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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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9.動物園でリンゴちゃんには出会えずに

 ミカルくんは列車に乗ったことがない。

 きっかけはミカルくんの一言だった。


「おれ、れっしゃにのってみたいなぁ」


 移転の魔術で行こうかと計画していた動物園は急遽、列車に乗って行くことになった。時間はある程度かかるが特急列車に乗るので海沿いの街に行くまではない。朝に列車に乗ればお昼までには着く。


「じいちゃんがいっしょにきてくれたんだ」

「お祖父様、忙しいところをすみません」

「二人が動物園で楽しむところが見たくてね」


 笑み崩れているお祖父様はヨアキムくんとファンヌにも囲まれていた。

 ビョルンさんとエディトちゃんとカミラ先生と私とお兄ちゃんが同じ個室席で、ダンくんとミカルくんとヨアキムくんとファンヌとお祖父様とリーサさんが同じ個室席に分かれた。

 エディトちゃんのお世話もあるしカミラ先生のお腹も大きくなっていたのでリーサさんはついてくると言って譲らなかったのだ。こういう日くらいは休んで欲しいものだがリーサさんにとってはエディトちゃんやヨアキムくんやファンヌと一緒にいる方が良いようだった。

 列車を喜ぶミカルくんにヨアキムくんやファンヌが色々と話しかけて隣りの個室席は盛り上がっているようだった。「おじいさま」とヨアキムくんやファンヌがお祖父様に話しかけているのも聞こえる。

 子ども特有の高い声も個室席ならば他のお客さんの邪魔にはならなかった。

 揺れる列車の中でエディトちゃんが何度も麦藁帽子の角度を調整している。かつてファンヌが使っていた麦藁帽子はエディトちゃんには少し大きいのかすぐに下がって来てしまうのだ。大好きなファンヌのお譲りということでお気に入りのエディトちゃんはそれを脱ごうとはせずに小さな両手で支えるようにして被っていた。

 初夏とはいえ晴れていると日差しが強い。私もお兄ちゃんも布のハットを準備して来ていた。ダンくんとミカルくんは私のプレゼントした魔術のかかったキャップを使ってくれている。ファンヌもヨアキムくんも可愛い布のハットを被っている。

 列車を降りると馬車が駅に待っていて、それで動物園まで向かった。

 動物園ではカミラ先生が私たちの分の入場券を買い、お祖父様がダンくんとミカルくんの入場券を買う。再入場できるように特殊なインクで手にスタンプを押してもらった私たちはお兄ちゃんやお祖父様に魔術で手を翳してもらって、それぞれどんな動物が浮かび出るかを楽しんでいた。


「ライオンだ!」

「ねこちゃん?」

「ヨアキムくん、トラよ? わたくしは、ウサギでした」

「ファンヌちゃんいいなぁ」


 ミカルくんとヨアキムくんとファンヌの一年生トリオが話をしている。

 私のはアヒルでお兄ちゃんはミカルくんと同じライオンだった。ダンくんはヤギだ。


「ぶー?」

「蕪じゃなくて、豚さんですよ」

「ぶー、いーなー」


 スタンプがマンドラゴラではないことを不満に思っているエディトちゃんがマンドラゴラのブーちゃんとダーちゃんを小脇に抱えているのを見て私はヨアキムくんとファンヌの触れ合い動物園での事件を思い出してしまった。

 ヨアキムくんが撫でていたウサギがファンヌの人参マンドラゴラの葉っぱを食べて大きくなってしまって、処分されるかもしれないという情報を聞いてカミラ先生にお願いして動物園から譲ってもらった。あの惨劇を繰り返してはいけない。


「エディトちゃん、ダーちゃんとブーちゃんはポーチに入れて?」

「だー、ぶー、いっと」

「ダーちゃんとブーちゃんが食べられちゃうよ!?」

「だー、ぶー、あむ!? だー、ぶー、めぇ!」


 葉っぱを食べられた人参マンドラゴラはとても落ち込んでいた。マンドラゴラにとっても葉っぱを食べられることはショックなのだろう。説明するとダーちゃんとブーちゃんが食べられる危険性に気付いたエディトちゃんは大急ぎでダーちゃんとブーちゃんをウサギのポーチに収納していた。

 これで危険は去った。


「イデオンくん、ありがとうございます」

「私たちが言っても聞かなくて」


 カミラ先生とビョルンさんに感謝されたが優しいお母さんとお父さんなのだからエディトちゃんは甘えているのだろう。全てを肯定されて来たからファンヌもヨアキムくんも自信満々で元気に過ごせている。それを考えるとカミラ先生とビョルンさんは態度を変えることなく、こういう注意したり叱ったりするのは私やお兄ちゃんが受け持てばいい気がしていた。

 甘えることが難しくて引っ込み思案だったヨアキムくんも最近は私のお膝に乗って来るくらい自然に甘えているのだ。こういうことは大事にしていきたい。


「じいちゃん、ぞうがみたい!」

「私も動物園には初めて来たんだよ」

「お祖父様もですか?」

「勉強ばかりさせられていて、こういう風に遊んだことがなかった。来られて嬉しいよ」


 ミカルくんとダンくんと手を繋いで相好を崩しているお祖父様の様子にほのぼのしながら私たちはまず休憩所でお弁当を広げてお昼ご飯を食べた。サンドイッチを食べ終えて冷えた果物を食べながらどこを回るか計画を立てる。

 屋根のある休憩所でも差し込む日の強さが夏の兆しを示していた。


「ぞうときりんはぜったいみたい! ふれあいどうぶつえんにもいきたい!」

「鳥の放鳥スペースにも行きたいな。ライオンも虎も見てみたい」


 動物園は初めてのダンくんとミカルくんの意見は取り入れるとして、その他に見たいものがないか冷凍ミカンをしゃりしゃり食べているエディトちゃんの方を見る。


「ぺんじん」

「ペンギンだね。他は?」

「ふあみんご」

「フラミンゴか。放鳥スペースにいたと思う」


 聞き取りをして行くコースを決めていく。


「最初に草食獣コーナーで象とキリンとシマウマを見て、途中のペンギンのプールでペンギンを見ましょう」

「その後で肉食獣コーナーで虎とライオンを見て、放鳥スペースだな?」

「うん、最後は触れ合い動物園で遊んで」


 その後に魔物の研究施設に行くことになる。

 ダンくんと打ち合わせを終えて顔をあげると期待する目でミカルくんが私たちを見ていた。


「ふれあいどうぶつえんにはウサギがいるんだろ……リンゴちゃんみたいなウサギ、おれもいっぴきもらえないかなぁ」


 あれ?

 リンゴちゃんみたいなウサギ?

 リンゴちゃんはウサギとしては大きすぎるのだがミカルくんはそのことに気付いていないようだった。私もリンゴちゃんが身近にいるので少し引っかかっただけでその場は終わらせてしまった。

 草食動物コーナーで象を見てミカルくんとダンくんが仰け反る。


「でかいなー!」

「にいちゃん、はなでくさもって、たべてる!」

「本当に鼻を使うんだな」


 感動の声を上げるダンくんとミカルくんを見てお祖父様もにこにこしている。

 キリンを見たときにはエディトちゃんの興奮がすごかった。


「お! おお! おおおお!」


 言葉にならないのか見上げて歓声を上げるエディトちゃん。あまりに大きすぎて首が痛くなるくらいみんな仰け反っていた。ビョルンさんが肩車しても全然届かない高さにある頭を見てエディトちゃんは檻越しに触りたそうに手を伸ばしていた。

 ペンギンは初夏の暑さにばてているかと思ったら意外とプールで泳いで元気だった。プールで泳ぐ様子をエディトちゃんがうっとりと柵にしがみ付いて眺めている。眺めているうちにリボンのついた麦藁帽子が下がってきて、それを上げて眺めて、また下がって来た麦藁帽子を上げて眺めているエディトちゃんは可愛すぎる。

 畑仕事を毎朝しているので帽子の大切さはその年にして身に染みていて、我が儘で外したりすることはないのだ。

 肉食獣コーナーはエディトちゃんにはちょっと怖かったようだ。何よりも肉食獣は独特の匂いがする。


「くちゃーい! やぁ」


 鼻を押さえるエディトちゃんにファンヌもヨアキムくんも口には出さないが同感だったようで鼻を押さえていた。ミカルくんとダンくんは口に出した手前嫌とは言えなかったのか見ていたが、夜行性のライオンも虎もお腹を見せて寝ていて威厳どころではなかった。

 放鳥スペースは大きな鳥籠の中に私たちが入るような形で自然に暮らしている鳥を見ることができる。フラミンゴが片足を上げているのを見てエディトちゃんは拍手をしたり、鳥が通路を歩いていくのを見て立ち止まったりして楽しんだ。

 たっぷりと動物を見た後は触れ合い動物園に移動する。


「え? これが、ウサギ?」


 ぴょんぴょんと跳ねておやつのキャベツを欲しがるウサギに囲まれて、ミカルくんは立ち尽くしていた。


「リンゴちゃんみたいにでかいのは?」

「リンゴちゃんはとくべつなのよ。わたくしのにんじんさんのはっぱをたべたから」

「マンドラゴラもってくればよかったー!」


 がっくりと項垂れるミカルくんにこれが普通のウサギなのだと言い聞かせても納得できない様子だった。リンゴちゃんを見慣れているせいかヨアキムくんも以前のことをすっかり忘れていたようで「ウサギさん?」と首を傾げていた。

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