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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
五章 幼年学校で勉強します!(三年生編)
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19.ニワトリメロンの収穫

 ニワトリメロンを収穫するのを手伝ってくれるようにお願いしたらフレヤちゃんもダンくんもミカルくんも快く来てくれた。それだけではなく今回はニワトリメロンの収穫を見学したいというボリスさんまでやってきていた。


「いっしょにくらすようになってから、じいちゃんにやくそうのこと、おれがおしえてやってるんだ。ニワトリメロンもみたいだろうとおもって、つれてきた」

「どうかよろしくお願いします、オリヴェル様」


 養子にしたが孫のようなミカルくんとダンくんが可愛くてたまらないのだろう。にこにこしながら帽子を被るようにダンくんに言われたり、ミカルくんに手を引かれたりしているボリスさんは幸せそうだった。

 本当の孫として酷な選択をしてしまったかもしれないとも思ったが、私の選んだことは間違っていなかったのだと感じさせてくれる。最初に会ったときよりもボリスさんは若々しく見えて、表情も明るくなっている。幼年学校の前で声をかけられたときにはあまりに暗すぎて不審者と断定してしまったが、今ならば声をかけられても誰かのお祖父様だろうと思えるくらいだった。


「お祖父様、美味しいのが採れたら切って食べましょうね」

「私は手伝わなくていいのかな?」

「じいちゃんはウッドデッキですわってて」


 ウッドデッキに座って収穫の様子を見ているボリスさんだが、もう一人の見学者のはずのエディトちゃんはマンドラゴラのブーちゃんとダーちゃんを引き連れて参戦する様子だった。


「ぶー、だー、こっこ!」

「ぎゃぎゃ!」

「びょびょ!」


 ブーちゃんとダーちゃんにニワトリメロンを指さして説明をしているのは私たちの真似をしているのかもしれない。


「ネットを少しずつ外していくから、逃げ出したニワトリメロンは羽の葉っぱととさかの葉っぱを毟って。葉っぱがなくなったらおとなしくなるはずだから」


 ハチドリイチゴも羽根を毟ったら大人しくなったので私もお兄ちゃんもニワトリメロンは羽を毟れば大人しくなるものだと信じ込んでいた。ネットを外した瞬間羽ばたいて飛び上がって逃げようとするニワトリメロンにファンヌが飛び付く。


「こっちに渡して! 葉っぱをむしるわ」

「フレヤおねぇちゃん、おねがい!」


 素早く手を出したフレヤちゃんにファンヌが捕まえたニワトリメロンを渡す。葉っぱを毟って木箱に入れたまでは良かった。次のニワトリメロンを捕まえて葉っぱを毟って私が木箱に入れようとすると中身が空なのである。


「お兄ちゃん、フレヤちゃん、ダンくん、脱走だ!」

「え!? 葉っぱは毟ったのに?」

「あ! 脚があったわ!」


 驚くお兄ちゃんはフレヤちゃんに指摘されて気付いた。ハチドリイチゴの移動手段は羽のようになった葉っぱだけだったが、ニワトリメロンには脚がある。そのことをすっかりと忘れていた。

 今捕まえているニワトリメロンは剪定ばさみでぱちんぱちんと脚を切り落とすと動けなくなってただのメロンとして箱に納まった。逃げ出したニワトリメロンを捕まえたのは意外な人物だった。


「めっ! だー、ぶー?」

「びゃー!」

「ぎょえー!」


 羽根にあたる葉っぱがないので飛び上がって逃げられないニワトリメロンがちょこちょこ歩いて逃げるのを、エディトちゃんとダーちゃんとブーちゃんが取り囲んで逃げ場がないようにしている。手を伸ばしてミカルくんがニワトリメロンを捕まえると、エディトちゃんを絶賛する。


「すごいな! エディトちゃんはちいさいのに、てんさいだ」

「う!」


 褒められて誇らしげなエディトちゃん。ファンヌの小さい頃を思い出して私は微笑ましくなってしまった。

 ヨアキムくんが捕まえたニワトリメロンの葉っぱはお兄ちゃんが毟ってくれる。脚も忘れずに剪定ばさみで切り落とす。ミカルくんが捕まえたニワトリメロンはダンくんが葉っぱと脚の処理をする。

 私が捕まえたニワトリメロンの葉っぱを毟って脚を剪定ばさみで切っているとボリスさんがダンくんとミカルくんのところに来ているのが見えた。


「ミカルくんが捕まえたのかい?」

「そうだよ。にいちゃんがはっぱとってくれるんだ」

「脚も切らなきゃいけないんですよ」


 説明する二人にボリスさんがお兄ちゃんに問いかける。


「私も手伝えることがないでしょうか?」

「ネットを外すのを手伝ってもらえますか。僕が上の方を持ち上げるので、ボリスさんは下の方を」

「分かりました」


 ネットが外されるとまたたくさんのニワトリメロンが飛び出て来る。ミカルくんヨアキムくんファンヌが捕まえては、ダンくん私フレヤちゃんに持ってきて葉っぱを毟って脚を切って、続いてまた少しネットを持ち上げて……作業は小一時間続いた。

 みんなで協力してやったので意外と早く終わったが、それでも全員汗びっしょりになっていた。


「お昼ご飯の時間だからそろそろ帰らないと」

「フレヤちゃん、お土産に持って帰ってよ」

「そんなにいっぱい持てないわ」


 フレヤちゃんの熱中症予防に育てたニワトリメロンだが一つ一つが大きいので何個もフレヤちゃんが持って帰ることができない。それは私の誤算だった。どうしようか悩んでいるとボリスさんが申し出てくれる。


「フレヤちゃんを馬車で家まで送りましょう。ダンくんとミカルくんも帰らないといけないからついでです」

「いいんですか?」

「ボリスさんよろしくお願いします」


 遠慮しそうな雰囲気のフレヤちゃんに私はボリスさんにお願いしてしまった。


「ダンくんとミカルくんの部屋もできました。ベルマン家にも遊びに来てください」


 お誘いを受けて私たちはフレヤちゃんにもダンくんとミカルくんにもニワトリメロンをお土産に渡して馬車を送り出した。残ったニワトリメロンはかなりの量があるがどうするか考えているとお兄ちゃんも同じことを考えていたようだ。


「夏休み明けにはすぐに収穫祭があるよね」

「バザーだ! バザーで売ろう!」

「格安で売ろう。残暑はまだまだ厳しそうだし」


 ルンダール領の夏は暑く秋になってまで暑さが残る。

 汗びっしょりになっていた私たちはニワトリメロンの入った箱を手分けして保管庫に運び、シャワーを浴びて昼食の席に着いた。


「収穫は上手くいきましたか?」

「あい! いこ!」

「エディト、お手伝いしたのですか?」

「う!」


 褒めてくれとばかりにシャワーの名残で少し湿った頭を突き出すエディトちゃんをカミラ先生が撫でている。


「最初は葉っぱを毟れば大人しくなるかと思ったのですが、脚の存在を忘れていました。逃げ出したニワトリメロンをエディトが囲んで動けなくしてくれたんですよ」

「それはお手柄でしたね。オリヴェルもイデオンくんもファンヌちゃんもヨアキムくんもお疲れさまでした」


 労われて私たちはにこにこしながらお昼ご飯を食べた。

 その日のおやつはニワトリメロンでエプロンを着けたファンヌがウッドデッキで私のまな板の上でニワトリメロンを切り分ける。すぱすぱと伝説の武器の菜切り包丁は切れ味良くニワトリメロンの真っ赤な果肉を切り、赤い果汁が飛び散った。


「スプラッタ……」


 ぽつりとビョルンさんが呟いたのに私は内心で同意したが、これはメロンなのだと言い聞かせる。ウッドデッキでみんなで立って齧って食べるニワトリメロンはちょっとお行儀は悪かったがひんやりとした氷菓のようでとても美味しかった。滑らかさはアイスクリームにメロンの歯ごたえを加えたようだった。

 ウッドデッキの屋根で日差しは遮られているが地面から立ち上る空気は容赦なく暑い。そんな中でのニワトリメロンは冷たくて喉を通って体温まで下げてくれるようだった。


「汁が滴るね」

「やだ、カスパル、口の周り真っ赤よ」

「ブレンダだって」


 笑い合うカスパルさんとブレンダさんだけでなく誰もが口の周りが真っ赤になってしまった。一番恐ろしかったのはリンゴちゃんである。相当ニワトリメロンを気に入ったのか皮まで食べて、落ちた果汁までぺろぺろと舐めているのだが、それが鮮血を舐めたかのように灰色の口の周りが真っ赤になっているのが怖い。

 自分の分を食べ終わっても足りないリンゴちゃんはみんなが食べ終えた皮を狙って口の周りが真っ赤なままですり寄って来る。


「リンゴちゃん、ほしいの? どーぞ」


 無邪気にヨアキムくんは皮を上げているけれど、目を煌めかせてヨアキムくんの手に持っている果肉のついた皮に齧り付くリンゴちゃんの勢いにヨアキムくんが食べられてしまうそうな雰囲気がして、私たちは若干の恐怖を感じていた。

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