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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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43.ニリアン家の新しい当主

 魔術学校も幼年学校も冬休みに入った。

 ヨアキムくんのためにマンドラゴラ品評会にお兄ちゃんと私だけブレンダさんに連れて行ってもらって、薔薇の花の苗木を買った。会場は盛り上がっているが今回は参加する気はない。マンドラゴラの飼育は貴族の高尚な趣味になっているので、ルンダール領以外の貴族もたくさん来ているようだった。

 私たちがルンダール家の子どもだと気付いて話しかけようとする貴族を、ブレンダさんが魔術で封じ込めて遠ざけてしまう。口を封じられて喋ることができないままに私たちの前で踵を返して操られて帰っていく貴族たちは玩具のようで笑ってしまった。


「ブレンダさんはふしぎなまじゅつをつかいますね」

「私は使役の魔術が得意なんだよ」


 褒められたのが嬉しかったのか誇らしげな顔になるブレンダさんは素直で分かりやすい。顔色を窺わなければいけないようなことがなくてお兄ちゃんと私も伸び伸び買い物ができた。


「私からも買わなきゃ。どんな薔薇が庭園にはなかったっけ」


 聞いて熱心にヨアキムくんの薔薇を選んでくれているところも好感が持てた。

 カスパルさんとブレンダさんは変わってはいるが私たちには分かりやすい態度を取ってくれる。素直で目的がはっきりしていて私たちに対して害意がないのが分かっているので安心して一緒にいられる。

 さすがカミラ先生とレイフ様の弟妹でオースルンドのお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様も信頼して送り出してくれたのが理解できた。

 仕事ぶりもカスパルさんとブレンダさんは二人でいると競うように仕事を取っていくので、非常に捗っているとビョルンさんから聞いていた。貴族たちの使用人の給料を下げずに休みをとらせる法を廃止する嘆願書などは、ビョルンさんでは悩んで真剣に受け止めそうだが二人はばっさりと切り捨ててしまったと聞いた。

 有能な二人が来てくれてルンダール領もカミラ先生が出産しても安心な体勢ができていた。


「出産予定日はいつ頃なのですか、叔母上」

「春のファンヌちゃんと同じ月になりそうですよ」


 夕食の席でお兄ちゃんがカミラ先生に聞くと返事が返って来た。

 誕生日が近いけれどファンヌと私は生まれた月が違う。数日の差なのだけれど私が月末でファンヌは月初めだ。

 ファンヌと同じ月ということは赤ちゃんが少し大きくなったら一緒に誕生日を祝えるかもしれないと生まれてくるのが楽しみでならない。それはファンヌもヨアキムくんも同じようだった。


「ファンヌちゃんの誕生日付近にバタバタしてるかもしれないけど」

「おたんじょうびおいわいが、あかちゃんだったら、わたくしうれしいわ」

「よー、にぃたんになるの」


 誕生日を祝う余裕などないかもしれないとビョルンさんは心配してくれるが、ファンヌとヨアキムくんはそんなこと関係なくお目目を煌めかせていた。特にヨアキムくんは今まで子どもの中で一番年下だったので赤ちゃんが生まれるのが嬉しいようだ。

 話しながら食事を終えて、私とお兄ちゃんはお風呂に入って布団の中にもぐりこんだ。季節はすっかり冬になっているので温まった体が冷える前にお布団の中に入らないと、足先が冷たくてぐっすり眠れなくなるのだ。


「イデオン、もうすぐ誕生日パーティーだね」


 隣り合わせのベッドの中からお兄ちゃんの呟きが聞こえる。


「どうやってしらべようかな」


 コーレ・ニリアンの妹で現在ニリアン家の当主となっている人物との接触方法を考えながら私は眠りについていた。

 お兄ちゃんの誕生日当日は貴族を集めたパーティーで、ヨアキムくんの誕生日に合同誕生会をすることになっている。貴族たちの集まるパーティーには夜になるのもあったし、ヨアキムくんはアシェル家の子どもで呪いをかけられていたのにルンダール家にいるということで、両親の悪行のせいで嫌な思いをさせられないように配慮して、参加させないことになっていた。

 子ども部屋で「いってらったい」と手を振るヨアキムくんに「いってきます」と挨拶をして私とお兄ちゃんとファンヌはパーティーに出る。

 パーティーはカスパルさんとブレンダさんの正式なお披露目の場でもあったのでお兄ちゃんと私にそれほど注目は集まらなかった。テーブルからオレンジジュースを取ってもらって、私はそれを手にニリアン家の当主を待っていた。


「兄が大変な迷惑をおかけしました。二度とあのようなことがないようにニリアン家を守りたいと思います。寛大なお心に感謝します」


 挨拶に来たコーレ・ニリアンの妹は神経質で痩せたコーレ・ニリアンとは違ってちょっとふくよかなご婦人だった。挨拶をしている途中で私はお兄ちゃんと視線を合わせて小さく頷いた。


「あ!?」


 ちょっとわざとらしかったかもしれないが私は壇上から転げ落ちるふりをした。コーレ・ニリアンの妹が受け止めてくれたが持っていたオレンジジュースは彼女の地味なドレスにかかってしまった。


「もうしわけありません。どうしよう、あにうえ」

「使用人を呼んで染み抜きをさせます。弟にも謝らせますので」


 こちらへとお兄ちゃんが滑らかにコーレ・ニリアンの妹を別室に案内した。別室でドレスの染み抜きをしてもらっているコーレ・ニリアンの妹はひたすら恐縮していた。


「大したドレスでもありませんし、お気になさらず」

「ごふじんのドレスにしつれいなことをしてしまって、ほんとうにごめんなさい」


 深々と頭を下げて謝るとコーレ・ニリアンの妹の目が潤んだ。


「優しいのね……わたくし、この通り美しくもなくて、魔力の才能はあったけれど両親や兄には白豚のようだと馬鹿にされて、若い頃は美しいドレスに憧れたけれど、今はもう似合わなくなってしまったし……。わたくしはコーレ・ニリアンの妹なのにこんなに丁寧に扱ってくださるとは思わなかったわ」


 あぁ、このひとはコーレ・ニリアンの企みとは関係がない。

 私はそう直感していた。むしろこのひともコーレ・ニリアンやその周囲の犠牲者であったに違いない。

 美しいドレスに憧れても若い頃に自尊心を傷つけられて今も地味なドレスしか着られない彼女。

 このひとが関与していないとなるとニリアン家には警戒しなくて良いのかもしれない。


「うつくしいドレスをきられてください」

「え?」

「ひとはないめんからかがやくといいますし、としもがいけんもかんけいありません。じぶんのきたいとおもうドレスをきられたらいいとおもいます」


 真剣な眼差しで私が告げると彼女は目頭を押さえていた。

 壇上から落ちたふりをした私をとっさに抱き留めてくれたことからも、彼女が本質的に悪いひとではないのは分かっていた。


「嬉しい言葉をありがとう。わたくしに、聞きたいことがおありなのでしょう?」


 彼女が決して無能な人間でもないことは分かった。


「父上が本当は暗殺されたのではないかと疑っているのです。その首謀者がニリアン家にいるのではないかと」

「わたくしも思っておりました。レイフ様が亡くなってからアンネリ様のお見合いまで兄はあっという間に準備を進めてしまった。おかしいと思うものがいない方がおかしいです」


 コーレ・ニリアンの息子や他の兄弟たちはニリアン家から追放されているが様子を探ってみると彼女は約束してくれた。


「おなまえをおうかがいしてもいいですか?」

「デニースです。デニース・ニリアン」


 協力者として彼女の名前を私もお兄ちゃんもしっかりと覚えた。

 パーティーに戻って来た私とお兄ちゃんにカスパルさんとブレンダさんが寄ってきて耳打ちする。


「どうだったの?」

「良い情報は得られた?」


 私の演技などこの二人にはお見通しだったようだ。

 後で話すと視線で告げると、カミラ先生とビョルンさんがお料理を取ってもらって食べていたファンヌと私たちに声をかけた。


「後はカスパルとブレンダとビョルンさんに任せて、私も部屋に戻るので一緒に帰りましょうか」

「はい。おなかはもうだいじょうぶですか?」

「赤ちゃんは元気なようですよ」

「叔母上も先に休むのですね、良かったです」

「わたくし、おててつないであげるの」


 ファンヌに手を引かれてお兄ちゃんと私に守られてカミラ先生は部屋に戻った。私とお兄ちゃんも部屋に戻って、ファンヌは子ども部屋に戻る。

 まだ真相には近付いていないがデニースさんという味方ができたことは今日の大きな収穫だった。

 シャワーを浴びてお布団に入るとお兄ちゃんが声をかけて来る。


「デニースさん良いひとそうで安心したよ」

「わたしも。じょうほうがえられるといいんだけれど」


 長期戦になりそうな予感はしていたが、時間がかかっても私とお兄ちゃんはレイフ様の死の疑惑を解明するつもりだった。

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