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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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16.命名、コンラードくん

 産まれて来た赤ちゃんには名前の候補が幾つかあったようだった。

 カミラ先生とビョルンさんの寝室にエディトちゃんが呼ばれて、私とファンヌとヨアキムくんが見守る中、家族三人で話し合いの場が持たれた。


「エリオット、ラルフ、コンラード……」

「カミラ様のお兄様の名前をいただいてレイフというのはどうでしょう?」

「うーん、そうですね、どうしましょうか、エディト」


 家族の話し合いにしっかりと混ぜてもらったエディトちゃんはマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんを置いて、腕組みをして一生懸命考えていた。


「マクシミリアン、ジークヴァルド……長い名前は呼びにくいですね」

「女の子の名前なら幾つか考えていたのですが、男の子はレイフ様からいただくことしか考えていなくて」

「それでは息子にレイフ兄上の名を背負わせてしまうようで」


 話し合う夫婦にエディトちゃんが「あい!」と手を上げた。


「こんあーお!」

「コンラードですか?」

「あい、こーたん!」

「カミラ様、エディトの意見を尊重しませんか」

「そうですね。親よりも兄弟の方が最終的に付き合いも長くなります」


 こうして生まれた男の子の赤ん坊の名前は決まった。


「エディトの意見を参考にして、コンラードになりました。みんなよろしくお願いしますね」

「こーたん!」

「コンラード、お父さんですよ」


 抱っこされて初めて名前を呼ばれてもコンラードくんはすやすやと健やかに眠っていた。

 予定日よりも早めの出産だったのでコンラードくんは小さく産まれて来たがカミラ先生のお乳をよく飲んでよく眠っていた。産まれてから一か月はカミラ先生もビョルンさんも休みをとって育児だけに専念するようだった。

 エディトちゃんはカミラ先生がしばらく寝室からあまり出て来ないので、マンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんを連れてカミラ先生の寝室に通っていた。リーサさんも一緒に行くのでカミラ先生やビョルンさんの負担になることはない。


「こーたん、えーんえーん!」

「コンラードが泣いていますか……ビョルンさん、すみません、オムツを見てください」

「分かりました。カミラ様は休んでいて」


 夜も短いときには一時間毎に授乳しなければいけないカミラ先生は一日中眠そうで、食事の後はシャワーを浴びてすぐにベッドに入っていた。残された私たちは食後にお茶を飲んだり焼き菓子を摘まんだりして寛ぐのだが、エディトちゃんはコンラードくんのことが気になるようで寝室まで訪ねて行っていた。自分の腰までくらいありそうな階段を一段一段「おいちょ、おいちょ」と登って寝室に通うエディトちゃんが落ちないか心配で私もお兄ちゃんも見守ってしまうが、転びそうになるとダーちゃんとブーちゃんが協力してエディトちゃんを支えて助けていた。

 マンドラゴラは可愛がれば可愛がるほど忠義心に目覚めるようだ。

 ある程度年季の入ったマンドラゴラをコンラードくんには渡せるように私とお兄ちゃんは出産の翌日にはマンドラゴラの畝に向かっていた。私の大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラと南瓜頭犬を出して畝に呼びかける。


「コンラードくんと一緒に暮らしたい子は出てきてー!」

「びょええ!」

「びょうびょう!」

「びゃわん!」


 呼びかけに応じて来たのは意外にも別の畑から抜け出してきていたスイカ猫と人参マンドラゴラだった。スイカ猫の登場には驚いたけれど当人がやる気ならば受け入れることにする。

 人参マンドラゴラとスイカ猫をよく洗って子ども部屋に連れ帰った。


「コンラードくんにはニンジンマンドラゴラとスイカねこなの?」

「おなまえはどうするの?」


 ファンヌとヨアキムくんに聞かれて私はエディトちゃんを人参マンドラゴラとスイカ猫の前に連れて来た。エディトちゃんのときにはマンドラゴラの名前はファンヌが付けた。コンラードくんのときにはエディトちゃんが付けるのが一番良いのではないだろうか。

 コンラードくんの名前もエディトちゃんが選んだのだから。


「エディトちゃん、人参マンドラゴラとスイカ猫にお名前付けてくれる?」

「えー、ちゅけう?」

「うん、お願いします」


 お願いするとエディトちゃんは一生懸命口をへの字にしてお名前を考えてくれた。


「にんたん! すーたん!」


 ビシッと人参マンドラゴラとスイカ猫を指さして宣言するエディトちゃん。


「ニンちゃんと、スーちゃんだね」

「かわいいおなまえ。エディトちゃんすばらしいわ」

「えーすばらち!」


 拍手をして讃えるヨアキムくんとファンヌにエディトちゃんは満足そうな顔をしていた。まだ新生児のコンラードくんとは遊べないけれど、定期的に栄養剤をもらってニンちゃんとスーちゃんは育てられることになる。

 将来コンラードくんの遊び相手になることが決まっているニンちゃんとスーちゃんは使命感があるのかコンラードくんが子ども部屋のベビーベッドで寝ていると何度も覗き込んで顔を確かめていた。

 最初はくしゃくしゃの真っ赤な顔で目も良く開いていなくて目の色も分からなかったけれど生後一週間もするとコンラードくんはビョルンさんと同じ緑のお目目だということが分かった。お乳をたっぷり飲んでいるのでしわしわだったのがちょっと中身が詰まって来たように感じられる。


「エディトちゃんはビョルンさんの髪の色と顔立ち、カミラ先生のお目目だけど、コンラードくんはカミラ先生の髪の色とビョルンさんの目の色だね。顔はどっちに似てるかな?」

「どっちにしてもかっこよく育ちそうだよね」


 ベビーベッドを見ながら私とお兄ちゃんもついにこにこしてしまう。産まれる前にはあんなに不安で憂鬱な様子だったエディトちゃんも生まれた後はコンラードくんが可愛くてたまらないようすだった。


「こーたん、こーたん、ねぇねよ?」


 お手手を舐めて眠りかけているコンラードくんに話しかけるエディトちゃんも可愛くて天使かと思う。


「お兄ちゃんも、こんな風に私たちが可愛かったの?」

「物凄く可愛かったよ」

「私、ファンヌのこともヨアキムくんのことも天使のように可愛いって思ってたけど、エディトちゃんがコンラードくんを可愛がるのを見てると同じくらい可愛いって思っちゃうんだけど」

「僕も誰が一番なんて優劣付けられないくらいみんな可愛いよ。イデオンは特別だけど」


 特別と言われて9歳にもなって私はにやけてしまう。

 嬉しくて幸せでお兄ちゃんもこんな風に私を可愛がってくれていたのかと実感することができる。

 自分のことを慕ってくれる2歳の男の子。それは可愛かったことだろう。その頃ファンヌはまだ1歳にもなっていなかったが、間違いなく可愛かったに違いない。


「お兄ちゃんが私と出会った年まで後三年か」

「その頃にはイデオンは魔術学校に入学しているよ」


 お兄ちゃんは冬の生まれで私にあったときには12歳で幼年学校の卒業の年だったけれど、私は幼年学校を卒業して春休みになってからしかお誕生日が来ない。学年で一番遅い生まれなので、誕生日が来たらすぐに魔術学校の入学式になってしまう。


「ファンヌは13歳で魔術学校に入ることになるの?」

「入学式よりも誕生日が早いだろうからね」


 学年で一番生まれの遅い私に比べてファンヌの方は学年で一番生まれが早いので春休みの間にお誕生日が来て入学式の頃にはもう13歳になっている計算になる。

 生まれ月が一つずれていて、数日誕生日が違うだけなのに狡いような気もするが、どこかで学年を区切らなければいけないので仕方がないのだろう。


「今週末からは僕はエレンさんの診療所に実習に行って、泊まり込みの日が二日あるけど、イデオン、大丈夫?」


 夏休みはまだ続いていてその間にお兄ちゃんは診療所での実習を終えなければいけない。エレンさんの診療所での実習が終わる頃には夏休みも終わりに近づいているだろう。


「寂しいけど、平気」

「最後の一週間は全部休める予定だから、イデオン、ファンヌとヨアキムくんとエディトとやりたいことを考えておいて」

「お兄ちゃん、休まなくて良いの?」

「僕も研究課程の間しか遊べないかもしれないから、満喫したいんだ」


 お兄ちゃんに言われて私はやりたいことを思い浮かべる。

 夏休みはまだ二週間も残っている。

 一週間はお兄ちゃんが実習に行くので遠出はできないが、最後の一週間はカミラ先生とビョルンさんとコンラードくんは出かけられないかもしれないが、それ以外の私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんは出かけられるかもしれない。

 行きたい場所をみんなで話し合うべく私はお兄ちゃんと二人の部屋から子ども部屋に向かった。

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