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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
五章 幼年学校で勉強します!(三年生編)
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3.ルンダール家の様々な変化

 大根マンドラゴラのダーちゃんと蕪マンドラゴラのブーちゃんはエディトちゃんの良い遊び相手になってくれている。二匹ともエディトちゃんが大好きみたいで多少生えて来た乳歯で齧られても絶叫をあげずに頑張っていた。

 エディトちゃんもダーちゃんとブーちゃんがお気に入りだ。大きくなったのでベビーベッドが狭いのに一緒に寝ようとする。結果としてマンドラゴラが柵に押し付けられたりエディトちゃんが頭をぶつけたりする事態が起きていてそれをカミラ先生は改善すべく動き出した。


「そろそろエディトを普通のベッドに眠らせなければいけませんね」


 子ども部屋は広いけれどファンヌとヨアキムくんのベッドが入っているのでこれ以上ベッドを入れるのも考え物だ。


「ファンヌちゃん、お部屋を変わりますか?」


 カミラ先生に聞かれてファンヌは目を丸くしていた。


「わたくしだけ? ヨアキムくんは?」

「これからファンヌちゃんは幼年学校にも入って大きくなります。血の繋がりのない男の子と女の子が同室というのはよくありません」

「なんでよくないの?」

「男の子と女の子は身体の作りが違うからです」

「ヨアキムくんはわたくしといっしょよ?」


 どれだけ説明しても納得する素振りのないファンヌに、カミラ先生はヨアキムくんの方に向き直った。話を聞いていたヨアキムくんは既に黒いお目目に涙を溜めている。


「ファンヌちゃんといっしょ、ダメ?」

「ファンヌちゃんも大きくなって体付きも女の子らしくなります」

「ぼく、おとこのこだから?」

「ヨアキムくんは男の子、ファンヌちゃんは女の子ですね」

「イデオンにぃさまとオリヴェルおにぃちゃんがいっしょのへやなのは?」

「男の子同士だからです」


 説明されても全く納得する素振りのない二人にカミラ先生は悩むばかり。そこで私は妥協案を出した。


「ヨアキムくんとファンヌの部屋の真ん中に窓を作ったらどうでしょう?」

「部屋の中に窓をですか?」

「話したいときはいつでもそこに行けばいいようにして、カーテンもつけて、閉めたいときには窓が閉められてカーテンも閉められたら、寂しくないんじゃないでしょうか」


 部屋の中に窓があるという発想はなかったようでカミラ先生はそれをヨアキムくんとファンヌに提案してみた。


「二人の部屋は別々ですが、繋がっている壁に窓をつけます。そこから呼べばいつでも姿が見えますし、声も聞こえます。夜はカーテンをしてもらいますが、それでも声は聞こえますよ」

「おへやのなかにまど! すてきね」

「まどでファンヌちゃんとおはなしするんだね」


 部屋の中に窓があるという光景は思ったよりも二人の心を動かしたようだ。大急ぎで屋敷の私とお兄ちゃんの部屋の隣りの部屋とその隣りの部屋が改装されて、真ん中を窓がある壁で区切るようになった。

 別々の部屋に入っても窓際に置いてあるテーブルと椅子につけばいつでも顔を見ながら話ができるし、夜もカーテンは閉めていても窓が開いているので声が届く。


「おへやのなかにまどがあるなんて、すごくすてき」

「たのしいねー」


 二人は大満足で子ども部屋から卒業した。

 とはいえ、日中は子ども部屋でリーサさんの監視下の元遊ぶのには変わりない。エディトちゃんは子ども部屋に一人になったがダーちゃんとブーちゃんもいるし、リーサさんもいるので寂しくはなさそうだった。

 広いベッドに落下防止用の柵を付けて寝るようになったエディトちゃんは今まで狭くてあまり寝返りが打てなかったのが、寝返りを打ち放題になってしまって、麦藁色のぽやぽやの髪が大爆発していることが多くなった。それを丁寧にリーサさんがブラシで梳くのだが端っこがぴょこんと跳ねているのも可愛い。

 ダーちゃんとブーちゃんがいるのでエディトちゃんは薬草畑にもデビューした。お靴を履いてよたよたと歩いて土に触ってみて「うお!」と感動して、薬草を触ってみて口に入れようとするのをダーちゃんとブーちゃんに止められて、雑草を食べているリンゴちゃんの背中にそっと触れてみて、非常に楽しそうに庭で遊んでいた。

 被っていた小さな布の帽子はファンヌのお下がりだった。

 汗びっしょりになって戻って来るエディトちゃんはリーサさんにシャワーに入れてもらってさっぱりして朝ご飯を食べて眠ってしまった。

 ヨアキムくんとファンヌの部屋移動は無事に済んだが、次の問題はリンゴちゃんのことだった。仔馬くらいの大きさになっているリンゴちゃんをこれ以上お屋敷の中で飼うのは限界があると誰もが感じていた。一番それを勘付いているのはリンゴちゃん自身だった。

 家具にぶつかって上手に動くことができなくなったり、部屋の中に入るのに毎回足を拭かれたりするのをリンゴちゃんは嫌がって、雨の降っていない日は一日中外にいて玄関で丸まって眠るようになっていた。


「リンゴちゃんの厩舎も作らなければいけませんね」

「リンゴちゃんはどこまで大きくなるのでしょう?」

「ドラゴンほど大きくならなければいいのですが」


 心配になってカミラ先生に聞いてしまった私への答えは更に心配になるようなものだったけれど、子どもくらいなら乗れてしまうだけの大きさのあるリンゴちゃんが保育所でも人気だし家族であるのでできるだけ居心地のいい場所に暮らせるようにしたいとは思っていた。

 庭は自由に歩いて出入りのできる厩舎を庭の端に作るとリンゴちゃんは気に入って夜はそこで眠るようになった。鳴いて助けを呼べない分、リンゴちゃんの護衛にマンドラゴラをつけておこうと畝から呼び出すと、ごろごろと転がりながら玉ねぎマンドラゴラが出て来た。


「今年はタマネギも育ててたの?」

「新しいマンドラゴラにも挑戦しようと思ってね」


 お兄ちゃんの探求心はやまない。玉ねぎマンドラゴラを洗って乾かしてリンゴちゃんの護衛につけたが、それは全くの不必要だったと私はその後に知った。

 ルンダール家の庭には上質の薬草が育って、極上のマンドラゴラがいる。それを狙ってやってきた不埒な悪党をリンゴちゃんは蹴り飛ばして追い払ってしまったのだ。

 真夜中の結界の異変にカミラ先生が駆け付けると、リンゴちゃんに後ろ足で蹴り飛ばされて飛んでいく盗人の姿があった。結界にぶつかって落ちて来た盗人を警備兵に引き渡して、リンゴちゃんにはご褒美のリンゴの欠片をあげる。おやつの時間に果物が解禁されていたが大きな体には少なすぎるのかもっと欲しがるリンゴちゃんは、特別に貰った大きなリンゴの欠片を幸せそうにしゃくしゃくと食べていた。

 盗人は一時的に結界を抜けられる粗悪な魔術具を使ったようだった。


「もっと結界を緻密なものにしなければいけませんね」


 寝巻のネグリジェ姿にストールを羽織ったカミラ先生に騒動に気付いて出て来たブレンダさんが手を上げる。


「私が結界を担当しようか?」

「ブレンダ、やってくれますか?」

「喜んで」


 攻撃と防御の魔術はカミラ先生の方が強いがブレンダさんの専門は結界の魔術だったのだ。カミラ先生の魔術も緻密だったけれどそれ以上に細かく魔術を宿す糸のようなものが編み上げられていくのが分かる。


「夜中にイデオンくんもオリヴェルもご苦労様でしたね。明日があるからもう寝に行きなさい」


 カミラ先生に促されて欠伸が出ていた私はお兄ちゃんと手を繋いで部屋に戻って寝直した。翌朝は薬草畑の世話に起きるのがつらかったけれどなんとか起き出して庭に向かう。

 よほど薬草畑の世話が気に入ったのかエディトちゃんはちゃんと起きてお靴を履かせてもらってリーサさんとよちよち参加していた。雑草を抜こうと踏ん張って引っ張る姿が小さいころのファンヌを思い出させる。


「そしつがありますわね」

「う?」

「ねっこからぬけるように、もっとしたのほうをもつのよ」

「あい!」


 教えてもらってエディトちゃんがファンヌと雑草を抜いていく。

 ハチドリイチゴを育てた小屋はニワトリメロンを育てるために一度壊して、掘り返して畝を作って、遂に種が植えられるまでになった。

 ファンヌとヨアキムくんが畝に穴を開けて種を植えては土をかけ、水をかけている。


「ニワトリさん、いっぱいなる?」

「たいりょうだといいわね」


 二人で話しながら作業をしているのも可愛い。

 その様子を胸に下げた魔術具で記録しているとお兄ちゃんがそっと耳に囁く。


「後で僕にもデータをちょうだいね」

「カミラ先生にもあげなくちゃ」


 小屋がなくなったので今年はお兄ちゃんと一緒に作業ができる。実って蔦を切って仕舞うころにはネットをかける方式で逃げられないようにする計画だった。

 今年もルンダール家の薬草畑は順調に育っていた。

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