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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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40.手紙の効果とお墓参り

 年始のパーティーにはエディトちゃんも可愛いドレスを着せられて参加した。嫌な貴族がいるのは確かなのだが、その日はサンドバリ家のひととデニースさんの家族のニリアン家のひとたちが集まってエディトちゃんを囲んでしまった。


「なんて可愛らしい」

「この髪の色はビョルンに似たんですね。お目目の色はカミラ様に似て、二人の良いところをもらってきたのね」

「大きくなって。赤ちゃんはむちむちしているのが一番だね」


 暖かい言葉に包まれてエディトちゃんもビョルンさんに抱っこされてご機嫌できゃっきゃと笑っている。他の貴族が近寄れない雰囲気になってしまったのがものすごく私たちの精神衛生上も良かった。


「もっと孫に会いたかったけれど、カミラ様はお忙しいし、ビョルンも補佐を頑張っているようなので我慢してたんですよ」

「こんなに笑って、可愛らしい」


 エディトちゃんを「女か……」と吐き捨てた貴族もサンドバリ家のビョルンさんのご両親が相好を崩しているのに近寄りがたい雰囲気を感じ取って寄って来ない。

 それもこれも、実のところ私が書いた手紙が発端だった。

 年末に私はサンドバリ家のビョルンさんのご両親と、デニースさんにそれぞれお手紙を書いていたのだ。

 サンドバリ家のビョルンさんのご両親には『私は祖父母をしりません。だからエディトちゃんにはたくさんかわいがってもらってほしいと思っています』という旨を書いた。

 デニースさんには『ニリアン家はかわったのだということを次のパーティーでしめしていいと思います。私もデニースさんとお話しするのを楽しみにしています』という旨を書いて送った。

 おかげで近寄って来るのはサンドバリ家やニリアン家、そしてルンダール家の当主代理のカミラ先生を筆頭に私たちに好意を持っているひとたちばかりになっていた。

 去年のエディトちゃんのお披露目のパーティーでヨアキムくんを傷付けるようなことを言った貴族がいた。その貴族は地位をはく奪されてルンダール領から追い出され、お屋敷の跡地は図書館になったのだが、それでもまた同じようなことが起きないとも限らない。

 先に手を打っておいたおかげか、今年の新年のパーティーは非常に平和で楽しいものだった。


「いつでもエディトを訪ねて来てくださいませ、お義母様、お義父様」

「そういっていただけると嬉しいです」

「本当に二人に似て可愛い」


 笑み崩れているビョルンさんのご両親にエディトちゃんもご機嫌だった。デニースさんもその家族もエディトちゃんを「可愛い」とたくさん言ってくれて、ビョルンさんもカミラ先生も緊張が解けた顔で笑っていた。

 久しぶりに嫌なことのなかったパーティーを終えて着替えていると、お兄ちゃんが私にじりじり近付いてくる。


「年末に何か書いていたよね?」

「うん、色々ね」


 私が仕込んでいたことはバレている気がするのだが、そっと視線を逸らせて誤魔化しておく。冬用のズボンを履こうと思ったらお腹のボタンが留まらない。


「私、太った!?」

「イデオン、大きくなったんじゃない?」

「大きくなったかな」


 太っているかと心配したがお腹がぽっこりしているのはただの幼児体型のようで、そうではなくて私自身が大きくなったのだと言われると嬉しくなる。抱き上げられないことは諦めるにしても抱き締めるためにもそれなりに大きな体は必要な気がするのだ。

 もう少し大きめのズボンを履いて小さくなったズボンはヨアキムくんのお下がり用に取っておこうと子ども部屋に行くとヨアキムくんが立ち尽くしていた。

 手には去年ファンヌが着ていたパフスリーブの可愛いワンピースを握っている。


「ぼく、きちゃ、だめ?」

「どうしても着たいのですか?」

「ファンヌちゃんとおそろいしたい!」


 珍しく強く主張するヨアキムくんにリーサさんが返事に困っているのが分かる。エプロンもお揃いなのでワンピースもお揃いにしたいという気持ちは分からなくもなかった。

 けれどヨアキムくんは男の子、そしてもう5歳なのだ。


「ヨアキムくん、どうしてもスカートじゃないとダメなのかな?」

「スカート、ぼく、はいちゃダメなの?」

「えーっと……ダメじゃないと思う。どうしてもはきたいんだったら。でも、ファンヌとおそろいにしたいだけだったら、べつの方法があるよ」

「べつのほうほう?」


 あまりリーサさんを困らせるのは私も望むところではないし、ヨアキムくんは自分の性別がまだよく分かっていないようなところがある。その上顔が女の子のように可愛くて癖のある黒髪も伸ばし気味で、ファンヌとお揃いの髪飾りで横で括っているのでファンヌと同じワンピースを着てはいけないということが理解できなくても仕方がない気がした。


「うばのおはかまいりにいくときに、ファンヌちゃんとこんなになかよしってみせたい」

「そっか……サロペットパンツにこれをかいぞうできませんかね?」

「サロペットパンツ、なぁに?」


 ヨアキムくんの問いかけに私は自分の部屋に戻って胸当てのついたサロペットパンツを持ってきた。


「これにそでが残ってたら、ファンヌとおそろいだとよくわかるとおもうよ」

「サロペットパンツ、かわいいね……リーサさん、できる?」


 実際にサロペットパンツを見てそれにパフスリーブを残すことを伝えるとヨアキムくんは乗り気になってくれた。


「わたくしは縫物は得意ではないので……」

「仕立て職人さんにお願いしてみようか」


 困っているリーサさんに助け舟を出したのは私が部屋にサロペットパンツを取りに行ったときに何事かと子ども部屋を見に来てくれたお兄ちゃんだった。リーサさんは活発にはいはいするようになったエディトちゃんのお世話もしなければいけないし忙しい。仕立て職人さんにお願いできるのならばそれが一番だという結論になった。

 カミラ先生とビョルンさんに相談してみるとすぐにお屋敷に仕立て職人さんが呼ばれて袖を残したままの形でファンヌのワンピースはヨアキムくんのサロペットパンツに改造された。

 ファンヌはワンピースを着て、ヨアキムくんはパフスリーブのサロペットパンツを履いて、私とお兄ちゃんは黒っぽい服を着て、カミラ先生は黒いワンピースで、ビョルンさんは黒いスーツでお墓参りに行く。ビョルンさんがエディトちゃんを抱っこして連れて行っていた。

 馬車を降りると最初はヨアキムくんの乳母さんのお墓に行く。ヨアキムくんは庭師さんに切ってもらった薔薇の花束を置いて乳母さんに一生懸命報告していた。


「ぼく、5さいになったの。らいねんには、ようねんがっこうにはいるよ。このふく、ファンヌちゃんのおさがりをイデオンにぃさまがかんがえてくれて、ぬいなおしたんだよ。ファンヌちゃんとおそろいなの」


 話しながら両手を広げて墓石に自分の服や育った身体を見せるヨアキムくん。王都で牢に囚われている両親よりもヨアキムくんにとっては乳母さんが大切な存在というのは間違いなかった。

 たくさん報告をして満足したのかヨアキムくんは膝を付いて墓石を撫でる。


「またくるね」


 毎年でもヨアキムくんを乳母さんのお墓に連れて行ってあげたいと思わずにいられなかった。

 次の墓地に行く途中のお花を売っているお店で花を買う。カミラ先生がレイフ様にブルースターの花束を買って、お兄ちゃんがアンネリ様に赤い薔薇の花束を買った。庭の薔薇を切って持って行きたかったのだが、アンネリ様の好きな赤い薔薇が今の季節は咲いていなかったのだ。

 ファンヌは庭師さんに切ってもらって棘も取ってもらった歌い薔薇を二本握り締めていた。

 アンネリ様とレイフ様のお墓に行くと花束を墓石の前に供える。


「父上の死の真相も突き止めました。どうか安らかに眠ってください」


 お兄ちゃんが報告するとファンヌが前に出て歌い薔薇を一本ずつお墓に供えていく。


「おうたきいたら、よくねむれます」

「そういう眠るじゃないんだけど……ファンヌ、ありがとう」


 死ということが分かっていないわけではないけれど、ファンヌなりの考えで持ってきた歌い薔薇にお兄ちゃんはお礼を言っていた。

 小雪が降り始めて私たちは白い息を吐きながら墓地を後にしたのだった。


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