表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄ちゃんを取り戻せ!  作者: 秋月真鳥
三章 幼年学校で勉強します!(一年生編)
112/491

37.収穫祭と合同バザー

 向日葵駝鳥の収穫という大仕事も終えて秋も深まって来た。来年に向けて種の一部は植えるために保管しておくとして、それ以外の種をどうするか私とお兄ちゃんは話し合った。薬草畑のことは私たちが管理しているので、カミラ先生もビョルンさんも収穫したものの処理は私たちに任せてくれている。

 欲しいものがあるわけではないが、このお屋敷では向日葵駝鳥の種から油を搾る施設がなかった。そういうことを考えるとこの種は売った方が良いのだろう。

 売るとしてもどこに売るかが問題になって来る。薬草市に行けば売れるのは確かだったが、私はフレヤちゃんの話を聞いていたし、ダンくんの家の借金の事情も知っている。


「ようねんがっこうやほいくしょには、のうかのこどもがたくさんかよっているでしょう?」

「貴族の子どもが一割以下で、それ以外はほとんど農家か商家の子どもたちだね。ルンダール領では特に農家が多いからね」

「なんだっけ……ザバーンじゃなくて……ソーニャせんせいがいってたんだけどな……」

「幼年学校と保育所の合同バザーの話?」

「そう! それ!」


 保育所と幼年学校は場所が近いのでイベントごとを合同でやることがある。幼年学校で配られたプリントには秋の収穫祭と共にバザーをやると書いてあった。

 バザーとは各家で使わないものや余っているものなどを持ち寄って、幼年学校や保育所内の保護者同士で安く売り合う行事なんだそうだ。


「フレヤちゃんのところもまじゅつがっこうにいくなら、しょうがくきんだけじゃなくて、おかねがひつようでしょう? ダンくんもルンダールけがかたがわりしてりそくがないとはいえ、おうちにしゃっきんがあるから、すこしでもしゅうにゅうがあったほうがいいとおもうんだ」

「それだけじゃなくて、他の農家でも向日葵駝鳥を育ててみたい家があるかもしれないね。いい考えだと思う」


 お兄ちゃんも賛成してくれて私とお兄ちゃんは晩ご飯のときにカミラ先生とビョルンさんとファンヌとヨアキムくんに、乾かした向日葵駝鳥の種をどうするかを伝えることにした。


「ようねんがっこうとほいくしょのごうどうバザーにだそうとおもっています」

「他の農家でも育てることができれば、魔術を高める魔術薬の材料として高値で取り引きされるので、ルンダール領の利益にもなると思って」


 拙い私の説明にお兄ちゃんが付け加えてくれた。


「それは立派な考えですね。安値で種が手に入れば、来年度から向日葵駝鳥を育てられる農家も増えるでしょう」

「向日葵駝鳥の育て方を書いた説明書も作った方が良いかもしれませんね」


 カミラ先生とビョルンさんも乗り気なようでほっとした。話を聞いていたファンヌとヨアキムくんは可愛く顔を見合わせている。


「わたくし、ザバーでおみせのひと、しますわ!」

「ファンヌ、バザーね」

「よーもおみてやたん、ちたい!」


 小さな売り子さんたちもやる気満々だった。

 バザーで店を出すとなると申込書を保護者に書いてもらわなければいけない。カミラ先生にお願いするとすぐにサインをしてくれた。


「私は出られないかもしれませんが、ビョルンさんにお願いして良いですか?」

「カミラ様は執務もあるし、妊娠しているので無理をしないでくださいね」


 気遣うビョルンさんの眼差しが柔らかい。

 私が産まれたときのことを私が知るわけがないし、ファンヌが産まれたときには私は幼すぎて記憶がない。母はお腹にいた私たちをどう思っていたのだろう。

 産んだ後に捨てるようにしてリーサさんに押し付けて、自分は体型を戻して華美なドレスを着ることだけを考えていた母。

 カミラ先生は最近お腹の周りがゆったりとしたワンピースを着ているが、前からカミラ先生の服装は派手ではなく上品で清楚だった。ビョルンさんの方も着飾るタイプではなく普段は清潔なシャツとスラックスに白衣姿で、カミラ先生と結婚する前は髪もぼさぼさ、分厚いレンズの眼鏡をかけていて、シャツもよれよれの大人としてちょっとどうかと思う格好だった。

 正式な場に出るときにはビョルンさんはきちんとスーツを着るし、カミラ先生もドレスを着るのだが、どちらも上品で地味な印象が強い。

 それでも二人とも内面から光り輝くように美しいので、華美なドレスもスーツも必要はないのかもしれない。


「エプロンをつけて、いらっしゃいませするのよ」

「よーも、エプロンつけゆね」


 まだ始まってもいないバザーをファンヌとヨアキムくんは楽しみにしているようだった。

 バザーに出すのが向日葵駝鳥の種だけでは寂しいのではないか。

 考えた私とお兄ちゃんは、鱗草を魔術で硬化させたコサージュを一つ作った。以前に決闘のときにファンヌのために作っているので、要領は分かっている。

 出来上がったコサージュの他にラペルピンも作って硬化させて、それを見本にして「硬化の魔術かけます」というプレートを作る。それを持ってビョルンさんに見せると、一つアドバイスをもらった。


「その場でかけるのは手伝っても良いけど、先に宣伝しておかないと収穫して乾かした鱗草をその場に持って来れないからね」

「あ、そっか!」


 ありがたいアドバイスで気付いて私とお兄ちゃんは「バザーで鱗草を持ってきたら加工方法を教えて、硬化の魔術をかけます」と書いた紙を作った。

 幼年学校と、幼年学校のバザーに来るかもしれない魔術学校の子たち向けに魔術学校と、保育所に説明をしてそれを貼ってもらって、バザーの宣伝もきちんとした。

 収穫祭の日は幼年学校も魔術学校も保育所もお休みでビョルンさんとお兄ちゃんが借りたテントの設営をしていた。他にもバザーでお店を出す家庭はたくさんあるようで何があるのか気になって見に行きたくなるのを私はぐっと堪えていた。

 収穫祭が始まると校庭に設営されたステージの上でダンスを踊るひとたちや、歌を披露するひとたちの賑やかな音声が聞こえてくる。見たかったがテントの陰に隠れてしまって見えない私をお兄ちゃんが手を出して手を繋いでくれた。


「ビョルンさん、しばらくお願いします。折角だから、楽しもう、イデオン」

「でも……」

「わたくしもいきたい!」

「よーも!」


 「行ってらっしゃい」と送り出してくれるビョルンさんに甘えて私はお兄ちゃんと手を繋いで歩き出す。ヨアキムくんとファンヌも手を繋いで仲良く歩いていた。

 露店ではいい匂いがして肉まんじゅうや焼きそばやフランクフルトやホットドッグが売られている。たらりとヨアキムくんとファンヌの口から垂れた涎を、私とお兄ちゃんは素早く拭いた。


「あとでかいにこようね」

「あい!」


 お手手を上げて良い子のお返事をしてヨアキムくんはすぐに切り替えるが、ファンヌは「はい」と言いつつ視線が食べ物の露店から離れていない。それでもステージの前にくるとファンヌもステージを見上げていた。


「おどっているの……わたくしのにんじんさんも!」

「え!?」


 人参のポシェットから飛び出た人参マンドラゴラがステージに上がる。踊っているひとたちは迷惑かと思ったがそんな風には扱わず、人参マンドラゴラも混ぜてくれて中心に置いて踊ってくれる。

 人参マンドラゴラが出た気配に蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと南瓜頭犬が私の肩掛けのバッグから飛び出してきた。

 マンドラゴラと南瓜頭犬を囲んで踊るひとたち。

 カオスだがそれなりに楽しそうである。

 踊りが終わると降りて来た蕪マンドラゴラと大根マンドラゴラと人参マンドラゴラと南瓜頭犬を受け取って、私とお兄ちゃんは頭を下げたが踊っていたひとたちは「乱入歓迎だよ」「楽しかったよ」と好意的に言ってくれた。

 バザーのテントに戻る途中にフランクフルトや肉まんじゅうをビョルンさんの分も買って帰ると、私たちのテントの前には行列ができていた。


「良かった、戻って来てくれて。売るのが精いっぱいで、魔術をかけるのを待ってもらってたんですよ。オリヴェル様、向日葵駝鳥の種を売る方をお願いして良いですか?」

「わたくしもやります」

「よーもまかてて」


 魔術をかけるために待っていてくれたお客さんはビョルンさんにお願いして、私とお兄ちゃんとファンヌとヨアキムくんは向日葵駝鳥の種を売る方に入る。小さな袋に入った種を一人一袋で売っているので売り切れまでには時間はあるだろうと思っていたが、想像していたよりもお客さんが多い。


「先日はフレヤがお世話になりました」

「イデオンくん、かいにきたわよ」


 お姉ちゃんらしき女性とご両親と一緒のフレヤちゃんには、手伝ってもらったお礼としてもう一袋おまけにつけた。


「イデオン、めちゃくちゃもうかってるな!」

「いつもダンがお世話になっています」

「ふぁーたん! よーたん!」


 ダンくんのご両親とミカルくんとダンくんも買いに来てくれた。わざわざお金を払わなくてもダンくんには分ける気でいたがそれを言おうとする私をお兄ちゃんが目で制する。

 一袋おまけにつけて二袋を買って行ったダンくんが戻った後で、お兄ちゃんは売り切れの看板を出して私にそっと囁いた。


「イデオンはダンくんとずっと友達でいたいでしょ?」

「うん」

「それだったら、僕たちにお金があるからってダンくんに無料で上げてしまうのは、どうしてもいい関係が長続きしなくなるからね」


 お兄ちゃんに言われて私は自分の浅慮を反省した。

 無料ならばダンくんは喜んでくれると安易に考えていたが、そうではなくダンくんと対等でいたいならばおまけは付けるとしても対価はきちんともらわなければいけない。このときのお兄ちゃんの忠告は正しく、私はダンくんとこれからも長い付き合いになる。


「そっちが終わったなら、こっちを手伝ってもらって良いですか?」


 お客さんに埋もれそうになっているビョルンさんにお兄ちゃんが手助けに行くのを見ながら、私は大事なことを教わった気分になっていた。


感想、評価、ブクマ、レビュー等、歓迎しております。

応援よろしくお願いします。作者のやる気と励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ