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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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19.洞窟へピクニック

 シャワーを浴びて朝ご飯を食べて日に焼けないように長袖と長ズボンを着て頭にはしっかりと帽子を被る。


「カミラせんせい、いってきますー!」

「ビョルンさん、エディトちゃんのことは、わたくしがまもります!」

「ぱぁぱ、まっま、ちぇきまつ!」


 元気よくカミラ先生とビョルンさんに手を振ってお兄ちゃんがエディトちゃんを片手で抱っこして、もう片方の手で私と手を繋いで、私がヨアキムくんと手を繋いで、ファンヌがヨアキムくんと手を繋ぐ。全員がしっかりと手を繋いだ状況で移転の魔術は発動した。

 移転の魔術は基本的にどこか指標(ポータル)と呼ばれる魔術のかかった目標がないと正確な場所に飛べない。薬草採取のために目的地の洞窟のすぐ近くの小屋に指標が設置してあるということでそこまで飛んだ。

 日差しが強くて舗装していない土の道は乾いて土埃が舞い上がっていた。太陽の光が容赦なく照り付けて来る。


「あちゅい」

「洞窟まで行けば涼しいから、そこで一休みしようか」

「あい。あんよ、すゆ」


 抱っこされていたエディトちゃんは歩きたいようでお兄ちゃんの腕から降ろされていた。エディトちゃんをファンヌとヨアキムくんが両側から手を繋いで、お兄ちゃんと私は前を行く三人を見ながら歩いていく。洞窟までは小屋から一本道なので迷うこともなかった。

 乾いた荒野に熱い風が吹く。舞い上がる土埃が口に入ってエディトちゃんが咽る。道には木の杭が立てられてロープが張られているが、荒野は低木がぽつぽつと生えるだけで遠くまで見通しが良かった。

 洞窟の中に入るとぴちょんぴちょんと水滴が落ちる音がする。私とファンヌはお兄ちゃんからお誕生日に貰ったランタンの灯りを付けて、ヨアキムくんがお兄ちゃんから借りた筒状のライトを点ける。魔術の光が薄暗い洞窟の中を神秘的に照らし出した。

 見上げると乳白色の鍾乳石が上から垂れ下がっている。


「しゃわる!」

「残念だけど、抱っこしても届かないと思うよ」


 飛び跳ねて鍾乳石に触りたがるエディトちゃんは、ぴちょんと垂れて落ちて来た雫に驚いてひっくり返ってしまった。


「ちゅめた!」

「エディトちゃん、だいじょうぶ?」

「びくりちた」


 ファンヌに起こしてもらってエディトちゃんは青いお目目を真ん丸にしていた。

 洞窟は地面の岩が階段状になっていて、降りていくと下に行けば行くほど温度が下がって涼しくなる。途中の道の暑さでかいた汗が引いていくようだった。

 ある程度中に入るとお兄ちゃんは洞窟の岩の上に敷物を敷いて全員が座れるようにした。


「ここからの眺めがすごいんだ」


 ぱちんと一度両手を合わせてお兄ちゃんが魔術を編む気配がする。編み上がった魔術で生まれた大きな灯りが洞窟のドーム状の天井近くまで上がって行った。仄かに黄色みを帯びた灯りにつららのように垂れ下がる乳白色の鍾乳石が照らし出される。

 きらきらと光を反射する鍾乳石に私は息を飲んだ。


「綺麗……」

「すごーい! オリヴェルおにいちゃん、とてもきれい」

「すずしいし、たのしいね」

「おー! おー!」


 感動しているのは私だけではない。ファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんも上を見上げて歓声を上げていた。


「薬草を採取したのはどこ?」

「もっと奥だけど、そこまでは危ないからいかないよ」

「あんぜんなんじゃないの?」

「手前の方はね。奥は雨水が溜まってる可能性があるから行っちゃだめだよ」


 お兄ちゃんに言われて私もファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんもこくこくと頷いて了承した。階段のようになっている岩を降りては登っているうちに私たちは一つのことに気付いた。


「あ!」

「わー!」


 足音が反響しているのでもしかするとと思って声を出すと、声も反響して聞こえる。


「オリヴェルおにいちゃん、こえがくりかえしてきこえるの」

「反響って言うんだよ。こういう狭い場所だと、壁に当たった音が返って来るんだ」

「はんきょう、すごいね!」


 ファンヌもヨアキムくんも興奮して声を出して見ている。エディトちゃんは説明が分からなかったのかずっと不思議そうな顔をしていたけれど、「おー!」とか「あー!」とか声を出し続けていた。

 お昼ご飯を食べる時間になって敷物を敷いた岩に集まったところでエディトちゃんがマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんをポーチから取り出した。栄養剤を上げて一緒に食事をするつもりだったのだろう。

 しかし、急にダーちゃんとブーちゃんが洞窟の奥の方に走り出す。


「だーたん! ぶーたん!」

「エディト、奥に行っちゃだめだよ!」


 捕まえようとお兄ちゃんが走り出したので私もファンヌもヨアキムくんも走り出した。その瞬間だった。

 轟音を立てて洞窟の天井が崩れて落ちて来た。呆気に取られている私の胴を抱えて、ファンヌとヨアキムくんも捕まえてお兄ちゃんが大急ぎで奥へ奥へと逃げる。天井から落ちて来た岩に洞窟内を照らしていた魔術の灯りが消えて、私もファンヌもランタンを落として、ヨアキムくんもライトを落としてしまって辺りは真っ暗になった。

 少し走ってお兄ちゃんの足首が水に浸かるような低い奥まった場所に来たところで、お兄ちゃんは私とファンヌとヨアキムくんを突き出した岩の上に降ろした。その岩の端っこでエディトちゃんがダーちゃんとブーちゃんを抱き締めて震えていた。


落盤(らくばん)……? いや、そんなこと起きる場所じゃないのに」


 状況が分からないお兄ちゃんも混乱してはいたがもう一度魔術を編んで光りの球を作り出して周囲を照らした。しんと静まり返った洞窟の中。天井が崩れた影響はこちらまでは出ていなかった。


「な、何が起きたの?」

「洞窟でよくある事故なんだけど、落盤が起きたみたいだ」

「落盤って?」

「洞窟の天井が崩れて落ちることだよ」


 そんなことが起こりそうにない安全な場所だからこそビョルンさんのお墨付きで私たちは送り出されたのではなかっただろうか。


「らくばん……だれかがおこしたの?」

「その可能性が高いね」


 私たちがこの洞窟にいるのを嗅ぎつけた誰かが洞窟に閉じ込めようと落盤を起こした。ヨアキムくんの疑問にそう考えた方が自然だとお兄ちゃんは答えた。

 マンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんは不審者の気配を感じ取っていち早くエディトちゃんを避難させようと逃げ出したのだ。灯りで照らされている範囲で見てみると私たちが座っていた辺りは崩れた岩で埋まっている。あのままあそこに座っていたら命が危なかったかもしれない。


「だーたん、ぶーたん……こあい……」

「ダーちゃんとブーちゃんに感謝しなきゃ」


 命を狙われた恐怖で震えているエディトちゃんの腕に抱き締められているダーちゃんとブーちゃんに私は心から感謝した。それにしても洞窟に閉じ込められているという現状は変わらない。


「お兄ちゃん、どうする?」

「移転の魔術で帰れると思うよ。ピクニックは台無しにされてしまったけれど」


 お兄ちゃんがエディトちゃんを抱っこして、私と手を繋いで、私とヨアキムくんが手を繋いで、ヨアキムくんとファンヌが手を繋ぐ。閉じ込めることが目的ならば移転の魔術の使えるお兄ちゃんがいる時点でその計画は失敗だった。

 目的は落盤で私たちの命を奪うことだったのだろう。

 フォルティスセプスの毒で狙われたのは私だけだったが、遂に私だけではなく他の家族まで巻き込んで私を始末しようとするなんて。許せない怒りがわいてくる。

 移転の魔術でお屋敷に戻るとお兄ちゃんは私たちを連れてすぐにカミラ先生とビョルンさんに状況を説明しに行った。


「あの洞窟で落盤が起きました。恐らく仕組まれたものです」

「みんな無事ですか?」

「エディトのマンドラゴラがいち早く危険を察知したので平気でした」


 ほっと胸を撫で下ろすカミラ先生に対して、ビョルンさんは厳しい表情を崩さない。


「すぐに事故現場の検証にひとを向かわせましょう」

「お願いします」

「オリヴェル様は、イデオンくんとファンヌちゃんとヨアキムくんとエディトを守ってくださってありがとうございました。みんなでお茶でも飲んで休んでください」


 ビョルンさんに言われて私たちは昼食を食べ損ねてしまっていたことに気付く。あんなことが目の前で起きたばかりだったので空腹など感じなかったが、何か食べておいた方が良いだろう。

 厨房でスヴェンさんに簡単な食事を用意してもらってお茶と一緒に摘まんで食べる。


「私を狙うだけじゃなくなったのかもしれない」

「イデオン、どうにかして犯人を捕まえないといけないね」


 夏休みが開けたらコンラードくんが生後一か月になってからお披露目のパーティーがある。そのときにも真犯人は仕掛けてくるだろう。

 そこで捕まえてしまわなければずっと暗殺の陰に追いかけられているようで、私は決着を付けたかった。

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