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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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23.すり替えられた魔術具

 オースルンド領の領主のお屋敷に私たちは三日間滞在することになった。ルンダール領よりも涼しいオースルンド領は避暑地としても名を馳せていて王都からもこの時期は観光客がよく来るという。

 お兄ちゃんの父親のレイフ様がオースルンド領の出身ということもあってルンダール領とオースルンド領は非常に友好的な間柄にあった。

 移転の魔術でカミラ先生がエディトちゃんを抱いて、ビョルンさんがファンヌとヨアキムくんと手を繋いで、私はお兄ちゃんと手を繋いで、ブレンダさんがリーサさんの手を引いて、カスパルさんと共にオースルンド領の領主のお屋敷に飛ぶ。大勢の客が来ても平気なようにオースルンド領のお屋敷には客人滞在用の別棟が作られていた。


「初めまして。イデオン様とファンヌ様とエディト様の乳母をさせていただいております、リーサと申します」

「このひとが僕が言っていた大切なひとだよ」


 まず初めにカスパルさんがお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様にリーサさんを紹介した。緊張してリーサさんは硬い表情だがお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は微笑んでリーサさんを受け入れてくれる。


「カスパルは変わり者だからカミラと同じく気に入る女性が現れるとは思わなかった」

「どうか、よろしくお願いしますね」

「わたくしで、よろしいのですか?」

「愛するひとと結ばれない人生なんてどれほどつまらないものでしょう」


 お兄ちゃんのお祖母様の言葉に私はカミラ先生が「好きな相手と以外結婚しない」と言い張っていた理由も、それを許されて来た理由も分かった気がした。カミラ先生はこれだけ仲睦まじい両親を見て育ったのだ、愛し合っての結婚に憧れて、それ以外を拒んでいても仕方なかったのだろう。

 話したいことはたくさんあったが、荷物を置いてくるために先に別棟の客間に行く。お兄ちゃんと私で一部屋、リーサさんとヨアキムくんとファンヌで一部屋、ビョルンさんとカミラ先生とエディトちゃんで一部屋の振り分けになった。カスパルさんとブレンダさんはそれぞれ自分の部屋に行っている。

 肩掛けのバッグから荷物を取り出して片付けていると、バッグから蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと南瓜頭犬が飛び出してきた。ルンダールのお屋敷では好きに走らせているがオースルンドでも同じことをしてもいいのだろうか。


「まいごになっちゃダメだよ? ちゃんと私のそばをはなれないでね?」

「びゃい!」

「びょい!」

「びゃわん!」


 びしっと敬礼で返事をする蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラに、蔦の尻尾をぴこぴこ動かしながら南瓜頭犬も返事をする。その返事を信じることにして私はお兄ちゃんの方を見た。


「はちみつのお礼を言わなくちゃ」

「そうだったね。情報をいっぱい頂いたものね」


 部屋から出ると人参マンドラゴラとリンゴちゃんを連れたファンヌとヨアキムくんとリーサさんの一行に出くわした。人参マンドラゴラはすぐに私の蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと南瓜頭犬に合流して「びぎゃびぎゃ」と仲良く話している。

 ファンヌが3歳のときからの付き合いだから人参マンドラゴラとはもう二年の付き合いになるせいか、他のマンドラゴラは人参マンドラゴラを尊敬しているような緊張感がある気がした。マンドラゴラにもそういう序列があるのだろうか。

 気になりつつもリビングに戻ると冷たいフルーツティーが用意されていた。色とりどりの果物の入ったフルーツティーの入ったガラスの容器が汗をかいている。

 グラスに注いでもらって冷たいフルーツティーを飲むと甘く果物の瑞々しい香りがして喉が潤う。ファンヌもヨアキムくんも両手でグラスを持ってごくごくと喉を鳴らして飲んでいた。


「リンゴたん、おっきくなったの」

「また大きくなったのかい?」

「ほいくしょにあそびにきてくれるのよ」

「それは嬉しいわねぇ」


 自分のお祖父様とお祖母様のように慕っているお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様にヨアキムくんとファンヌが報告するのを、お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は穏やかに聞いてくれていた。こういうところがお兄ちゃんに似ているので安心すると思いつつ、私も報告をする。

 リンゴちゃんが足元で誇らしげにしているがもう椅子よりもその体高は勝っていた。


「はちみつはシャンプーに使うことになりました。ルンダールりょうでははちみつはあまり使われないので、赤ちゃんに食べさせてなくなっているじこがあったみたいです。はちみつが赤ちゃんにはきけんだということもしゅうちしていこうという話になりました」

「ハチドリイチゴの花の蜜を集めた蜂蜜は特に高値でルンダールのお屋敷で買い取ることにしました」


 報告するとお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は目を細めて聞いていてくれた。

 ほのぼのとした報告が終わったところでカミラ先生が真剣な眼差しでビロードの箱に入った魔術具を取り出した。それは以前アンネリ様の遺品の入っていた倉庫から探し出したレイフ様の使っていた魔術具だった。


「これを見てくれますか? レイフ兄上が結婚のときに父上と母上から贈られたものに酷似しているのですが」


 手渡されたビロードの箱の少し黒く変色した元は銀色であっただろう魔術具をお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様が慎重に手に取る。お兄ちゃんのお祖母様は鱗草のコサージュを髪につけているし、お兄ちゃんのお祖父様は鱗草のラペルピンを襟に付けているので呪いがかけられていても安全ではあるが、問題は呪いではないのだ。

 じっと観察して、手を翳してかかっている魔術を調べてお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は重々しく答えた。


「これはレイフに上げたものとよく似ていますが別物ですね」

「素材は同じ魔力の宿った銀だが、かけられている魔術がほとんどない、空っぽの器のようなものだ」


 恐れていた通りにレイフ様は魔術具を強力な守護の魔術のかかったものから、全くの役に立たないものにすり替えられてしまったようなのだ。

 グラスを置いて覗き込むお兄ちゃんの目が不安に揺れているのが分かる。


「元はどんな魔術がかかっていたのですか?」

「呪いや毒、病魔から身を守る魔術がかかっていて、肌身離さず身に付けるように言っていた」

「面倒くさがって身につけたくないと言ってたし、レイフはおっとりしたところがあったのでこれだけ似たものならすり替えられても気付かなかったのでしょう」


 答えるお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様の声に深い悲しみが感じ取れる。

 レイフ様は流行り病で亡くなった。この魔術具が本物で病魔を退けていたら、病気にかからなかったかもしれない。


「レイフはアンネリ殿と共に領地を治めようとしていて、アンネリ殿の代わりに病院に慰問に行って流行り病を貰ったと聞いていたが、そのときは魔術具を付けていなかったのだろうと思っていた」

「まさか魔術具がすり替えられていたなんて……。レイフも無念だったことでしょう」


 涙の滲む目頭を押さえるお兄ちゃんのお祖母様の肩を抱くお兄ちゃんのお祖父様。レイフ様の死は病によるものだったが、それが防げたかもしれないということをお二人はずっと後悔していたのかもしれない。


「やまいにかかったとしても、ルンダールはやくそうのとくさんちでしょう? そんなにかんたんになくなったとは思えないのですが」


 疑問を私が口にすれば、お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様はその当時のことを詳しく教えてくれた。


「最初は軽い風邪のような症状で、急に重症化する病だったのです」

「重症化したときには内臓をやられていて、もう助からない状態だったと聞いたよ」

「悲しいことを思い出させてごめんなさい」

「いいえ、レイフの死の真相を追ってくれているのね」


 ずっと疑惑はあったのだとお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は言っていた。流行り病を治療する病院に行くときにレイフ様がなぜ魔術具を付けていなかったのか、疑問には思っていたがオースルンド領とルンダール領で離れていて、何よりアンネリ様が幼いお兄ちゃんを抱えてすぐに再婚させられてしまったのでそちらの方に気を配らねばならなかったという。


「オリヴェルのことが心配で、レイフの疑問を解く前に私たちは手を打とうとして」

「結局互いの領地は干渉しないという法に阻まれてなにもできなかった」


 心底悔しく悲しそうなお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様。

 その様子に私はぎゅっと拳を握り締める。


「おそすぎるかもしれませんが、レイフ様のまじゅつぐをすりかえたやつはつかまえてみせます」


 もう目星はついているのだ。

 ベンノ・ニリアン。

 ただ証拠だけがまだ揃っていなかった。

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