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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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47.赤ちゃん誕生

 私のお誕生日とファンヌのお誕生日は春休み中に来る。終業式が終わった後で私はフレヤちゃんとダンくんに引き留められていた。移転の魔術で迎えに来てくれたお兄ちゃんも私のことを待っていてくれる。


「おたんじょうびにはようねんがっこうがおやすみだから」

「これ、フレヤとつくったんだ」


 ダンくんとフレヤちゃんに手渡されたのは、鱗草で作ったラペルピンだった。貴族の集まりでは私も盛装を着るので、フラワーホールにラペルピンを挿すことがある。それを考えて作ってくれたのだろう。


「イデオンはきぞくだから、のろいにさらされるかもしれないからな」

「しゅうかくさいでこうかさせてもらったのを、わけてもらったの」


 収穫祭の幼年学校と保育所の合同バザーで私たちが出店していた露店に来て、ダンくんとフレヤちゃんの家も鱗草を硬化させてもらっていた。その一部を分けてもらってラペルピンに仕上げてくれたのだ。


「ありがとう、すごくうれしいよ」

「イデオンはおれのたんじょうびにミカルといっしょのカップをくれただろ?」

「わたしのおたんじょうびには、ヘアピンをくれたわ」


 そのお礼だと言われて嬉しくて顔がにやけてしまった。

 お兄ちゃんにラペルピンを見せると頭を撫でてくれる。ダンくんとフレヤちゃんにもう一度お礼を言って私はお兄ちゃんと一緒にお屋敷に戻った。

 誕生日は間近なのだがそれよりもずっと気になっていることがある。

 カミラ先生の出産がそろそろなのだ。

 予定日はあるが前後することが多いという出産。ファンヌのときは覚えていないから私は初めて誰かが赤ちゃんを産むというのを経験することになる。もちろん立ち会うわけではないが、お屋敷中が落ち着かない雰囲気にはなっていた。

 リーサさんはファンヌが使っていたベビーベッドを組み立てて哺乳瓶も準備しているし、子ども部屋には魔術具ですぐにお湯を沸かせる設備も整った。使った哺乳瓶は鱗草で浄化すればいいので、鱗草の準備もしてある。

 いつ生まれてもいいようにしていたら、私たちが待っているのを分かったのか、カミラ先生に陣痛が来たのは予定日よりも早い、私の誕生日の前日だった。

 自分の誕生日なんてどうでもいいのでただカミラ先生が無事に出産できるように部屋で祈っていると、お兄ちゃんが私の手を引いて子ども部屋に行った。普段ならばもうファンヌもヨアキムくんも眠っている時間だが、その日は出産の気配に二人とも起きていた。


「みんなでお祈りしよう。きっと大丈夫」

「うん、おにいちゃん、いのろう」

「あい、おいのりすゆ」

「カミラてんてーがんばって」


 初めての出産は時間がかかることが多いらしい。カミラ先生に陣痛が来てから何時間くらい経っただろう。もう日付が変わっていたかもしれない。

 祈った形の手のままで床の上に倒れ込んで眠っているファンヌとヨアキムくんに、私も眠くてたまらなかったがなんとか目を開いていると部屋にカスパルさんが飛び込んで来た。


「産まれた! 女の子だ!」

「おんなのこ!?」

「いもーと!?」


 飛び起きたファンヌとヨアキムくんが部屋を飛び出して行こうとするのをリーサさんが止める。お産は産んだ後も色んな処理があるから子どもは部屋に入ってはいけないのだ。

 代わりにブレンダさんが産まれたばかりのしわくちゃの産着に包まれた小さな赤ちゃんを抱っこして来てくれた。


「エディトちゃんだよ。エディト・オースルンド」

「エディトちゃん!」

「オースルンド? ルンダールちやう?」

「カミラせんせいはオースルンドりょうのじきりょうしゅさまだからね」


 ちょっと分かっていない感じのヨアキムくんも赤ちゃんを見ると黒いお目目を輝かせていた。ぽわぽわの麦藁色の髪に青い目の小さな赤ちゃんを少しだけ見せてもらって、もう遅いので私たちは寝るように言われたけれど、部屋に戻ってベッドに入っても胸がどきどきして眠れなかった。


「おにいちゃんのいとこだよ?」

「そうだね。初めての従妹だ。可愛かった」

「エディトちゃん……ちいさかった」


 産まれたばかりの赤ん坊というのはあんなにも小さいものなのか。小さくなければカミラ先生のお腹から出て来ることができなかったから当然なのだが、それでも妙に感動してしまう。

 あんなに小さな子が這い這いをするようになって、つかまり立ちをして、歩くようになって、喋るようになる。


「日付が変わってたみたいだから、イデオンと同じ誕生日じゃない?」

「うそっ! さいこうのたんじょうびプレゼントもらっちゃった」


 はしゃいでなかなか眠れない私だったが、夜も更けると瞼が重くなって眠ってしまった。翌朝は寝坊しそうになったけれど何とか起きて薬草畑の世話をする。

 春先には開墾して新しい種を植えた薬草畑は、ぽつぽつと芽が出始めていた。赤ちゃんにお乳をあげなくてはいけないカミラ先生のために蕪マンドラゴラが今年は多めに植えてある。

 冬を越したマンドラゴラの中で、今日カミラ先生のところに行く蕪マンドラゴラを募ると土の中で話し合いが行われたようだが、一匹良く太った蕪マンドラゴラが粛々と土から出て来た。


「カミラせんせいのえいようになってね。ありがとう」


 感謝の気持ちを込めて丁寧に泥を落として洗って蕪マンドラゴラを厨房に持っていく。この一匹で数日分はあるだろうが、なくなればまた新しい蕪マンドラゴラを募らなければいけない。


「びゃ」

「ううん、それはだめ。わたしのだいじなマンドラゴラだもの」


 「足りなくなったら自分を使ってくれ」とばかりに名乗り出る私の飼っている蕪マンドラゴラに私は首を振って言い聞かせた。

 産後の身体をゆっくり休めるためにカミラ先生は休みをとっていたが、食事は私たちと一緒に摂る。同じ料理の他にカミラ先生には蕪マンドラゴラのすり下ろしたスープがついていた。


「初めてお乳をあげてみましたが、私も下手だし赤ちゃんも飲むのが上手ではなくて、二人で四苦八苦していますよ」

「蕪マンドラゴラのおかげでお乳の出も良くなるでしょう」

「そうしたらエディトもたくさん飲めるかしら。イデオンくん、オリヴェル、蕪マンドラゴラをありがとう」


 お礼を言われると照れてしまうが蕪マンドラゴラがきちんとカミラ先生のお役に立つことがなによりの供養になる。食事をしている間はリーサさんがエディトちゃんを見ていてくれるが、泣き出すと連れて来るのでカミラ先生は慌ただしく食事を終えてお乳をあげに部屋に戻って行った。ビョルンさんも食事が途中だったがご馳走様をしてカミラ先生の元に走る。


「あれが正しい親子の姿ですよね」


 呟いたリーサさんの言葉が私には酷く感慨深く響いた。

 私が泣いてもファンヌが泣いても、オムツが濡れて気持ち悪くて困っていても、私の両親はリーサさんに手を貸すことはなかった。手を貸してくれたのはお兄ちゃんで、両親が例え良い領主代理だったとしても私は両親よりもお兄ちゃんに懐いていただろう。領民に重税をかけて農地を手放すものまで大量に出た私の両親の治世はとても良いものとは言えなかったのだけれど。あれからもうすぐ二年、ルンダール領はカミラ先生の努力のおかげで貧しさが少しずつ改善されている。

 それでもまだ二年。


「イデオン、お誕生日おめでとう」


 食べ終わって部屋に帰るとお兄ちゃんに言われて、私はすっかりと今日が自分の誕生日だということを忘れていた。毎年パーティーが開かれていたがそれもカミラ先生が出産で大変なので開かれないのはちょっと安心する。お産の後のカミラ先生を貴族の中に連れ出したいとは思わなかった。


「これ、お誕生日プレゼント」

「あけてもいい?」


 お兄ちゃんから箱を手渡されて私はリボンを解いてその箱を開けた。中には魔術で明かりがともる小さな手持ちのランタンが入っていた。すりガラスの中に灯る光りは柔らかく暖かい。


「夜中にお手洗いに行くときに、毎回ついて行ってあげたいけど、イデオン、遠慮することがあるでしょう?」


 暗い廊下が怖いことがお兄ちゃんにはお見通しだったらしい。このランタンがあれば暗い廊下も歩いていける。普段は肩掛けのバッグに入れておけばいいから、持ち運びも簡単だ。

 誕生日の近いファンヌには黄色い灯り、私は青い灯りのランタンがプレゼントされた。

 幼年学校に入学してから一年、私は7歳になって、ファンヌももうすぐ5歳になる。新学期からは幼年学校の二年生になるのだ。

 新しい家族も増えたし、ますます賑やかになったルンダールのお屋敷で私は将来お兄ちゃんの補佐となるために勉強するのだった。

これで、三章は終わりです。

イデオンたちの成長と活躍いかがでしたでしょうか?

引き続き番外編と四章もよろしくお願いします。


感想、評価、ブクマ、レビュー等、歓迎しております。

応援よろしくお願いします。作者のやる気と励みになります。

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