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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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30.ヨアキムくんの本当のお母さんは

 用事があると直接お屋敷に来ることが多いダンくんから魔術を介してお手紙が届いたのは冬休みの最中だった。もうすぐお兄ちゃんのお誕生日が来て数日遅れでヨアキムくんのお誕生日が来る。お兄ちゃんの誕生日プレゼントは毎年悩むのだが、今年はお兄ちゃんからリクエストが来ていた。


「あの歌を歌って、ファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんとマンドラゴラたちを踊らせてくれないかな?」

「そんなことで良いの?」

「13歳のときのお誕生日のことを思い出せて嬉しいんだ」


 そういうわけで私は声楽とピアノの練習を毎日真面目に続けていたのだけれど、ダンくんやミカルくんには声楽の件は伝えていなかった。歌と植物に関する魔術の才能があると分かったもののそれをどう伝えれば良いのか分からなかったからだ。

 お手紙には丁寧にアイノちゃんのお誕生日のことが書かれていた。

 読んでいくうちに一人では決められないと子ども部屋に走る。お兄ちゃんもついてきて子ども部屋には私とお兄ちゃんとファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんが集まった。


「カミラ先生は?」

「もうすぐ授乳で休憩を取っていらっしゃると思いますよ」


 リーサさんに聞けばカミラ先生もちょうどやって来るところだった。ビョルンさんも呼んでもらってみんなの前で手紙を読む。


 イデオン・ルンダール様へ

 冬休みをどうお過ごしでしょうか。

 もうすぐ末の妹のアイノが産まれて一年になります。

 アイノの出産にはイデオン様の配慮もあり、ビョルン様やエレン様の助けがあって健康に産まれてくることが出来ました。

 アイノの誕生日はヨアキム様と同じ日です。

 ベルマン家とルンダール家で合同のお誕生会を開きませんか?

 カミラ様やビョルン様によろしくお伝えください。


 読み上げるとヨアキムくんが黒いお目目を丸くしていた。


「ぼくのおたんじょうびをアイノちゃんといっしょにおいわいしてくれるの?」

「そう書いてあるね。カミラ先生、ビョルンさん、どうでしょう?」


 お手紙を見せてカミラ先生とビョルンさんに問いかけると、二人はヨアキムくんを傍に呼び寄せた。椅子に座って授乳をしながらも伏せた目をカミラ先生がヨアキムくんに向ける。


「ヨアキムくんのお誕生日です。ヨアキムくんが決めて良いですよ」

「ぼくが……ぼく、アイノちゃんとおいわいしたいです」


 はっきりとお返事をしたヨアキムくんにビョルンさんが便箋と封筒を持ってきてくれる。私の分だけでなくヨアキムくんの分もあった。


「イデオンくん、お返事をよろしくお願いします。ヨアキムくんも自分の言葉で良いから書いてみようか」

「はい、おへんじします」


 二人で子ども部屋のテーブルについてお手紙のお返事を書き始めた。今年のヨアキムくんのお誕生日は賑やかになりそうな予感がしていた。

 先に来たお兄ちゃんのお誕生日は貴族たちの前で挨拶をする恒例行事があった。エディトちゃんとコンラードくんとカミラ先生とビョルンさんの周囲はサンドバリ家のひとたちとベルマン家のひとたち、カリータさんにデニースさんと親しいひとたちで固めていたので嫌な言葉が聞こえることもなかった。


「ヨアキムくんを私の養子とする話を進めております」

「それは横暴ではありませんか? ヨアキムはアシェル家の直系です」


 直系?

 どういうことだろう。

 お兄ちゃんを見上げると小声で説明してくれる。


「魔術師は血統でしか引き継がれないから、血の繋がりを大事にするんだ。直系っていうのは代々当主を出してきた一族のこと」

「魔術の強さによっては親戚が家を継ぐこともあるでしょう?」


 いとこ同士やそれに近い関係だと貴族の家は親戚内で一番魔力の強いものを跡継ぎとするという決まりがあった。愚かな私の父は私をルンダール家の跡継ぎにしようとしていたけれど、魔力の才能は生まれながらに決まっている。お兄ちゃんが一番強くて、次がファンヌ、私は兄弟の中でも一番下だった。女性のファンヌに継がせたくはないし、お兄ちゃんに継がせたら自分たちが追い出されると分かっているからこそ、私の両親はお兄ちゃんを亡き者にして私にルンダール家を継がせようとした。

 あの両親の思惑は崩したが今は私はルンダール家の子どもになっていて、将来はお兄ちゃんの補佐になりたいと思っているので結果的には同じかもしれないが、両親を追い出したという過程が全く違った。


「ヨアキムくんは代々継いできた一族の魔力の強い子だったんだよ」

「それなら、何故ヨアキムくんに呪いを纏わせて、両親は命が危なくなるようなことをしたの?」


 小声で話している私たちに答えをくれたのは、意外にもカミラ先生だった。


「ヨアキムくんは捕えられた両親の子どもではありませんね? 正確には母親の子どもではない、庶子だった。子どものいなかった両親はヨアキムくんを家に迎え入れたけれど、次の子どもができるまでの繋ぎとしてでしかなかったのではないかと思っています。きっと、ヨアキムくんの魔力に嫉妬した母親は呪いをかけさせてヨアキムくんを暗殺用に育てて殺してしまおうとしたのです」

「そんな、言いがかりです」

「こちらでも養子にする資料を作る際にしっかりと調べさせていただきました」


 牢獄に囚われているヨアキムくんの母親は本当の母親ではなかったということ!?


「庶子ってなぁに?」

「夫が浮気をしてできた、妻にとっては実子ではない子どもかな、この場合は」


 お兄ちゃんの説明で私は理解ができた気がした。

 2歳のヨアキムくんは物凄く愛らしかった。こんなに愛らしい子どもにどうして呪いをかけるようなことが両親はできたのか。それが母親と血が繋がっていない不義の子どもだったのならば、母親はヨアキムくんを憎んで呪いをかけて死んでもいいから私たちを殺すように仕向けることもできたのだろう。


「ヨアキムくんの本当のお母さんは……?」


 私と同じ疑問をヨアキムくんも抱いたようだった。


「ぼくのおかあさんは、だれなんですか?」

「あなたを愛して命を懸けて育ててくれた乳母さんだったことが判明しました。子どもを奪われても側にいたいと呪いがかかっていることも分かっていながら命懸けで育てて命を落としたようです」

「うばは、おかあさんだった……」


 大きな黒いヨアキムくんの目からぽろぽろと涙が零れる。泣くヨアキムくんをファンヌが抱き締め、エディトちゃんが頭を撫でていた。

 お兄ちゃんの誕生日では新しい事実が分かったが、ヨアキムくんはますます乳母さんを大事に思うようになったようだった。


「らいねんおはかまいりにいくときには、おかあさんってよぶよ。カミラせんせいもおかあさんだけど、うばのこともおかあさんってよんでいいでしょう?」

「もちろんですよ。ぜひ呼んでください」


 呪いがかかった子どもを恐れもせずに愛情をかけて育てた乳母さんの正体はヨアキムくんの実のお母さんだった。本当の愛情があったからこそ命を懸けてヨアキムくんを育てることができた。

 その愛情に私は感動して涙ぐんでしまった。

 ヨアキムくんのお誕生日にはダンくん一家を呼んでお祖父様も呼んで、ルンダール家で一緒にお祝いをした。


「ぼく、もうすぐカミラせんせいとビョルンさんのこどもになるの。ちちうえとははうえってよばなきゃ」

「無理に呼ばなくてもいいんですよ」

「ううん、よびたいんです」


 嬉しそうなヨアキムくんは自分が牢獄に囚われている母親の実の子どもではなかったことなど全く気にしてはおらず、乳母さんがお母さんだったことを喜んでいるくらいだった。

 よちよちと歩き始めたアイノちゃんの手を繋いでエディトちゃんが話しかけている。


「こえ、ブーたん」

「ぶー」

「こえ、ダーたん」

「だー」

「こえ、こーたん」

「こー」

「こえ、ニンたんとスーたん」


 自分のマンドラゴラと弟のコンラードくんとコンラードくんのマンドラゴラのニンちゃんとスイカ猫のスーちゃんを紹介していく。こくこくと頷きながらアイノちゃんは真剣に聞いていた。

 暖かいお茶を飲んでケーキを食べてお祝いをして、遂に私が歌を披露する場面になった。

 音楽室にみんなで来てもらってピアノの椅子の高さを合わせて練習した曲を弾き始める。大きく息を吸って歌いだすとマンドラゴラがぐるぐると回って踊り出した。スイカ猫も南瓜頭犬も踊りの輪の周りを駆け回っている。


「魔力を感じる……イデオン、魔術を使えるようになったのか?」

「ちょっとだけ。歌に私の才能があったみたい」


 歌い終えたらダンくんから言われて私はセシーリア殿下の前で歌ったときのマンドラゴラの突撃があの歌のせいだったと説明した。


「とても上手だったよ。最高のお誕生日プレゼントをありがとう」

「アイノちゃんもエディトも楽しそうに踊っていました」


 ピアノを弾きながら歌うのは二つの動作を一度にするので余裕がなくて見られなかったが、お兄ちゃんが撮っていた立体映像を確認するとアイノちゃんもエディトちゃんもお尻を振り振り可愛く踊っていた。


「ファンヌが小さい頃を思い出しちゃった」

「可愛かったよね」

「今も可愛いし、イデオンも可愛いよ」


 こうしてヨアキムくんとアイノちゃんの誕生日は過ぎて行った。

 新年にはヨアキムくんはカミラ先生とビョルンさんの養子になる。

 このことがまた新しい騒動を生むなどそのときの私は知らずに暢気に喜んでいた。

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