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お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
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41.暗殺の可能性

 ルンダール領に家族が増えて賑やかになった。

 オースルンド領に相談に行った次の日の午前中には魔術のかかったトランクを持ってやってきたカスパルさんとブレンダさんに、ファンヌとヨアキムくんは興味津々だった。

 荷物を片付けたら人数が多くなったので子ども部屋では狭いということで、ずっと使っていなかったリビングの食卓で食事を摂る。ファンヌとヨアキムくんのための子ども用の椅子も運ばれて来た。

 給仕の使用人さんが次々と料理を運んでくるスタイルに慣れていない私とファンヌとヨアキムくんは、もじもじと落ち着かない。料理長になっているスヴェンさんが料理の説明をしてくれるのも頭に入って来なかった。


「これからよろしくお願いしますね、カスパル、ブレンダ」

「ビョルンさんを助ければ良いのね」

「大事な話は姉上に持って行けばいいんだろう。姉上はゆっくり休んで」


 話す二人にどうしても聞きたいことがあるようで食事が進まないファンヌとヨアキムくんは、質問する気満々でお手手を上げて待っていた。


「授業ではないのですから、お手手を上げることはないのですよ。どうしたのですか?」

「カスパルさんとブレンダさんは、どっちがおねえさん? おにいさん?」

「お、良いことを聞くね」

「僕とブレンダもずっとそのことについては決着がついていなくてね」

「え!?」


 どういうことかと聞いたファンヌが薄茶色のお目目を真ん丸にする。


「双子だから、どちらが先に産まれたっていうのがないのよね」

「僕は絶対僕が兄だと確信してるけど」

「何言ってるの。研究課程の成績は私より悪かったくせに」


 仲が良いのか悪いのか。

 二人は双子でどちらも自分が兄姉であるということを譲っていない様子だった。双子といえば二人一度に産まれてきたわけである。聞いたことはあるけれど幼年学校の同じクラスに双子はいないし、本物の双子を見たのは初めてだった。


「ふたご、なぁに?」


 当然のこととしてヨアキムくんから疑問が出て来る。

 私も話でしか聞いたことがないが双子はそっくりな双子と、そうでなくて全然似ていない双子と、ちょっとだけ似ている双子など、色々あるようだ。そのときの私はうまく説明できなくて、助けを求めるように医者のビョルンさんの方を見た。


「双子は、一度に二人赤ちゃんがお腹に宿ると生まれて来るんですよ」

「僕たちは二卵性双生児だけど、一卵性双生児はそっくりなんだって」

「いちりゃんせいそーせーじ、なぁに?」

「二卵性双生児は別々の卵子から生まれた子どもたちで、一卵性双生児は同じ卵子がなにかの要因で二つに分かれて産まれて来た子どもたちです。一卵性双生児は元が同じなので性別も同じで外見もそっくりです。二卵性双生児は兄弟なので似ているところもありますが、性別も違う場合もあるし、似ていない場合もあります」

「らんち、なぁに?」

「赤ちゃんの元になる卵のようなものです」


 たくさんの説明を理解できているか分からないが、ビョルンさんはヨアキムくんの質問に丁寧に答えてくれる。説明されて満足したのかヨアキムくんも食事をし始めた。

 オースルンドの現領主の子どもたちはレイフ様、カミラ先生、カスパルさん、ブレンダさんの四人ということだ。レイフ様はルンダールに婿入りして病気で亡くなってしまったけれど、他の三人は今ここに集まっている。


「ルンダールには一度来たいと思っていたの」

「レイフ兄上が急に亡くなったのに納得がいってなくてね」


 ぽつりと零れたブレンダさんとカスパルさんの呟き。

 アンネリ様のご両親はコーレ・ニリアンというアンネリ様の実の父の弟に呪いで殺された。アンネリ様は私の両親に毒殺された。これだけルンダール家の人間が早逝している中で、レイフ様もお兄ちゃんが幼い頃に亡くなられているときている。

 そこに疑惑があるかもしれないと考えるのは当然のことなのだろう。


「その件に関しては、子どもたちの前では控えてください」


 厳しい調子で制したカミラ先生の様子に私はカミラ先生がそのことを気付いていて調べていたのではないかと気付いた。食べながらお兄ちゃんの方を見ると、お兄ちゃんも私を見つめている。

 こくりと頷いてその話はそれ以上言及せずに食事を終えた。

 食事の後はファンヌとヨアキムくんはお昼寝をして、私とお兄ちゃんは部屋に帰る。


「ブレンダさんとカスパルさんのおかげで、おにいちゃんがとうしゅさまのしごとをしなくてよくなってよかった」

「叔母上もブレンダ叔母上とカスパル叔父上になら遠慮なく頼れそうだしね。イデオンの人選は完璧だ」

「ほんとうは……」


 そこで言葉を切って私は椅子に座って俯いて自分の膝の上で拳を握り締めた。


「だれがいいか、オースルンドりょうにいったじてんできまってなかったんだ。そのばでくちにでたのがあのふたりだっただけで」

「無意識にでもイデオンは計算してたんじゃない?」

「そんなんじゃないよ。おにいちゃんは、わたしをかいかぶりすぎだよ」


 青い目が悪戯に微笑むとお兄ちゃんはカスパルさんと似ている。カスパルさんの方がすらっとして長身だけれど、お兄ちゃんは薬草畑の世話をしているせいか体格がしっかりとしている点だけが違った。背の高さはもうその辺の大人よりも大きくなっている。


「それにしても、父上の件なんだけど、どう思った?」


 例え私が6歳でもお兄ちゃんはこういうときにはきちんと相談してくれる。お兄ちゃんにとって私が大事な相手で、隠しごとのない相手だという証拠のようで私は嬉しくなる。


「おにいちゃんのおじいさまもおばあさまも……オースルンドりょうじゃなくて、ルンダールりょうのね、はやくになくなってるし、アンネリさまもそうでしょう? ルンダールのざいさんをねらってレイフさまをあんさつして、アンネリさまとけっこんしようとしたはんにん、わたしにはじぶんのちちおやがいちばんにうかんだんだけど」


 そういうことをしてもおかしくない人物だと自分の父親について言わなければいけないのは嫌なことだが、私はもうルンダールの養子になっているし両親とは縁は切れていると思っている。そうでなくても、大好きなお兄ちゃんの母君であるアンネリ様を毒殺した相手が両親だなんて、自分からどうにかして縁を切りたくてたまらない。


「どうだろうね……獄中のコーレ・ニリアンも怪しいとは思っているんだけど。コーレ・ニリアンがベルマン家のケントとうちの母とのお見合いを成立させたみたいだし」


 アンネリ様の父親の実の弟という立場を利用して、親切面で紹介した結婚相手。愛するレイフ様を喪って失意の底にいたアンネリ様はコーレ・ニリアンの提案を断れずに私の父であるケント・ベルマンと結婚させられてしまった。

 ケントがすぐにアンネリ様を始末すると分かっていたコーレ・ニリアンは、そのことをネタにケントを強請っていたのかもしれない。

 憶測だけどと前置きしてそのことを伝えると、お兄ちゃんも考えていたことがあったようだ。


「あり得ない話じゃないね。なにより、ニリアン家がまだ存続しているという事実があってね」

「え!? おとりつぶしになってないの!?」

「ルンダール家に婿入りしたお祖父様の件もあるし、ニリアン家の次の後継者は、流石にコーレ・ニリアンの子どもからは選ばれなかったけれど、自分は完全に関与していないと言っている妹が継いでいるんだよね」


 その相手に疑惑が向いてもおかしくはないのだが、その人物は自分の兄が上の兄を嫉妬に狂って呪い殺したという事実をどう受け止めているのだろう。

 一度その人物と会ってみたい。

 お兄ちゃんも同じ考えのようだった。


「もうすぐ来る僕のお誕生日があるでしょう? そのときには必ずその人物もパーティーに顔を出して挨拶をすると思うんだよね」

「そうか、そのときに」

「イデオン、どうにか理由を作って話をしてみよう」


 その人物がレイフ様暗殺に関わっていないとしても、何か手がかりは得られるかもしれない。

 お兄ちゃんの誕生日が狙い目だった。


「ん? おたんじょうび」

「うん、僕の16歳のお誕生日」

「あー!? プレゼントー!」


 暗殺に関することを調べるのも大事だが、私にとっては大好きなお兄ちゃんに渡すプレゼントを考えるのも大事だった。何も考えていないことに気付いて叫んでしまった私に、お兄ちゃんは「なんでも嬉しいよ」と言ってくれるけれど、私は何か喜んでもらえることをしたくて悩みだすのだった。

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