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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
四章 幼年学校で勉強します!(二年生編)
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1.二年生に進級

四章が始まります。

イデオンも7歳になりました。

イデオンやファンヌやヨアキム、オリヴェルの成長をお楽しみください。

「まじゅつ学校には、しんきゅうするためのしけんがあるの?」


 幼年学校の二年生になることが決まっていた私は、登校初日にファンヌとヨアキムくんの馬車を見送った後でお兄ちゃんと話をしていた。薬草畑の世話をしながらでも部屋に戻ってからでも、お兄ちゃんと私の話が尽きることはない。


「農家の子どもも多いし、忙しい時期に進級試験がかかることも多いから、冬休みの前と春休みの前の二回進級試験があって、どちらかに合格すれば次の学年に進めるようになってるんだよ」

「私、二年生になるのにしけんなかったよ?」

「幼年学校は試験はなくて進級できるよ。卒業のときに魔術学校の入学試験はあるけど」


 農家の子どもたちの忙しい時期を外したり、進級試験に落ちた生徒の救済のためにも年に二回魔術学校は進級試験を設けているという。


「お兄ちゃんは、どっちに受かったの?」

「僕は冬休み前の一回目の試験で受かったから、その後は次の年度に備えて勉強していたよ」


 農家の子どもたちが働けるように春休みも長く取られている魔術学校は、冬休みの終わりから春休みまでの期間が非常に短い。そのために進級試験の追試期間が設けにくいこともあって冬休み前と春休み前の二回進級試験があるのだとお兄ちゃんは教えてくれた。

 私も幼年学校を卒業したら魔術学校に入学するのだが、入学試験も進級試験も全く想像がつかない。幼年学校でも一年生なので試験はあるのだが難しくはなく、間違っても酷い点を取っても復習をするように促されても怒られている子どもはいなかった。

 幼年学校二年生の初めの日、私はお兄ちゃんに移転の魔術で幼年学校まで送って行ってもらった。


「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 ハグをして送り出される私も幼年学校ではごく普通のこととなっていて、特に揶揄われたこともない。お兄ちゃんは両親がしてくれなかった分を埋めてくれているようで申し訳ないが、私にはお兄ちゃんとの登校が嬉しくてたまらなかった。

 二年生の教室に入ると担任のソーニャ先生が挨拶をしてくれた。


「おはようございます、イデオンくん。今年度もよろしくお願いします」

「ソーニャ先生、今年度もたんにんなんですね。よろしくおねがいします」

「一年生と二年生は同じ担任なのですよ」


 幼年学校は二年毎に担任が変わる制度になっているようだった。上級生の担任は怖い先生もいるようだから警戒していたが、今年まではソーニャ先生ということで安心する。

 それにしても自分の通っている幼年学校でも私は知らないことがたくさんあった。


「イデオンくん、ちょっといいかしら?」


 フレヤちゃんに声をかけられて私はそちらの方に歩いていく。まだ席が決まっていないのでフレヤちゃんは適当に近くの机に荷物を置いて立っていた。


「一年生の入学式があるでしょう? 私、二年生の代表としてあいさつをたのまれたの」

「フレヤちゃんが代表なの? すごいね」

「家だと集中できないから、イデオンくんのおやしきに行ってれんしゅうしてもいい?」


 お願いされて私は構わなかったが気になることがあった。


「うちのおやしきだと、ファンヌやヨアキムくんがいるし、ミカルくんも来てることがあるよ?」

「それがいいのよ。れんしゅうだいになってもらうの」


 なるほど、フレヤちゃんはファンヌやヨアキムくんやミカルくんを前に挨拶の言葉を読んで練習したかったのか。それだったら拒む理由はなにもなかった。


「いいよ、来る日をおしえてくれたら、待ってる」

「ありがとう、イデオンくん」


 こんなことでフレヤちゃんの役に立てるのだったらお安い御用だ。それにしても二年生の代表に選ばれるなんてフレヤちゃんは本当に努力しているのだとしみじみと尊敬してしまう。

 成績は私も良い方だがフレヤちゃんの努力には敵わないところがある。満点が取れそうでも私はケアレスミスが多いとお兄ちゃんは試験の答案を見て言っていた。きっとフレヤちゃんはそんなことがないようにきっちりと勉強しているのだろう。


「イデオン、カミラ様の赤ちゃん、うまれたのか?」


 ダンくんに聞かれて私は春休みの間一度もダンくんが遊びに来ていないことに気付いていたのだが、誘って良いものかと悩んでいたことを思い出す。カミラ先生はお産を控えていたし、ダンくんは農家なので春休みは忙しかったのかもしれない。


「うまれたよ。女の子だった」

「そうか……おさんでいそがしいから、父ちゃんと母ちゃんがおやしきには行くなって言ってて」

「そうだったの!?」


 ダンくんを誘ってはいけないかもしれないと悩んでいた私と、お産で忙しいからお屋敷に来てはいけないと言われていたダンくん。二人ともそれぞれに遠慮し合っていたことが判明した。


「うばのリーサさんもいるし、カミラ先生はお休みしてるから気にしなくていいよ。あそびに来てよ。ファンヌとヨアキムくんもさびしがってる」

「そっか。じゃあ、行こうかな」


 気を遣われていたことに気付かないなんて私は子どもだった。反省しつつダンくんを誘うと乗り気になってくれていた。


「家にいるとミカルがあそんでって言ってきて、べんきょうにならないんだよ」

「あぁ……私のへや、かすよ?」

「たのむ……べんきょうも教えてくれ」


 春休みの間ダンくんはかなり苦労をしたようだった。勉強が嫌いなわけでも苦手なわけでもないダンくん。不真面目でもないのだがどうしても成績が伸びないのは、家で落ち着いて勉強できる環境にないからだろう。

 勉強できる環境を私が提供できるのならばしたい。

 ダンくんとフレヤちゃんがお屋敷に来る約束をして、その日は授業を受けて給食を食べてお兄ちゃんに迎えに来てもらった。

 お兄ちゃんも魔術学校の初日は受ける授業の登録と教科書の販売だけだったので、早く終わって帰って来られたのだ。


「お兄ちゃん、お帰りなさい」

「イデオン、お帰り。さぁ、帰ろう」


 移転の魔術は馬車のように帰り道で話す時間はないけれど、その代わりに帰ってからゆっくりとお兄ちゃんと部屋で話す時間が取れる。

 ファンヌとヨアキムくんと保育所に通っていたリーサさんはエディトちゃんの乳母として保育所には行かなくなった。代わりに保育所の送り迎えはセバスティアンさんが請け負ってくれている。

 お屋敷に帰るとベビーベッドで眠っているエディトちゃんに「ただいま」を言って部屋に戻る。


「産後一か月になったら叔母上がエディトちゃんのお披露目をするって言ってたよ。そのときにイデオンとファンヌのお誕生日のお祝いも遅れてするみたいだね」

「私のおたんじょうびはいいのに」

「煩わしいけど、ルンダール家の子どもだから諦めて」


 同情するように言ってからお兄ちゃんは私を膝の上に乗せて後ろから抱き締めてくれた。7歳になったのだからお膝の上に乗るのはもうおかしいかもしれないと感じているが、抱っこされるとどうしても抵抗できない。

 お兄ちゃんにお膝の上に抱っこされていると安心するし、何よりも自分がお兄ちゃんの特別のような気がしてくるのだ。


「イデオンとファンヌがいなかったら、ルンダールの子どもは僕一人だったんだよ。全部僕が背負わなきゃいけなかった」

「お兄ちゃん……」

「叔母上が体調を崩したときに、泣いてまで止めてくれるイデオンがいなかったら、今頃僕は当主の補佐をしていて、研究課程に行くのを諦めていたかもしれない」


 初めてお兄ちゃんと言い争いをしてしまった日、私は大泣きをして部屋を飛び出した。お兄ちゃんが当主としての仕事を肩代わりするということは、当主として働けることを証明してしまうことにもなる。そうなればカミラ先生が許可したとしてもお兄ちゃんは研究課程に行くことを許されず、周囲の貴族に流されて魔術学校を卒業して成人する年になったら当主にされていたかもしれない。

 お兄ちゃんが当主になったらカミラ先生はオースルンド領に帰ってしまう。


「専門課程に行きたいっていうのも、学問を修めたい気持ちももちろんあるんだけど、自信がないっていうのもあるんだ」

「お兄ちゃんが、自信がないの?」

「僕が18歳になっても、イデオンは8歳……誕生日が来てたら9歳だけど、それでもイデオンに助けてもらうわけにはいかないでしょう?」


 カミラ先生がいなくなればお兄ちゃんはルンダール家の子どもと協力して領地を治めるしかなくなる。そうなったときに魔術学校を出たばかりならば私は誕生日が来ていても9歳、とても補佐としてものが言える年ではない。

 研究課程を卒業していたならば、私の誕生日が来ていれば13歳、私は魔術学校の二年生ということになる。9歳よりは頼りになるであろう私の成長をお兄ちゃんは待ちたかったのだ。


「お兄ちゃんにたよりにされててうれしい」


 魔術学校に入学すればきっとお兄ちゃんの役に立つことをたくさん学ぶことができるはずだ。その頃にはカミラ先生の赤ちゃんも増えているかもしれない。

 まだ7歳の私にとっては遠い未来だが、お兄ちゃんにとっては決して遠くはない未来のことをお兄ちゃんはしっかりと見据えていた。

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