだが、もしなければ、私もファンヌもアンネリ様殺害のことを探っていると発覚してしまうし、カミラ先生はこのお屋敷から追い出されてしまう。

 無理やりに結界を破って、倉庫の中身を検分して、それで証拠が掴めなかったときのリスクが高すぎると、カミラ先生は倉庫を暴くことを躊躇っていた。


「察知されない方法があればいいのですが、なかなか難しいですね」

「ほかのしょうこをさがしてから」

「そうですね。他に証拠を固めて、最終的な確証を得る段階になるまでは、触れない方が良いでしょう」

「オリヴェルおにぃたん、かえってこれないの?」


 うるりとファンヌの瞳が潤む。それにつられて、私も泣きそうになってしまった。

 どれだけお兄ちゃんが安全な場所で、勉強もできているとはいえ、一緒に暮らせない時間が伸びるのは、寂しすぎる。お兄ちゃんと一緒にいたい。そう思っているのは、私とファンヌだけではないだろう。お兄ちゃんもきっと私たちと一緒にいたいはずだ。


「ほかのしょうこ……」

「例えば、呪いを生業とする魔術師に、ご両親が依頼をした証拠でもあれば」


 ぽつりと呟いたカミラ先生に、私はしょんぼりと座り込んでしまった。

 アンネリ様が亡くなったのは、私が産まれる前で、その頃の父の動きなど、私が知るはずがない。なにか分かりやすく名前でも書いていればいいのだがと考えて、私ははっと息を飲んだ。


「おなまえが、かいてあるって!」

「どこにですか?」

「まじゅつには、こんせきがのこる、それはおなまえをかいているようなものだと、おにいちゃんがいっていました」


 魔術はかけたものの痕跡が残る。それはどうしても消せないもので、使用者が死んだ後も残っているとお兄ちゃんは言っていた。

 アンネリ様の遺品には手を出せないが、私はアンネリ様に魔術がかけられていたかを調べる方法を思い付いてしまった。


「おはかまいりに、おにいちゃんはいかせてもらえなかったっていっていました」

「お墓! そうでした、遺体にもかけられた魔術の痕跡が残ります」


 お兄ちゃんがアンネリ様のお墓参りに行かせてもらえなかったのは、魔術の痕跡を調べられたらまずいと両親が思っていたからではないのだろうか。体面を気にする両親ならば、亡き母の墓参りに行くお兄ちゃんの姿は、同情をかうので見世物にしたがりそうなのに。


「そうなると、お墓を掘り返さなければいけませんね」

「わたくち、スコップ、ちゅかえまつ」

「ファンヌちゃんのスコップは上手ですが、お墓はそんなに簡単には掘り返せないのですよ」


 墓を掘り返すには法的な手続きがいるとカミラ先生は教えてくれた。

 法で守られていなければ、墓荒らしが頻繁に行われてしまう。


「カミラせんせいのまじゅつでどうにかなりませんか?」

「魔術を万能だとは思わないでください」

「すみません……」


 珍しく否定されてしまったが、カミラ先生はどこか悪戯に微笑んでいた。


「時間はかかりますが、手がないことはありません」

「ほんとうですか?」

「できうの?」


 墓を暴かずに、アンネリ様の遺体を調べる方法。

 策が、カミラ先生にはあるようだった。

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