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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
五章 幼年学校で勉強します!(三年生編)
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31.国王陛下が素直になる方法

 起きる時間はいつもより遅いのに頭が痛くて欠伸が出る。ヨアキムくんとファンヌに至っては頭がぐらぐらしていた。お兄ちゃんの誕生日当日なのに前日夜更かしを強いられた私は朝から眠くてたまらなかった。

 私がこうなのだから昨日私と会わせるために起こされていた女の子たちは眠いし身体は怠いしきついだろう。貴族社会とはあんなものだと分かっているけれど巻き込まれる子どもは可哀そうだった。

 朝ご飯を食べている間もぼーっとしている私とヨアキムくんとファンヌに、お兄ちゃんは午前中のことをカミラ先生と話していた。


「午前中は部屋で休んでいましょうか」

「今夜も舞踏会ですものね」


 そうなのだ。

 成人のお祝いのパーティーは一夜で終わらない。今夜はさすがに日付が変わってからも続くようなパーティーではないが、日付が変わるくらいまではパーティーが予定されている。

 眠すぎてご飯を食べるのも難しい私はお兄ちゃんに抱えられて部屋に戻ってベッドに入れられて、ヨアキムくんとファンヌはリーサさんに部屋に連れ帰えられて寝かされた。

 朝から寝ているのは調子が狂ってしまうが眠いのだから仕方がない。お布団を被って目を閉じると私は眠りに落ちて行った。

 寝ている間にお兄ちゃんとセシーリア殿下のダンスが何度も頭の中で再生された。体の大きなお兄ちゃんに身を任せる細身のセシーリア殿下のふわふわとしたドレスのスカートが優雅に舞う。お似合いの二人だという声が聞こえた気がした。ダンスを踊る二人を国王陛下が菫色の瞳でじっと睨み付けている。

 あぁ、どうすればいいのだろう。


「イデオン、お昼ご飯だよ。起きられそう?」

「ん……起きる」


 お兄ちゃんに声をかけられて目を覚ますとお日様はすっかり真上に上っていた。冬の日差しは弱く、南方にあるルンダールよりも王都は寒い気がする。室内は魔術の火の点ったストーブで暖められているが、ストーブから離れるとやはり底冷えがして私はぶるりと震えた。

 お手洗いに行ってからカミラ先生とビョルンさんとエディトちゃんの部屋に集まると人数分の食事が用意されていた。カミラ先生たちの部屋はいわゆるスイートという部屋で寝室ともう一部屋違う部屋が付いている。そこにテーブルと椅子を運び込んでもらって食事はみんな一緒にしていた。


「今日までの辛抱ですからね。明日には帰れますから」

「はぁい」

「がんばりましゅわ」


 眠気で二人ともろれつが回っていない。

 ヨアキムくんとファンヌは毎日の生活リズムを壊されて苦しんでいるようだった。


「ファンヌとヨアキムくんも今日は部屋で寝ていた方がいいんじゃないですか?」

「その方がいいかもしれませんね」


 昨日の感じだと今日のパーティーも大きな波乱はなくあっさりと終わりそうな気がして提案した私にカミラ先生も同意する。


「わたくしがいなくてもへいき?」

「ぼく、ふこうなれ、するよ?」

「しなくていいから」


 それが一番問題なのだがヨアキムくんは気付いていない純真な黒いお目目で呟いていた。

 午後まで眠るとヨアキムくんもファンヌも夜に眠れなくなるのでエディトちゃんと一緒にお散歩に行く。外は寒いのでマフラーと手袋をきっちりとつけて私とお兄ちゃんも散歩に出た。


「イデオン、昨日は国王陛下とセシーリア殿下の話を聞いてたよね」

「それなんだけど、気になることがあって」


 話し出そうとした私を遮るように10歳くらいの少年がヨアキムくんとファンヌの元に駆けて来た。周囲を見ると他の部屋に泊っている貴族の親子が庭に出ていたようだ。


「どっちがルンダールの子かな? どっちも可愛いから、二人ともお嫁さんにしてあげてもいいんだけど」


 この男の子は何を言っているのだろう。


「一人は妾になるけど、仲良しだから大丈夫でしょう?」

「めかけ? なぁに?」

「ヨアキム様、聞かなくて構いません」

「二人とも僕が可愛がってあげるってこと」


 リーサさんがヨアキムくんとファンヌとエディトちゃんと連れて去ろうとするが男の子はしつこくついてくる。


「僕はノルドヴァル家を継ぐかもしれないんだよ?」


 ノルドヴァル家の子どもはまだ幼年学校に入らないくらいだと言われていたがこの年の男の子もいたのか。それでもセシーリア様と結婚するには年が若すぎるから国王陛下は選ばなかったのだろう。

 選ばれなかったこの子は何を勘違いしているかファンヌとヨアキムくんを狙っている。


「ぼくのファンヌちゃんにちかよらないで!」


 ファンヌの手を握ろうとした男の子とファンヌの間に入ってヨアキムくんが睨み付ける。


「危ない!」

「は? うわぁ!?」


 男の子がなんの前触れもなく転んだ。ヨアキムくんを怒らせてしまったようだ。呪いが発動した男の子は降り出した小雪に濡れた土に顔を突っ込んでいた。


「リーサさん、ヨアキムくんとファンヌを連れて行って!」

「エディト、お部屋に帰ろう!」

「あい!」


 その間に私はリーサさんに声をかけて、お兄ちゃんがエディトちゃんを抱っこして部屋に帰った。


「あの子、大丈夫かな?」

「部屋に備え付けてあるのは向日葵駝鳥と青花の石鹸とシャンプーだからお風呂に入れば呪いは解けると思うけどね」

「そうか……石鹸とシャンプー役に立ってる」


 部屋に戻ってマフラーと手袋を外しながらお兄ちゃんに問いかければ答えが返ってきて私は安心する。お兄ちゃんもマフラーを外してコートをクローゼットにかけていた。私がコートを脱ぐと自然な動作で受け取ってかけてくれる。


「お兄ちゃんは紳士だよね」

「僕が?」

「セシーリア殿下も気に入るんじゃないかな」


 ちょっと拗ねたような声が出てしまった。唇だってきっと尖っている。変な顔になっている私をお兄ちゃんは椅子に座って膝の上に抱き上げる。


「国王陛下に何を言われても、僕はセシーリア殿下とは結婚しないよ」

「断ってもルンダール領は平気なの?」

「そういうことを領地と繋げて考える方じゃない……それに、国王陛下はセシーリア殿下をどこかに嫁がせたいとは思えないんだ」


 お兄ちゃんも昨日の国王陛下の態度で同じことを考えていたようだった。ベランダで聞いてしまった話。


――姉上は年の近い相手に嫁いで、子を産み、育てる、女の幸せを味わってほしい

――わたくしはそれが幸せとは思いません

――王族として生まれた以上、誰かに嫁がねばならないのはお判りでしょう?


 あれが建前で本音は全く違うのだと私にも分かっている。私にわかるのだからセシーリア殿下に分からないはずがない。

 それでも国王陛下としてアンドレア国王陛下は姉のセシーリア殿下を嫁がせることを望まれている。そのことがセシーリア殿下の幸せだと信じ込んでいるのだ。


「どうすれば国王陛下は素直になれるんだろう」

「素直になったところで、周囲との兼ね合いもあるだろうからね」


 国王陛下が素直になってセシーリア殿下を嫁がせないと言えば、セシーリア殿下は結婚できないことになってしまうのだろうか。

 いや、そうではない。セシーリア殿下も結婚できるし、国王陛下の傍にい続ける方法がどこかにあるはずだ。何より、セシーリア殿下はそんなに結婚したそうでもなかった。

 セシーリア殿下が結婚したいと思う相手と自由に結婚できる状態で、国王陛下のお傍にいる方法。

 そんなことは簡単な気がしてしまうのは、私が子どもだからだろうか。


「国王陛下は言えばいいのに」

「セシーリア殿下に結婚するなって? それはお立場として難しいよ」

「そうじゃなくて……」


 お兄ちゃんもどうやらこの方法に気付いていない。

 どう口に出せばいいのか迷っているうちに晩御飯でカミラ先生の部屋に呼ばれた。


「ファンヌちゃんとヨアキムくんはお散歩で大変だったようですね。今日のパーティーは無理をせず早く寝に行きましょうね」

「顔だけ出せばいいですからね」


 ぷくんとほっぺたを膨らませているヨアキムくんはあの男の子に会うのが嫌なのだろう。シャワーを浴びて呪いも解けただろうが、ヨアキムくんの呪いがもう一度かかってしまう可能性もあった。


「できるだけ早くヨアキムくんとファンヌは退場させてあげてください」


 あの男の子と会う前に。

 お願いした私にカミラ先生もビョルンさんも心得たとばかりに頷いた。


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