人参マンドラゴラがオリヴェルを助けてから
ファンヌの人参マンドラゴラのお話の続きです。
在りし日の幼い男の子は背が高く伸びて大きくなっていた。
青い目の少年は薬草市で見つかった。捨てられたのだと聞いたときは人参マンドラゴラのどこだか分らない胸が張り裂けそうになったが、無事に青い目の少年と同じ色の目の女性に保護されて、オースルンド領の魔術学校の寮に落ち着いたので一安心。
人参マンドラゴラは自分の主人となった薄茶色の髪の女の子とその兄の薄茶色の髪の男の子と共に、この家の主夫婦が自分を植えてくれた痩せた手の持ち主を殺した証拠を探すことになった。
マンドラゴラを追いかけて捕まえる薄茶色の髪の男の子を見守ったり、薄茶色の髪の女の子に抱っこされて青い目の少年との通信を聞いたり、人参マンドラゴラは人参マンドラゴラなりに協力をしているつもりだった。
青い目の少年と共に探した倉庫の中で見つけたガラスの水差し。
「母が、枕元に毎晩置いていた水差しです」
「覚えているのですか?」
「これを見て、今思い出しました」
ガラスの水差しを見て呟いた青い目の少年に、同じ色の瞳の女性は水差しを復元させて手を翳す。魔術を読み取っているのだと人参マンドラゴラにも感じられた。
「毒の呪いがかかっています」
「母は、毎晩、少しずつ毒に侵されて死んでいったのですね……」
「おにいちゃん、わたしのははうえが……」
「真相が分かって、すっきりしたよ」
青い目の少年と薄茶色の髪の男の子が話していると、倉庫の外が騒がしくなった。屋敷の主夫婦が結界が破られたことに気付いて駆け付けたのだ。
言い争う主夫婦と青い目の女性。
やって来た警備兵を前に青い目の女性と薄茶色の髪の男の子がガラスの水差しを主夫婦に突き付けた。
「ルンダール領の偽りの当主、あなたを、前当主アンネリ様殺害の容疑で、告発します」
「な、なにを!? 証拠があるのか?」
「これにみおぼえがあるでしょう、ちちうえ、ははうえ!」
言い逃れをしようとした主は青い目の少年にナイフを突き付けて人質にしようとする。今こそ青い目の少年を助けるときだ。
薄茶色の髪の男の子の肩掛けのバッグの中から蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラとゴボウマンドラゴラが飛び出していく。ポシェットの隙間から覗いていた人参マンドラゴラもすかさず飛び出した。
「びゃあああああああ!」
「ぎょええええええええ!」
「ぎょわああああああ!」
「びぎょわああああああ!」
四匹で力を合わせて『死の絶叫』を奏でる。青い目の少年たちは同じ色の瞳の女性に守られていたが、『死の絶叫』を受けた主はナイフを落として頭を抱えて座り込んだ。
逃がさないために人参マンドラゴラは、大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラとゴボウマンドラゴラと協力して主夫婦の周囲をぐるぐると回った。
「ちちうえ、ははうえ、つみをみとめてください」
「私は何もしていない!」
「嘘よ! このひとが全部やれって言ったのよ」
仲間割れを始めた主夫婦に薄茶色の髪の女の子がポシェットから太い棒を取り出した。
「ふんぬー!」
「うわー!?」
振り下ろした棒が主夫婦の足元の地面に大穴を空ける。
薄茶色の髪の男の子に糾弾されて、薄茶色の髪の女の子の振り回す棒に脅されて、主夫婦は遂に罪を認めたのだった。
「またおにいちゃんとくらせるよ!」
「イデオン、ファンヌ、ありがとう」
「オリヴェルおにぃたん、だいすち」
抱き締め合う兄弟を人参マンドラゴラは感慨深く見詰めていた。
主夫婦の子どもたちだったので薄茶色の髪の男の子と女の子は追い出されてしまうかと心配したが、そんなこともなく二人はルンダール家の正式な養子として迎えられて、青い目の少年の弟妹になった。
自分の仕事は終わった。
立ち去ろうとする人参マンドラゴラを止める影があった。
「びゃびゃ!」
「びょえ?」
薄茶色の髪の男の子が飼っている蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラとゴボウマンドラゴラが人参マンドラゴラの前に立ち塞がっていた。
「びょえ……」
「ぎょえ!」
これからはあの女の子のために生きるんだ。
そう説得されて人参マンドラゴラは廊下を振り返った。
「にんじんたん、どこー? どこにいるのー?」
愛らしい声が人参マンドラゴラを呼んでいる。
戻らねばならない。
自分にはまだやらなければならないことがある。
「びゃい!」
返事をして子ども部屋に戻ると薄茶色の髪の女の子は大事そうに人参マンドラゴラを抱き締める。
最初は自分を植えてくれた痩せた手の持ち主とその息子である青い目の少年のためにこのお屋敷に戻って来ようと思った。今は自分を求めてくれる薄茶色の髪の女の子のために生きていこうと決めた。
「カミラてんてー、このこ、おっちくならないの」
「なんででしょうね。オースルンド領の庭に生えていたのも不思議なのですが」
何故人参マンドラゴラがオースルンド領の領主のお屋敷の庭に連れ帰られたのか、そこで長く長く眠っていたのか、青い目の女性も知らないようだった。
「長く放置されていたようなので、栄養が足りなくて大きくなれないのかもしれませんね」
「おおちくなれないの? おっちくなくても、わたくちのだいじなにんじんたんよ」
大きくなれなくても構わないと抱き締める薄茶色の髪の女の子。
この子と共に長く長く生きて行くことになるのをそのときの人参マンドラゴラは予測もしていなかった。
これで番外編はお終いです。
引き続き七章をお楽しみください。
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