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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
五章 幼年学校で勉強します!(三年生編)
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29.王都の王城に

 お兄ちゃんの誕生日の前日から私たち一行は王都入りした。移転の魔術で飛んだ先は王城の門の前で警備兵が守りに立っている。魔術を使える警備兵は国の管轄でルンダール領にもたくさんいるのだが王城を守る警備兵は制服も着こなしていて格好いい。


「ルンダール領のカミラ・オースルンド、ビョルン・サンドバリ、オリヴェル・ルンダール、イデオン・ルンダール、ファンヌ・ルンダール、ヨアキム・アシェル、エディト・オースルンド、それに乳母の一行です」

「確認致しました。使用人が客人用の棟に案内いたしますのでお通りください」


 手を翳して自分の魔力を晒すカミラ先生に、触れない程度に手を翳して警備兵は本人であることを確認して使用人を呼んだ。使用人に案内されて客人用の広い棟に案内される。

 お兄ちゃんと私が同じ部屋、リーサさんとヨアキムくんとファンヌが同じ部屋、ビョルンさんとカミラ先生とエディトちゃんが同じ部屋に案内されて荷物を置くと椅子に腰かけて一息ついた。

 残念ながらリンゴちゃんが連れて来れなかったことがヨアキムくんにとってはとても無念だったようだが、あんなに大きなウサギは魔物と間違えられても困るので仕方がない。

 一息ついたらカミラ先生の部屋に集まってみんなでお茶をした。お茶菓子が運ばれてきて良い香りの紅茶とジャムとミルクも運ばれてきて、それぞれに好みに紅茶に入れていく。カミラ先生はジャムだけ、ビョルンさんはミルクだけ、私とお兄ちゃんとファンヌとヨアキムくんはジャムとミルクを、エディトちゃんはミルクにジャムを入れてもらってご満悦で飲んでいた。


「ジャム好きはカミラ様に似ましたね」

「お顔はビョルンさんにそっくりですよ。なんて愛らしい」


 魔力は以前にベッドを持ち上げたことからカミラ先生に似ていると私は確信しているのだが、それは口に出さないことにする。


「おなかのあかちゃんは、カミラせんせいとビョルンさんとどっちににてるのかな?」

「まだ分かりませんね、ヨアキムくん。性別も生まれてみるまで分かりませんから」

「どっちでもかわいいとおもうわ」


 ビョルンさんに問いかけるヨアキムくんにジャムサンドを食べながらビョルンさんが答える。ファンヌの意見に私も賛成だった。カミラ先生も物凄い美人だしビョルンさんは物凄い美形だ。どちらに似ても可愛いに違いない。


「国王陛下がお呼びです。オリヴェル・ルンダール様、カミラ・オースルンド様謁見の間においでください」


 使用人が呼びに来て一同に緊張が走る。


「私たちがいない間、お庭で遊んでいていいですからね」


 客人のための棟には広いお庭が付いていた。その庭で遊んでいていいと言われたのだがお兄ちゃんが心配で気乗りがしない。パーティーの前に到着したことを国王陛下に報告するカミラ先生とお兄ちゃんに、ぞろぞろと子どもがついてきても邪魔だろうというのは分かっているが、どうしても私は落ち着かない気持ちがしていた。


「エディト様と一緒にお庭を散歩しませんか?」

「ぼくもいくの。バラがさいてるかもしれないって」

「わたくしもいきますわ」


 ヨアキムくんとファンヌとエディトちゃんとリーサさんが行ってしまえば、私は取り残されてしまう。ビョルンさんと部屋に残るという選択肢もあったが、ビョルンさんもエディトちゃんとお散歩に行くためにいそいそとマフラーを手に取っていた。

 一人で残っても落ち着かないだけなので私も行くことにしてコートを取って来た。

 庭は広く歩いていると迷路のように生垣が入り組んでいるところもある。ファンヌとヨアキムくんは薔薇のアーチに見惚れているし、エディトちゃんは生垣でマンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんを追いかけている。

 少し離れて歩いていた私が噴水の前に座ると水面を渡った風が冷たくぶるりと震える。そこへふわふわと何かが飛んできた。

 手を伸ばして捕まえると薄くて軽くて暖かなショールだということが分かる。


「風に飛ばされてしまいました……拾ってくださったの?」

「あなたのものですか?」

「えぇ、噴水に落ちてしまうかと思いました。拾ってくださってありがとうございます」


 深々と頭を下げたのは白銀の髪を纏めたお兄ちゃんくらいの年齢の女性だった。この女性の顔を私はどこかで見たことがある。

 すぐにその既視感はなんだったか思い当たる。

 お兄ちゃんと一緒に見た夢の中だ。夢の中では幼くあどけない顔立ちだったが育った彼女は凛として大人っぽかった。


「セシーリア殿下ですか?」

「えぇ、ご存じですのね。ベランダに出て外の空気を吸おうと思ったら風にショールが飛ばされて、急いで出てきました」

「使用人さんに取りに行かせたりしないのですね」

「それは妹……陛下からいただいた大事なものなので」


 受け取るセシーリア殿下の指先は白く細い。手渡すとセシーリア殿下は大事そうにそれを胸に抱いた。柔らかく薄く暖かいショールはセシーリア殿下への愛情が籠った贈り物だったのだろう。


「あなたのお名前を聞いていませんが」

「あ、失礼しました。私はイデオン・ルンダールです。ルンダール家の当主オリヴェル兄上の弟です」

「あなたが、あの向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーを作ったイデオン様ですね」


 おぉ!

 私の名前はセシーリア殿下にも知られているらしい。そう言えばお兄ちゃんよりも私の方が見合いの話が多いということで震え上がったこともあった。セシーリア殿下はルンダール家に養子に来た元ベルマン家の子どもでまだ8歳の私と見合いなどするはずがないけれど、他の誰かから申し込まれたら面倒なことになるに決まっている。できるだけトラブルは避けたいものだ。


「セシーリア殿下は……その……」

「オリヴェル様と結婚を望んでいるか、ですか?」

「は、はい」


 聞いておかなければ落ち着かないと言いだそうとしても言えないことをズバリとセシーリア殿下は口にした。アンドレア国王陛下が即位されてから五年も補佐をしているだけあって聡明な女性のようだ。


「他の親子ほど年の離れた相手と結婚させられるよりは良いと陛下は思っているようですが……」

「国王陛下はセシーリア殿下とおに……兄上が結婚するのを望んでいると!?」

「ルンダールは当主が早逝する事件が続いておりましたが、それも陰謀のせいと分かって、それをイデオン様含めルンダールの方々が解決したので、嫁がせても良いのではないかと仰っていて」


 憂うように眉根を顰めているセシーリア殿下。国王陛下はルンダール家との繋がりを望んでいるがセシーリア殿下はそれを望んでいないのではないだろうか。


――わたくしとて、どこかにいずれ嫁ぎます。それまではあなたの力となります

――姉上、どこにも行かないでください


 夢の中で見た姉妹の会話が私の頭を過る。


「そろそろ部屋に戻らないと。ありがとうございました、イデオン様」


 一礼して王城に入って行くセシーリア殿下を私は見送った。

 部屋に戻るとお兄ちゃんとカミラ先生は戻ってきていた。お庭でたくさん遊んだエディトちゃんは泥だらけでお風呂に入れられることになって、ファンヌとヨアキムくんはリーサさんがエディトちゃんをお風呂に入れている間は私とお兄ちゃんの部屋に来ていた。


「オリヴェルにいさま、こくおうへいか、どんなかただった?」

「とてもお美しい方だったよ」

「オリヴェルおにぃちゃん、いじめられなかったかしら? おにいちゃんになにかあったら、わたくしのほうちょうがだまっていなくてよ!」

「包丁をひとに向けるのはやめてね」


 こういうことがあるからこそファンヌは連れて来て良かったと思う。歯止めのきかないファンヌとヨアキムくんを置いてカミラ先生とお兄ちゃんだけで王都に行ってしまっていたら大変なことになっていただろう。


「お兄ちゃん、セシーリア殿下とお庭で会ったよ」

「お会いしたの? 何か仰ってた?」

「国王陛下はお兄ちゃんとセシーリア殿下との結婚を望んでるのかもしれない」


 口に出すと胸がもやもやとして私は自分が我が儘で自分勝手な嫌な子どもになったような気がする。お兄ちゃんが幸せになるのは喜ばなければいけないのにどうしてもそれができない。


「セシーリア殿下、お綺麗で芯が強くて優しそうな方だった」


 非の打ちどころのないとはあのようなことを言うのだろうか。

 欠点らしい欠点を見つけられなかったセシーリア殿下にお兄ちゃんが惹かれてしまうかもしれない。


「向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーのことも知ってた。私のことも知ってた」

「ルンダールの向日葵駝鳥の石鹸とシャンプーの売れ行きはすごくいいからね」

「お兄ちゃんは……」


 セシーリア殿下を好きになる?

 そんなことを聞いても答えが分からないのは理解できていた。

 それでも不安で口を突いて出そうになった言葉を私は飲み込む。

 お兄ちゃんのお披露目パーティーは今日から明日へと日付を跨いで行われる。

 夜のために部屋に戻ったファンヌとヨアキムくんはお昼寝をしておくようで、私も眠くなりそうだったので晩ご飯までベッドに入って眠っていた。

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