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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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6.手に入った手がかり

 お兄ちゃんの専門は薬草学と医学である。

 私はファンヌのように肉体強化の魔術は使えないし、ヨアキムくんのように呪いも使えない。

 お屋敷に帰ろうとして囲まれてしまうと私とお兄ちゃんに抵抗する方法がないのだ。体格は大人の男性よりもいいお兄ちゃんだが平和主義で戦うなんてことができるはずがない。

 平和にアイスクリームを食べ終わってお屋敷に帰る馬車を待っていた私たちを、屈強な男性たちが取り囲んでいた。後ろには腕組みをしたさっきの女の子がいた。


「連れて行って!」

「お兄ちゃんと私にさわらないで!」


 暴れるが抵抗も虚しく私は軽々と持ち上げられて女の子の呼んだ馬車に乗せられてしまう。


「お兄ちゃんー!」

「イデオン!」

「乗らなかったら、あの子だけ連れて行くわよ!」


 お兄ちゃんを助けるつもりが私は囮になってしまった。役に立つつもりだったのにお兄ちゃんを困らせる結果になってしまって涙が出そうになる。馬車に乗り込みながらお兄ちゃんは私の肩を抱く。


「イデオンのせいじゃないよ。泣かなくていいよ」

「お兄ちゃん、ごめんなさい」


 零れる涙をハンカチで拭ってくれてお兄ちゃんはしっかりと抱き締めてくれていた。引き離されないようにしっかり抱き締めてくれるお兄ちゃんに縋って私は必死に涙を堪えていた。

 馬車は揺れながら進んでいく。肩掛けのバッグに手を入れて私はマンドラゴラと南瓜頭犬を窓から投げ落とした。きっとあの子たちが私の居場所を教えてくれる。

 願いを託して私はお兄ちゃんに抱っこされたままでその女の子のお屋敷まで連れて来られた。先日夜に抜け出したときとは印象の違う昼のお屋敷。応接室に通されてお兄ちゃんは私を膝の上に乗せてしっかりと守ってくれていた。


「その子をどこかにやって!」

「イデオンはルンダール家の子どもだよ? 何かしたら当主代理が許さない!」

「当主代理なんて、子どもを産んでそっちにかかりっきりなんでしょう? 怖くもないわ」


 腕を引っ張られて私は痛みに呻く。お兄ちゃんから引き離されたくないが、女の子は容赦なく私の細い腕を引っ張って引き離そうとする。


「いたい! やめて! いたいよ!」

「オリヴェル様と二人きりで話があるのよ!」


 騒いでいると部屋に入って来た人物がいた。

 ヨアキムくんの耳に呪いの件で最低なことを囁いた男性だ。その顔を私はしっかりと覚えている。


「オリヴェル様を苦しめた男と女の子どもを養子にして、呪われた子を引き取って、ルンダール家は何を考えているのか。それもあのオースルンドから来た魔女の企みに違いない」

「叔母上は何も企んでなどいません」

「そうやって騙されているのですな。レイフ様やアンネリ様のようにオリヴェル様を亡き者にして、自分の娘やベルマン家の子どもを傀儡にしようとあの魔女は考えているのですよ」


 言っていること全てが間違っているし、気に入らないことばかりで腹が立ってくるが、私の中の冷静な部分がある場所をきちんと聞きとっていた。

 このひとは今、レイフ様も亡き者にされたと口にした。


「お父様、この子をどこかにやってしまって」

「さぁ、来るんだ。ベルマン家の子どもがルンダール家の子どものような顔をしてるんじゃない」


 正式に私はルンダール家の養子に入って、ファンヌも私も家名がルンダールに変わっている。そのことは国王陛下にも認められていることだ。それなのにこの男性は私をベルマン家のイデオンだという。


「お兄ちゃんからはなれない! お兄ちゃんをどうするつもりなの!」

「オリヴェル様とは、二人きりでイイコトをするのよ。子どもはお呼びじゃないの」


 子どもだから私には分からないと思っているのかもしれないが、具体的にすることは分からないとしてもそれが如何わしいことであるというのは伝わって来た。

 お兄ちゃんの前に両手を広げて立ち塞がる私を男性が担いで連れて行こうとする。それをお兄ちゃんが取り返そうともがいている。

 誰か助けて!

 願ったときに現れたのは、南瓜頭犬に跨った蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラだった。手のようになっている根っこには剣の代わりに竹串を持っている。

 竹串で脚をぶっすりと刺されて、男性が悲鳴を上げながら私を落とす。地面に落ちる前にしっかりとお兄ちゃんが私をキャッチしてくれた。


「わたくしのにぃさまとオリヴェルおにいちゃんに、なにをなさっているのかしら?」


 次に現れたのは菜切り包丁を構えたリンゴちゃんに乗ったファンヌと、その後ろにしっかりとくっ付いているヨアキムくんだった。その後ろからカスパルさんとブレンダさんが鼻歌交じりについてきている。鼻歌が魔術になっているのか、周囲の壁やドアが壊れていくのが恐ろしい。


「これが伝説の剣か。ぜひ切れ味を見てみたいものだね」

「ドラゴンも召喚できるんでしょう? 派手にやっちゃいましょうよ」


 完全に楽しんでいる様子のカスパルさんとブレンダさん。振り上げた身長より大きな菜切り包丁をファンヌが振り下ろす。竹串で脚を刺されて尻もちをついていた男性の脚の間に菜切り包丁が刺さって、男性の股間が濡れて異臭を放つのが分かった。

 しっかりと醜態を胸にかけた魔術具で記録しながら私は問いかける。


「レイフ様がなきものにされたとは、どういういみですか?」

「そ、それは……言葉の綾というか」

「何か知っているのならば、はかないと大変なことになりますよ?」

「た、たいへんな……?」


 私が助けてと願って、ファンヌが伝説の剣を抜いた。そうなると結果は見えている。

 ばりばりと轟音を立てて屋敷の屋根が破れて巨大な純白のドラゴンが降り立った。


「ぎゃー!? お屋敷がー!?」

「いやー!?」


 叫ぶ親子に私はにじり寄る。


「持っているじょうほうをぜんぶはかないと、つぶされるのはおやしきだけではなくなりますよ?」

「ひぃ!? お許しを! 私は噂を聞いただけで」

「どんなうわさですか?」

「コーレ・ニリアンの息子が、レイフ様の魔術具に仕掛けを施したと」


 レイフ様の死因は病死となっている。

 呪いにかかったり、怪我をしたり、病気をしたりしないように、貴族は魔術具を揃えて身を守っている。特にレイフ様は身近に薬草学に詳しいアンネリ様がいたのに病死したというのは怪しく感じていたのだ。

 身を守るための魔術具が作用していなかったのならば、病気に罹ったとしてもおかしくはない。


「イデオンくん、オリヴェル、このアホの処分はどうする?」

「ヨアキムくんに妙なこと吹き込んだのもこのアホよね?」


 カスパルさんとブレンダさんに言われて私はお兄ちゃんと顔を見合わせる。これから社交界に出るたびにヨアキムくんがこの親子の顔を見て嫌な気持ちになるのは可哀そうだ。

 何よりもこの親子がレイフ様の暗殺に本当に全く関わっていないとは限らない。


「貴族の身分をはく奪してください」

「ルンダールりょうからついほうもおねがいします」


 お兄ちゃんと私の言葉にカスパルさんとブレンダさんは笑顔で手を上げて了解してくれた。

 ドラゴンさんには帰ってもらって、みんなでお屋敷に戻る。

 遅れてしまったおやつの時間にカミラ先生とビョルンさんは心配して私たちを待っていてくれた。私が帰るとカミラ先生に抱き締められる。


「イデオンくん、無事でしたか? オリヴェルも、怪我はありませんか?」

「イデオンくんの南瓜頭犬と蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラが走り込んで来たときには驚きました。無事なようで良かったです」


 エディトちゃんが小さいので迎えに行くことができなかった分、カミラ先生もビョルンさんもものすごく心配してくれていたようだった。あの男性はカミラ先生が私やファンヌを使ってルンダール領を乗っ取ろうとしていると言っていたがそんなはずはない。

 カミラ先生は私の次はお兄ちゃんをしっかりと抱き締めていた。抱き締められてお兄ちゃんはちょっと照れ臭そうだったが嬉しそうでもあった。


「カミラ先生、これを見てください」


 立体映像を展開して私はあの男性の話したことをカミラ先生にも見せる。音声までしっかりと記録された立体映像にカミラ先生の顔色が変わった。


「コーレ・ニリアンの息子がレイフ兄上を……」

「まだこれだけしかしょうこはありませんが、手がかりはつかみました」


 魔術具に仕掛けをした。

 そのことが分かっていればレイフ様の魔術具を調べてみればいい。

 アンネリ様の遺品が詰められた倉庫はあの後整理されていたが、まだ手を付けられていないレイフ様の遺品もあったはずだ。そこに魔術具があれば調べることができる。


「レイフ兄上はアンネリ様と共に、病院や診療所に慰問に行っていたと聞きます。そのときに流行り病をうつされたのだったら……」


 身を守るための魔術具が作用しなくてレイフ様は流行り病をうつされる。レイフ様の死後、コーレ・ニリアンの息子はどうしたのか。

 探ってみる必要があると私は感じていた。

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