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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
五章 幼年学校で勉強します!(三年生編)
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17.この国のこと

 お兄ちゃんやカミラ先生から色んなことを教えてもらっていて他の8歳児よりは知識はある方だが、私にも知らないことはたくさんある。その一つがこの国の国王陛下とルンダール領、オースルンド領の他の二つの大きな領地を持つ公爵家のことだった。

 ルンダール領とオースルンド領は隣り合っているしアンネリ様がレイフ様を夫に迎えられてお兄ちゃんというどちらの血も引く子どもが産まれているので関わりが深かった。何よりもオースルンド領とルンダール領は国の中でもルンダール領が最南端、オースルンド領がそれより若干北にあって場所がとても近い。

 残りの二つの公爵家の領地は王都に阻まれた北にあって移転の魔術でも余程力の強い魔術師でないと王都を中継しないと一度には飛べない距離にあった。

 地図を広げてお兄ちゃんが私たちの住む国を示してくれる。

 大陸から離れた島国でオルソン王国と呼ばれる場所。

 北からスヴァルド領、ノルドヴァル領と二つの公爵領があって、王都がありその南にオースルンド領、最南端にルンダール領がある。

 ここまでは幼年学校でも習ったので分かるが具体的にノルドヴァル領やスヴァルド領にどんなひとたちが暮らしていて、特産品は何なのかなどはまだよく分かっていなかった。王都には動物園に行ったことがあるけれど、王城には行ったことがない。


「成人すると四公爵の家の子どもは王城に招かれて交流を持つようになるし、国の重要な会議には四公爵家の当主は出席しないといけないことになってるね」

「国王陛下ってどんなひと?」

「知らなかったのか……。僕もお会いしたことはないんだけれどね、確か僕と年が変わらなかった気がするんだ」

「え!?」


 初耳だった。

 カミラ先生が何度も書類を提出したり会いに行ったりして交渉している国王陛下がお兄ちゃんと同じ年くらいだなんて、私は考えたこともなかった。オースルンド領の領主夫婦のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は60代だからそれくらいだと勝手に思い込んでいたのだ。


「前国王陛下がお体の弱い方で、執務に耐えられなくなって、王太子殿下が12歳のときに王位を譲って、今の国王陛下は12歳から王位に就かれてるよ」

「12歳から……!?」


 12歳で国王陛下なんて大変だったんじゃないだろうか。

 初めて会ったときのお兄ちゃんの年ではないか。その年で王位を譲られて国王として国を統治して行くことの大変さは私には想像もつかないものだった。


「宰相様が確りされてるし、国王陛下の姉君も補佐として支えていたからなんとかなったみたいなんだけど、大変だっただろうね」


 その頃はお兄ちゃんも大変だったので何とも言えないのかもしれない。ルンダール領でアンネリ様が毒殺される事件が起きていても前国王陛下が代替わりする前にはお身体が弱かったというし、現在の国王陛下に代替わりしても一番大変な時期でルンダール領のことは把握していても手を出せなかったのかもしれない。

 私とファンヌがルンダール家の養子となることも認めてくださったし、ダンくんとミカルくんがベルマン家の養子となることも認めてくださったので国王陛下には恩があるけれど、お兄ちゃんと同じ年くらいと聞くと気の毒にすらなってくる。

 お兄ちゃんが16歳になる前にカミラ先生が体調を崩して当主の仕事をすると言ったとき、私は泣いてそれに抵抗した。

 お兄ちゃんには子ども時代がなかった。私の両親のせいで苦労させられてお兄ちゃんは早く大人にならなければならなかった。それをやっと取り戻している時期だったのに、お兄ちゃんが当主の仕事を始めてしまえばもう後戻りはできないような気がしていたのだ。

 もっと自由に子どものままでいて欲しい。

 弟としての願いを込めて私はオースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に助けを求めに行った。

 あの秋の日がもう遠くに感じられるけれど、あの日のことは一生忘れないだろう。初めてお兄ちゃんと言い争いをして泣きながら部屋を飛び出して、お兄ちゃんに抱っこされてオースルンド領に行った日。


「なんだか、国王陛下に同情しちゃう」

「それだけの地位を持って生まれた方だからね」

「子ども時代があったのかな」


 まだ見ぬ国王陛下に私は思いを馳せる。

 成人した暁には国王陛下の元に行くこともあるのだろうが私が成人するまでにはまだ十年も時間が必要だった。

 地図を閉じるとお兄ちゃんが椅子から立ち上がる。


「そろそろニワトリメロンの収穫時期なんだけど、収穫を手伝って欲しいひとはいる?」


 これまでならば一番にダンくんとミカルくんが浮かぶのだが二人はベルマン家の養子になってもうお金に困ることはない。勉強になるから呼んでも良いのだけれど、一番に浮かんだのはその二人ではなかった。


「フレヤちゃん! 熱中症になりかけるって言っていた」

「ニワトリメロンは体温を下げるし、水分も豊富で熱中症対策になるって書いてあったから植えたんだもんね」

「フレヤちゃんを誘って、ダンくんとミカルくんにも声をかけてみよう」


 ニワトリメロンの収穫時期は夏だ。

 熱中症対策になると書いてあったので育て始めたのもフレヤちゃんの家が魔術具を買えないくらいひっ迫していて、熱中症になりかけるというのを聞いていたからだ。その頃ダンくんの家には私の家から魔術のかかった水筒や帽子を分けてあげていたから良かったけれど、フレヤちゃんにはそこまでできていなかった。

 誕生日お祝いに上げた水筒や帽子も根本的な解決にはならない。

 何よりフレヤちゃんの家がそうならば他の農家も同じような状況ではないかと考えられるのだ。

 ニワトリメロンの栽培方法を覚えて種を収穫して周辺の農家に分けられたら少しは現状が変わるのではないか。ニワトリメロンの可能性に私は期待していた。


「こっこ! めー!」

「逃げ出してた、エディトちゃん!?」


 育ち具合を確かめようとニワトリメロンの植えてある畑に行くと、蔓を切って逃げ出そうとしているニワトリメロンを一匹、走って行ってエディトちゃんがしっかりと抱き付いて捕まえた。マンドラゴラのダーちゃんとブーちゃんと追いかけっこをするようになってから、エディトちゃんは脚力が付いて足が速くなった。


「めっ!」

「捕まえてくれてありがとう、エディト。そろそろネットをかけないといけないね」

「こっこ、あい」

「ありがとう、エディトちゃん」


 捕まえたニワトリメロンは大人しく渡してくれるが、いつも連れているダーちゃんとブーちゃんは放さない。ニワトリメロンが腕からなくなるとすぐに抱き締めに行っていた。

 健気なダーちゃんとブーちゃんの表面には小さな乳歯で噛まれた跡がついている。遊びがエキサイトしてくるとエディトちゃんはついつい噛み付いてしまうことがあるのだ。それでもダーちゃんもブーちゃんも耐えてエディトちゃんの傍にずっといた。ファンヌの人参マンドラゴラも、私の大根マンドラゴラと蕪マンドラゴラと南瓜頭犬も、エディトちゃんを怖がって出て来ないのに。


「にぃさま、ニワトリメロンはもうじゅくじゅくしてるの?」

「熟してるの、かな? じゅくじゅくしてたら、ちょっと腐ってそうだね」

「いいまちがえちゃったわ」


 包丁を構えているファンヌはニワトリメロンを食べてみたいのだろう。


「この一匹目は今日、みんなで食べちゃわない?」

「味見だね。洗って来るから貸して」


 お兄ちゃんが蛇口のところに行ってニワトリメロンを洗う。ついでに羽の部分にあたる葉っぱととさかの葉っぱを毟られてニワトリメロンは大人しくなっていた。

 私の肩掛けバッグからまな板を取り出してウッドデッキに置いて、ファンヌがまな板の上のニワトリメロンをすぱっと勢いよく切った。

 飛び散る鮮血、ではないが、真っ赤な果汁が溢れるほどに飛び散って見ていたエディトちゃんとヨアキムくんと私とお兄ちゃんの服を汚す。


「こんなに瑞々しいの!?」


 驚きつつも切り分けられた真っ赤な果肉のニワトリメロンをリンゴちゃんも含めて一人一切れずつ味わった。不思議なことに果肉はひんやりと冷たく体温が下がるというのも分かる。瑞々しすぎて果汁が滴って零れるのは残念だが落ちた果汁もリンゴちゃんがぺろぺろと舐めていた。

 ニワトリメロンの果汁で真っ赤に染まるリンゴちゃんはちょっと猟奇的でもあるが、これはメロンだと自分に言い聞かせる。

 初めて食べたニワトリメロンは氷菓のようで美味しかった。


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