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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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15.向日葵駝鳥のオイルの石鹸の試作品

 去年お兄ちゃんは畑で浄化作用のある青花(せいか)を育てられないかとビョルンさんに相談した。そのときに貰った答えが、「使い道があるかどうかを考えてはいけないのが、薬草栽培かもしれません」だった。育ててみたいなら育ててみるべきだし、使い道を考えずに育てて保管しておいた青花がビョルンさんの場合はヨアキムくんの治療に役に立った。

 そんな風に今必要としているひとが目の前にいなくてもいつかは現れるかもしれないと思って育ててみればいいと、ビョルンさんは薬草学者としてアドバイスしてくれた。

 アドバイスに従って収穫した青花はルンダール家の薬草倉庫に乾かしてしまわれていた。


「せっけん作りに青花を使ったらどうだろう?」


 蝉が鳴きだした薬草畑で世話をしていて、保管庫で涼むついでに在庫を数えているときに私はそれを思い付いた。乾かして束になった青花を数えてお兄ちゃんが取り出していく。

 鱗草とは違うが青花も非常に強い浄化作用があるし、薬草風呂に使われるようなものなので石鹸の材料にしても害はないことは確かだった。


「使うとまりょくが上がって、のろいをかけられてもじょうかして落としてくれるせっけんだったら、じゅようが高まらないかな?」

「魔力が上がるだけじゃなくて、呪いを浄化する付加価値まで付けるんだね。石鹸は身体を洗うものだし、毎日使うから、呪いを毎日落とせれば継続して呪いをかけられてるひとでも助かるかもしれないね」


 身を守ることもできて、使えばその日一日は魔力が上がるとなれば貴族が飛び付かないわけがない。貴族だけではなく、工房に通っている魔術師の中で魔力の低いものが底上げに使ってもいいわけだ。工房の手洗いの石鹸が向日葵駝鳥の油でできているだけで、全員の魔力を底上げできるとなれば工房からの注文も殺到するだろう。

 この私の思い付きが後々までルンダール領を支える大事業に発展するとはそのときの私は知る由もない。


「オースルンドりょうはおりものが有名でしょう? ルンダールりょうにもマンドラゴラ以外で加工品のとくさんひんがあってもいいんじゃないかな」

「青花を育ててたのが無駄じゃなくなる。ビョルンさんの言う通りだったね」


 思い付いたことが嬉しくてお兄ちゃんと私は登校前にビョルンさんとカミラ先生に相談に行った。


「ひまわりだちょうのオイルのせっけんやシャンプーに、青花を入れてみてはどうでしょうか?」

「呪いを浄化する付加価値がつけば高く売れますし、何より、呪いで苦しむひとが少なくなります」


 思い付いたことを私とお兄ちゃんで口にすると、カミラ先生は青い目を輝かせていた。


「それは素晴らしいですね。まず試作品として作らせたものをルンダール家で使いましょう。それにオースルンドの両親にも贈りましょう」

「おじいさまとおばあさまにも!」

「オースルンド領で使えることが分かれば、王都やオースルンド領からも注文が来ますよ」


 ただのプレゼントではなくてカミラ先生は売り込むためにオースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様に試作品を送ると言っている。かなりの商売人だと私は尊敬してしまった。

 私とお兄ちゃんは幼年学校と魔術学校に行って、その間にカミラ先生とビョルンさんが試作品を作らせる。向日葵駝鳥の種から油を搾る施設も付いた工場の建設も着工されているようだった。


「ダンくんとフレヤちゃんの家のひまわりだちょうはよく育ってる?」

「さくをはるのが大変だったけど、みずやり、ミカルとおれだとそれほどけいかいされないみたいだから、おれたちがたんとうしてる」

「わたしも、ひまわりだちょうにお水をあげてから学校に来てるわよ」


 人間を怖がって土から根っこを引き抜いて逃げ出す向日葵駝鳥だが、小さな子どもならばそれほど恐れないらしい。話していると他のクラスメイトも自分が向日葵駝鳥の水やりを担当していると教えてくれた。

 貴族以外で魔術の使える人間の方が少ないので私たちのように魔術で水を降らせることはできない。その代わりに農家の子は大活躍しているようだ。


「そのうち、カミラ先生から知らせが出るけど、ひまわりだちょうのたねを仲介人なしでかいとって、せっけんやシャンプーにするじぎょうがルンダールで始まるよ」

「仲介人なしでって、どういうことだ?」

「それぞれの家とけいやくしてとれた分をちょくせつ買い上げるから、仲介料がひつようじゃなくなるの」

「それって、収入がふえるってことよね?」


 よく分かっていないダンくんよりもフレヤちゃんの方が理解が早かった。

 収入が増えることは純粋に農家としては嬉しいことだろう。ルンダール領は薬草栽培の農家で支えられているような領地だから、マンドラゴラ栽培以外の収入を見込めるということは領地全体が豊かになる。

 新しい事業にもフレヤちゃんは興味津々だった。


「せっけんやシャンプーを作る工場ができるの?」

「うん、ひまわりだちょうのたねから油をしぼるしせつも作るって」

「それはまじゅつのさいのうがなくてもしゅうしょくできる?」

「まじゅつのさいのうはいらないとおもう」


 そこまで聞いて私は気付いた。フレヤちゃんのお姉ちゃんには魔術の才能がない。それで幼年学校卒業後は工房に徒弟として入って畑の肥料や栄養剤を作る技術を学びながら働いているのだ。


「お姉ちゃんのこうぼうのきゅうりょうが低いのが気になるのよね。工場ができたらはたらき手をぼしゅうするでしょう?」

「大量にぼしゅうすると思うよ」

「そこ、りょうはあるのか?」


 話にやっとついてきたダンくんの問いかけに私ははっと息を飲んだ。

 働き手を大々的に募集するのであれば、通えない遠方の仕事のないひとたちも応募できるように寮があった方が良いに決まっている。

 魔術学校はルンダール領に一つしかないが、通えない子どものために寮があった。そんな風に工場にも寮があれば働きやすくなる。


「ダンくん、さすが。いい考え!」


 私はそのこともカミラ先生に伝えようと決めて授業に臨んだ。

 幼年学校と魔術学校が夏休みに入る日に、石鹸とシャンプーの試作品が出来上がって来た。石鹸は薄青くて爽やかな香りがする。シャンプーは石鹸とよく似た固形でシャンプーバーと呼ばれるような形になっていた。


「オースルンドのお屋敷でも使ってもらうことにしています。使った感想などを聞かせてくださいね」


 バスルームと子ども部屋の小さなバスルームに置かれた石鹸とシャンプーバー。早速汗だくで学校から帰って来たのでシャワーを浴びて使うと肌がしっとりしてくるような気がする。シャンプーバーは固形なので泡立てるのが大変でお兄ちゃんに手伝ってもらったが、いい匂いで髪がさっぱりとした。


「まりょく、上がってるのかな?」

「どうだろうね。僕の使える魔術は限られてるからなぁ」


 脱衣所で服を着て髪を拭きながら話していると、廊下から声が聞こえてくる。驚いて飛び出るとファンヌが片手でヨアキムくんを、もう片方の手でリンゴちゃんを持ち上げていた。


「オリヴェルおにぃちゃん、にぃさま、すごいのよ!」

「凄いのは分かったから、ヨアキムくんとリンゴちゃんを降ろしてあげてー!?」


 思わず叫んで驚いてお目目を真ん丸にしたまま持ち上げられているヨアキムくんとリンゴちゃんを助け出すお兄ちゃん。私も驚き過ぎて声が出なかった。

 駆け寄ってヨアキムくんに寄り添うとうっとりとヨアキムくんが目を細めるのと対照的にリンゴちゃんはぶるぶると震えていた。


「ファンヌたん、すごいの……」

「こわくなかった? 大丈夫?」

「よーののろいも、つよくなってるのかな?」

「あー……どうだろうね」


 こればかりは使ってみるということができないのでどうしようもない。一応ヨアキムくんは術式なしで呪いを発動させることができるが、発動条件として相手を憎く思っていないといけないというのがあった。

 それにしても石鹸とシャンプーバーの効果ははっきりとファンヌに出ている。無意識で使う肉体強化の魔術でさえこれだけ強くなるのならば、意識して使う魔術はどうなのだろう。

 それともう一つ、呪いの浄化だったがこれの効果については実感はできていなかった。


「お兄ちゃんのおじいさまとおばあさまも、アンネリ様ものろいで亡くなったから、お兄ちゃんはそんなことがないようにしたかったんだ」


 青花を使おうと思い付いた経緯を話せば私はお兄ちゃんから抱き締められた。

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