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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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21.蜂蜜の謎

 オースルンド領に突然現れた私とお兄ちゃんを、お兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は歓迎してくれた。カミラ先生とビョルンさんに連絡をして今日のおやつの時間はオースルンド領でお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様と一緒にすることを伝える。

 サクサクほろほろの蜂蜜ボーロと紅茶をいただいて、私はその美味しさに驚いてしまった。


「口の中でとけます」

「カミラもカスパルもブレンダも、小さい頃に大好きだったのよ」

「でも、乳幼児には蜂蜜はあげてはいけないんだよ」

「どうしてですか?」

「蜂蜜の中には乳幼児の命を危険に晒す菌が入っているんだと言われている。知識がなく蜂蜜で命を落とした乳幼児もたくさんいる」


 エディトちゃんには蜂蜜はあげてはいけない。

 また一つ蜂蜜のことがわかった。


「オースルンドは果物栽培が盛んでしょう? 果物栽培にミツバチは欠かせないのよ」


 そのミツバチからとれた蜂蜜で作った蜂蜜ボーロ。オースルンドでは普通に蜂蜜を消費する習慣が出来上がっているようだった。


「ルンダールではようほうかさんが、はちみつはなかなか売れないと言っていました」

「ルンダールは砂糖がとれるものね」

「そうか……」


 ルンダール領の主な特産品の中に砂糖がある。それはサトウダイコンがルンダール領で収穫できるからなのだ。オースルンド領では農業はそれほど盛んではないので砂糖農家がないため、砂糖はルンダール領からの交易に頼っている。砂糖が手に入らない場合には蜂蜜を使うのでそもそも蜂蜜の使用量が多いのだった。

 領地のほとんどが農家で砂糖は簡単に手に入るものだという思い込みがあったからこそ、私はそこに気付かなかった。


「オースルンドりょうとルンダールりょうは、そもそもはちみつの使用量がちがったのですね」

「そうなるね。過熱してない生の蜂蜜はシャンプー代わりにも使われるし」

「え!? やっぱり、はちみつはシャンプーになるんですか?」


 お兄ちゃんのお祖父様が書庫に案内してくれてオースルンド領の蜂蜜で作るシャンプーの載っている本を出してくれた。

 シャンプーに加熱していない生の蜂蜜を入れると髪の艶が良くなると書かれている。


「お祖父様とお祖母様は、向日葵駝鳥と青花の石鹸とシャンプーバーを使われていますか?」

「カミラが送ってきてくれたものでしょう? おかげで結界の魔術がますます研ぎ澄まされてオースルンド領に魔物を寄せ付けないようになっていますよ」


 カミラ先生が送った向日葵駝鳥と青花の石鹸とシャンプーバーはお兄ちゃんのお祖母様とお祖父様の役に立っているようだった。


「蜂蜜で思い出しましたが、ハチドリイチゴを育てているんですって?」

「そうなんです。カミラ先生がかぶマンドラゴラが育たないじきでもおちちがよく出るようにジャムを作りたくて」

「ハチドリイチゴの蜜で作った蜂蜜は特別な魔力を持つんだよ」


 その話は知らなかった。

 詳しく聞くとお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は説明してくれる。


「蜂蜜は花の蜜でできているよね。その集めた蜜の花が特別な魔力や滋養のあるものだと、特別な蜂蜜ができるんだよ」

「養蜂がそちらではあまり盛んではないようですものね。そういうことも養蜂家の方は知らないまま売りに出しているのかもしれないわ」


 私も全く知らなかったことだし、お兄ちゃんの顔を見ても驚いているのが分かる。

 物凄い知識を得てお礼を言って私とお兄ちゃんはオースルンドのお屋敷を後にして、移転の魔術でルンダールのお屋敷に戻って来た。庭で汗をかきながら蝉のなく中リンゴちゃんと遊んでいるファンヌとヨアキムくんが、帰って来た私たちの元に走って来る。


「しらないうちにねちゃってたの」

「よー、ねないつもりだったのよ」

「ゆっくり体をならしていけばいいんじゃないかな。むりにきゅうにおひるねしないことにしなくても」

「そうかなー」

「あしたは、がんばれるかも」


 二人は頑張るつもりでいるが、明日もきっとリーサさんが上手に眠たい二人を眠りに導いてくれるだろう。この辺りリーサさんは私やファンヌと付き合いが長いので慣れている。

 安心して任せられると思いながらお屋敷に戻ると、部屋の中は涼しい風の吹く魔術がかかっていて、滲んだ汗が引いていくのが分かる。お茶の時間は終わっていたので、今日学んだことを纏めて夕飯の後にカミラ先生に伝えることにした。

 特に今借りている巣箱から絞った蜂蜜については養蜂家の方にもちゃんと伝えなければいけない。

 お兄ちゃんと二人でノートにシャンプーに蜂蜜が使えること、ミツバチが集めた花によっては蜂蜜に魔力や滋養がつくことなどを書いていった。


「乳幼児に与えたらいけないことも書かなきゃ!」

「そうだった!」


 乳幼児には蜂蜜を与えては危険だということも私とお兄ちゃんは書く。カミラ先生はオースルンドの出身なので知っているかもしれないが、私とお兄ちゃんは全く知らなかったし、ビョルンさんも知らないかもしれないと思ったのだ。

 纏まったノートは夕食後の寛ぎの時間に見せることにした。食べ終えてお茶とデザートを食べながら、カミラ先生とビョルンさんに説明していく。


「ルンダールりょうはおさとうがとれるので、はちみつはあまり流通していません」

「農家はありますが温室を持っている農家も少なく、ミツバチの貸し出しだけでは生計が立てられないと相談されました」

「きぞくに売ろうとしても、問屋を通さないといけないので、買いたたかれてやすねになってしまうようです」


 それを踏まえた上で、私たちは蜂蜜の使用方法を提案した。


「ハチドリイチゴの花から集めた蜂蜜は付加価値を付けて、貴族に売れないでしょうか?」

「それ以外のふつうのはちみつは、シャンプーに入れるとかみのつやがよくなると書いてありました」


 二人の報告をカミラ先生はエディトちゃんを抱っこしながら聞いていてくれた。エディトちゃんをビョルンさんに預けてノートを手に取って読んでくれる。


「乳幼児に蜂蜜を与えてはいけないのは常識と思っていましたが、ビョルンさん、知っていますか?」

「いいえ、私は初めて聞きました」


 そもそも蜂蜜自体ほとんど使われることのないルンダール領では蜂蜜に対する知識があまりにもなかった。薬草学と医学の専門課程を卒業したビョルンさんですらそのことを知らなかった。


「貴族の屋敷で乳幼児が正体不明の病気に罹って亡くなることがありましたが、これだったのかもしれません」

「それは周知していかねばいけませんね」


 貴族くらいしか蜂蜜を使わないルンダール領だからこそそんなことが起きたのかもしれない。エディトちゃんを暗殺しようという輩がいて、蜂蜜を使われたらと私はぞっとしてしまった。


「そういえば、父と母からカスパルとブレンダに伝言がありますよ」


 私たちがオースルンドのお屋敷でお茶をして帰ると連絡をしたときにカミラ先生はお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様から伝言を受け取っていたようだ。


「夏の間に一度くらいは顔を見せなさいと言われています」

「カミラせんせい、エディトちゃんもおおきくなったし、またオースルンドりょうにいったらだめですか?」


 ドラゴンの祠で伝説の武器を引き抜けたファンヌは、すっかりオースルンド領が気に入ってしまったようだ。去年の夏のようにオースルンド領に遊びに行きたい気持ちも分かる。


「オリヴェルにぃたまと、イデオンにぃたまだけ、いいなぁ。よーも、いきたかった」


 ヨアキムくんも私たちが急にオースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様を訪ねたことを羨ましがっていた。

 ヨアキムくんとファンヌにとってはお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様は本当の祖父母のように接してくれる優しい相手なのだ。


「カスパル、リーサさんをお誘いしなさい」

「え? 姉上?」

「リーサさんを両親に会わせるくらいの甲斐性はないの?」


 カミラ先生とブレンダさんに言われて、カスパルさんはエディトちゃんのお世話のために部屋の隅に控えているリーサさんの元に歩いて行った。


「まだお付き合いもしていないけれど、リーサさんには毎日惚れ直しています。一緒にオースルンド領に来て、僕の両親と会ってくれませんか?」

「エディト様のお世話もありますし、オースルンド領には参ります。領主様にお目通りできる身分ではないのですが……」

「身分など関係ありません。僕はあなただけを愛します」


 ストレートな物言いにリーサさんが頬を染めて頷く。

 どうやらこの夏もオースルンド領へ行くことになりそうだった。

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