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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
六章 幼年学校で勉強します!(四年生編)
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8.ダンくんとミカルくんも動物園に

 幼年学校の休み時間、校庭でファンヌとヨアキムくんとミカルくんとダンくんと話していると、動物園の話になった。以前に動物園に行ったときには私はまだダンくんやミカルくんとは出会っていなかった。


「イデオン、動物園に行くのか。いいなぁ」

「おれ、いったことない」


 ダンくんもミカルくんも動物園には行ったことがない様子で羨ましそうにしていた。


「にいさま、ダンくんとミカルくんもいっしょにいったらだめかしら?」

「ベルマン家に話を通さないといけないけど、一緒に行きたいね」

「ミカルくん、ぼく、リンゴちゃんをもらってきたの」

「え!? リンゴちゃんはどうぶつえんからもらってきたの!?」


 リンゴちゃんか馬が欲しいとずっと言っていたミカルくんはそれですっかり乗り気になってしまったようだった。ダンくんに何度も「にいちゃん、おれもいきたい」と強請り、ダンくんも「俺も行きたいなぁ」と言っていたので、帰ったらカミラ先生に聞いてみることにして家に帰った。

 研究課程の授業が忙しいのでお兄ちゃんの迎えはなく、私はファンヌとヨアキムくんと馬車に乗る。馬車は保育所でエディトちゃんとリーサさんを乗せてお屋敷まで戻った。

 お屋敷ではエディトちゃんがハイハイをしていた頃の名残で入口で靴を脱いでルームシューズに履き替える風習が残っている。あの時期にお屋敷中の床が磨かれ、子ども部屋の絨毯は取り換えられて、エディトちゃんがハイハイをしても汚くないように清潔に保たれた。

 次の赤ちゃんのためにもこの風習は続けていて良かったと思う日が来るだろう。

 帰って来た私が部屋に上着を置いて手を洗ってカミラ先生の執務室を訪ねると、ファンヌとヨアキムくんだけでなくエディトちゃんもマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんを抱っこして並んでついてきていた。

 図鑑で見たことのあるカルガモの親子が頭を過って、一列に並んでいるファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんの姿が妙に可愛く思える。

 カミラ先生とビョルンさんがエディトちゃんが産まれてもエディトちゃんを贔屓したりせずに今までと同じように私たちを可愛がってくれたから、私にとってはエディトちゃんは妹のような可愛い存在になっていた。

 何よりもファンヌもヨアキムくんもエディトちゃんもお顔がものすごく可愛くて、仕草も存在も天使のように可愛いのだ。自分がファンヌに似ているから四年生になっても幼年学校で「お姫様」と呼ばれているなんてことは私は知らないふりをしておく。


「カミラ先生、お時間宜しいですか?」

「お帰りなさい、みんな。一人一人、抱き締めさせてください」


 研究課程で忙しいお兄ちゃんが「行ってらっしゃい」と「行ってきます」のハグはしてくれるけれど、「お帰りなさい」のハグはできなくなっていることにカミラ先生も気付いてくれている。私も含めて一人一人「お帰りなさい」のハグをされて擽ったいような、恥ずかしいような、嬉しいような気分になる。


「私も良いですか?」


 順番待ちしていたビョルンさんからもぎゅっと抱き締められた。

 抱っこはお兄ちゃんにしかされないがこんな風に抱き締めてもらうのは悪くない。エディトちゃんはマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんも差し出してカミラ先生とビョルンさんに「お帰りなさい」のハグをしてもらっていた。

 マンドラゴラのダーちゃんとブーちゃん含めて全員が抱き締めてもらった後で本題に入る。


「ミカルくんとダンくんは動物園に行ったことがないって言っているんです」

「わたくし、ミカルくんとダンくんといっしょでもたのしいとおもうの」

「いっしょにいっちゃだめ?」

「め?」


 私とファンヌとヨアキムくんとエディトちゃんでお願いをするとカミラ先生は快く応じてくれた。


「ベルマン家のご両親かボリスさんについてきてもらって一緒に行ってもいいでしょう。ただし」


 カミラ先生が少し声を潜める。


「毒の件に関して魔物を研究している場所で話を聞く間は別行動になるかもしれません」


 毒の話は私に関することでダンくんとミカルくんには関係ない。

 本当にそうなのだろうか。

 新年のパーティーでダンくんとミカルくんは私が毒を口にして倒れるところを見ているし、お祖父様と一緒に私の意識が戻るまで心配して待っていてくれた。


「ダンくんとミカルくんにはあの事件は貴族社会の闇を見せるような恐ろしいものだったと思います。だからこそ、これからも貴族社会で生きていく中でこういうこともあるのだと知った方がいいのではないのでしょうか」


 ベルマン家に入って食べるものにもお金にも困らずに暮らせるようになったダンくん一家だが、貴族社会にはどうしても逃れられない闇がある。できる限りルンダール領では事件が起きないようにはしていきたいが、それにダンくん一家が巻き込まれる日が来ないとも限らない。

 いずれ来るのならば先に貴族社会の闇を知っておいた方が良いのではないか。

 そう主張する私にカミラ先生は逡巡しているようだった。


「ダンくんもミカルくんもまだ10歳と6歳でしょう……イデオンくんのように賢いわけではないですし、恐怖ばかりが残らないか心配です」

「私は賢い……?」

「イデオンくんは賢いですよ。それにファンヌちゃんもヨアキムくんもイデオンくんの賢さに隠れてしまいがちですが、年の割りには賢いです」


 9歳の私が事件解決に乗り出しているのだからダンくんやミカルくんも当然理解できることだと考えていたその当時の私はかなり甘かった。


「それでも、闇を見せずに貴族社会に私が引きずり込んでしまった形にはしたくありません」


 ベルマン家の跡継ぎがダンくんだったらルンダール領をお兄ちゃんが継ぐときにかなり強力な協力者となる。生きる気力を失っていたお祖父様にダンくんとミカルくんを養子にするように言ったときに、私はそのことも計算していなかったわけではなかった。

 私の打算も込みで貴族となることを受け入れてくれた親友のダンくんに隠しごとはないようにしたかった。


「分かりました。ベルマン家のボリスさんと話し合ってみましょう」


 私の言葉をカミラ先生は真摯に聞いてくれた。

 部屋に戻るとお兄ちゃんが帰って来ていた。上着を脱いでクローゼットにかけて、荷物を置いている。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」

「わっ! 待って。先にシャワー浴びて来るから」

「え?」


 「お帰りなさい」のハグを拒まれてしまってショックを受ける私にお兄ちゃんが説明する。


「薬草採取で洞窟に入ったんだけど雨水がたまっててずぶ濡れになっちゃって。魔術で乾かしたけど、汚いから先にシャワーを浴びて来るね」


 着替えを持ってバスルームに入って行くお兄ちゃんを私は見送った。

 バスルームの前で待っているとバスタオルで髪を拭きながらお兄ちゃんが出て来る。両腕を広げるとしっかりと抱き締められた。向日葵駝鳥の石鹸の爽やかな香りがする。


「ただいま、イデオン」

「お帰りなさい、お兄ちゃん」


 ハグをしてようやくホッとすると部屋まで歩きながらカミラ先生に話したことを話していく。


「ダンくんとミカルくんも動物園に一緒に行くことになったんだ」

「初めてかな? きっと楽しいだろうね」

「魔物を研究してる場所で、毒の説明を聞くときにも同席してもらうようにお願いした」

「毒のことも? 大丈夫かなぁ」


 お兄ちゃんもカミラ先生と同じくダンくんやミカルくんに恐怖だけを植え付けないか心配していた。

 恐怖だけを植え付ける結果になっても、貴族社会で恐ろしい暗殺事件が起こりかねないのだということは知っていて欲しい。アンネリ様は毒の呪いで殺されて、レイフ様は魔術具をすり替えられて病気に罹って亡くなって、お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も馬車に魔物を呼び寄せる呪いをかけられて亡くなった。

 ルンダール領はカミラ先生のおかげで平和を保っているが、実のところ謀略の中にあったのだ。そのことを知らせずに貴族社会にダンくんとミカルくんの身を置かせるのはあまりにも不公平な気がしていた。


「知ることで身を守れるかもしれないからね」


 最終的にはお兄ちゃんも私の考えに賛成してくれた。


「色変わりキャベツの苗を植えたでしょう?」

「あれがどこまで使えるか実験しないといけないね」


 鱗草は魔術での呪いを感知するが魔物の毒に対しては感知しない。鱗草を使って毒を緩和することはできても、先に調べることは難しい。

 その点色変わりキャベツは魔術を関係なく人体に害のあるものを検出すると色が変わるのだから使い道は広がる。ただキャベツを持って歩くことはできないので煮出した汁でどこまで使えるかを実験しなければいけない。

 まだ苗の段階なので育ってからではないと実験もできないが、やるべきことは山積みで動物園に行くのも私は無邪気に喜んでだけはいられなかった。


「そういえばお兄ちゃんは今日はどんなところに行ったの?」

「すごく美しかったんだよ。イデオンとも行きたかった」


 胸に下げた魔術具で立体映像を展開させて見せてくれるお兄ちゃん。宝石のような鍾乳洞の光景に見入っていた私は、いつかここに行きたいと思うのだった。

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