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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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42.出会った贈り物

 レイフ様の暗殺疑惑についてはとても大事なことは分かっているのだけれど、6歳の私が今動いても何も情報は得られない。お兄ちゃんのお誕生日に挨拶に来た新しいニリアン家の当主に話を聞いてみる以外で先に進むことではない。

 目下私が直面している問題はそれではなかった。

 秋も終わって冬に近付いてきている。お兄ちゃんのお誕生日まで残り一か月くらいしかない。大好きなお兄ちゃんへのお誕生日お祝いを手を抜くことはできなかった。


「ファンヌ、おにいちゃんにおたんじょうびおいわい、かんがえた?」

「わたくし、ほいくしょでおりがみをならったの」

「おりがみ?」

「きれいなかみをおって、おはなをつくるのよ」


 ファンヌはしっかりとお兄ちゃんの誕生日お祝いを考えていた。4歳のファンヌが作った紙のお花ならばお兄ちゃんは絶対に喜んでくれるだろう。

 続いてヨアキムくんに問いかける。


「ヨアキムくん、おにいちゃんのおたんじょうび、なにをあげるつもり?」

「よー、れんちうちてるの」

「なにを?」

「おうた」


 保育所ではお歌も教えてくれるようだ。


「おたんじょーびに、おともらちにみんなでおめでとうのおうた、うたうの。よー、てんていにおちえてもらってるの」


 ヨアキムくんも3歳なりに準備は万端だった。

 つまり準備をしていなかったのは私だけということになる。

 なんということでしょう。

 お兄ちゃんとは特別に仲良しだし、大好きだという自覚のある私が、お兄ちゃんの誕生日お祝いについてなにも考えていなかったなんて。

 子ども部屋で項垂れる私の元にカスパルさんが顔を出した。


「イデオンくん、ちょっといい?」

「はい、なんでしょう?」

「庭の薬草畑について聞きたかったんだけど、マンドラゴラのことはイデオンくんが一番よく知ってるってオリヴェルも言ってたから」

「マンドラゴラがひつようなんですか?」


 話を聞いてみると、今必要なわけではないらしい。

 来年のマンドラゴラを育てる際にカスパルさんは幾つかオースルンド領のお兄ちゃんのお祖父様とお祖母様から話を聞いてきたという。


「蕪マンドラゴラは産後の栄養にもなるし、お乳が良く出るようになるって聞いてるんだよね。来年度は蕪マンドラゴラを増やすことってできる?」

「おにいちゃんとそうだんしてみないといけないけど、できるとおもいます」


 薬草畑の管理はほとんどお兄ちゃんがしているはずなのに、なんで私に聞きに行くようにお兄ちゃんは仕向けたのだろう。その疑問はカスパルさんの顔を見ていると解けるような気がした。

 すらっとして背が高いカスパルさんは、お兄ちゃんと少し雰囲気が似ている。年はビョルンさんと同じくらいでかなり上だろうが性別も同じ男性だ。


「カスパルさん!」

「なぁに?」

「16さいくらいのときにほしかったものって、ありますか?」


 私が悩んでいることはお兄ちゃんには筒抜けだった。去年は素直にお兄ちゃんのところに聞きに行ったけれど、今年はサプライズでプレゼントを考えたい。その思いを尊重するためにお兄ちゃんはカスパルさんを私の元に行くようにしてくれたのだ。


「オリヴェルの誕生日かな? 僕は変わり者って言われてるから参考にならないかもしれないけど、雑貨のお店に行ってみる?」

「え? いいんですか?」

「僕がついてて行っちゃダメとは言われないと思うけど」


 お兄ちゃんに内緒でカスパルさんと二人きりで出かける。ちょっと冒険のようで私はドキドキした。

 リーサさんに伝言を頼んで、馬車を呼んだカスパルさんと一緒に私は馬車に乗り込んで街まで出かける。以前にカップを買った雑貨のお店に着くとカスパルさんは鼻歌交じりに店内を見て回っていた。

 馬車に乗るときもお兄ちゃんなら手を貸してくれる。お膝に抱っこしてくれることもある。雑貨を見るときもお兄ちゃんは抱っこして高い位置にあるものが見やすいようにしてくれる。

 カスパルさんの態度に不満があるわけではなく、自分がどれだけお兄ちゃんに甘やかされて大事にされているかを実感して、私は頬が熱くなった。お兄ちゃんがいないときにも私はお兄ちゃんの存在を感じていた。


「おにいちゃん、あれなんだけどね」

「んん? 僕で良い?」

「あ、ごめんなさい、カスパルさん」


 お兄ちゃんのことを考えていたからお兄ちゃんが傍にいる気になって、私は高い棚の上にある木で作られた引き出し付きの薬箱のようなものを見たいのに、カスパルさんではなくてお兄ちゃんと声をかけてしまった。恥ずかしくて真っ赤になっている私にカスパルさんは薬箱のようなものを取ってくれた。

 薬草や種が収納できそうな薬箱のようなものは、船箪笥(ふなだんす)というと店員さんが教えてくれた。


「外側には何重にも漆が塗られていて、水が入らないようになっているんですよ。それに隠し箱があるので貴重品の収納にもぴったりです。魔術で中が拡張されているので量もかなり入りますし、持ち運びもできるように上に取っ手がついています」


 説明をされてよく分からないけれど私はこれがお兄ちゃんにぴったりなのではないかと感じていた。乾かした薬草や種を保管しておくためにお兄ちゃんは毎回裏庭の一番奥にある保管庫まで行かなければいけない。それもこれがあれば解決するのではないだろうか。

 ただ問題はお値段だった。

 値札を見て私のお財布の中を見て、私は絶望した。

 全然足りない。

 漆の艶が美しく一目で気に入ったのに、それを諦めるしかないのかとお店のひとに謝ろうとしていたら、カスパルさんがお財布を取りだした。


「良いセンスだと思うね。僕とイデオンくんの合同のプレゼントということにしようか?」

「良いんですか?」

「僕はオリヴェルのことはよく知らないから、誕生日お祝いを選べないからね。よし、ブレンダに一歩リードできたかな」


 あ、カスパルさんはブレンダさんとこういうことも競っちゃうんだ。

 お兄ちゃんに船箪笥を贈りたかったのは本当だし、お金が足りない現実もあったので、私はカスパルさんに甘えることにした。


「ありがとうございます」

「気にしないで」


 にこにこと笑っているカスパルさんはお兄ちゃんと似ているけれどやっぱり全然違うひとで、それでもカスパルさんは優しい大人だった。

 帰りの馬車の中でカスパルさんに思い切って聞いてみる。


「カスパルさんはおいくつなんですか?」

「26歳だよ」


 お兄ちゃんの10歳年上!

 去年海に行くために列車に乗ることが決まったとき、カミラ先生は年の離れた弟妹が小さい頃に列車に乗ったことがあると言っていた。カミラ先生は32歳だから6歳年が離れていることになる。

 私とお兄ちゃんは10歳年が離れているし、ファンヌと私は2歳、ヨアキムくんと私は3歳年が離れている。6歳年の離れた弟妹なんて想像もつかないけれど、レイフ様とカミラ先生とカスパルさんとブレンダさんは、どんな風に幼少期を過ごしたのだろう。


「イデオンくんの部屋に持って帰ったらオリヴェルにバレバレだから、僕が当日まで預かっておくね」

「よろしくおねがいします」


 お屋敷に馬車がついて降りるとカスパルさんは包まれた船箪笥を持って部屋に戻って行った。私も部屋に戻るとお兄ちゃんが部屋で勉強している。


「もうすぐ冬休みだけど、イデオンはしたいこと、考えた?」

「あ、そっか。ふゆやすみもあったね」

「イデオンったら、普段はびっくりするくらい鋭い子なのに、ときどき子どもらしい顔を見せてくれるよね」

「だって、ことしようねんがっこうにかよいはじめたんだよ?」


 幼年学校の冬休みのことを今年入学した私がよく分からなくても仕方がないが、お兄ちゃんはそういうところが子どもらしいと思ってくれているようだった。

 大事なお兄ちゃんのお誕生日お祝いもレイフ様の暗殺疑惑が先に立って、忘れそうになっていた。


「ヨアキムくんのことしのたんじょうびおいわい、どうする?」

「それなんだけどね、叔母上に許可をもらって、マンドラゴラ品評会に行こうと思ってるんだ」

「また、マンドラゴラをだすの?」

「そうじゃなくて、参加しなくても品評会の会場で売ってる花の苗は買えるでしょう?」


 そうだった。

 ヨアキムくんはアンネリ様の愛した薔薇園を本当に大事に思っていて、薔薇の花が大好きなのだった。


「いいかんがえだとおもう」

「ブレンダ叔母上に連れて行ってもらえると良いんだけど」

「あのふたり、おもしろいよね」


 自分たちがどちらが優れているかを競っているような双子。

 同じ年の兄弟だとそうなるのだろうか。

 お兄ちゃんもカスパルさんとブレンダさんの関係に気付いていたようで、私たちは顔を見合わせてくすくすと笑った。

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