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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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29.お墓参りとヨアキムくんへの提案

 毎年冬に私たちはアンネリ様とレイフ様とヨアキムくんの乳母さんのお墓参りに行く。今年も冬休みに入って粉雪のちらつく季節となった。

 アンネリ様の花は薔薇園から咲き残っている赤い薔薇の花束を、ヨアキムくんは薔薇園で薔薇を選んで色とりどりの花束を作ってもらう。レイフ様の分は花を売っているお店でブルースターを買う。


「オースルンドのお屋敷にブルースターが咲いていました。レイフ兄上はそれが大好きでした」


 亡き兄を語るカミラ先生はどこか寂し気だった。

 毎年のようにヨアキムくんの乳母さんの墓地から先にお参りに行く。墓石の周りを掃除しなくても今年は管理人がいたので墓石は綺麗に保たれていた。


「ぼく、ようねんがっこうのいちねんせいになったよ。ファンヌちゃんもいっしょ。ミカルくんもいっしょ。おべんきょうもできるし、がっこうでのろいをつかったこともないよ」


 報告するヨアキムくんにカミラ先生が厳しい表情で口を開いた。


「少し前からですが、アシェル家からヨアキムくんを返せと言う要求が来ています」

「ぼく、アシェルけのこどもじゃないです。ルンダールのこどもです」

「分かっています。しかし、ヨアキムくんをルンダール家の養子にはしなかった。将来ファンヌちゃんと結婚するようなことがあれば養子同士と言われてしまう危険性がありましたので」


 私たちには明かしていないがカミラ先生はアシェル家から何度もヨアキムくんを返せと言われ続けていたようだった。

 それが遂にアシェル家が国王陛下に申し出た。


「ヨアキム・アシェルは自分の家系の子どもだから速やかにアシェル家に返すようにという要求書が出されています。セシーリア殿下や感知試験紙のこともあって、国王陛下はルンダール家に甘くしてくださっていますが、平等に考えればヨアキムくんをアシェル家に戻せと言う嘆願書には一理あります」

「ぼく、アシェルけにもどらないといけないの? ルンダールけにくるまえのこと、うばといぬとおはなのことくらいしかおぼえてないよ」


 2歳でルンダール家にやって来たヨアキムくんにとってはルンダール家での暮らしが全てだろう。全身に呪いを纏わせた両親は捕まってその親戚が今はアシェル家の当主となっているというが、そのひとがまたヨアキムくんに何かしないとも限らないのだ。


「ぼく、もどりたくありません」

「ヨアキムくんをもどらせないで、カミラせんせい」


 ひしっとヨアキムくんに腕を絡めたファンヌも必死に言って来る。マフラーをしても風は冷たく耳が痛むくらいだった。白い吐息が沈黙の中風に消える。


「一つ、私とビョルンさんから提案があります」

「なんですか?」

「ヨアキムくんを私とビョルンさんの養子に迎えることです」


 カミラ先生はオースルンド領の出身でルンダール家の人間ではない。養子になってしまうとヨアキムくんはオースルンド領の子どもになってしまうが、カミラ先生とビョルンさんが許せばこのままずっとルンダール家にいられることになる。


「オースルンド家としてもルンダール家の子どもと婚姻で縁が結べるのは嬉しいことです。ただ、私とビョルンさんがお母さんとお父さんになりますし、私の母と父がお祖父様とお祖母様になりますが、良いですか?」

「ぼく、エディトちゃんのおにいちゃんになるっていうこと?」

「そうです。オースルンドの養子に来ますか?」


 実子が既に二人いるカミラ先生とビョルンさんだ。ヨアキムくんを養子にすることには悩んだのだろう。ずっと言い出せなかったことを言ってくれた雰囲気にヨアキムくんが凛と顔を上げる。


「なります。ちちうえ、ははうえ、よろしくおねがいします」

「よかった……ヨアキムくんがどこにもいかないわ!」

「父上だなんて、ヨアキムくん立派になって」


 涙ぐむビョルンさんは呪いを解く段階からヨアキムくんに関わっているので思い入れがひとしおなのだろう。カミラ先生が手を伸ばしてヨアキムくんを抱き締める。


「可愛がるから、覚悟してくださいね?」

「私もたくさん可愛がります」

「いままでも、いっぱいかわいがってもらっていました」

「それでも、人様のお子さんだから我慢していたのですよ」


 抱き締めるカミラ先生にエディトちゃんが近寄って顔を覗き込んでくる。


「よーたん、えーの、にぃに?」

「そうですよ。本当のお兄ちゃんになります」

「にぃに! えーのにぃに!」


 カミラ先生の養子になるということはオースルンド領を通して書類を出すということで手続きは面倒になりそうだったがヨアキムくんはファンヌと手を繋いで嬉しそうだった。


「アシェルっていうの、ぼくはぜんぜんわからなかったの。ぼくはルンダールけのこどもだとおもってたの」

「オースルンドけのこどもになるけど、わたくしとはこんやくしゃよ?」

「うん、ずっといっしょ」


 可愛いやり取りにカミラ先生は目頭を押さえていた。

 続いて行ったアンネリ様とレイフ様のお墓の前には花束を供えてみんなで黙とうした。


「寒いので連れて来られませんでしたが、第二子のコンラードも順調に育っています。エディトもこの通り元気いっぱいです」

「なぁに?」

「この下にカミラ様のお兄様と奥様が眠っていらっしゃるんだよ」

「まっまのにぃに、ねんね?」

「そうだよ」


 報告するカミラ先生に首を傾げているエディトちゃん。エディトちゃんにはビョルンさんが優しく教えている。ヨアキムくんが「なぜ」「なに」期絶頂だったときにもビョルンさんは色んなことを教えてくれた。


「エディトちゃん、ぼくがいっぱいおしえてあげる」

「にぃに?」

「うん、ぼくがおにいちゃんだよ」


 まだ養子の書類は通っていなかったがヨアキムくんはすっかりとエディトちゃんのお兄ちゃんのつもりだった。お墓の前でお兄ちゃんが私の肩を抱く。


「研究課程に入りました。残り3年と少し頑張っていくつもりです」


 お兄ちゃんの言葉に気付いてしまう。

 当主代理としてカミラ先生がいてくれるのは残り三年と少ししかない。


「カミラ先生はお兄ちゃんが研究課程を卒業したら、すぐにオースルンド領に帰るんですか?」


 その頃にはまだ私は13歳で魔術学校の二年生でお兄ちゃんを助けられるような能力も地位もないだろう。セシーリア殿下の婚約者ということで多少は権力を示せたとしてもそれが実力ではないことは分かっているし、仮初の婚約がそれまで続いているかどうかも分からない。


「一年ほどは補佐として残ろうと思っています。その後はビョルンさんに数年間は残ってもらおうと思っています」

「ビョルンさんが残るんですか!?」

「話し合った結果なんですが、オースルンド領のお屋敷から移転の魔術で通えない距離じゃないから、エディトもコンラードもみんなに会いたいだろうし、連れて出勤するような感じにしようかと思っています」


 研究課程をお兄ちゃんが卒業した後一年はカミラ先生とビョルンさんが補佐としていてくれて、その後も数年はビョルンさんが通ってきてくれる。カミラ先生も時々顔を出してくれる。それを聞くとお兄ちゃんはほっとしたようだった。


「これだけ私が手をかけた場所を簡単に見捨てるようなことはできません。それにファンヌちゃんやヨアキムくんの成長も見守りたいのですよ」


 自分たちはカミラ先生とビョルンさんの実の息子と娘のようだと言っていたヨアキムくんとファンヌ。ヨアキムくんのことはカミラ先生とビョルンさんは本当に養子にしてしまう気でいるし、私たちのことも大きくなってからも見守ってくれるという。 

 ありがたい申し出を私たちは喜んで受けることにした。

 新年までに早急に書類が作られて、新年のパーティーでヨアキムくんがカミラ先生とビョルンさんの養子となったことがお披露目できるように二人は手続きを進めてくれていた。


「ぼく、ヨアキム・オースルンドになるんだよ」


 嬉しそうなヨアキムくんの笑顔に、アシェルという家がヨアキムくんにとって本当に全く興味のなかったものだったのだとよく分かる。2歳からルンダールの家で育ったヨアキムくんはルンダールの子どものようなものだった。


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