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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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24.レイフ様の思い出

 悲しいことよりも懐かしい話をしたい。

 魔術具を片付けたカミラ先生と魔術具を確認してくれたお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様、それにカスパルさんとブレンダさんにお兄ちゃんは問いかけた。


「父は、どんなひとでしたか?」


 それは幼い頃にレイフ様を亡くして記憶がほとんどないお兄ちゃんにとっては知りたかったことだろう。アンネリ様のことはある程度従弟のビョルンさんが教えてくれるが、レイフ様の話はあまり聞いたことがない。


「このひとに似て、小さい頃から身体の大きな子でしたよ。そのせいかちょっとぼんやりしているところがありましたが」

「カスパルとブレンダが生まれたときにはすごく心配していたね」


 双子で生まれたときは小さかったカスパルさんとブレンダさん。余りの小ささにレイフ様はちゃんと育つか心配だったようだ。年の離れた弟と妹なだけあって可愛がってもいたようだ。


「カミラとは8歳、ブレンダとカスパルとは14歳離れていたからね」

「カミラが生まれた時点でオースルンドはカミラに譲ることになるだろうと分かっていたから、15歳でルンダールのアンネリ殿とお見合いをしたの」


 懐かしんで目を細めるお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様の瞳の色も青。オースルンドは黒髪に青い目の家族でお兄ちゃんもそれを受け継いだようだった。

 お兄ちゃんと私は学年は9年、年は約10年離れているが、レイフ様とカスパルさんとブレンダさんの双子はもっと離れていた。


「私たちも貴族同士のお見合いで遠縁同士で結婚したけど、お互いに好意を持っていてこのひととならば領地を共に治められるだろうと思っていました」

「お互いに親戚の中で同じくらい魔力が強かったから、どちらに継がせるか競わせるのではなく結婚させて共に領地を治めさせたらという案が出て、お見合いをしてみたら私が一目惚れしたんだよね」


 お兄ちゃんのお祖父様は見合いの席でお兄ちゃんのお祖母様に一目惚れをして結婚を決め、共にオースルンドの次期領主となることを決めたという。お見合い結婚にいい印象はないけれどお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様やアンネリ様とレイフ様のような例もあるのだと理解する。

 二人が思い合って結婚することは素晴らしいと思うのだが、私の胸を不安がよぎった。

 お兄ちゃんも年頃になると見合い話が持ち込まれるだろう。7歳の私ですら見合い話が大量に持ち込まれたのだ。これから魔術学校も卒業して成人するお兄ちゃんには尚更だ。


「カミラ先生は、お見合いはなかったんですか?」


 お見合いで相手に一目惚れをする。そんな経験をしたお兄ちゃんのお祖父様お祖母様夫婦ならばカミラ先生にもお見合いを勧めて来なかったわけではないだろう。


「私が全て断っていましたからね」

「釣り書きすら見ずに断るのだから、カミラの酷かったこと」

「これでも美女でオースルンドを継ぐ魔女として有名だったのに、男に対しては冷たかったね」


 当然のように断っていた旨を告げるカミラ先生と、苦笑しているお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様。それもそうだろう、次期当主に決まっているカミラ先生が32歳まで結婚しなかったというのは異例のことだったに違いない。


「お兄ちゃんはレイフ様の25さいのときの子ども?」

「そうなるね。母の20歳のときの子どもだから」


 レイフ様はお兄ちゃんが3歳のときに亡くなったと聞くから、亡くなったときにレイフ様は28歳、アンネリ様は23歳ということになる。あまりに早い死にお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も、カミラ先生も、カスパルさんとブレンダさんも悲しみに暮れたことだろう。


「23歳だったなら周囲が母に再婚を勧めるのも仕方なかったのでしょうね」

「アンネリ殿はレイフに申し訳ないとずっと思っていたようだけれど」


 そのアンネリ様もレイフ様の二年後に亡くなっている。

 立て続けの当主夫婦の死に疑惑がわかないわけがなかった。それでカミラ先生もお兄ちゃんが亡くなったという嘘の知らせを聞いて大急ぎでルンダール領に来たのだろう。


「それぞれの領地は不可侵と言われても、レイフ兄上は私の兄でしたし、アンネリ様も亡くなって、挙句の果てにオリヴェルまで死んだと聞いて、黙ってはいられませんでした」

「カミラ姉上はよく耐えた方だよ」

「私はすぐにでも行きたかった」


 カスパルさんとブレンダさんも悔しそうにしている。

 アンネリ様が成人してすぐに結婚してオースルンドのお屋敷を出ているレイフ様はカスパルさんとブレンダさんとはあまり長い時間傍にいられなかったのかもしれない。それを思えばますますレイフ様を死に追いやったかもしれないベンノ・ニリアンに憎しみがわいてくる。

 どうにかしてベンノ・ニリアンが魔術具を取り換えた証拠を見つけたいのだがどうすればいいかが今は浮かばない。

 部屋に戻った私はベッドに腰かけてお屋敷中にかかっている涼しい風の吹く魔術で汗を乾かしていた。リビングも同じ魔術がかかっていたのだが人数が多かったせいか少し暑かった。


「お兄ちゃん、レイフ様のことが聞けてよかったね」

「父のことは本当にほとんど覚えてないからね」


 お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様が貸してくれた立体映像のアルバムを見ながらお兄ちゃんは青い目を潤ませていた。小さな頃のレイフ様の立体映像や赤ん坊のカミラ先生と写っている立体映像、もう少し大きくなってからの立体映像、赤ん坊のカスパルさんとブレンダさんの増えた家族の立体映像。

 めくるたびに笑顔と声も記録されていてお兄ちゃんは何度もその立体映像を見つめていた。


「お兄ちゃんもお見合いでうんめいのひとに出会うかもしれないよ」

「どうしたの、急に」

「だって、アンネリ様とレイフ様もお見合いだけどなかむつまじかったみたいだし、お兄ちゃんのおじいさまとおばあさまもお見合いだけどひとめぼれしたって言ってたし……」


 備え付けの机でアルバムを閉じたお兄ちゃんが私の方にやってきて隣りのベッドに腰かけた。膝を突き合わせるような形になって私はお兄ちゃんの顔を見上げる。


「僕に運命のひとが現れたら、イデオンは嫌なの?」

「そういうわけじゃないよ。……ちょっと、さみしいかもしれないけど」


 嘘は吐けなくてぽつりと付け加えればお兄ちゃんが青い目を細めて笑う。今年17歳になるお兄ちゃんは、男らしい精悍な顔立ちになってきた。私もいつかこんな風になれるのだろうか。

 体も大きく育って顔立ちも男らしくなってお兄ちゃんに並んで劣らない男になる。

 そんな日が来ればいいと考えているが魔術の風で乱れた髪をヘアクリップを一度外して付け直してくれて、お兄ちゃんは悪戯に微笑んだ。


「もう、運命には出会ってるかもしれない」

「え!? どういうこと?」

「色んな運命があるよね。ファンヌはもうヨアキムくんと大きくなったら結婚するって決めてるみたいだし」

「それはそうだけど……大きくなるまで分からないよ」

「それじゃあ、僕もまだ分からないかな」


 答えになっていない。

 全然意味の分からないことを言われて混乱する私にお兄ちゃんはベッドに倒れ込んでくすくすと笑い続けていた。

 撫で付けている前髪が乱れて大人びたお兄ちゃんの顔が年相応に見える。


「私にもうんめいがおとずれるのかな」

「どうだろうね。運命って気が付いたときにはもうそこにいるものかもしれないし」

「気が付いたときには……」


 やっぱりお兄ちゃんの言っていることが私にはよく分からない。

 気になるひとがいるとは言っていた。けれど結婚はしないのだと言ったり、運命にもう出会っているかもしれないと言ったり、分からないと言ったり、お兄ちゃんの言うことは一貫性がない。


「わかんないや」


 私もベッドに倒れ込んで天井を見上げた。

 お兄ちゃんの言葉の意味を私が知るのはもっともっと後になる。

 7歳の私は混乱したままでお兄ちゃんの言葉をただ鵜呑みにしていた。


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